最終話 誓い
白みがかかった青空が、冬の訪れを感じさせる。
冷たい空気の中でも、太陽は穏やかな光を地上に送り届けてくれていた、
今日は、クロエが王都に来てちょうど一年となる日。
しかしこれから行われる催しによって、今日は違う意味を持った日へと変わるだろう。
「大丈夫か?」
重厚な扉を前に表情を強ばらせるクロエに、ロイドが尋ねる。
ロイドは騎士の正装の中でも、式典などで着用する最上級のものを身につけており、きっちりとした佇まいだ。
「は、はい、大丈夫ですっ……」
意気込むようにクロエは言う。
クロエは、繊細なレースとシルクで装飾された純白のドレスに身を包んでいた。
いわゆる、ウェディングドレスであった。
「転ばないようにな」
「き、気をつけます……」
クロエの鈍臭さは相変わらず変わっていない。
おそらく着るのは今日これきりであろう重たい衣服に、足を取られないか心配なクロエであった。
「転びそうになっても大丈夫だ、俺がなんとかする」
「ふふっ……頼りにしていますよ」
柔らかな笑みを浮かべて、クロエはロイドを見上げた。
そんな二人のやりとりを微笑ましげに眺める案内人が、口を開く。
「それでは、お入りください」
案内人の合図で、ぎぎいと扉が開く。
二人腕を組んで、一歩を踏み出した。
「わあ……」
思わず、クロエは声を漏らした。
目の前に広がる光景に、クロエの瞳は吸い込まれた。
式場に選んだ教会は、高い天井と壮麗なステンドグラスで装飾され、ガラス越しに差し込む陽光が神秘的な色彩を放っている。
まるで、神様が降り注いでくれた祝福の光のよう。
そんな教会に響くのは、友人たちの弾けんばかりの拍手。
皆、クロエとロイドの結婚式を祝おうと集まってくれていた。
床には紅白の花弁が散りばめられた、バージンロード。
誓いを交わす祭壇へと伸びる道を、ロイドと共に歩む。
(や、やっぱり転けちゃいそう……)
重く、後ろにも長く広がっているドレスに足を取られそうになりながら、一歩一歩、ゆっくりと歩む。
(でも、大丈夫……)
隣で、ロイドがしっかりと腕を組んでくれているから。
「ロイドさん、クロエちゃんー! おめでとうさねー!」
(シエルさん……)
ベンチに座る、クロエのかけがえのない友人たちが祝福の声をかけてくれる。
「おめでとうロイド! クロエちゃん!」
「ロイド様、おめでとうございます! ロイド様! ロイド様! こっち向いてくださいー!」
「おま! クロエちゃんも祝福しろ!」
「あいだっ!?」
(フレディさんにルークさん……)
「ロイドさん、クロエちゃん! おめでとうー!」
「おさるのおねーちゃん、おめでとう!」
(サラさん、ミリアちゃん……)
「ロイドさん、クロエさん、おめでとうございます!」
(イアンさん……)
「ロイドさん、クロエ様―! おめでとうございますー!」
「おめでとうー!」
(シャーリー……ケビンさん……)
数々の言葉たちに、クロエは胸がいっぱいになる思いだった。
祭壇に辿り着いた二人は、神父の前に立った。
瞬間、教会内に静寂が舞い降りる。
神父は穏やかな笑顔で二人を迎え、大きな書物を開く。
「私たちは今日、この神聖な場所で、二人が永遠の誓いを交わす瞬間に立ち会います」
穏やかで重みのある声が、教会内に響き渡る。
「クロエ、あなたはロイドを夫として愛し、共に生涯を送ることを誓いますか?」
「誓います」
緊張で微かに震えていたが、その目には揺るぎない決意が灯っている。
「ロイド、あなたはクロエを妻として愛し、共に生涯を送ることを誓いますか?」
「誓います」
迷いのないロイドの言葉に、神父はゆっくりと頷く。
「では、指輪を交換してください」
神父の言葉に続いて、ロイドが小さなケースを開ける。
その中には、繊細な彫りの入った金の指輪が眠っていた。
指輪はまるで、二人のこれからの未来を形にしたかのようだった。
大きな手がゆっくりと指輪を取り出し、クロエの指へ。
ロイドの手が触れた瞬間、心臓が高鳴りを感じた。
ゆっくりと、指輪がクロエの指にはまっていく。
指を通る冷たい感触とは裏腹に、心は温かな感情に包まれていた。
この指輪はただの装飾品ではない。
これからの二人の絆を象徴するもので、しっかりと重みを感じた。
次はクロエの番。
ケースから同じく繊細な彫りの入った指輪を取り出し、ロイドの指へ。
ロイドは相変わらずの無表情だが、少しだけ緊張しているように見えた。
こうしてロイドの指にも、指輪が収まる。
「神の名のもと、これにてあなたたちは永遠の絆を結びました。それでは、誓いのキスを」
神父の言葉で、クロエとロイドは目を合わせる。
そして、口づけを交わした。
瞬間、大きな鐘の音が鳴り響き、歓声と拍手が教会を包み込んだ。
二人の愛が神に認められたかのような、祝福の音であった。
(ああ、なんて……)
なんて幸せなんだろうと、クロエは思った。
一年前、実家を逃げ出しボロボロで、絶望していた自分に教えてあげたい。
(これから貴方は……幸せな未来が待っているんだよ、って)
もちろん、嬉しいこと、楽しいことばかりじゃなかった。
何度かピンチもあったが、それでも、ロイドとの幸せの方が遥かに上回っている。
そして今この瞬間、一生の中で最も幸せな瞬間だとクロエは確信していた。
ステンドグラスから差し込む光が二人を照らす。
ようやく結ばれた二人の愛を祝福するように、いつまでも、いつまでも照らしていた。
ラスト1話は19時更新です。




