王族の責務。狩人の矢。
続けて投稿。
矢は引き絞った弓を離れ、真っ直ぐに賊だろう男の後ろ頭を貫いた。
だが盗賊はまだ一人しか減っていない。略奪中に仲間を殺された盗賊達は長く不安定な木の吊り橋の一角で武器を構え始める。対して私は一人。そもそもに圧倒的不利。
立て続けに狙撃するも盾を構えられては物理的に射ぬけない。酷い者は人質を盾にしている。すがるように通行人からの眼差しを感じて、私を引き合いに出させた張本人の痛ましい瞳に知らず知らずの内に息が漏れた。
『奥の手』
人質がいる以上吊り橋ごと盗賊を落とす訳にはいかなくて、黒の道化師にいざというときは守って欲しいと頼み、隠れていた岩場から飛び出した。
「おや、どんな嗄れた爺が出てくるかと思いきや、若い…女か。」
舐める回すような視線を複数感じた。歓喜の雄叫びも耳に届く。似た視線を王城で感じた覚えがあるが……あれよりも遥かに野蛮だ。
「喜べ!今夜は女を姦すぞ!」
略奪されていた通行人は老夫婦や中年女性、それに幼い子供だった。狂乱する賊の集団を前に、アースノアは矢を抜かず弓だけ構えた。その様子の意味が分からず嘲っていた男の顔から数秒後に余裕が消える。
「魔導弓兵だ!!」
詠唱を止めろ!と怒声が岩場に響き渡る。矢先に光が密集し始めた。
投げてきた斧が不自然に空中で止まり、投げナイフも狩人には届かず空気を刺したまま何本も地面に落下した。満ちた魔力を放つ前、盗賊へ声を張り上げる。
『何人足りとも、この賢王の王国内で略奪行為は赦されていない』
珍しく頭に血が昇っているのかも知れない。声がよく響き木霊した。
義憤とは違う。
人は不意に訪れた理不尽な死を前に、誰に何を願うのか。
信仰する神、家族、警備隊、友、恋人か。大概身近で、心を占める信頼する誰かだ。
・・・・・・
だと言うのに、他国からの難民はあろうことか盗賊の魔手を前に、父の名を呼び、救いの手を求めた。そしてこの場に私がいた。胸中に沸いた形容し難い何かは第三王女から逃げるという選択肢を失わせた。
伸びた複数の光の矢がうねり、容赦なく盗賊を撃ち貫く。魔力の余波に風が巻き、吊り橋が揺れる。だが難民は生きて吊り橋にしがみついている。
アースノアは大空へ向かい光の矢を放った。これで街道を警備する王国兵が早ければ一時間後には駆け付けて後始末を始めるだろう。盗賊は壊滅的打撃を受けて地に伏しているから、今はそう離れていないソラタの所に戻るのが先だ。帰路の森を走り、枝を掻き分けながら第三王女の脳裏に困惑が生まれた。
王族の責務とは何だ。
王家の血脈ではなく賢王こそが、王家の誇りなればこそ。
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