舞台裏 ⑥ ~リジデリア・ルグラーシュ伯爵令嬢 ➁~
翌日のお昼すぎ
ルグラン夫妻が不在の時に、ふたたびお城から、今度は親世代くらいの女性がやってきて深々と謝罪された
「昨日はルグラーシュ嬢およびルグラン商店にはご不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ありません。シスツィーアさまも大変憂いておられ、本日は名代として謝罪に参りました」
「シスツィーアさまのせいではありませんわ。どうぞお気になさらないでください」
内心では慌てふためきながら、でもそれを表に出さないように対応する。
「ありがとう存じます。また、大変厚かましくは存じますが、シスツィーアさまからルグラーシュ嬢へお願いしたいことがあると」
「わたくしにできることでしたら、なんなりとお申し付けください」
大方リューミラのことだろうと思い頷くと予想はやっぱり当たっていて、手渡された手紙に書かれていたのは「リューミラ・アルデス子爵令状をお茶会に同席させたい」との相談
穏便に事を収めるにはそれが一番だと分かるから、すぐに了承する
「ルグラーシュ嬢のご婚約を祝うお茶会なのに、申し訳ございません」
「とんでもございません。わたくしがシスツィーアさまのお茶会に招かれること自体、身に余る光栄なことですから」
「ありがとう存じます」
にこりと微笑まれ、ほっとしたのも束の間
「また、王妃さまもご自身に縁のあるご令嬢をお祝いしたいと仰せで、お茶会の日にぜひお会いしたいと」
療養中だから非公式ではあるけれど、王妃さまから「会いたい」とのお申し出
あまりに予想外のことに、頭のなかは真っ白になる
断るなんて選択肢はない
だけど
(なんなの!?いったいなにが起こってるの!?)
シスツィーアが国王陛下のご厚意によって王宮で療養していて、そこに『婚姻のお祝いをしたいから』とお茶会に招かれた
それだけでも予想外すぎて大事だけど、それだけだったはずだ
なのに
(どうして王妃さまにお会いすることになるの!?)
いくらルグラン夫人が婚姻前に王妃さまに仕えていたとしても、もう20年以上前の話
(え!?まさかツィーアが気にしてるから!?)
シスツィーアがリジーに申し訳なく思っているからと言っても、ありえない
(ツィーア、あなた一体なにしたの!?)
シスツィーアが『王家が感謝と謝意を持つほどの功労者』だとは知っている。
『建国記念の夜会』で『心身に癒されぬ傷を負ったから、王家が庇護する』と、国王が宣言したことも
だけど具体的なことなどなに一つ知らないし、ただの知り合い程度でしかない自分にまでここまでしてくれるのかが分からず、気が遠くなりそうになって
なんとか失礼がないように「光栄です」と言ったものの、帰宅した両親と「いったいどうしてこうなった!?」と、顔を青くして頭を抱え・・・・・
そんなこんなで迎えた当日
王宮から国章入りの馬車で迎えが来て、緊張のあまりぎくしゃくしながら乗り込んで
「本日はお越しくださり、ありがとうございます。リジデリア・ルグラーシュ伯爵令嬢」
シスツィーアは優雅で滑らかな動きで『伯爵令嬢』に対する礼をしてくれる。
「どうぞ昔のように「リジー」とお呼びください」
「ありがとうございます。わたしのことも、これまで通り「ツィーア」と呼んでください」
久しぶりに会ったシスツィーアはお肌も髪もよく手入れされていて、着ている水色のドレスもよく似合っていて、もともと綺麗な容姿に磨きがかかっていて
メイドたちへの接し方も慣れているようにみえたし、所作も知っているころに比べて洗練されていて、高位貴族の作法を学んでいるとすぐに分かった。
(わたしの知っているツィーアじゃないみたい)
ちょっとした仕草は昔と変わらないのに、話し方や立ち居振る舞いは全然違う
王妃さまとの謁見のときだって
「この国とわたくしの祖国とルッザニア王国、三か国の懸け橋となる貴女にふさわしいわ」
優しく微笑まれながら下賜されたネックレス
お祝いの言葉だけだと思っていたから、思わず両手で口を覆って目を見張って立ち尽くしてしまうと、そっと背中に手を添えられて我に返る。
「も、申し訳ございません。まさか、王妃さまのネックレスをいただけるとは思わず」
「気になさらないで。さぁ、遠慮なく受け取って」
王妃さまは気分を損なった様子もなく微笑んでくださるから、これ以上失礼がないように、緊張のあまり震える手で恐る恐る受け取り
「王妃さまのお心遣いに感謝申し上げます。大切にいたします」
「ええ。ご婚約おめでとう」
感激のあまり涙ぐんでしまうと、シスツィーアがまたそっと手を添えてくれる。
「ありがとうございます」
シスツィーアが支えてくれたおかげで、大きな失態を犯さずにどうにか謁見を終えることができて
王宮のシスツィーアの私室に案内されて振る舞われた昼食は、ふたりきりだったこともあって少しだけ緊張がほぐれて味わって食べることができたし、『淑女の話し方』ではなくこれまで通りの話し方で近況報告し合うと、お昼からのお茶会のことも忘れるくらい話が弾んで
「失礼。少しだけお邪魔しても?」
デザートをのせたワゴンと一緒に部屋に、花束を抱えた男性が入ってくる。
国王陛下に似た風貌で、高等科に在学中に何度か見かけた男性
またまた頭のなかが真っ白になり、座ったまま男性を見上げるとにこりと微笑まれ
「初めまして、リジデリア・ルグラーシュ嬢。レオリード・レオン・フォーレストだ」
「っ!?」
慌てて椅子から立ち上がろうとすると、メイドがさっと椅子を引いてくれる。
「は、初めまして。リジデリア・ルグラーシュです」
「顔をあげて。どうか緊張せずに気楽にしてほしい。このたびは婚約おめでとう」
黄色を中心にまとめられた花束を差し出され、また震える手で受け取る。
「ふふっ。今日のリジーのドレスの色と同じね」
「ああ。庭師に相談しながら摘んできた」
「!?」
まさか第一王子自ら摘んでくださったとは思わなかったから、呆然としてしまい花束を落としそうになると、いつの間にか隣に来ていたシスツィーアが花束を手から救いあげて、メイドへと手渡してくれている。
「お花もこちらで預かっておくわね。お帰りのときにネックレスと一緒にお返しするわ」
「え、ええ。ありがとう」
呆然としたまま答えると、シスツィーアは「くすっ」と楽し気に笑い
「リジーが良ければ、レオンもお茶をご一緒にどおかしら?」
「光栄だな。リジデリア嬢、かまわないだろうか?」
「も、もちろんですわ」
すぐに椅子がもう一つ用意され、その間にお茶をシスツィーアが淹れてくれる。
「はい。お口に合うと良いけど」
「ありがとう」
「いただきます」
「リジーはお客さまですもの」と第一王子より先にお茶を出されるし、なにより「レオン」と親し気に呼ぶのを聞いて
(本当にツィーアはなにをしたの!?)
目の前にいるシスツィーアが、自分の知っているシスツィーアじゃない、別人のような気すらしてくる
そのあとも
第一王子は話しやすいように話題を振ってくれるし、シールスのことまで
「香夜祭ではシールスの機転に助けられることが多かった。きっと素晴らしい商人になれる」
そう言って褒めてくださり、第一王子の気遣いの素晴らしさに感激のあまり涙が零れそうになった。
そしてお茶を一杯飲み終えると、第一王子は「そろそろ失礼するよ」と椅子から立ち上がり
「本当なら王宮で茶会を楽しんで欲しかったのだが、こちらの都合で王城での茶会となってしまい、本当にすまない」
心から申し訳なさそうに言われて、リューミラを王宮に立ち入らせる気がないのだと察せられる。
「王妃さまや第一王子殿下よりお祝いの品を賜ることができ、シスツィーアさまの私室でこれほどまでにもてなしていただけたのです。この身に余るご厚情に感謝いたします。どうぞ、お気になさらないでくださいませ」
「ありがとう。どうか、この国に帰ってきたときにはまた王宮に来てシスツィーアと会ってほしい。もちろん、ご夫君とシールスも一緒に」
「ありがとうございます」
なぜそこまでシスツィーアに気を遣うのか分からなかったけれど、このときにはもう、シスツィーアには感謝しかなかった。
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
次話もお楽しみいただければ幸いです。




