Scene4.焦燥
スタート地点は勿論、昨夜のセーブポイントの〝小屋〟の中だ。俺は駒キャラを動かし、薄気味悪く暗いこの小屋から足早に立ち去った。
外に出ると途中雑魚エネミーやホブゴブリンと何度か先頭に入ったが難なく倒し、また運良く任務の一つであるホブゴブリンの牙を手に入れ、とうとう目的地である〝館〟へ辿り着いた。集中してパソコンのキーボードに触れる。両手に力が入る。妙に脂汗も出た。
ゲームのシュチュエーションも悪いしどんな強いエネミーが出現するかも不明だ。たいていこういう場所になると平地よりも圧倒的に強いエネミーが出るのがお決まりなのだ。……それに……昨夜のあの出来事がある。
俺は意を決してその〝館〟へと足を踏み入れた。
館内はやはり薄暗かった。また館自体がどこか閉鎖的で決して誰も寄せ付けない何か特別なオーラをただ寄せていて、朝昼晩を問わず、そんな暗さが漂っていた。
「本当に、何が出てもおかしくなさそうだな」
俺はこう言うホラー的なものが本当に苦手だ。昨日ヤナギにも笑われたけど、中学生の時、幼稚園児向けのホラーアトラクションでギャアギャア騒いでいたほどだ。……今は少しマシにはなったけれど。
駒キャラを進める。人間やウサギを混ぜたレクイエム+の俺のキャラはどうにも音や匂いに敏感のようだ。ユーザーの俺には判らない気配や〝音〟を嗅ぎつけられる。と、さっそく何かに気付いたらしく、片方の長い耳をその方へ曲げた。俺はその場所へと駒キャラを動かし追う。しかし、何にもない。行き止まりだ。目前には左右に二つずつ箪笥らしき物と何か良く判らない呪術的な道具が置いてあった。なんだと思い、俺は自分の駒キャラを背を向けた、その時、
『ギィィィ!!! ガチガチ! ガタン!!』
『……コロン、コロンコロン……』
突然俺にも聞こえるサウンドが響いた。
振り返ると何故か触ってもいないのに目の前の箪笥の中央が一つ開いて呪術に使えそうな道具たちが全て倒れた。
ビクッ!
突然リアルな効果音に俺はビビった。
……と、前をよく見ると小さな真珠のような光が幾つか転がっていた。
俺はすぐに何らかのアイテムが転がったことに気付いた。俺は怖い上に、これがきっかけで出現するエネミーが更に強くなるかもしれないからイヤだったので、取ろうか取るまいか迷ったが、結局まず一つ拾い上げた。拾ったアイテムを確認した。
『(不気味なイラスト文字)⑦』
「何だ、これは……?」
映されたアイテムは妖しいオーラを放つモザイクがかかった何かのパーツらしきものだった。
「しかも、……『⑦』って」
ということはここに散らばるパーツは①から順にパーツものがあるということか?
不愉快だったがやはり気になって散らばった全てのアイテムを回収した。アイテムを全て確認した。全パーツはやはり不気味なオーラを放っていてそれぞれギアのようなモノや金属板のようなモノなどが様々な形をしているものの共通してアイテム名が『***①』などと不気味なネーミングとそれぞれの番号がつけられていた。それが全部で16個あった。
……俺は選択画面から「COMBAIN(つなぎ合わせる)」選択し、組み合わせる物の対象を全て選び、「COMBAIN」した。
すると出来上がったものは意外な物だった。
「なんでフツーのノートパソコン何だ……」
だが、やはりシアン色のオーラは未だ漂っていた。
「アイテム」からそのパソコンを使ってみようした。が、何の反応も無かった。
アイテムの解説を読んでみると、『不気味なオーラを漂わせる不思議な本。鏡が付いている。このままでは使えないようだ』と表示した。
「本?」俺は首を傾げた。
そのイラストを見ると電源コードが無かった。もしかしたらバッテリーも無いのかもしれない。しかし、これが今回の任務「暗黒の深緑」と関係があるのだろうか?
俺には不思議とそれはないような気がした。
俺は溜め息を吐いた。
そして、その場から一旦立ち去ってUターンして戻ると反対側の廊下へと向かった。あちこちに木製の扉がある。何ヶ所かは『鍵が掛って入れない』となったが勿論入れる所もあった。とりあえず数ヶ所をリストを上げていくことこうだ。
◆トイレ。便器をチェック『長い間使ってないようだ。かなりクサイ』「古いトイレットイレットペーパー」GET。
◆小さな部屋。学生が使っているような部屋のようだ。本棚や勉強机などを調べたが特に収穫はなかった。
◆幾分奥の方に進むと大扉の中。厨房だった。何か出そうで怖かった。実際に他のモンスターが出たが、このゲームの創り手のユーモアさで「ゾンビ」の姿がここだけコックの姿とかメイド服姿のエネミーが出てきた。俺はちょっと笑った。又、冷蔵庫や鍋の中などを調べると、『炭』『腐った何かの肉』『どこかの小さな鍵』『トランプ』『麻酔薬』『薬草』『香辛料』『放火器』などが手に入った。
放火器は武器として使えそうだ。
その途中、その厨房の奥にある食堂へ行くとセーブポイントがあった。俺はそこでセーブした。
その後すぐに反対側にあった扉から外に出た。ここの鍵は内側から開ける仕組みだったようだ。今いる位置は先程の厨房よりも大分手前の廊下に出た。俺は目の前の部屋の前に立った。先程開かなかった部屋だ。さっき厨房で「小さな鍵」を手に入れたから試しに、と思い使ってみた。
……開かなかった。
「そういやぁ」と思いその隣りの部屋を調べてみた。カタカタ。ドアを引いたが開かない。
多分無理だろうと思いながらもコマンドでさっき使った『小さな鍵』を試してみた。すると、……カチャァ……。開いた。中を見ると、書斎らしき部屋だった。また父親的な存在が使うような部屋だった。本棚と本だらけ。センターに木製の味のある机とランプがあり、目立つものそのようなものだけだった。
まず俺は本棚を調べてみた。
『『世界の異変の始まり』が全館揃っている。読みますか? 』
と出た。選択肢は〝YES〟と〝NO〟。俺は〝NO〟を選択した。何故ならゲーム開始時のプロローグで知っているからだ。次は更に中に入り隣りの部屋へと入った。すると少し広い部屋があり、ここも本でぎっしりだった。
『『〝荒廃の館〟の起こり』の本がある。読みますか?』と出た。
俺は〝YES〟を押した。すると、『……本が古過ぎて所々破れていたり、染みや誰かが墨でページを塗り潰したりしてちゃんと読めない』と出た。
なんだそりゃと俺は項垂れた。
その隣りを見た。この本だけどこか他とは違う異質な雰囲気があり他と異なっていた。調べてみる。
『……ガタン!』
触れた直後、何かの引き出しが開く音がした。
『隠しスイッチだった。本の表紙に〝disk〟と書いてある』
俺は初めに見た書斎の机に戻り、机の引き出しを調べた。一番大きい方には何もなかった。
次に机のサイドにある引き出しを上から順に調べてみた。
1番目2番目3番目4番目は特にこれというものはなかった。
5番目左上サイドの一番大きい引き出しを調べた。
『カタカタ。まだ半分鍵が掛っているようだ』
「なんだよ……」
拍子抜けだ。どこかに鍵はないか? と机の周りを調べてみた。が、何もなかった。
「面倒臭いからここは後にしようか」
そう思った俺は廊下から入って来たドアノブを回した。……すると……『カチャリッ』
何かの鍵の音がした。
「机の……カギ?」
足許を見るといつの間にか光るアイテムが出ていた。「なんだろう?」と思い俺が『拾う』のアイコンを押そうとしたが何故かそれより先に勝手に、
『〝机の引き出しの鍵〟を入手した』
という文字が画面に出た。
何だ……? またバグが出たのかと思い少し不審に思ったが「まあ、いいや」と先程の机に戻った。
サイドの5番目の引き出し、拾ったばかりの鍵を使って開けてみるとアイテムが入っていた。俺は『拾う』のアイコンを押す。
『〝機械的奇妙な本〟を手に入れた』と出た。
アイテム確認画面から調べるとそれはどこからどう見てもごく普通のノートパソコンだった。今俺も使っている。それでもってそのPCは俺のPCと機種が似ていた。
「……まあ、俺のこのパソコン有名だし、偶々このゲームを作った会社がマネしただけだろうなあ」
映画や他のゲームでもそうだが、有名な品や固有名詞はパロディー化することが多い。
それで時には見ている側をクスリッと笑わせることがある。
「―――にしても、スタッフ凝ってるなあ~」
しかし、それは少し可笑しなことだった。PCなんてこのゲームの世界観に全く沿わないのだ。
コマンドの『アイテム』を調べると机の前で今度は新しいコマンドが出た。
『机に〝機械的奇妙な本〟を置く』
『キャンセル』
俺は前者を選んだ。
次に『調べる』を選択すると新たに別のコマンドが表示された。
『コンセットを繋ぎ電源をつける』
『そのままにする』
「もしかして、これがココのボス戦に繋がるキーアイテムなのか……?」
俺は一旦立ち退くか躊躇ったが、思い切って上の選択肢を選んだ。
するとタタンタタンッとPCが立ち上がる音がした。俺のPCと同じ効果音が鳴った。
そう思っている俺を余所に、そのPCはどんどん画面を展開していった。
見ると、画面には一人の青年の姿が映し出された。
「なん……だよ……、コレ……!?」
それは紛れもなく俺自身だった。
が、少し違っていたのは、紛れもなく俺自身の姿に、何故か俺の駒キャラが持つ左頬にアズィルのウロコが生えていた。
「何だ? 何だ! 何なんだよ!?」
ありえない!
どこにもカメラなんて仕掛けてもいない。目の前にあるのは俺のPCだけだ。
俺はパニックに近い状態になり、頗る怯え怖がり早くこの画面を消すため電源(POWER)を切った―――はずだったのだが、何度も試してみたが全く画面は変わらなかった。
それどころか、ゲーム側のPC画面に映る俺はいつの間にか俺の駒キャラが持つ兎の耳を生やしていた。
段々俺の身体は恐怖に蝕まれるのを感じた。
兎に角、この変な事態から脱出すべく自分のPCの電源プラグをコンセットから抜き取ろうとしたが―――抜けない!!
今度は、まずネットに繋ぐ為のプラグ引き抜き、PCにとって悪いと判っていながらも直接PCに付属している機械の心臓とも言えるバッテリーを抜き取った。
「ど、どうだ!?」
俺は恐る恐るブラックアウトになっている画面を見た―――が、状態は何も変わっていなかった。
「なん……で?」
ネットの配線もバッテリーも抜いたのにまだ動いていた。それどころか、ゲームを進行させてゆく。
ふと、窓のガラスを見るといつの間にかケガをしたのか、右の頬にアイスブルーの痣が出来、その上から擦り傷のようなカサブタが出来ていた。
もしかしてさっきどこかにぶつかったかもしれない。が、全く気付かなかった。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
この事態は可笑しい!!
「なんだよコレ!」
画面を見ると文字と選択肢が出ていた。
『不思議な本から壮絶な力を感じる。Enterしますか?』
『Enter』
『Yes』
『はい』
『Do』
『Enter』……。
「なんで〝NO〟が無いんだよ! クソッ。PCのシステムからこの画面消せないか」
キーボードを使って強制終了プログラムを押し、PCのマウスを使ってコンピューター操作した。が、俺の数少ない知識を応用したが全て無駄だった。
無駄と判り、俺はマウスを放そうとしたその時に気付いた。
俺のPC画面は戦闘モードになっていないのに突然大きなアンデッドエネミーが出現した。
バンパイヤ、ゾンビ、スケルトン等全てが混ざった皇帝のような姿をしていた。
気持悪い。
が、さらに気持悪かったのが文字ではなく直接スピーカーからそいつが俺に一度声を聞くだけで死を思わせる不快な重低音で話し掛けて来るのだ。
『お前にはもはや選択肢はない。お前はすでにこちら側の存在に変わりつつある。さあ、その手を動かせ』
俺は非道く嫌がってマウスを離そうとした。
「おい、嘘だろ!?」
マウスをつかんだその手は何らかの暗示が掛かっていたかのように全く放してくれなかった。それどころかマウス自体動かしてはいないのに画面上のマウスカーソルだけが『Enter』にゆっくりゆっくりと動いてゆく。
「ッ!!」
叫びたくても叫ぶコトバが見つからない。
右手が動かないなら、と思い気転を利かせて左手でマウスの接続部分を抜こうとする。
しかし、抜けない!




