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BUGÅBOO ① ~生きるを往く者~  作者: 風快李吏


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Scene1. エスペホ


夕食後、歯磨きをし終えた俺は20時からずっと自室に篭っていたが、あっという間に三時間が経った。

「やっと終った!」

小学生の頃から使い続けているステンレス製の勉強机で勉強をしていた俺は、両手を挙げながらそのイスの背凭れとともに後ろへと目一杯ぐぅっと背筋を反らした。そしてやってくる宿題を終えた後のあの何とも言えない達成感。

俺は暫くその感覚に浸っていた。

……にしても、毎度毎度、何故数学の課題はこんなにも範囲が広いのだろうか…。

「ふぁ~…」

疲れで欠伸が出た。眠いなと感じながら今の時間を確認するべく、ベッドの棚の上のデジタル時計を見ると思っていたよりも時間が進んでいた。

「案外、宿題してる時って長いようで、妙に時間が経つのって早ぇよなぁ」

ずっと黙って勉強していた為、何となく口を動かしたくなってそんなことを一人呟いてみた。

それにしても、いつも俺はこう思う。

「テストなんかどうでもいい」

高校2年生の俺は明日で二回目の中間テストの最終日を目前に控えている。言うまでもなく、投げやりになっていた(いつもの事だが)。

 勉強は嫌いだ。小中高とずっと変わらぬ勉強意欲は今日もいつも通り眠ったままでいる。それでも、通知表には欠点の数字だけは叩き出したくはないから、気を付けてはいる。

 言うまでもなく、俺、犬良(いぬよし)黒兎(くろと)はそういう奴だから、成績は常にクラス順位・偏差値は中の下。またはそれ以下である事が殆どで、かといって、それを改善しようと言う気は今更起きはしない。面倒な事より楽しい「今」を過ごしたい……。

――それに今更、勉強したところで二流三流大学へ辿り着くのがオチだ。たとえ、猛勉強をしたとして一流大学に進んだとしても、その後は一体何になる?

 負け犬だの吠え面をかいた落ち零れだのと罵られるだろうが、それはもう構わない。ただ「クズ」だの「疫病神」だのと言われるとかなりムカつく。

 それでもやはり、明日提出する与えられた課題はちゃんと終わらした。

眠気はあったが、まだ寝る気持ちにはなれなかった。7畳半の自室。ベッドのすぐ前には折り畳み式の小さな机を広げて置いていた。すーっと吸い込まれるようにその机上のノートパソコンに目がいってしまう。やりたい! と気持ちが起こり、俺の小さな勉強意欲は誘惑に負けてしまった。

「まだ11時15分だし、まあいっか」

俺は勉強机からその机の所に移り、胡座をかいて、ノートパソコンを開き、「POWER」と書かれたボタンをのっそり押した。

早く立ち上がらないかと待っている間、俺はそっと頭上を眺めた。

電灯がチカチカチカチカと何度も点滅を繰り返していた。目が悪くなりそうだ。「そろそろ買い換えないとな。……面倒臭い」

そんなことを考えつつも、もう夜で換えの電球も今家にあるかわ判らない。特に何もしなかった。

ただ、そこからふと今度は窓に視線を移した。何気なくそこまで歩いて立ってみた。カーテンが半開きになって覗く窓ガラス。映る色は真っ黒でそれがスクリーンになって、俺と俺の部屋の中を投影した。左右逆さまの世界……。不意にセンチメンタルなことを考えてしまう。……と、

『トゥルル~ ピコンっ!』

コンピュータの立ち上がる音がした。「おっやっとだな」と言って俺は再び元の位置に座ってノートパソコンに向き直った。デスクトップには俺の好きなスポーツ選手の写真が映し出されている。

 インターネットを開き、「お気に入り」からつい最近嵌まり出したあるサイトを開く。


『無料オンラインゲーム Espejo(エスペホ)


タイトルやイラスト等と共に映し出さ画面を見て、俺は静かにはしゃいだ。

ところで、この『Espejo』というゲームは、パソコンのインターネットを介してプレーするもので、ゲーム内で知人間でアカウントのリンク登録をすると、一緒に協力して冒険ができて同じミッションを受けれたり、勿論会話できたりする。会話に関しては、リンク登録しなくても一人で遊べるが、またゲーム内のフィールドは勿論、「酒場」や「広場」などでも他人と文字で会話したり、リンクを申請して一緒に遊ぶ事ができる。他にも市場では物を売買することも可能だ。

ここで、『Espejo』の世界観や操作するキャラクター(駒キャラ)、ゲーム設定等について説明しよう。



世界観(ワールド)


世界の半分以上が荒廃と化し、アンデッド系モンスターが過半数出没する。アンデッド系モンスターの殆どは明確な自我を持たず、野性本能(=殺傷行為)のまま、その地を蠢く。

残りのフィールドには勿論、豊かな平原や自然もあり、村や街がある。が、3つの文明人たちは、その荒廃と化したエリア【Area(エリア) Zero(ゼロ)】に足を踏み入る必要がある。鉱物や薬など生活資源の多くは【Area Zero】にあり、それを売り生業をしなければならないのだ。

今日もまた一人、また一人と冒険者達は生きるために旅に出る…。



登録してゲームを始めると、必ず決めるないといけないのがこれだ。



《名前の入力》


OP(オープニング)を見る前に書くことになる。自分の好きなハンドネーム(ゲーム内での名前)を記入する。



《キャラクターの選択(ゲームの始め方)》


【種族の選択】

自分の駒キャラの種族を選択します。……裏技として、パスワード入力をすれば、ハーフ・トリニティ、クオータの種族が選べる。ハーフのパスは普遍的に知られている。だが、クオータはバグに近く殆ど知られていない。トリニティはその中間。

ハーフは2種類の民を混ぜたもの。トリニティーは3つ。クオーターは4つだ。

まずはベースとなる種族を選ぶことになる。クオータの場合は途中まではトリニティと同じだが、敵モンスター(エネミー)のスキルや強さ等をある程度混ぜられる。だから裏技であり、ほぼバグなのだ(因みに俺のキャラはクオータだ。俺はその方法を腐れ縁の親友、猫柳に教えて貰った)。


キャラクターを選択すると『Espejo』のデータ内には沢山のキャラクターパーツがある。自分で好きな物を選ぶ。


【パーツの選択】 

選択した種族を基にパーツの選択。選んだ種族によって、種類・選べる数が変わる。各種、様々なパーツがあるので、好みにあったものを選ぼう。


【ジョブと得意とする魔法・武器の選択】

 ジョブは10個の基本ジョブを選択。ストーリーを進めてく中でジョブランクが上がれば、再び今度は他の基本ジョブを選ぶ事が可能。ランクに応じて2つ以上のジョブを混ぜる事が可能で、新しいジョブを手に入れられる。それまでに得たスキルは基本的には消えない。実はこれにも裏技があり、初期設定で2種類のジョブを混ぜる事が可能になる。


【魔法について】

得意な魔法の選択は2つまで。これにはバグ・裏技はない……。

武器は、ジョブによって変わるが基本1~2つ。



【戦闘について】

戦闘は荒廃エリア【Area Zero】やモンスター出現エリアに足を踏み入れ、ある程度歩いたりすると出現する。戦闘はコマンド入力。『戦う』『魔法』『スキル』『アイテム』があり、1ターン毎に1つ選択できる、所謂、エンカウント式ATB(アクティブタイムバトル)だ。


俺はどちらかといえば、キャラクターを動かしてそのまま敵を倒すゲームが好きだけど、嵌まり出したらエンカウント式ATBも割と楽しい。

次に操作出来る種族について。種族は3つある。次の通りだ。



【レイス】

・外見的特徴は特になく、普通の人間となんら変わりない。

・魔法は使える。

・最もノーマルな種族。バランスがいい。



【アズィル】

・俗に「蒼の風の民」と呼ばれる。

・白肌が多い。

・鼻と背が高い。

・トカゲのような鱗が身体や顔の一部にある。場所はバラバラ。

・服装が独特(歌手などアーティストが着ているエスニック系な服装に近い)。

・自我が強い。

・魔法系の種族。


【ガウル】

・俗に「茶色の風の民」と呼ばれる。

・姿形や歩き方は人によってバラバラ。成りにより二足歩行だったり四足歩行だったりする。

動物の姿をしていたり、半獣半人だったり、二種以上の動物が混ざった姿をする者もある。

・3つの種族の中で最も本能のままに生きている。

・比較的人懐っこい(例外あり)。

・特徴を活かして仕事をする者もいる。

・タイプは主に、獣類・鳥類、(稀に)爬虫類・両生類がある。

・肉体系種族。力技を得意とする。



又、種族の混ぜ方に応じてその成りの呼び名がある。

・レイス+アズィル=セレナーデ

・レイス+ガウル=ノクターン

・ガウル+アズィル=ボレロ

・レイス+ガウル+アズィル=レクイエム

そしてエネミーの能力を混ぜている場合、ミックスした駒キャラの名称の尻に「+(プラス)」を付ける。


……俺から言わせれば設定はガウルが一番適当な種族に思える。

そして、最後にジョブの種類について。基本ジョブの種類を紹介。


基本職業(ジョブ)

・剣士

盗賊(シーフ)

・魔道士

・スナイパー(弓・銃など)

・忍

小細工師(トッリッカー)

・武道家

音楽家(ミュージシャン)

・ウォーリア

PC師(ハッカー)


また補足ではあるが【任務(にんむ)】について説明しよう。


【任務について】

・責任が重く難易度の高い任務は「ミッション」と呼ぶ。

・物を集めたりする難易度が比較的易しい任務は「クエスト」と呼ぶ。


基本的な『Espejo』の説明はこんな感じだ。

そのロールプレイングゲームのログイン画面で俺はIDとパスワードを入力してログインした。アズィルとガウルをベースとしたレクイエム+の俺の駒キャラは人の成りをして兎の耳が生えている。Lv.は5で、現在のステージレベルはLv.3だ。このレベルは通常のプレイヤーに比べて少し低い位置にある。勿論、ズルをしていなくてもこれ位のレベルでゲームを進める人は居るが少ない。そのロールプレイングゲームのログイン画面で俺はIDとパスワードを入力してログインした。そしてデータをロードして前回の続きから始めた。現在地は「悪魔の森」の一歩手前にあるセーブポイントだ。任務(ミッション)ではその中にある「荒廃の館」に入らなければならない。そこで街の学士の娘を助け出すと同時に、その学士が必要とする本と(エネミー)であるホブゴブリンの牙を手に入れなければならない。よくあるゲームの任務だ。俺は武器やスキルなどの自分の装備を確認して準備を調える。言い忘れていたが、俺の駒キャラのジョブは、裏ワザで初期設定から魔道士と剣士を混ぜたレベル2のジョブ「魔道剣士」だ。普通の魔法以外にも、「焔の魔法剣(フレアソード)」や「凍土の魔法剣(ブリザードソード)」等の魔道剣が使える。

しっかりと装備が出来ていと確かめ終えた俺は、いよいよ「悪魔の森」に足を踏み入れた。沢山の木々や植物の深緑に覆われ、薄暗く不気味な場所……。駒キャラが立っている路は汚れた土の上に細く古びた石畳が真っ直ぐ伸びている。それに従って俺はキーボードの十字キーの「←」を押し続ける。と、すぐにモンスターが出没した。敵は3体。ゾンビが2体とマンゴドラだ。

おっ出たなと思いつつコンピュータに指示を出す。

「ダンジョンの入口の方だから、まだ雑魚モンスターだな」

俺は呟きながらスキル「焔の魔道剣」で2ターンで敵を薙ぎ払った。

やっぱり弱いななどと思いながらまた十字キー「←」を押した。少し進むと石畳の道は無くなり、土だけの道があっちこっちに広がっていた。更に進むと、森林の翼竜(フォレストワイバーン)、生きる屍体(リビングデッド)山猫(ワイルドキャット)木乃伊(ミイラ)などに遭遇し倒しながら、右へ進んだり、左へ行ったり、上や下を行き来しながら、複雑な森の迷路を進んで行った。やがて、先程よりも少し広い通路に出た。画面右よりの上側に安易な祠のようなものが見えた。

何だろう、アイテムが隠されているのかなどと思いながら、俺は駒キャラを進めて見ようとする。

一歩二歩三歩四歩……七歩目に差し掛かろうとした時だった。御社の前をサッ! と一瞬黒い影が横切った。あまりにも早過ぎてその正体が何だったのか判らない。俺にはただその影が爪痕の様な黒いラインが瞬時に映し出されたようにしか見えなかった。近づこうと試みた。

が、その直後に戦闘モードに入った。

画面が切り替わる。「面倒臭いな」

と思いつつもどんなエネミーが出るのかちょっと期待する。自分の駒キャラや背景とコマンドが映し出され、そしてエネミーの絵も映し出された。しかし、

「ん?」

俺は「オカシイ」と妙に思い画面を食い入るようにし見詰めた。

敵は3体。画面端に表示されたエネミー名を読むと、ハーフゾンビ、マッドガウル、そして、ブラッドアズィルと表記されていた。

「……こんなモンスターって居たっけ……?」

ホラーやスプラッシュ系が大の苦手の俺は気味を悪がった。ハーフゾンビは一見女の人間(レイス)の成りをしているが、身に纏った革製の防具はボロボロで、その隙間から覗く皮膚と顔はまばらに肉体が腐り、健康な皮膚と混ざり合っていた。一方、マッドガウルは熊と虎が混ざったような形をしており、毛が非道く荒み、両眼は怒りや憎しみに駆られたような緋の瞳をしていた。そして、ブラッドアズィルは、本来アズィルは肌が蒼白いはずなのにソイツの肌は全て生々しいぐらいに赤黒い。服もハーフゾンビと同じようにボロボロに廃れている。眼の光もとても恐い。

気持ち悪い。そして不思議だ。

レイス・ガウル・アズィル……、それらは全てプレーヤーが駒キャラクターとして操作するキャラクターだ。描写が生々しい過ぎる。そして、そんな可笑しなキャラクターが同上に出るなんて妙だった。更に不思議な事にはエネミー達は一度も俺の駒キャラに攻撃しなかった。それどころか全く動かなかった。

でもやはり、エネミーはエネミーだし、早くこんな気味の悪い戦闘シーンを終わらせる為にも、「まっ、いっか」と思い、少しは躊躇いはしたが、スキル「焔の魔法剣」で全てを薙ぎ払った。

薙ぎ払った直後、パソコンのスピーカーからは皴割れてハウリングを起こしそうな程に「ぎゃあああああああ!!」「グアアアアアア」「たすけてええええええ……!!」と悲痛な叫びが聞こえて来た。

「キショクワル!」

本来は敵を倒すと無音か効果音か電子音の声が音を上げるのに、突如肉声がスピーカーから部屋の中へ木霊した。

画面を見ると高い経験値と金と、何かしらのアイテムを手に入れていたが、通常のフィールド画面に戻ると同時に、俺は反射的にパソコンを閉じた。ただ、まだゲームも電源も切ってない。

 不審に思い俺は親友の猫柳純也に電話をした。猫柳純也は俺にこのゲームとバグの裏技のノウハウを教えた張本人だ。俺はケータイから猫柳のケータイに電話を掛ける。しかし出なかった。諦めずにもう一度コールした。繋がった! と思ったら何故かすぐにブチッと切られた。溜息をついた。「仕方がないな……」俺は再度リコールのボタンを押す。すると、今度は「はい、もしもし」と幾分イヤそうな声が聞こえて来た。

「あっ! もしもしヤナギ! あのさ」

「あのさぁー、お前何回掛けて来るんだ? 2回も切られたら流石に空気読めるでしょうが。それで、こんな夜におれに何のよォう?」

「あのさ、今エスペホやってるんだけど、何かキモチワルイエネミーが出て来てさ。それで――」

「はあ!? お前何ゲームなんかやってんの!? 明日、期末テストだろ。欠点取りそうでギリギリなんだろ。」

「まだ辛うじてギリギリじゃあないけどな」

「っというか、もう12時とっくに回ってんだぞ。人の睡眠時間邪魔すんなよ。おれ4時起きで朝早いんだから」ベッドのラックなデジタル時計を見た。ディスプレイは12時32分を移していた。

「ちゃんと勉強しろよ。ホントに欠点取ったらどうするんだよ、お前」

「大丈夫。俺、提出物だけはちゃんと提出してるし」

受話器の向こうから深い溜息が漏れた。

「で、何? どうせ黒兎のことだから、ダンジョンかクエストか何かで困ってんだろ。何に行き詰まったんだ?」

「違うんだよヤナギ! 何かすげえー気持ちワルくてさ。こうなんというかさ、なあ?」

「いや、なあって言われても。キモチワルイってエネミーのことか?」

「そうそう! って、なんで判ったんだ?」

「そりゃあそうだろう。エスペホってモンスターの殆どがアンデッド系エネミーが出て来るんだから妥当だろ。というか、そんなコトぐらいでギャーギャー騒ぐなよ。テストの前夜にいちいち電話なんか掛けてきてさ」

受話器から眠そうな声と共に息の漏れる音が聞こえた。

俺も若干眠くなったが、マシンガンのように一気に()くし立てる様に喋る。

「――じゃなくて、何か3種族のヤツが、初めに選ぶ駒キャラ達の変なヤツが、アンデッド系のエネミーが出て来たんだけど、取り敢えず不気味だったからさ、さっさと倒したんだけど、なんか本物の、肉声見たいな悲鳴がしたんだって! 『焔の魔法剣』で同時に倒したからそれも3体同時に! ……思い出しただけで気持ち悪い……」

「何だそれ」猫柳は大声で笑いながら、そして少し怪訝そうな声を出した。

「おれ、ソレ結構やり込んでいるけど、そんなヤツ出て来なかったぞ。まあ、それがレアなキャラでおれが倒しそびれていただけかもしれねぇけど。しかもバグ技が通じないキャラかもな。……っていうか、お前、変なボタンとか押してないだろうな。キーボードのファンクションキーを連打するとか弄りまくるとか」

「それはしてねぇーって。バグったら後々面倒ォだし」

変なコトをしてデータが飛ぶのは凄く怖いし、それにあんな場面でフリーズされても非常に困る。そんな俺の言葉に猫柳は小さく笑いながら頷いた。

「確かに。データは飛んだら怖いもんな。……というか黒兎、その変なエネミーってバグっていう可能性もあるんじゃないの? 俺もそうだけど黒兎も初めの種族選択で裏ワザ使ってるしなあ。3つの種族をミックスさせる、アレ」

「俺らの場合、3つというか4つだけどな。敵の技とか能力値を4分の1混ぜてるもんな。ズルだよな」

そう言って何かを確認するような間が空いて、二人とも笑った。

「俺等の他にも小数だけどこのバグ使ってるヤツは居るし、バグが生んだバグかもな。でもまあ、一番有り得るのは、スタッフがちょっとした遊び心で、業とバグを使ったエネミーを出したって事だよな」

確かにと思い俺は頷いた。

「それも有り得るなあ」

スタッフの遊び心と聞いて俺が思い出したのは、俺が小学校の時にしていたポータブルゲームのRPG(ロールプレイングゲーム)で、通常にプレーすれば絶対に遭遇しないモンスターがスタッフが仕組んだバグによってやり方さえ正しければ遭遇できるというものだった。しかも、そのゲームでその同じバグを使って方法は多少違うが2体遭遇できた。他のゲームにもバグではないが、スタッフの遊び心で前回出した作品のキャラクターが最新作品でゲーム内の小さなイラストや模型等で登場したりする。

 プレーヤーはそれを見付けながら遊ぶのも楽しんでいる。

「スタッフの遊び心、か」

 猫柳はスタッフの遊び心で決まった時間帯限定のイベントかもしれないと考えて言った。

それにしても、あのエネミー達は非道く気味が悪かったけれど……。

「他にもまだそういうのが出るかもしれないな、黒兎」

さもなんだか嬉しいそうな声が聞こえて来た。ヤナギはコーラス部を優先して演劇部を兼部しているが、コーラス部独特の透き通ったハスキィー掛かった中性的な声の所為で余計に高い声も笑い声もよく響く。

「なんで嬉しいそうなんだよ」

「いや、お前いつもホラー系とかスプラッシュ系とか全然平気だろ。いつもキャアキャアってめちゃくちゃ楽しんでるし。だから、ビビってるお前ってなんか斬新だなってさ。面白いし」

電話越しで表情が見えないのが残念だけどと猫柳が語尾に付け加えて言った。

「お、面白いってなんだよ。怖かったんだぜ、マジで。血の気が引くのを感じたんだからな。」

というか裏の意味でいうなよ、と俺はヤナギに言った。

本当に怖かったのだ。一人で夜に誰も居ないはずの山奥を歩いていて知らない声が聞こえて来て、急に冷たい手が両肩を捕まえられるぐらい恐怖し、そして特にあの悲鳴で心臓が凍りつきそうだった。俺は無意識に耳の裏を掻いた。

「いや~、おれも見たかったなー。それ」

「……お前って意外とオカルト好き?」何度か猫柳の部屋に行ったが、所々にバンパイアや狼男の小説等が置いてあったの覚えている。俺も読ませてもらった(というより半ば読ませられた)。

「うん、嫌いではないな。あっ、それよりゲームが好きかな。ゲームは基本オールジャンル好きだし。ギャルゲームとかあの辺は嫌いだけど。でも、今はそれより勉強と睡眠、だな。黒兎ォ?」

「うるさいって! ……でもまあ、もういいや。まだ少し気にはなるけど、純也と話したらなんか気が紛れた」

「なんか下の名前でそんな風にお前に言われると気持ち悪いな」

「これでやっと明日テストに集中できる!」

「真面目に受ける気ないだろ! ……はぁ……おれの睡眠時間が……」

「悪りぃ悪りぃ」

「けど、良い気分転換にはなったかな。ずっと詰め込みで勉強してたからさ。今回のテスト量も範囲も多いから、いつも以上にしていたからさ。」

「じゃあ、お互いに良かったー良かった」

肩をぽんぽんと叩く時に言う調子に俺は言った。

「良くねぇーよ。明日、テスト最終日で数学なんだろが。しかもおれ朝早いんだから」

「ヤナギ、相変わらず真面目だな」

「黒兎が不真面目なだけだろ」

俺は笑って、

「まあな」と言った。

「じゃ、切るぞ」

「えっもう!?」

「じゃ」

「あっちょっと!」

まだ話し足りない俺が慌てて止めようとするのも聞かず、猫柳は悪びれもなく通話を遮った。

ツーツーツー……と虚しく電話が切れた音がした。

「切るまでの流れ早ッ」

普通の人ならすごく失礼に思うような切り方だが、俺と猫柳の電話のやり取りはこれが幼い頃から日常茶飯事なのだ。

 猫柳と話すのは諦めた。さっきの問題点は気になる。猫柳にテスト前なのにゲームをやっている事を散々注意された。だけど、データをまだ保存していないし、やはりまだやりたいので、性懲りもなくまたゲーム『Espejo(エスペホ)』を始めた。

 再び迷路のような森のダンジョンを進んで行く。俺は何時(いつ)さっきみたいな事にならないかと少しビクついていたが、さっきの出来事がまるで幻だったかの様に異変は全く起きなかった。途中、宝箱(のような物)があったりアイテムがおもしろい場所に隠されていたりしたので見付け次第、俺はそれらを拾った。その中には、「傷薬」「特効薬(MP、HPを沢山回復する薬)」×2、「消滅外套(イレースコート)(着れば身体や装具等も消えた様に見える外套)」、「生肉(何かの動物の肉。調理すれば食えるかも)」等といったアイテムを手に入れた。

「生肉」で何か判らないと解説があれば町等の肉屋や猟師等に何の肉か判断してもらえる。

「特効薬」はショップで買うと高い。「調合屋」で材料を合成して作る事も出来るがその材料を指定通り全て揃えるのは手に入れ難く大変で、合成に使う費用も若干高い。ゲームを始めたばかりのプレーヤーは大概は特効薬でなく「傷薬」などの安価で初期時に用いるアイテムを使うのだ。「特効薬」はさっきまで持っていなかったから丁度良かった。

また「消滅外套」は値段が高い上に他のエスペホプレーヤーからも人気で見落とせば中々手に入らない代物だった。

どちらにしても手に入れられて良かった。

 それからというものの、通常にゲームをしていて、たまに宝箱からエネミーが出て来たり、道中で戦闘になったりしたがそれらは通常の事で、以前と同じく全く可笑しな事にはならなかった。

 また少し進むと、丸太等でこしらえられた小さな小屋があり、中へ入ると隅の方にセーブポイントがあった。

 俺はふぅ~と肩の力を抜いて、ゲームデータをセーブした。

「……それにしてもアレは何だったんだろう……」

呟きながらも俺はパソコンのマウスを操作してシャットダウンのボタンを押してパソコン本体を閉じた。

(眠いなあ……)

もう何度見たか忘れたあのデジタル時計が13時46分を示しているのを確認すると部屋の灯を消して、俺は倒れ込むようにしてベッドに寝そべり、面倒臭そうにしながら自分が下敷きにしている掛け布団を上手く引っ張ったりして自分はその中に包まった。

 眠りは案外早く訪れた。いつ意識が暗闇と夢の中に落ちて行ってしまったのか、俺は気が付かなかった。


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