精霊の里、樹の上、悪しき精霊。
お久しブリーフです。
樹木や植物、幹に生えた茸や湧水が溜まる泉は青白く、黄色く、時に黄緑に淡く輝いていた。精霊の住まう地は大体が取り巻く魔力が発光物質となって各地似たり寄ったりな風景と聞く。木製の建物が並ぶ里を前にソラタとアースノアは門番に睨まれていた。
門番の顔の造形は雷で形作られており正直読み取りづらいが歓迎されていないのだけは空気で伝わって来た。困ったな。
「人間。この地に何用か」
一言で嫌悪を感じ取ってしまえる口振りにアースノアは顔をしかめる。人と比べるのも馬鹿らしい魔力を空気中に垂れ流している人類の驚異…精霊。ソラタは恐くないのだろうか?私には黒の道化って切り札があるが、彼にはその身一つ
チラリを見ればいつもと同じく比較的穏やかな表情を浮かべていた。しかし横に立っているので、手甲の下で固く握られた手が……汗を滲ませて。圧倒的な魔力の違いは鼠と獅子。やはり彼も恐いのだ。
「異端の子に代わり、破損しているが精霊の秘宝をお持ちしました。族長に取り次ぎを願いたい。」
数々の部族と交渉してきた白髪の少年はきっぱりと用件を切り出した。マユリリから託された秘宝は精霊の秘宝は多種嫌いの精霊とて無下には出来ない。とは言っても今や割れた硝子片と化した秘宝を前に下手したら殺されるかも知れない。純然足る精霊は長寿だが排他的でそして時に苛烈な行いを歴史上に刻んできた。
「……。暫し待たれよ」
雷の精霊はパリパリと電気を纏いつつ数秒間黙りこみ、意外にすんなりと是と答え、ソラタを誘導した。ものの数秒間待たされただけだったので、精霊は同族との意思疏通に長けており、テレパシーなんてお手の物というのは本当らしい。埃まみれの本の知識とて役に立つね。
しかし、入場を許されたのは運び手一人だけ。黒の道化師の存在を気取られたのか気が気で無い。樹の幹を伝い、上へ上る。白い竜は私達を下ろすなり、何処かへ飛び去ってしまったから姿は無くて、珍しく本当に一人だった。
もし、スゥなんていないと知られたら……どうなってしまうのか。ここにいるのは賢王の第三王女だと、…。
大体、国を統制して良き臣下を集め、民衆に慕われ続ける今世の父は、自国民の視点で身勝手な暴君ではなかった。封印が溶ければどうなるかなんて疾うの昔に理解していただろう。しかし、自身の死後他国に飛散する脅威にどう対応するつもりなのかは検討が付かない。見過ごすと言われても納得してしまう程に聴き手で重要な事は話さなかったし、他国に関しても基本沈黙を貫いている。
己一人で見透し、軍部や大臣を動かし、結果が出る。それも最良でだ。
老王を信奉する隠密から騎士、将軍に至るまで全て統率された力に導かれた結果。気持ち悪いほどに理想のそれらが作り上げられた。
「アースノア」
後ろから回された白い腕が、胸から顎へと撫で伝い、耳元で囁く声。ぴったりと後ろから抱き締められ、温度の無い肉感が布製の服越しに圧迫する。涼しげな美声が耳に落ちた。
「竜人の臭いがする。出方次第では一戦交える、最悪離脱も頭の隅に置いとけ」
不愉快そうに鼻で笑い、黒の道化師は木上にいる第三王女に回す腕の力を強め、アースノアの視覚に二頭の竜が映る。片割れはラゴーなのでもう一方の一回り大きな鉛色の竜が訪れた方だ。
黒髪の下、第三王女の黒い目が呆然とした様子で着地する竜の翼を眺める。竜人目には全ての精霊が映る。契約し、何らかの能力で隠れ潜む黒の道化師とて例外ではない。
大陸に数えるほどしかいない竜人は強い力を持つという。
異世界の魂を持って来た時点で真っ当な精霊に分類されない黒の道化師を敵視しないとは言えず、契約した精霊の死は契約者の死であるから、やはり焦る。
しかし、人の姿に変化した竜人はそのままスタスタと木製の建物の中に入って行った。見向きもされずスルーされ、拍子抜けしたがソラタ大好きラゴーの知人なら少なくともソラタには悪いようには為らない。
鋼色の髪の、厳めしい男。厚手の衣服に身を付けた屈強さが際立つ軍人に近い空気。ーー………あれが竜人?
視線の先でラゴーが此方を一瞥に、ふんと鼻を鳴らした。まるで「どうだ」と言わんばかりの様子に、竜には竜の視点が伴い、物事を推し測るに多種多様な見方がこの世界には蔓延しているのだと改めて思う。
種族や部族の数は多く、昔は戦争ばかりだったと記されていた。今は争いは減ったが部族間の関係は閉鎖的なのだろう。
異端を嫌う自然界の精霊と精霊人種。建物に踏み込めば火に油を注ぐ事になると理解してはいたが……。年下の割りにかなりしっかり者な少年が思い浮かび、アースノアは顔をしかめた。
昨日、少年は一人で四体もの魔獣を狩っていたが、完全な独断だ。水浴びが終わり、夜営地に戻れば血塗れの彼が武器を手に戻って来たから吃驚した。水を浴びて来るけど危ないからスゥも一緒に来て、と言われて着いて行ったが、腕に傷を負っていたので慌てて治した。
少しぼーっとした様子で「気付かなかった」と苦笑いを浮かべるものだから、カッとして池に突き落としてしまった。
魔獣を四体なんて聞いて肝が冷えた。魔獣の餌になっている姿を見せる気かと、怒りと悲痛がない交ぜになった目を向けていたと思う。嫌な想像に涙が溢れ、無茶だけはするなとすがった。
少年は感情薄く緑瞳でこちらを眺めると一拍置き、キスが返した。しかし、きつく腕の力がかかり、容赦ない深く荒々しい口づけ。そのまま長時間押し倒された体勢でキスをしていた。
恐らくソラタは並の男性より遥かに理性が堅い……のだと思うよ。息切れに頭をクラクラさせながら、逆転の発想でもして自分を慰めていた。
城に戻らなくてはならなくなった時、深い関係だと辛すぎる。泣けるね。今ですらこの年下の恋人の魅惑に心底ヤラレテいるのに。そうだ。そんな事態を考えると幸いの状況なんだよ。きっと。
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