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僕と×××。と香織の物語  作者: なお。
第一章 僕と…

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列をなすヒト 6

 僕たちがテラスへ出ると周囲の景色は一変していた。辺り一面が黒や紫の雲で覆われ山の麓の景色は一切見えず、もちろん遠くの景色も見通すことは出来ない。

 少し離れたところでは雷も走っており、ゴロゴロという音と光がこちらまで届く。


「遥陽さん、これは一体?」


「少しやりすぎたようですね…。あちらさんは怒っているようです」


「やりすぎたって…、え? これマズイ状況ですの?」


「いや、現状ではなんとも言えません。取り敢えず、あの入口の方へ向かいましょう」


 そう言い遥陽はスタスタと入口に向かって歩き出す。僕はあたふたとしながらもその後を追った。

 入口まで15mというところで立ち止まる二人。遠くに見えるかのような「入口」の中は闇が蠢き、「ウウゥゥゥ」と不気味な声をあげている。

 入口から闇がぬるりとはみ出してくる。怒りのあまり出てきたようだ。それは既にヒトの形を取っている。しかも、一体ではなく無数の顔と身体が一つに集まった集合体だ。


 ニィ、エェ…、ニィ、エェ…。


 そう言い無数の手をこちらに伸ばす集合体。その悍ましい姿に僕は身の毛がよだつ。

 遥陽は再び床に黒い棒を刺し、流れるような動きで祭壇を作りあげた。そして、祭壇の前に座すと同時に自身の周りに青いお札をずらりと並べると印を結んだ。


「今から封印の術式を展開します。その間だけ少し力を貸してください。相手は予想以上に念が強くこちらまで影響力を及ぼすかもしれません。だから、朱い札で援護をお願いしたいのです」


「わかりました。こちらに向かってくるようなら札を飛ばせば良いんですね?」


「そうです。よろしくお願いします」


 遥陽は一度大きく息を吸い込むと何事か呟き出した。僕は遥陽の後ろに立ち札を構えると入口の方を凝視する。

 暫く経っても入口の方に変わった様子はない。やはり、あれ以上は出てこれないのだろうか。

 出てこられない代わりに中では遥陽でも手こずる強さを得ているのかもしれない。

 どこかで聞いた「制約と誓約」のようなものだと僕は勝手に解釈する。

 そんな事を考えている内に、気づけば遥陽の周りに並べられた札がぼうっと青白い光を帯びていた。


 間も無く終わる。

 これで平穏な日々が戻ってくる。

 香織、もうすぐ帰るよ。


 遥陽の手刀が空を斬り、彼が一際大きな声をあげると光るお札が宙に浮き、円を描いたまま回転しながら空中に静止する。

 その輝きを放つお札は遥陽が腕を入口の方へ向かって振ると、真っ直ぐにヒトの形をなした闇へと向かって飛んでいった。


 あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー。


 お札が黒いヒトの集合体に当たると眼前が眩い光で覆われ、辺りに断末魔の叫びが響き渡る。

 光が収まるとかの集合体は霧散し、入口には光の扉ががっちりと嵌っていた。


「成功…? 終わったん?」


「えぇ、封印完了です。取り敢えずはこれで大丈夫でしょう。お疲れ様でした」


 僕は「よかったー」とその場に腰を下ろす。遥陽も「ふぅーっ」と息を吐き出す。さすがの彼も疲労困憊のようだ。

 僕たちは後片付けを済ませると帰路につく。テラスから中へと戻り通路を通り抜け階段を降っていく。

 あとは、外へ出てあの山道を歩き車を停めた場所に戻るだけだ。仕事を終えた二人の足取りは軽かった。



「遥陽さん…、おかしくないですか?」


「えぇ、私もそう思っていたところです」


 あとは帰るだけのはずだった。しかし、その異変は階段を降っている時に訪れた。


「もう一階に着いてもえぇはずですよね? 一向につく気配がありませんよ?」


「そうですね。私たちは少し考え間違いをしていたみたいです」


「考え間違い?」


「危険なのは、あの闇の塊だと思って行動してました。そうですね?」


「はい。それを聞くと言うことは…、まさか…、違うんですか?」


「おそらくは。気がとても強力で大きすぎて気づかなかったんですよ。この白い建造物すべてが本体だったんですよ…。私の落ち度です、すみません」


「いえ、それだけのモノは普通存在せぇへんということですよね。仕方ないんとちゃいますかね? ほんで、遥陽さんの口調と表情にはまだ余裕がありそうですよ。まだ脱出の目処があるんですよね?」


「わかりますか? えぇ、まだ大丈夫です。それに、どんなことになっても君だけは必ず帰します」


「僕は遥陽さんを信じてます。二人で無事に帰りましょ。お祝いのご飯一緒に食べるんですよ。それに、帰りに奢ってもらう約束やしね」


 僕はそう言い笑みを浮かべる。遥陽も「ふふふ。では、私も無事に帰らなければね」と笑った。


 二人は一度階段を降りるのをやめることにした。どこまで行っても階段と踊り場は終わりを見せなかった。だから、降りるのをやめて、踊り場から中へと続く通路に着目したのだ。

 踊り場から中へと続く通路は踊り場に着くたびに必ずあった。

 これは、こちら側へしか行けないという意思表示なのだろう。二人は「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と通路へと足を踏み入れる。


 ジジジジジジジジ。


 廊下の照明が音を立てている。もう切れかけなのか明かりも弱い。そのせいか、廊下は薄暗く奥まで見通せない。奥の方は漆黒の闇だ。

 廊下の壁は茶色く色褪せており、ところどころに赤黒い染みがあり、それらがまた不気味さを増している。


「ここには窓はなさそうですね。これは廊下を真っ直ぐ進むしかありません」


「やっぱり、そうなんですよね…。どう考えてもこの先に行ったらあかんと思うんですよ。嫌な予感が背筋にゾクゾク来とるんですけど…」


「そうでしょうね。私もこの先は危険だと思います。でも、それしか道がないのでね」


 僕は大きく息を吐き出す。覚悟を決めるしかなかった。このまま進まなければ帰れないし、進んでも危険があるとわかっている。それに、先ほど「虎穴に入らずんば…」と意を決したところだ。

 僕は大きく足を前に出す。遥陽もスタスタと僕の横を歩く。廊下を10mほど歩いた時だった。


 ヒタヒタヒタヒタヒタヒタ…。


 裸足で廊下を歩く足音が聞こえ出した。その音は静かだが廊下中に響き渡り、確実に僕の耳奥へと届いた。


「一度止まりましょう」


 そう言うと遥陽は左手で印を結び、右手に朱いお札を構えた。僕はそれに倣い両手に朱言うお札を握った。

 二人は足音の原因を探るべく廊下の奥を凝視する。闇の中には何も見えない。ただ、足音だけがこだまする。

 どれだけの間そうしていただろうか。おそらく、それはほんの僅かな時だったはずだ。しかし、二人にはとても長い時間に感じた。

 二人の額に汗が滲み、僕の顎へと一滴の雫が流れ落ち、床にポトッと落ちた。

 その瞬間、闇からぼうっと何かが見え始めた。


「遥陽さん…、アレは…」


「えぇ、ついに来たようですね。気を強く持って、集中してください!」


 それは素人の僕から視てもわかるくらい危険な()()だった。

 赤黒いヒトの形をしたモノ。鼻や耳の形はあるが髪や目、口はない。


 放つオーラからしてちゃう。

 あの禍々しさはなんや?

 背筋が一瞬にしてドボドボになったで…。そんで、寒気が全然止まらへん。

 これは、気を強く保たんと一気に呑まれてまうな。


 僕は一度大きく深呼吸をし心を落ち着かせる。

 そして、遥陽を横目で確認する。

 彼の表情は厳しいものになっている。僕は、これは本当にヤバいやつなのだと察した。


「これから見たことは親兄弟や香織さんをはじめ、誰にも他言しないと約束して貰えますか?」


「えぇ、構いませんけど」


「ありがとうございます。では…」


 そう言うと遥陽はサングラスを外した。僕は初めて見る彼の素顔に少しドキッとした。彼は整った目鼻立ちに中性的な美しさを持つ美青年だった。さらに、僕を驚かせたのは遥陽の瞳が薄紫色に輝いていたことだ。


「遥陽さん、その瞳は?」


「これは生まれつきのものに、とある事が重なって出来た偶然の産物です。能力についてはご想像にお任せします。全て秘事として扱ってください」


 僕はその薄紫色の瞳に射抜かれる。その不思議な色と力強い視線に気圧され声が出ず、唾を飲み込みただ頷いた。

 遥陽は頷き返すと眼前の黒いモノに視線を戻す。アレは遥陽の瞳に射抜かれるとビクッとした後身構えた。そして、ジリジリと後ずさる。

 それを見た遥陽は問答無用で朱札を飛ばす。次次と朱札を取り出し、前方に向かって飛ばしていく。

 黒いモノは両腕を自身の前で交差し急所を守るような行動を取った。遥陽の朱札が次次と爆ぜる。だが、黒いモノの腕が焦げただけで本体にはダメージが与えられているようには見えない。


「朱札はまだありますね? それをどんどん飛ばして弾幕を張ってください。その間に術式を組みます。お願いします」


 僕は「わかりました」と腰のホルスターから朱い札を一気に抜く。そして、遥陽から追加で朱札のストックを受け取る。

 遥陽が両手で印を結び何か唱え始める。僕はそれと同時に朱札を投げた。朱札は鋭角に曲がり次次と黒いモノに向かって飛んでいく。

 朱札は着弾と共に青白く発光し稲妻が走った。僕が使うのと遥陽が使うのでは効果が違うようだ。

 黒いモノは少し困惑していた。先程までは耐えればなんとかなった。しかし、僕の札は対象を痺れされているようだ。

 軽い麻痺状態となり上手く動けないようだ。前に出した腕や脚がビクビクと動いている。

 暫くの間、僕は札で黒いモノをその場に足止めした。ダメージはないものの時間稼ぎするだけならそれで十分だった。

 ついに遥陽が動く。一歩前に出ると眼前の空中に手刀で何やら描いていく。彼が腕を振った後には紫の線が残り、一つの図を描き出す。


「お待たせしました。あとは任せてください」


 僕は「はい」と言い朱札を飛ばしながら後退した。遥陽は僕が後方に下がったのを確認すると空中に浮かぶ術式を前方に放った。

 高速で宙を斬り裂く紫の光。一直線に黒いモノへと突き進みそのまま着弾する。

 術式は黒いモノを呑み込み塵と化す。そして、その後紫の光が一気に広がり通路を突き抜け壁までもを消し去っていく。

 紫の光が収まると僕はテラスに立っていた。あの封印した入口のあったテラスだ。僕はすぐに状況が掴めず周囲を見回す。

 とても高い場所にあったはずのテラスが地上一階にあった。白い建造物はその力を大きく削がれたのか建造物を維持できなくなったのかもしれない。

 そして、僕は地に膝をつきしゃがみ込んでいる遥陽を見つけた。


「遥陽さん! 大丈夫ですか?」


「えぇ…。少し力を使いすぎただけです。なんともありませんよ」


「なんとも言うことはあらへんでしょう。ともあれ、無事で良かったです」


 僕は遥陽の側まで歩いて行き「つかまってください」と手を差し伸ばす。

 遥陽も「ありがとうございます」言いとその手を掴もうとした時だった。

「危ない!」という遥陽の声が聞こえたがその時には手遅れだった。

 気づいた時には僕の身体は空中を飛んでいた。僕は右脚を物凄い力で引っ張られているようだ。右脚を先頭に身体がどこかへと飛んでいっている。

 僕は身体が飛ぶ先へと視線を向けた。


「あぁ、これはあかんやつや…」


 視線の先には大きな闇の塊がゲートのように形を変えて大きく広がり待ち受けていた。僕はそのゲートへとそのまま吸い込まれていった。

 遥陽がその場に膝から崩れ落ち、地面を右の拳で叩く。自分の油断に、僕を守れなかったことに怒っているのだろう。

 遥陽はすぐに術式を展開する。しかし、疲労が限界を越えているため中々発動に至らない。さらに、彼の元へも闇の手が迫る。小人ほどの闇の塊がズルズルと血を這い寄ってきていた。


「仕方ありませんね。これらを祓いながら助けに向かう。待っていてくださいね、必ずそちらに行きます」


 遥陽は術式を中断し手元に残っていた朱札を構え前へと歩き出した。


 ◇


「ここはどこや…? 真っ暗や…、何も見えへんな…」


 僕は闇の中で意識を取り戻した。何も見えない。どちらが上でどちらが下かもわからない。全方位の感覚がない、無重力空間で浮遊するとこんな感じなのかとふと思った。

 

「僕は死んだんか? それとも、まだ生きてる? わかることが何もあらへんな」


 僕は手脚を動かしてバランスを取ってみる。どちらを向けば良いかはわからないが取り敢えず直立を試みる。

 バタバタしているとなんとなく動けるようになってきた。そして、動けることを確認出来たので状況把握に努めた。


「まず、生きてるかどうかはわからん。ここがどこかもわからん。ただ、最後に闇に吸い込まれたから、おそらく闇の中やな。さて、どうやったら出られるんや?」


 そんな僕の前に何かが見え始める。真っ暗で何も見えないはずなのに、周囲の闇がぬるりぬるりと蠢いているように見えた。


「うげぇ…、気持ち悪りぃな。うわぁ…」


 蠢めくナニカが少しずつ形をなしていく。あれはどうみても「ヒト」だ。どんどん、その数は増していく。

 僕の周囲は無数のヒトの群れに囲まれてしまった。逃げる隙間はどこにもない。

 ヒトの群れは一斉にこちらへ両手を伸ばしてくる。逃げようにもどこにも逃げ場はないし、僕の身体は逃げられるような速度では動かなかった。

 ぬるりとした感触が全身を覆っていく。腕が脚が黒く染まっていく。足首から脹脛、太腿へと順に手が伸びていく。そして、胴体から首へと侵食は進み頭部も闇に呑み込まれ、僕は再び意識を失った。


 ◇


「なんや…、何かあったかいな…。光?」


 闇に呑み込まれ意識を失ったはずの僕は闇の中で光を目指して歩き出す。いつの間にか、身体の周りがぼうっと青白く輝き、光に覆われている。


 僕が光の根源に近づくとそこは闇の中で唯一光のある場所で何かがあるわけではなかった。ただ、光がある空間というだけだ。


 さぁ、光の中に立ちなさい。

 今から眼前に迫る黒きモノを祓うのだ。

 祓い方はその身体が知っている。その手を前に出し、掌を祓う対象に向けよ。

 来るぞ!


 頭の中に男とも女ともとれない声が響く。


「どういうこっちゃ? 祓う? 僕がか? 手を出してどうするねん」


 意味がわからずあたふたしている僕の眼前にあの「黒いヒト型」が歩いてきた。ヤツは真っ直ぐ僕を目指して歩いてくる。

 取り敢えず、言われた通りに掌をヤツへ向ける。すると、頭の中に突然祓い方が浮かんだ。

 聞いたこともやったこともないが何故かそれがわかるという不思議な感覚だった。


「あぁ、そういうことか」


 僕は掌を黒いヒト型に向け祓う。僕の掌からは青白い光弾が放たれる。原理は説明出来ないが出せるものは出せるのだ。

 僕の放った光弾が当たったヒト型は塵と化す。次次と闇から黒いヒト型が出てくるが、僕は順番に光弾を放っていきどんどん無に帰していく。


 その後、どれくらいの数のヒト型を祓っただろうか。数えきれない程の数を祓ったと思う。周囲の闇と光のバランスにも変化が見られ、当初九割ほどあった闇は三割程度まで減少していた。しかし、まだまだヒト型は歩いてくる。


 この時、僕の身体も精神もすでに限界を迎えようとしていた。頭はぼーっとしているし、腕ももう上がらない。足腰の力も入らなくなってきていた。腕はプルプルと、脚はガクガクと震えていた。

 そして、その時はやって来る。

 光弾を放ったその刹那、僕は地面に崩れ落ちる。腕を前に出したまま前方へと倒れ込む。


「香織…、ごめん…。頑張ったんやけどな、限界や…。約束守れんかったわ…」


 僕は倒れこんだまま歩いてくるヒト型を見つめる。歩いてくるヒト型の顔がニヤリと嗤ったように見えた。

 眼前に迫るヒト型に歪む僕の顔。悔しさと不甲斐なさで目をぎゅっと瞑った時だった。


「なんや? ポカポカする。ジャケットの内側が光っとるんか」


 動かなかったはずの僕の身体は何故かその力を取り戻した。両手を何度も握り、力が入ることを確かめる。


「ジャケットの内側にお札が縫い付けたるやん。香織か…。ありがとな、助かったで」


 僕は再び立ち上がり闇の集団と対峙する。右手を前に出し左手を手首に添えた。

 先ほどまでとは光の収束度合いが違う。物凄い量の光が僕の掌へと集まっていく。

 その光はどんどん膨れ上がり後ろに背負っていた光の空間を呑み込んだ。


「ははは、なんやこれ。でも、これなら一掃出来そうやな。さぁ、これで御終いやで。消え失せろ!」


 そう言い僕はその光を闇へと向かって放った。収束した光は一本の光線となり闇へと突き進む。そして、光線の先端が着弾した瞬間に光は爆発した。

 ヒト型たちは次次と塵となり消えていく。一気に膨れ上がった光は闇を全て呑み込み、一瞬のうちに消し去っていった。


「終わった…」


 僕はその場に尻もちをつく。全てを終えたという安堵で力が抜けた。そして、そのまま後ろに倒れ込んだ。


「えっ?」


 倒れ込んだ僕の目にあるモノが飛び込んできた。僕は慌てて身体を起こし後ろを向いた。

 そこにあったのは小さな社だった。先ほどまでそんな物はなかったはずだ。

 社の真ん中には台座があり、その上には米俵が三俵積まれている。台座には何故か僕の家の家紋が装飾されている。

 台座の横に一人の男性が立っていた。恰幅の良い体型で帽子を被り、大きな袋と小槌をその手に持っている。


「あなたは?」


 僕がそう問うと彼はにっこりと柔和や笑みを浮かべた。

 すると、辺りは優しげな白い光に包まれた。あまりの眩しさに僕は目をぎゅっと閉じた。


 ◇


 僕が目を開けるとそこは山の中だった。自分がいる場所は正確にはわからないが、なんとなく斜面や山道に見覚えがあった。

 ここは、あの「白い建造物があった場所」だ。 


「無事だったんですね! どうやって帰ってきたんですか?」


 僕の後ろから声がかかる。僕はゆっくり振り返るとニッコリ笑った。


「いや、わからへんのです。でも、なんとかなったみたいです。白い建造物はどうなったんですか?」


「それが、突然闇の中から白い光が溢れ出してこの周辺を覆い尽くしたあと、光と共に建造物も消えてしまいました。あの光はなんだったんでしょう?」


「てことは、あれは現実やったてことか」


「あれとは?」


「あぁ、話すと長くなるんで帰りながらにでも話します」


「そうですね。もう遅いですし、母上も香織さんも心配されてるでしょう」


 気づけばもう日が暮れていた。時計は夜の8時を指していた。これだけの体験をしたのだ当然といえよう。

 僕たちは急いで帰路についた。僕は山道を歩きながら、車で走っている間も先の不思議な体験について遥陽に説明した。彼はうんうんと相槌を打ちながら聞いていたが、時折考え込むような仕草をみせた。

 そして、ボソッと「やはり、血は争えないか」と言った。


「なんか言いました?」


「いえ、何を奢ろうかと考えていたところです」


「あぁ、そんなん言うてましたね。じゃあ、家の近所のコンビニに寄ってください。あそこに香織のお気に入りのスイーツがあるんでそれをお願いします」


「わかりました」


 遥陽は「ふふふ」と笑みを溢すとアクセルを踏み込む。車は夜道にエンジン音を響かせながらコンビニを目指して走っていった。

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