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お誘い

レオリードから補助の魔道具をもらった翌日


シスツィーアはリオリースと会っていた。


「でね、最初は館の者たちも警戒してたみたいでぎこちなかったんだけど、「いい天気だね」って話しかけたり、冗談とか言ってたら少しずつ笑ってくれるようになってね。3日くらいしたら、料理人が「内緒ですよ」って、えっと、つまみ食い?って言うの?焼きたてのクッキーや、夕食用のちっちゃなお肉とかを食べさせてくれたんだ。あ!もちろん毒見もしてもらったよ!」


はじめて視察に行ったリオリースが興奮しながら話すのを、シスツィーアは微笑ましく思いながら相づちを打つ。


「良かったですね。美味しかったですか?」

「うん!それがね、すっごく美味しかったんだ!なんでだろう?こっそり食べるからかな?」

「ふふっ。そうかも知れませんね。領民たちとは如何でしたか?」

「う・・・・ん。それがね」


途端にリオリースの顔が曇る。


「オレにはそこまでなかったんだけど・・・・・・兄上にはちょっとね・・・・・視線がとげとげしいって言うか・・・・・・」


アランも視察に同行したことをシスツィーアが知っていると、リオリースも戻ってから知ったのだろう。アランのことを自然に口にするから、シスツィーアも口を挟むことなく、静かに聞いて


「最初からね、やりにくさはあったんだ・・・・・・・・けど、父上は『国王』だから領民たちも表立って反抗しないし、オレは子どもだから・・・・・・・・・その分、アラン兄上にはね」


公式に発表されているマーディア侯爵の罪状は「マーシャル家の簒奪未遂」と『禁じられた魔術式の開発と保持』


正確には『王族レオリード殺害未遂』も含まれるのだが、それを知るのは王家をはじめとするほんの一握りの者たちだけ


だから、領民たちにとっては「お取り潰し」となるほどの重罪だとは思えず、その罪を暴いて処罰したアランへ領民たちは良い感情を持っていないことがうかがえる。


(マーディア領の領民たちにとって、侯爵は「良い領主」だったのね)


領地が国に返還され、今は暫定的に「王領」となったマーディア領。


マーディア侯爵が良い領主でなかったのなら、領民たちは派遣された代官たちを歓迎しただろうが、そうではなさそうで


それに、領民たちに罪はないとはいえ、やはり他の領地の者たちはよそよそしい態度をとるのだろう。


逆恨みではあるけれど、商人たちは関わり合いになりたくないと避けるようになり、日用品などの物資は不足しはじめ、いろいろな取引も暗礁に乗り上げて、自分たちの暮らしが先行き不透明となれば、やり場のない思いをアランに向けたとしても非難も出来ない


「だけどね。アラン兄上も負けてなくて、オレと一緒に物資を配ったり、他の領の商人が旧マーディア領と取引する分は税を引き下げたりしたんだ。あ!父上も反対しなかったよ!」


『旧マーディア領で行った取引に関しては、向こう3年間の税を引き下げる』


アランの発言だけでは懐疑的だった商人たちもシグルドも約束したことで取引を再開し、領民たちはひとまず落ち着きをみせたらしい


「兄上が提案したことなんだけどね。やっぱり父上が言った方がみんな信じるよね」


首を竦めながらリオリースが言うけれど、アランの提案であることが周知されたことで領民たちのとげとげしさは和らいで、やりにくさは少しずつ感じられなくなったと聞いて


「良かった」


ほーっと深い安堵のため息を零し、シスツィーアの全身から力が抜ける


「うん。ごめんね、行く前に話してなくて。マーディア領って言ったらツィーア姉さまが気にするかなって思って、言えなかったんだ。あとね、アラン兄上が行くのも急に決まったし」

「そうなんですか?」

「うん。オレが知ったのも行く2日くらい前だよ。姉さまには言っておいた方が良いって言ったんだけど・・・・・・・・大丈夫だった?なんか、具合よくなかったって聞いたけど」


恐る恐る上目遣いにシスツィーアを見るリオリース


「ご心配をお掛けしてすみません。その、ちょっと初夏の気候にあてられたみたいで・・・・・でも、もうすっかり良くなりました。ちゃんと食欲もあるんですよ」


シスツィーアがにこりと笑うと、リオリースもほっとした顔を見せて


「うん!今日会ってほっとした!ねぇ、これも食べてよ。ピルシュって言ってね、すっごく甘くて美味しいんだ!食べたことある?」

「いいえ。はじめてです」


リオリースに勧められて口に入れたピルシュは、口に入れると瑞々しい果汁がじゅわっと広がって


「美味しい!」


(桃みたい!)


舌で潰せるくらい柔らかな果肉も、たっぷりとした甘さの果汁も優愛のときに食べた桃に近い


「ね、オレもこれ好き!こっちも食べてみてよ!」


テーブルに所狭しと並べられた、シスツィーアへのお土産の菓子たちを次々に勧めるリオリース


シスツィーアも勧められるまま菓子たちに手を伸ばして






(聞けないわ)


リオリースの話が一段落したころから、シスツィーアはそわそわしながらタイミングを見計らっていたけれど


リオリースたちが無事に戻ってきてくれたことにほっとして、たくさんのお土産に恐縮しながらも、マーディア領でのことを一生懸命話してくれるリオリースに微笑ましくなり、ほんわかとして


楽しい時間を壊したくなくて、『アランの様子で、変わったことがなかったか』と聞きたいのに聞けなくて


(どうしよう)


先日の体調が崩れた理由が、アランとの物理的な距離ができたからだと確信が欲しいのに


リオリースはシスツィーアの様子に気付くことなく無邪気に話を続けていて、なおさら切り出すことはできなくて


「失礼。お邪魔しても良いだろうか?」

「え?」

「レオン兄上!」


後ろから声を掛けられて、驚いてシスツィーアが顔を上げるとレオリードと視線がぶつかりに微笑まれる。


「どうしたの!?あ、一緒にお茶する?」

「ああ」


リオリースがメイドに指示する横で、レオリードはごく自然にシスツィーアの隣の椅子に座り


「今日は公務終わったの?今ね、マーディア領でのこと話してたんだ」

「そうか。あとでゆっくり聞かせてくれ。今日は、シスツィーア嬢に用があったんだ」

「どうかなさいましたか?」


「珍しいわ」と思いながら、シスツィーアが尋ねると


「明日、俺と出掛けないか?連れて行きたい場所があるんだ」


思いがけないお誘いだった。

最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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