レベル9
学食に行くと、マイちゃんが古い桶で野菜を洗う手伝いをしていた。ビーツさんとペッパーさんは忙しそうに動いており、まだ初日なのに、ここでずっと働いていたかの様だ。
厨房をよく見ると、またまた頭が混乱してきた。以前はガスで煮炊きをしていたのが、窯で煮炊きをしている。どう見ても薪の火で、煙も出ているんだけれど……?
古めかしい木のカウンターにクレオが近付いて、ペッパーさんに言う。
「おにぎり、ごちそうさまでした。
薪でご飯を炊くと、お焦げが混ざって美味しいですね」
ペッパーさんが野菜を切りながら、首だけクレオに向けて言い始める。っていうか、ペッパーさん。野菜を見ないで高速で切っている……。
「薪で米を炊くのは初めてなんですけれど、理想のご飯が炊けたので満足しているんですよ」
二人はこの後、料理の話を始めた。
オレは辺りを見回し、人だかりしている先にあるクエストの掲示板が気になった。エリーの肩に触れて、掲示板の方を指差す。
オレとエリーは、クエストが見える所まで行く。
「狙うのは勿論、1番上にあるボスよね、マサト?」
「でもエリー、ボスのレベルが35って書いてあるけれど大丈夫なのか?」
「私は40だから、単独でも倒せる相手よ。それに、マサトとクレオが加われば全く問題ないわ。
マサトは、レベル4ぐらいにはなっているでしょう?」
今のレベルが分からないので、手の操作で画面を呼び出すと自分のレベルを確かめた。
「マサトレベル9」
横から見ていたエリーが目を見開いてオレに言う。
「レベル9って、マサトは基礎能力が高かったの?
普通の人の倍の速さでレベルアップしている。普段の生活からは想像もできないのでビックリりしたわ。
このまま戦い続ければ、いずれ私を追い越すかもしれないわよ」
「つまりオレは、エリーのお荷物にはならないって事だよな」
「今はハッキリ言ってお荷物ね。だってレベル9でしょう。
私はこれからも頑張るから、マサトが私を追い抜くには10年先ね」
10年先……?
エリーの戦い方を見てきたけれど、隙がありすぎて話にならないレベル。八極合気の技をエリーに教えた方がいいのかな……?
「それより、クレオはどうする、マサト。
1人、ここに置いていけないよね?」
「もちろん一緒に行動するさ。ここに来るまで魔物を何匹かクレオが殺したけれど、学生の時に薙刀をやっていただけはあるよ。
そうだ、アレイアも誘ってみるかエリー?
さっき、2人が言い合いしていたけれど、頼りになると思うんだ。それに彼女、唯一の肉親であるお父さんと連絡がとれないって言っていたから寂しいと思うし」
エリーは口を歪めて考えている。
「それは考えたけれど……。
さっきの話し合いで、私は譲歩することになって5千万ペルをみんなに配ったんだよ。
最強の攻撃力を誇るオリハルコンのヤリが、これで遠のいたのよ」
「でも初期装備では、この辺りをうろついている灰色狼は危険すぎるのは間違いないよ、エリー。
学校も無くなったみたいだし、気長に行こうよ」
「そうか……。そうね。もう学校に行かなくてもいいのよね。
中学校に毎日通って、男子生徒から追いかけ回されるのは嫌だったけれど、勉強が出来ないので少し寂しいな」
さすが、優等生……。
それに、男子生徒が追いかけ回しているのは、エリーに好意を寄せているだけだと思うんだけれど……。
「な〜〜に、2人で話しているの?」
突然、クレオが後ろから話しかけてきた。
「えーと、ボス攻略の話をエリーとしていたんだ。
取り敢えずの目標は、朝日区のボスを倒す事だって」
「もちろん、私も行けるわよね。
なんだか、大学時代に薙刀で優勝した時の感が戻りそうなのよ」
え……?
クレオが優勝……。
「クレオって、大学時代に優勝したの?」
「ついでに言うと、大学院のプログラム科を首席で卒業したわよ。できすぎる親を持つと子供にプレッシャーを与えるから、今まで2人には言わなかったけれどね。
もう学校には行く必要もなさそうなので、言っても気にしないわよね、2人共」
……。
クレオが優勝した経験があるだって……。
それに、どうりでエリーの成績が良いわけだ。
「ペッパーさんが言っていたんだけれど、教室がいろんなお店になっているそうなのよ。
これから行ってみない?」
教室が店に……? どんな風に変わっているのか見てみたし、確かめてみる必要があるな。
「もちろん行くさ、クレオ」