天国から地獄
旦那様のお小言の後に、船を一艘まるごと飛ばすような魔法を使った為、疲労で二時間ほど夕方まで仮眠、惰眠を貪っていた私の元にラヴィが訪ねて来た。
「大変ですよ! お母様!」
「……何? 敵襲?」
私はまだ寝ぼけまなこだ。
自室の天蓋付きベッドで眠い目を擦っている。
「敵ってなんですか? 邸宅の裏手に、お母様と私の為のうさぎの家を、お父様が作って下さったのです!」
旦那様が私達の為に……?
「うさぎの家? うさぎもいないのにうさぎ小屋?」
「完成を早く、かつ工事の音がうるさく無いように大工でなくわざわざ土魔法使いに命じて土台を作らせたらしく、私も今さっき知って、もううさぎも到着したと報告が!」
つまり、公爵家の裏手にうさちゃんが来た!?
「何ですって! こうしてはいられないわ!」
私は慌てて寝巻きから着替えて来た。
うさぎを抱っこする為に、ドレスではなく、ブラウスとスカートとシンプルで洗濯の苦労が少ない物を選んだ。
現場に到着すると、白くて、四角くて、箱のようなシンプルデザインの小さな可愛い家があった。
小さいと言っても、ペット用、うさぎ小屋にしては十分立派だ。
広さは前世で私が一人暮らししてた時と同じくらいある。
「扉や窓は流石に大工さんの手によるらしいですよ」
なるほど、私が木製の扉と木枠の窓を見て一瞬止まっていたから、ラヴィが説明してくれた。
扉を開けると、そこは天国だった。
「あー手のひらに乗るサイズの可愛い4羽のうさちゃん!!」
ふわふわでかわいい!!
手のひらに赤ちゃんうさぎを乗せて感激する私とラヴィ。
「うさちゃんのお母さんもちゃんといますよ。お父さんは……いないようですが」
「ちょっと可哀想だけど、去勢してないお父さんがいたら、どんどん子供が増え過ぎてしまうからきっと子供の為にお母さんだけ残しているのね」
「うさちゃん、可愛いですね、お父様にお礼を言いにいかないと」
「ああ〜〜、私は昼に怒られて……あ〜〜。ラヴィは先に行くといいわ」
「お母様、お父様を怒らせたのですか? 午前中、お留守をしていたようですが」
「うん、ちょっとね」
などと誤魔化していたのだけど、運悪く、
「夕刊に載ったぞ、其方。明日の朝刊にも載るであろうな」
私は夫から執務室に呼び出され、家令から大きな封筒を手渡された。
中を開け、折りたたまれた紙を広げて見てみると……、
「新聞?」
「船を丸ごと一艘空に浮かべて、誘拐犯を退治したのは、なんと公爵夫人!」
「見ろ、その見出し!」
「どうやら英雄扱いなんですから、そこまで怒らなくても」
「これを皇家が見たら絶対、面倒な仕事を押し付けてくる。
あいつらはこちらが力をつける度に、少しでも戦力を削りたいのか、戦地に送り込もうとするのだ」
「公爵様は戦闘がお好きで戦場に出ていたのでは?」
歴代、氷の公爵は戦闘狂という噂は有名である。
なんでも比類なき力の対価のせいで、適度にガス抜きが必要で戦地にて大いに力を振るう。
しかし力が強すぎて体に負荷が多く、短命と言われている。
先代も短命であり、アレクも若くして当主になった。
「部下を巻き添えにして、戦地で死なせたいとは思ってはいないし、次回の戦場、下手すると其方まで駆り出されるぞ」
え、部下への配慮あるんだ? 氷の公爵と言われてるのに。
てか、女まで戦地に送るか? 普通。
「私、一応女なのに?」
「強い魔法が使えるなら、夫人でも戦場に送るのがあの皇帝だ」
ワーオ。血も涙も無いのか、皇帝。
いや、原作読んでたから知ってたわ。
しばらくして本当に皇帝命令でとある土地の蛮族を制圧して来いと、戦地へ行けとの命が出た。
公爵様だけでなく、私にまで。
両親が戦争に行かされると聞かされ、泣きじゃくる娘のラヴィ。
それは不安だよね。
可愛いうさぎを貰って大喜びの天国から急に地獄に叩き落とされた気分だろう。
「嫌ぁ〜〜っ!! やだあ────っ!! どこにも行かないで!!
お母様! お父様!」
私にしがみつき、泣く娘。可哀想!! 涙で可愛いお顔がぐしゃぐしゃに。
「大丈夫よ、お母様は強いから、お父様を守って無事に帰って来ますよ」
「やだあ、置いて行かないで、ラヴィも一緒に行く!」
いつも七歳にしては丁寧な言葉使いだったのに、本当に小さい子供みたいになってしまっている。
「ラヴィ、流石に子供を戦場には連れて行けないから」
「やだあ〜〜、置いて行ったら死ぬ!!」
「それは困ったわね」
親という絶対的保護者が二人も戦場に送られるなんて、たしかに子供からすれば、不安しかないだろう。
「其方が最近甘やかしてばかりだから、ラヴィアーナがすっかりわがままになってしまったぞ」
「私だけの責任ですか?」
うさぎ小屋とうさぎは!? あなたも結構甘くなりましたよね?
「ともかく、ラヴィアーナはそのうち婿を取って、この家を守らねばならぬ、大人しくいい子で留守番をしていてくれ」
「嫌です! 後継はお父様とお母様が男の子を新しく作ればいいって大人が言っていました!」
「うっ……」
言葉に詰まる旦那様。
正論過ぎた。




