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俺なんかとは違って皆はラブコメしてるなぁ……と思っていました  作者: 向井 夢士
第2章

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46話 人生の被害者

「たっくん……それってどういう事?」

「玉島先輩からすると、何言ってるんだって感じですよね。いや……それは皆か」


 俺が『音野先輩を更生させたい』と言うと、この場の空気がまた重くなる。


 こんな悪人に救う価値なんてない、と皆は思っているはずだろう。


 俺もこの事件に関わっていなくて傍から見ているだけの奴だったら、こんな事は思わなかったかもしれない。



「俺は拓海を信じてるし、できる限りのことは協力するぜ」

「はぁ……。私の時といい、水城君はお人好し星人すぎるよ。そこが良い所でもあるんだろうけどさ」


 全員に反対されてもおかしくないと思っていたが、意外にも琉生と進藤さんが俺に対して好意的な意見を言ってくれる。その気持ちは素直に嬉しい。



「音野先輩の心を折る事が俺たちの第一目標なわけだし、悪事の証拠を手に入れて、玉島先輩が気持ちをぶつける。この作戦は本当にいいと思ってるよ。だけど……」


「……拓海君はどこが気に入らないと思っているんですか?」

 

 松家さんが語気を強め、俺に対して納得していないと伝えるようにして問いかけてくる。


 松家さんが怒るのも無理はない。その気持ちが普通の感性だと俺も思う。


 それにこういった時、松家さんは人一倍厳しいからな……。



「別に気に入らない、とか納得していない、とかじゃないよ。それに音野先輩を許すつもりもないからね。俺はただ、音野先輩を更生させたいってだけ」


「……? 拓海君、どういうことですか?」


「仮にこの問題が上手く解決したとすると、音野先輩はどうなると思う?」


「全てバレて反抗できない状態だと考えると……酷く落ち込むような感じじゃないですか?」


「うん、俺もそう思う。でもさ、この問題が解決したとしても……人生はまだ長い。俺は音野先輩が心を入れ替えて立ち直れるとは思えないし、より悪化していくと思うんだよね」



 音野先輩を更生させたいと思った事については、いくつかの理由がある。


 俺がまず考えたのは、この件が上手く解決した後の状況だ。


 俺たちはハッピーエンドで楽しんでいる中、音野先輩は精神がボロボロになっているだろうと、俺は推測した。今までの自分の行動を酷く後悔する可能性もあるだろうし、もっと悪の心が歪んでしまうかもしれない。



 ——音野先輩は一人では立ち直れない。



 別に見捨ててもいいのでは? とか、立ち直る必要なんてないでしょ? と思う人も多くいるだろう。


 しかしここで立ち直る事ができなければ、音野先輩はもっと深い闇に沈んでいってしまう。


 前に言っていたように、音野先輩に復讐されるかもしれない。音野先輩が更に凶悪な事に手を染めてしまうかもしれない。どこかでまた、新しい犠牲者が生まれてしまうかもしれない。


 それに正義のヒーローやカッコイイ主人公だったら、敵を見捨てるような事はしないだろうと思う。

 ヒーローなら、想像もつかないようなやり方や優しさで、全てをハッピーエンドへと導いていくはずだ。



 俺は正義のヒーローでも何でもない、ただの面倒くさい男だ。

 しかしこんな面倒くさい男でも、仲良くしてくれる人がいる。ヒーローだった、と肯定してくれる人がいる。こんな男の事を見てくれる人もいる。

 

 だったら……少しは頑張らないといけないよな。



「音野先輩を立ち直らせて心を入れ替えさせないと、解決した後にも何があるか分からない。あとは……俺のエゴかな。松家さんとかにとっては、理解できない事かもしれないけど」


「エゴ、ですか?」


「うん。自分を成長させたい、とか自分をよく見せたい、とか……音野先輩の行動にはそういった奥底に眠る感情も影響しているんだと思う。俺は人生アンチだから、ちょっとその気持ち分かるんだよね」


「じ、人生アンチ?」


「人生ってさ、この世に生まれるっていう奇跡だけで良いものだとされているけど……俺はクソな部分が多いと思ってる。その時代の普通を押し付けられ、色々と辛い思いをして。世界全体でも無数に問題はあるし、争いは絶えない。そしてやり直しもできなければ、自由に生きる事もできない。それに頑張ったとしても、いつか終わりが来て……全てが無になってしまう」


 楽しい事も無数にあると思うし、この世界に産まれてきた事は奇跡だ。親にも感謝はしている。


 ただ人生というものを深く考えると、色々と悪い面も見えてくる。人生の壁にブチ当たって、自分からリタイアしてしまう人もいるぐらいだ。


 誰が悪いとかではないけどな。強いて言えば、この世界、そしてこの世界を創り出した運命ってとこか。誰かのせいにするなら神様だな。



 何で勉強しないといけないの? 


 何で働かないといけないの? 


 何でこんな事をしないといけないの?


 人生というものを楽しんで過ごすためには、必要な物や事が多い。


 この世界においては大切な事も色々とあると思うし、その点については理解しているが……俺はこの世界を完全に受け入れる事はできなかった。

 『普通』や『当たり前』といったような言葉で簡単に押さえつけられるのが、俺はどうにも納得できなかったんだ。


 もちろん、この世界において規則のようなものは必要だとは思うし、規則を破る事はよくない事だとは思う。俺だって、規則を破った奴を擁護するつもりはない。


 ただ……少しだけ可哀想だなと俺は感じてしまう。音野先輩も、この世界の被害者と言えるからだ。


 自分の心をコントロールする事がこの世界で生きるためには重要であり、基盤になる。何をするにせよ、最後に決めるのは自分自身だからな。

 そして自分の心をコントロールできなくなった者は、徐々に壊れていってしまう。音野先輩も自分の心がコントロールできなくなり、徐々に壊れてしまったのではないだろうか。



 音野先輩のした事は許される事ではないし、してはいけない事なのは間違いない。



 ただ……音野先輩の気持ちは少しわかる。音野先輩はきっと……この生きづらい世界で、自分の理想を叶えたかったんだ。


 そう考えてみると音野先輩も世界が合わなかっただけで、人生の被害者、と言えるのではないだろうか?



「音野先輩はこの生きづらい世界で、自分なりに幸せになろうとした。周りからチヤホヤされ。自分の思うがままに人を動かし、好きなように欲を満たす。それは許される事ではないし、俺も擁護するつもりはない。でもさ、俺は音野先輩に伝えたいんだよ」


「拓海君は音野先輩に何を伝えたいんですか?」



 音野先輩の気持ちが少し分かるのは、俺も過去に色々な事を経験したからだと思う。いじめられていた時なんか、何もかも捨てて終わってやろうと思ったぐらいだ。


 今だってたまに思う時がある。何でこんな大変な事をしないといけないのか、とかこんな自分なんかが、ってな。


 それでも俺は生きている。メンタルに波はあるものの、何やかんやで色々な事をこなし、規則を守って今日もまた生きている。


 それが……普通であって幸せな事だと気づいたから。


 まぁごく少数でも自分の味方がいれば、ちょっとばかりは頑張らないといけないと感じたしね。自分はともかくとしても、自分以外の奴は大切にしないといけないんだろうな。


 更に俺は、体育祭の時の進藤さんの件を経て色々な事を感じた。


 この世界の全ての人が自分の敵ではない。きっとどこかには、自分を支えてくれるような人がいる。

 それに、この世界は結果だけが大切ではない。努力する事や試行錯誤していく過程で、様々な出会いや繋がりが生まれる。ほんの些細な事でも何かに繋がっていくという事を、俺は進藤さんの件を経て強く感じた。



 俺も自分を少し変えようと努力した。自分をよく見せようと試行錯誤した。

 こういった事は、些細なものだったかもしれない。それでも……俺は前より幸せになる事ができた。


 だから、俺は音野先輩に言ってやりたい。



「俺が音野先輩に伝えたい事、か。本当シンプルだよ」



 そして俺は息を大きく吸った後、音野先輩に伝えたい事を大きな声で皆に言った。



「楽して自分だけ逃げようとするな! って、音野先輩にそう言ってやりたい。こんな大変で辛い世界だからこそ、一緒に頑張ろうぜ……ってな」



 人生は大変なものだ。



 だったら——



 争わずに協力し合った方が、お得だよね!


 


 


 






 

 


 



 




 


 


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