河辺は青春。
恋愛回?
流れる澄んだ河の浅瀬を眺めるアースノアはもの憂いに硬い表情をしていた。まだ日も高く、暖かいので水浴びする貴族の子息の護衛として付き添っている。ソラタの少年特有な成長期前の裸体は程よい筋肉が無駄なく付いていた。でも斧槍を巧みに操るには細い気がしてならない。ちなみにカップルは夕飯当番を勤めてこの場にいない。
『何が本当で、何が正しいんだろう…』
自国に関する重要事項を他国の人間によって知らされたのは恥ずかしい事実だと私でも分かる。王族とバレた暁には腹を切るしかないレベルの恥だ。兄様姉様は知っているのだろうか…。
「スゥさん」
元気ですか、と少年が微笑んだ。鮮やかな緑が弧を描き愛らしい。前から思っていたがソラタの容姿は髪が真っ白だからか人外に見えてしまう時がある。その細い肉体に刻まれた赤い切り傷の痕が痛々しい。魔物との戦闘で前線に立っていた結果か。
『元気なんじゃない?』
こちらの投げ槍な様子にソラタは小さく溜め息を吐くと視線を河辺へ向ける。ラゴーは我関せず魚を捕まえては丸ごとボリボリ咀嚼し、水に頭を突っ込むを繰り返していた。少しは空気を読んで欲しい。
「僕が王国の話をしてから、ですか。貴女が悩み始めたのは…」
『…』
話をしたのは少年だが、彼が悪い訳じゃない。少なくとも兄の統治時代に祖国が酷く乱れることはないと高を括っていたから、代償として動揺しているだけーーーーーーーとはまさか言える訳もない。
「聞いてもいい…?」
『何を?』
ぼんやりしていたら横から声がかかり、髪から水を滴らせたソラタが私を静かに見ていた。その目は思考に沈み、何を考えているのか感情が窺い難い。
「旅の理由を聞いてもいいですか。森に衛兵がいたからなし崩し的に最初は逃げましたが、決して安全な旅とは言えない。」
どうして?と問いたげな口調に狩人は少し考え込んだ。アースノア自身が分からない部分と明らかに伏せた方がいい事実にどう伝えようか迷う。
私は昔死んで、黒の道化師に魂を拾われて生き直すことが出来た。だがその精霊は特別に悪しきものと忌み嫌われていて、自分も思い出すまで煩わしく感じていた。
『昔、私の命を助けた人は罪人だった。でも、それが信じられなくて、どうしてその人が罪人であるか知らないといけないと思って調べてる。本当に悪なのかどうなのか、知りたいのはそれだけだと思う』
「手掛かり、あるの?」
『大丈夫』
タオルで髪を拭く少年はごしごしと頭を擦っていた。
「割と訳ありですね。」
少し嬉しそうな少年の微笑みが何故か胸にチクリと刺さる。不意に思い出したようにソラタが振り返った。
「国に残して来て大丈夫な人なんですか?」
『…?』
「家族とか、その…恋人とか」
『……。』
少年が顔を赤らめて呟くように言った。そういえば17年で異性の友人も甘酸っぱい経験も無かったな。
……隔離されてとはいえ改めて絶望しましたとも!
全部悪しき精霊の溢れる色気が原因だ。このままでは行き遅れて二十代半ばで初老ジジイの後妻にされてしまう。
姉達は申し分無い相手を見つけ、第一王子は言わずすもがな、そしてあの厳格なヴォルフィーニ兄様は夜はプレイボーイで通っている。考えていたら落ち込んで来た。
『この話はもう止めよう…。』
居たたまれない。
『私に襲われたくなかったら、もう止めて』
「…」
目を見開いたソラタを残して河原から踵を返した。嗄れたジジイよりかは最近珍しく可愛く思えてきた少年の方がいいのだよ…。危険、君の貞操は狙われている。
そう理解すべきだ、との思考はグッと腕を捕まれて草原に倒れ込まれたことで中断された。
「僕が男だって事、忘れてるでしょう。」
アースノアを見下ろす緑が近付いて、距離が縮まった。
キス一つまともに出来なさそうな少年だと思っていたのに。




