工房で大事な作業。
次回はこのラスボス系奥様のお話はお休みですが、当方の最初期の作品の辺境伯令嬢シリーズのお話に出る主人公とその娘と猫が出る短編をクリスマスプレゼント代わりに投稿いたします。
「仕方ないですね、ラヴィも連れて行くしか」
「正気か?」
「置いて行っても死ぬと言うのですから、実際の戦場から離れた後方の拠点内のみで、護衛をつけて待たせておくしか」
「仕方ないな……拠点は拠点と分からないよう、空き家の民家でも使って偽装するか」
「連れてってくれるんですか?」
「今回だけですよ」
「……」
ラヴィが返事をしない。
今回以外も戦地に行く時はついて来ようとしてる!!
「ラヴィ、お返事は?」
「私はついて行くので」
「……やれやれ、頑固だな」
誰に似たのか…… 旦那様、貴方じゃない?
ラヴィを一旦部屋に帰して、夫婦で会話する。
「お金がかかっても四六時中ついてられる女性騎士をラヴィにつけてください。
私にはいりませんので」
「分かった」
「では、私は今から工房でラヴィ用の御守りを作ります」
「其方、晩餐は?」
「私は工房にいますので、適当にサンドイッチでも運んで貰います」
「そうか……」
何? まさか私と一緒に食べたかった?
いや、ラヴィの為に一緒に食べろって言いたいけど言えない?
みたいな感じだろうか?
「あなただけでも一緒に食べてあげてください」
「その作業は晩餐の後ではできないのか?」
「できない事もないですけど、満腹になると今のやる気がやや削がれるかと」
私はやる気スイッチが入っている時に一気にやりたいタイプだ。
「私は今から色々手配で忙しいので、今夜の食事は其方が娘ととって欲しいのだが」
旦那様……自分も忙しいのか。まあ、出征が決まったなら、それもそうか。
「分かりました。今夜は私がラヴィと食事します」
「ああ、そうしてくれ」
つい、勢いのまま作業に入ろうとして、食事の際の団欒を放棄するとか、私もダメね。
これじゃ身を守れても寂しい思いをさせてしまう。
夕食の時間にはちゃんと食堂に行き、ラヴィと一緒にディナータイム。
今夜のメインは骨付き子羊のロースト、ハーブ焼きだった。
子羊だからか、臭みも無かったし、加熱によって多分骨髄とかも滲み出て、骨付きのかたまり肉でしか味わえない濃厚な旨味が堪能できた。
美味しかった。
でもハンバーグとか餃子のような物も食べたいし、スムージーも飲みたいから、ついでに挽肉製造機とミキサーの簡単なパーツ絵とか原理を書いてどっかに研究費を出して依頼しよう。
内部に刃があってどのように動くとかヒントを書いておけば、元々人間が発明した物だし、なんとか作ってくれるでしょう。
昔、どんな構造図なのか、興味本位で調べた事があるから、細部がうろ覚えでもヒントがあるのと無いのでは大違いのはずだし。
挽肉を作る為に毎回包丁で細く刻むのも時間がかかるし、面倒だものね。
せっかく資金のある公爵家にいるんだし、文明の利器を作ってしまおう。
料理人も助かるでしょう。
* *
食事の後に工房でサファイアを御守りのペンダントに加工する。
エンチャント、付与魔法を使うのだ。
ディアーナは健気にも魔法が使えない時から、いつかの為に魔法の研究資料を集めたりまとめたりはしてたから、資料はある。
私は棚から一冊の本を出して開いた。
大事な事はお手製のマギアノートにまとめてあるのだ。
こんな物まで密かにコツコツと作って、皇太子の妻候補になりたかったんだねえ……無理だったけど。
代わりに、娘を守るのに私が使うからね、許してね。
「よし、御守り完成」
次にこっそりと妖精ポストの中身の手紙も確認。
病気の身内は無事に快癒し、感謝のお手紙が入っていた。
ヨシヨシ。
アカギレのお薬とポーションも追加で作っておく。
そう言えば、私が出征するので、しばらく手紙の対応が出来ないな。
一時的に妖精界に帰るのでお返事が出来ないと、とある使用人への返事の手紙につけておこう。
これで不在が周囲に伝わればいい。
それと、ミキサーと挽肉製造機の依頼書も書いて……本日のお仕事は終わり!
私は工房を出て、自室に戻った。
お部屋の掃除をしていたメイドのメアリーに声をかける。
「メアリー、掃除はその辺でいいから、この封筒を家令に渡して、新しい、まだ世の中に無い調理器具を開発研究してくれる所に依頼をしたいって言付けて」
「かしこまりました」
後はどっかの賢い他人に丸投げである。
いい御身分だな。
明日の朝、ラヴィはうさぎの部屋におやつのニンジンをあげに行くと言っていたから、その時に御守りを渡そう。
基本的に餌入れに牧草は置いてあるけど、にんじんとかは嗜好品よね、多分。
*
朝になって、邸宅の裏手に出来たうさぎの家に向かった。
そして、そこでうさぎを愛でるラヴィに、御守りを渡した。
「綺麗なサファイア……お父様の瞳の色と同じ青の石ですね」
「ラヴィの瞳の色も青いでしょう」
「そうでした……。ありがとうございます。大事にします」
「御守りは身を守ってくれたら、砕ける事もあるわ、常に身につけていて欲しいけど、壊れてもいいのよ。それは役割を果たしたという事だから」
「壊れちゃうんですか……」
「御守りより、ラヴィの方が大事なの。分かるわね?」
「はい……」
ラヴィはサファイアの御守りペンダントを首から下げた。
御守りを渡し、私もしばしのもふもふタイム。
うさぎを愛でた後に、夫のいる執務室へ向かった。
「魔獣を使役する例の蛮族を制圧したら、論功行賞は土地でお願いしてください。制圧した土地で」
論功行賞は功績に見合う褒美を与える事で、きちんと成果を出したら皇帝など支配者側が与えねばならない物だ。
今回はお金より土地が欲しい。
私は原作を読んだので、あの土地から将来何が出るか知っている。
「あんな雪溶けの遅い、寒いど田舎の土地が欲しいのか?」
「寂れた感じがもの思いに沈みたい時にぴったりですわ。
猿などの野生動物が入りにくるような素朴で小さな温泉も山の中にありますし」
「よく知ってるな、そんな事。たしかに旅人が立ち寄る小さな温泉が山の中にあると聞くが」
「とにかく、皇帝陛下には土地を要求してください」
「まあ、かまわんが」
「では、よろしくお願いしますね」
大事な取り決めもした。
後は戦闘前にまた魔法の本を読んでおこう。
本を読んでいる途中に魔力を感じた。
魔法陣が輝き、また妖精のポストから手紙が届いた。
ラヴィからの手紙だった。
『お母様とお父様が戦争に行くそうです。
お母様とお父様が怪我をしませんように。
お母様とお父様が亡くなったりしませんように。
お二人が私を置いて遠くに行きませんように。
死にませんように。
死にませんように。
どうか両親をお守りください。』
胸がギュッと締め付けられた。
なんて健気で切実なお願いだろうかと……。
私は留守中に魔法陣が手紙を部屋に届けると不都合があるので魔法陣を閉じ、封印をした。
今まで色んな人から妖精宛に貰った手紙も秘密の箱に入れて鍵をかけている。
大事にしまっておこう。
明日の更新はちょっとお休みします。
申し訳ありません。




