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第1話:和風好きの俺、悪役モブ皇子に転生したことを思い出す

「……ハルト・ムーングランツ様のスキルは【和風工匠】でございます」


 スキル鑑定球を持つ神官の言葉が響くと、皇帝の間を包む空気は明確に硬く、そして冷たくなった。

 僕は恐る恐る顔を上げることしかできない。

 玉座の皇帝陛下――父上と目があったはずだけど僕には何も言わず、父上は鋭い視線を神官に向けた。


「能力は?」

「はっ! 素材を費えて種々の神話級和様器物を成す……とのことです。申し訳ございません、私にも意味がわからず……」


 最後の方に行くにつれ、少しずつ神官の声は小さくなる。

 その理由はすぐわかった。

 どんな能力なのかまったく不明だからだ。

 父上の瞳は一段と鋭さを増す。


「スキル目録に記録があるか?」


 神官はしばし分厚い本に目を通した後、残念そうに首を振った。

 父上はようやく僕を見ると、深いため息を吐く。


「目録にないスキルは外れだと歴史が証明している。ハルトよ。やはり、庶子の貴様には期待するだけ無駄だったな。長い帝国の歴史において、最も利用価値と命の価値のない皇子だ。あいにくと、外れスキルを持つ皇子を住まわす余裕はない。さて……どうしたものか」


 そ、そんな……。

 凍てつくような瞳からは言葉以上に父上の心境が伝わる。

 失望、侮蔑、愚弄……ポジティブな色はまったくなく、僕は暗闇に囚われた気持ちになった。

 絶望する中、どこからかくすくすと静かな笑い声が聞こえてくる。

 壁際で二人の男性が笑い合っていた。


「【和風工匠】ってなんだよ。あいつは最後の最後まで役立たずだったな」

「ええ、そうですね。彼らしいと言えばらしいですが」


 長兄と次兄だ。

 二人は正当な王妃の息子で、僕は妾の息子。

 生まれた瞬間から僕は帝位継承権の蚊帳の外で、周囲から虐げられる毎日を過ごしてきた。

 本当のお母さんはすでに亡くなってしまったので、僕の味方は一人もいない。

 せめて、良いスキルが発現してくれれば……ん?


 蚊帳の外ってなんだ?


 我ながら、なぜこんな言葉を知っているのか疑問に思った。

 ……いや、今はそんなことはどうでもいい。

 現在の帝国の事情を考えたら、死罪を命じられる可能性さえあるのだ。

 まだ利用価値があると示すため、僕は一歩前に踏み出して玉座を見上げる。


「父上! スキルを使わせてもらえないでしょうか! もしかしたら有能な能力かもしれません!」

「……一度だけ許可する」


 よかった! 

 許可が貰えた!

 このチャンスを無駄にしないためにも、僕は真剣に精神を集中する。


「【和風工匠】!」


 魔力を消費すると床に巻物が現れた。

 急いで開いてみると、縦書きで文章が書かれている。


〔素材を費えて種々の神話級和様器物を成す(素材を消費して、様々な神話級(SSSランク)の和風アイテムを生成する)〕


 さっき神官が読み上げた文章の他、わかりやすい言葉での記載もあった。

 和風アイテムとはなんだろうか不明なものの、神話級という言葉の意味は理解できる!


「父上! このスキルはSSSランクのアイテムが作れるみたいです!」

「そんなランクは存在しない。もういい。それ以上、戯言を抜かして我が輩を幻滅させるな」

「お、お待ちください! クラフト系のスキルでしょうから、素材があればきっと……!」

「黙れと言っている。貴様もよく知っているだろう。我が帝国は東に接するサンフィオーレ王国と交戦中だ。戯言に付き合っている暇はない」


 父上の重い声に僕は口を噤む。

 たしかに、戦争中という国際情勢を考えれば父上の言う通りだ。

 彼の国は強い。

 先日も大きな争いが終結したばかりで、ようやく一時休戦となった。

 続けて何を言われるか緊張する僕が告げられたのは、思いもしない話だった。


「我が輩は大魔境を自治国にすることを決めた。ハルト・ムーングランツ。貴様が王になって統治しろ」

「えっ!? 僕が大魔境の……王でございますか? それに自治国とはいったい……!」

「安心しろ。法的な手続きはすでに完了している。その【和風工匠】スキルとやらで

心ゆくまで開拓するがいい。魑魅魍魎が跋扈し、瘴気に汚染された、人間など生存は不可能なほどに劣悪な土地をな」


 父上の話は衝撃となって僕の頭を駆け巡る。

 大魔境は帝国領の東側に位置する広大な荒れ地だ。

 その大部分は敵国――サンフィオーレ王国と接しているけど、帝国軍は常駐していない。

 土地を汚染した瘴気は歩くだけで人間の体力を削り、逆に魔物を強化する。

 相当上位の魔物がたくさん棲んでいるし瘴気の存在もあるので、まず突破は無理だからだ。

 まさしく、自然の防波堤のような存在だった。


 この処遇は僕の厄介払いなのだと想像つく。

 いくら外れスキル持ちの庶子皇子でも、処刑しては国内の士気に関わる。

 辺境送りは好都合な処遇だろう。

 抵抗したくとも反論できるような武器がない。

 だって、日本にあるような巻物が出てくるだけのスキルでは何の役にも立たないから。


 ……日本?


 どういう意味だと考えた瞬間、頭に閃光が走った。

 ……思い出した。

 思い出した!

 僕……いや、俺の前世を!

 そして、この世界がどんな世界なのかを!


 ここはハマりにハマッた大人気ゲーム〔太陽と月のクロニクル〕――通称、〔クロニクル〕の世界じゃないか!


 慌てて周囲を見直す。

 父上や長兄、次兄の顔はまったく同じデザインだし、室内の装飾だってゲームで見た意匠とまったく齟齬がない。

 日付と世界情勢を鑑みると、今はちょうどゲーム開始時点だともわかった。


「……なぜやたらと周囲を見回している。我が輩に対する当てつけか?」

「い、いえ、なんでもございません!」


 俗に言う異世界転生をしたらしいとわかり、先ほどまでの絶望はどこへ行ったのか俺はなんだかワクワクしてしまった。

 正直なところ、現実よりゲーム世界の方が好きだったから――


 32歳の日本文化好きなブラック社畜、月村春人――それが俺だ。

 子ども嫌いの両親にとって俺は邪魔な存在だったようで、常に放置された。

 遊んでもらった記憶は一度もないし、誕生日を祝ってもらったこともない。

 中学卒業後は働きに出され、結局一度も顔を合わせずに俺は死んでしまった。

 いつかFIREして、田舎の日本家屋でのんびりと暮らすこと――要するに”和風スローライフすること”を人生の目標に必死に生きていた。

 これまで記憶を取り戻すことはなく、本当に今思い出した。


〔クロニクル〕の原作主人公はサンフィオーレ王国の平民で、【勇者】スキルを得ることで冒険が始まる。

 剣士や魔法使いなど優秀な原作キャラを仲間にして、王国の平和のために戦うのだ。

 彼らに対し、俺たちムーングランツの皇帝一家は悪役貴族――本編の敵だった。

 父上がラスボスで長兄と次兄は大ボスといったところか。


 "ハルト"は名前だけの登場だったはず。

 攻略情報にも出てこない背景に近い存在で、一家が断罪されるときついでに処刑されていた。

 台詞は断末魔の叫びだけという完全なモブ皇子だ。

 ハルトが元々【和風工匠】というスキルを持っていたのか、それとも天に俺の日本好きが伝わったのかは不明だ。

 それにしても、和風アイテムを生み出せる能力か。

 日本好きの俺としては……あっ!

 思案した俺は胸の鼓動を感じる。


 うまく使えば、和風スローライフできるんじゃないか?


 住民もいない荒れ地とは、言い換えればまだ文化が根付いていない状況。

 和風の建物や風習を作っても文化の衝突は起こらないだろうし、何より自分の好きなことを好きなだけ極めることができる。

 前世の「田舎でのんびりと和風スローライフする」夢が叶うかもしれない!

 さらには、原作シナリオからの避難もできる!

 最初から大魔境に逃げてしまえば断罪される運命も消えるはず。

 まさしく一石二鳥だ。

 一転して、未来が明るくなっていくのを感じる。


 異世界転生の衝撃やら感動やら様々な感情が入り交じる俺は、不敵に笑う父上に嫌な予感を覚えた。


「話はまだ終わりではないぞ。休戦の証として、貴様にはサンフィオーレ王国の第三王女――シャルロッテ嬢との結婚を命じる」

お忙しい中読んでいただきありがとうございます!


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