舞台裏 ③ ~魔道具ができるまで~
アルツィード・ロック
レオリードと同じ年のシスツィーアの兄で、騎士団へ入団したばかりの見習い騎士
そんなアルツィードがレオリードから手紙をもらったのは、城の庭でアランと会って少したった、まだ騎士団の入団式前のこと
『直接会って話したいことがある』
そんなことが簡潔に書かれていた手紙を見たとき、すぐにシスツィーアのことだと分かった。
(やはり、なにかあったんだな)
騎士団の入団説明会の日
「これから先、王城の警備のために建物の配置などは最初に覚えてもらうから」と、城内を散策する許可が出て、アルツィードたちはキアルに案内してもらっていた。
とは言え、まだ正式入団前だから立ち入ることができる場所は限られ、そのほとんどは夏にある見学会で見たことがある場所
そして一通り見て回ったあと、まだ時間があるからと、アルツィードはシスツィーアとアランが出会った場所に来き、そこでアランと出会ったのだ。
(まさか、いらっしゃるとは思わなかった)
シスツィーアと同じ『女神の髪色』
後ろ姿でも、目の前にいるのが第二王子だとすぐに分かった。
いくら城のなかとはいえアランと会うなど思ってもおらず、名乗ることなく、すぐに立ち去ろうとしたのに引き留められ
『ねえ。彼女はどんな子だった?』
『シスツィーアだよ。君の妹』
シスツィーアとは似ていないから、気付かれることはないと思っていたのに、シスツィーアの兄だと見抜かれた
アランに乞われるまま、アルツィードの知るシスツィーアのことを話し
そして
『・・・・・・・結局、オレも親と同じで・・・・・・・・妹を切り捨てた』
本来なら、アランに話すことではなかった
懺悔するなら神官にすべきで、アランにではない
けれど、アルツィードは自分の深い悔恨を、アランに知っておいて欲しいとも思いった。
シスツィーアを信じて、ずっと探して、救ってくれたアランへの懺悔
どれだけアランから非難されても、受けいれるつもりだった。
実際には、長い沈黙がおりただけ
ただ、アルツィードの目にはアランも葛藤しているように見え
「妹は、元気にしているでしょうか?」
別れ際、どうしても聞いておきたくて叱責覚悟で尋ねた。
「うん・・・・・・・・・大丈夫だよ」
そう返事をもらったけれど・・・・・・・・
(あのとき、殿下は確かに動揺された)
時間が迫るなか、急ぎ足で集合場所へと向かいながらアランの元へ戻るべきかと逡巡したことは、記憶に新しい
(レオリード殿下から連絡が来たってことは、まさか、悪化したのか?)
建国記念日の夜会で、シグルドの横にいたシスツィーアは、アルツィードが知るよりもひとまわり小さく見えた。
『君へ多大な苦労をかけることになり、その心身に傷を負わせることにもなった』
シグルドの言葉に、驚きのあまり目を見開いた
隣にいる両親に顔を向けると、シーリィは驚いていたものの、アルバートは顔色ひとつ変えず
シスツィーアを家に戻し療養させることはおろか、心配する素振りすらない、他人事のような両親に激しい怒りが湧き
夜会会場であることも忘れて詰め寄ったが、アルバートから寄越されたのは冷たい一瞥だけ
それでも妹のことは心配で、本当なら、シスツィーアが赦してくれるなら、王城なんて気を使う場所ではなく帰ってきて欲しいと思うが・・・・・・
「・・・・・・・・・・無理だろ」
ロック男爵家がシスツィーアが帰ってきたいと思える場所ではないことくらい、アルツィードが一番よく分かってる。
ルドルと暮らした城下町の家ですら、シスツィーアにとってはよりどころにならないだろう。
(じいさんには心配かけたくないだろうしな)
シスツィーアの『除籍』ことを知り、衝撃のあまり倒れたルドルはしばらく起き上がることができなかった。
シスツィーアが国王に保護されていると知ってからようやく回復の兆しを見せ、どうにか退院はできたものの、それでも食は細くなっているし、気が抜けた、脱け殻のような日々を送っている。
アルツィードは騎士団に入団後、寮に入ることになっているから、休みのたびに様子を見に行くつもりだが、ルドルの面倒を見るだけで手一杯になるだろう。
だから、シスツィーアのことは国王に、レオリードに任せようと
それがシスツィーアにとって、一番良いと
そう考えて
それなのに
「魔道具、ですか?」
「そうだ。祖父君に頼めないだろうか」
手紙が届いて数日のうちに、レオリードがアルツィードを訪ねて来た。
アルツィードは当然自分が城へ行くつもりだったが、レオリードからは「こちらが伺う」と、さらには「祖父君にも同席してもらえないか」とあり
ますますシスツィーアに関する話で間違いないと、アルツィードは逸る気持ちを抑えて祖父とともにレオリードを出迎えた。
レオリードは忙しい身だから、すぐに本題に入ると思ったのだが、レオリードはシスツィーアの話を切り出すことはなく、ルドルと簡単な挨拶を交わすと切り出されたのは
『ある魔道具を作って欲しい』
というもの
思ってもみなかったレオリードの言葉に、アルツィードは面食らってしまい
「祖父君は魔道具職人と伺った。細やかな魔術式も得意とされているとも。何より魔術科を卒業されている。ぜひお願いしたい」
「ええ・・・・・・まあ、それは」
(ツィーアが話したか?)
レオリードが知っていても驚くことではないが、城にはルドルより腕の良い職人がいるだろう
なぜだか、ざわりと心がさざ波をたて
「ツィ・・・・・・妹はなんと?」
「シスツィーア嬢には話していない」
シスツィーアが話したのではなく、レオリードが調べたということに、アルツィードはますます落ち着かなくなり
「なぜ、妹に聞かなかったのですか?」
「すまない。こちらの都合としか言えない」
けれど、アルツィードとは対照的にルドルは落ち着き払った様子で静かに口を開く。
「どんな魔道具でしょうか?」
「すまないが、仔細を明かすことはできない。いや・・・・・必要なら、話すことはできるが・・・・・・」
話すことを躊躇うレオリードに、ルドルはなぜか納得したように頷き
「お引き受けいたします」
「じいさん!?」
さすがのアルツィードも声をあげる
「せめて、なにを作るかくらいきい」
ルドルは手を上げてアルツィードを静かに制し、言葉を遮る。
「お話しくださらなくとも、作らせていただきます」
「良いのか?」
「はい」
ルドルは頷くと、レオリードから視線を外すことなく
「私が作ることで、孫の、シスツィーアのためになるのでしょう?」
まっすぐにレオリードを見て尋ねるルドルに迷いはなく、ここ最近の気落ちした様子がなりをひそめ、力強さまであり
レオリードは何も言うことはなかったが、ルドルと視線を合わせたまま小さく頷く
「でしたら、私に断る理由はありません。魔術式や設計図などがありましたらお貸し下さい」
「すまない。魔道具の形はあなたの好きにしてくれて構わない。魔術式に関しては、こちらから詳しい者を向かわせる」
「お願いいたします」
そのあとは、アルツィードの隣で話はとんとん拍子に進み
助手としてやってきた男は、毎日来ることはなかったけれど、ルドルと綿密な相談を重ねて
そうして、出来上がった『女神像』を模して造られた魔道具
祖父の作った魔道具のなかでも、最高傑作と言っても良いそれは、すぐにレオリードへと手渡された。
アルツィードもそのころには、その魔道具がシスツィーアへと渡されるのだと、ぼんやりと理解していた
(じいさんはすぐに分かったんだな)
レオリードが言うのを躊躇ったのは、ルドルとアルツィードを思いやってのこと
ルドルに作成を依頼したのは、シスツィーアを想ってのことだと
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
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