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射命丸文という可憐で清楚、清く正しい正義の記者ではありません

『文々。新聞 スキマ妖怪動物虐待か

 ●月●日20時頃、突如狐の悲鳴が聞こえた。現場に急行するといつも派手な衣装と薄気味悪い笑顔で有名な八雲紫が狐を虐待していた。私は決定的瞬間に立ち会い写真に収めることに成功した。犯人は「動物虐待?いいかしら、これは式神であって動物ではないわ。それに今踏みつけているように見えたかもしれないけどこれは虐待ではなく教育よ」などと供述しており…』

今日新聞のポストに入っていた『文々。新聞』の一面の見出しだ。

外の世界の新聞とは違い、記者の主観が強いが、全くのデタラメは書いていない。

読み解けばどこを誤魔化しているのかはわかりやすい。今回は一切の誤魔化しがないのだとオオスは察した。

中身に関しては、八雲家は何をやっているのだかとオオスは思ったがその程度だ。

『文々。新聞』は大分ゴシップ紙に近いが天狗の新聞では一番マシな新聞なのでオオスは購読していた。


「こんな記事書いて良く消されませんね、射命丸さん」

オオスは一見すると少年に見えなくもない目の前の人物に声をかけた。地味に手の込んだことをすると感じた。


「何のことでしょうか?私は社会派ルポライターあやであって射命丸文という可憐で清楚、清く正しい正義の記者ではありません」

そう言う“社会派ルポライターあや“は、キャスケット帽を被り、白のワイシャツに紅葉色のジャケットを羽織って、下は短パン。ぱっと見は美少年に見える。

声色もやや中性よりで一見すると同一人物には見えないと言う人もいるだろう。


最初は人里から離れたところでインタビュー的な流れだったのが、段々取材取材取材と煩い射命丸文が貸家に来るようになってからオオスは一軒家に引っ越した。

毎朝挨拶していた貸家の隣に住む独身の男性が血涙流す勢いで睨んできたのが怖くなってきたからではない。印税もあったので容易に人里から離れた静かな一軒家を建てる羽目になった。

文は反省したのかと取材攻勢が一時止んでいたと思ったら手を変えてきた。

射命丸は反省しない、ブレないと妙なところでオオスは感心した。諦めない心は大切であり、とてもへし折りがいのあるものだ。


「そうですか。『毎度お馴染み射命丸です。今日は何々の生態について観察します』シリーズもネタが尽きたのですかね?

 新聞屋として語彙の少なさは良くないと思いますが」

オオスは声色まで忠実に再現した小賢しい文の普段の名乗りをした。第三者から見てこれだけで芸として食べていけるレベルの再現度であった。


「参考までに、外の世界の新聞のことを伺いたいのですが、やっぱり嘲笑ネタが一番受けるのでしょうか?」

こういうオオスの一芸に驚いてはぐらかされ、いつの間にかそのまま帰っていた。

そんなわけのわからないオオスの話術に慣れた射命…ルポライターあやは動じずに今日こそオオスから自分が外来人という言質を取ろうと躍起になる。


ルポライターあやは嘘を書かない主義なのである。…普段の本人の基準ではもう書いているが、もはやこれはプライドの問題だった。意地でもオオス本人の口から語らせるのだ。


「スポーツ紙やゴシップなら受けるかもわかりませんが、私は真面目な新聞が好きです。

 とはいえ、記者は所属団体に不都合なことは書かないですから直接調べるのが一番ですね」

天狗の新聞も自分達の不都合なことは当然書かない。

外の世界の新聞もおおよそは同じのようだと射命…ルポライターあやは思った。


「そういう意味ではルポライターあやさんはどうかわかりませんが、『文々。新聞』は真実の脚色と切り抜きが上手いですね。この新聞読んで勉強してみたらどうですか?」

オオスは珍しく文を褒めた。特に文筆に関しては初めてかもしれない。その褒め方はともかくとして、オオスが本心から称賛しているのは誰から見ても明らかだった。


「いやぁ、照れますね」

そう言って仮初の演技を忘れて喜びを見せる射命丸文。


「やっぱり射命丸さんじゃないですか。ゴーホーム!」

烏天狗もびっくりな素早さでポストから自宅の扉まで移動していたオオスは扉を勢いよく閉めようとする。


しかし、

「あ、ちょっと待って酷い!持ち上げて落とすなんて!乙女心を踏みにじりましたね!」

もはやなりふり構わず天狗の羽まで出して人間に目視不能の素早さで扉が閉じられる瞬間にドアノブを掴む。


ただの人間相手に全力だ。


オオスの家の扉は魔法か何かをかけているのかオオスが一度締めたら二度と開かないのは貸家時代の経験則で知っていた。


「それを記事にすれば売れるのではないですか?自分自身の体験だから実にリアルに書けると思いますよ」

オオスはそう言って文を煽る。本人は文に力で叶うわけがないとわかっているので両足まで使って必死に扉を閉めようとしていた。相手が大妖怪だろうがなりふり構わない。


「ムムム、新聞には自分の姿は出てきません。常に第三者で無ければいけないのですよ」

非力な癖に粘るな雑魚めと言わんばかりの表情で正論を語る文。もはや扉の決壊は時間の問題だった。


だが、

「そういうところは好きですがね。外の世界の新聞記者にも教えてやりたい」

それはオオスの本心からの言葉だった。文は思わず気が緩む。好意を言葉にするときは基本的に嘘をつかないと知っていた。


「あらやだ。それはプロポーズですか?それなら…」

文は照れたように両手で顔を覆った。…文の手はドアノブから離れていた。


『バタン』

瞬間、扉が閉まった。それは一切の慈悲もない閉め方だった。


「あ、本当に酷い!あることないこと書いてやりますからね!ペンは剣よりも強しということを教えてやりますよ!!」

ガチギレしたように吠える文。だが、負け犬の遠吠えだ。流石に窓を割って入るような真似はできないし、オオスが何仕込んでいるかわからない。


前に原稿料を盗もうと留守のオオス家に入ろうとした泥棒がいた。それが『ああ、窓に!窓に!』としか言わなくなったのは文が記事にした。泥棒は一体何を見たのだろうか?


「だったら紅魔館行くと良いですよ。私のあることないこと悪口一杯言ってくれる素敵なお子様吸血鬼がいますから」

負け犬に慈悲を与えるかのようにネタを提供し始めたオオス。

だが、文は既に紅魔館に取材のパイプラインを持っていた。内心馬鹿めとオオスを嗤う。


「言いましたね!言っちゃいましたね!覚えてなさい!!」

射命丸文は最速で紅魔館へと向かった。幻想郷最速は伊達ではないのだ。




文が完全にいなくなったのを確認したオオスは紅魔館から拝借した紅茶を入れ始めた。

そして、椅子に腰かけて『文々。新聞』を改めて読み始める。


「フ。今日も勝ったな」

オオスはニヤリと笑う。捨て札の一枚だけで済んだことに紅茶で乾杯していた。


「逆に私の口から何聞かされたか言えと脅され、泣かされる様が目に浮かぶわ。馬鹿め」

オオスは既にレミリアの弱みやら何やらを大量に握っている。

オオスについてレミリアに聞こうものなら拷問部屋にでも行かされるのではなかろうか。


オオスはいつもどおり気分良く朝を迎えた。

明日も来たら文の生還を讃えて、更なる地獄に叩き落とす方法をティータイムに思案していた。


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