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舞台裏 ① ~ミリアリザとキーサ~

「よく来てくれたわ。お休みの日にごめんなさいね」

「お気遣いありがとうございます。ですが、休みの日だからこそ、こうして誰に遠慮することなく、ゆっくりとお会いすることができますわ」


明るい陽ざしが差し込む部屋で、キーサは王妃ミリアリザへと礼をとる。


「近くにいながら、あまり伺うことができず申し訳ございません。お加減はいかがですか、ミリアリザさま」

「顔を上げてちょうだい、キーサ。心配には及ばないわ。最近は随分と良くなったのよ。むしろ、なにもしないから一日が長くて・・・・・そろそろ公務に復帰しても良いと思うけど」

「回復に向かわれて喜ばしい限りですわ。ですが、医師から許可がおりるまではご養生くださいませ」

「ええ。陛下からもそう言われたわ」


ベッドの上に上半身を起こした状態のミリアリザはキーサに椅子に座るよう合図すると、力なく微笑む。


「ご夫婦の仲がよろしくて、キーサは嬉しく思います」

「・・・・・・そうね」


椅子に座り目線が同じになったキーサが力づけるように笑いかけるも、ミリアリザの顔は浮かないまま


「陛下とともにアランディール殿下も昨晩お戻りになられたと耳にいたしました。ミリアリザさまも安心なされたことでしょう」

「ええ・・・・・・・・・」


僅かに口元を緩めるミリアリザ。


やっとミリアリザの自然な笑みが見れたことで、キーサも笑みを深め


「もう、おふたりとはお会いになりましたか?」

「ええ、陛下にはね。朝から来てくださったわ」


シグルドの様子や視察に向かった領地の話。10日も城を留守にしていたのだから、積もる話もあっただろうと、まだミリアリザの話が続くとキーサは思い待っていたのだが、ミリアリザはそれ以上なにも言うことはなく


「キーサ・・・・・・・・シスツィーア嬢は、どうしているかしら?」

「お変わりありません。恙無くお過ごしです」


躊躇いがちに尋ねるミリアリザへ、キーサは淀むことなく即答する。


ミリアリザはほんの少し咎めるようにキーサを見やり


「キーサ。わたくしを侮る気?」

「申し訳ありません」


『すべて知っているのよ』


そんな意味が込められた視線に、キーサはすぐに謝罪する


「ここ数日、ご様子がいつもと違っていたのは事実です。ですが、シスツィーアさまの魔力に異変はなく」

「どんな様子だったの?」


キーサの言葉を遮り、ミリアリザはじっとキーサを見つめる。


シスツィーアの様子がおかしかったことを知っているのだから、どんな様子だったかも知っているだろう


それなのに、わざわざ尋ねてくるのは近くにいた者が感じたことを知りたいのだと


探るような視線のミリアリザからそう判断したキーサは、姿勢を正して感じたままを話しはじめる。


「最初は心此処にあらずと思われることが多く、お疲れのように見受けられました。実際に雨続きだったことと初夏の気候もあり、体調を崩しやすい時期でしたから。それに、メイドの一人が尋ねたところ、ご本人も「そうかもしれない」と仰ったと」

「そう。それで?」

「日が経つにつれ、だんだんとお疲れのご様子が目立つようになりました。ですが、シスツィーアさまご自身はなにも仰ることはなく、お食事も召し上がっておられましたし、授業もそれまでと同じように受けられて・・・・・・魔力に変化はなく、休息日には昼食後にお休みになるなど、ご本人も体調を整えようとなさっている以上、わたくしもどこまで踏み込んで良いものか判断がつかず・・・・・・申し訳ございません」


シスツィーアに自覚がないのであれば、それとなく休むように勧めることはできる。


それは体調がおかしいと自覚があって、それでも無理をしているときも、だ。


だけど、シスツィーア自身が体調の変化を自覚していて、どうにか整えようとしっかり身体を休めることもしている。そしてそれを周囲に悟られ、仕える者たちが気を使うことがないようにしている以上、キーサとしては見守ることを優先したのだ。


「そう・・・・・・・彼女らしいわね」


ミリアリザがシスツィーアと直接話したのは数えるほどしかないけれど、仕える者たちに負担がないように振る舞う姿は容易に想像できたし、キーサの判断が間違っているとも思えない


「医師は?なんと言っていたの?」

「はっきりとは分からないと」


シスツィーアの毎日の『魔力』測定は医師が行い、体調も確認する。けれど、シスツィーアは医師にも何も言わないし、医師もはっきりとした決め手がない以上、シスツィーアへ余計な負担をかける言葉は言えず・・・・・


だから、シスツィーアの様子から推測しただけだが


「『魔力』の切り離しを行った影響とも考えられますが、シスツィーアさまの『魔力残量』に影響がないことから、環境が変わったことへの疲れが出たのではないかと」

「そう。魔道術師団長は?彼女の測定は彼が行っていたのではなくて?」

「はい。ですが、魔道術師団長も視察に同行されておりましたので。お戻りになりましたら、「王族用の測定器で魔力残量を測定してもらう」と医師が申しておりました」


それなら今日、遅くとも明日にはシスツィーアの体調不良について詳しいことがわかるだろう


ミリアリザは詰めていた息をゆっくり、細く吐き


「レオリードは・・・・・・?」


ミリアリザの微かに震えた声が部屋に響く


シスツィーアに変異があれば、レオリードが黙っているはずはない


「すぐにご報告しました。レオリード殿下も気になさり足繁くシスツィーアさまのもとへ通われようとなさいましたが、わたくしがお止めいたしました」

「それは」


「どうして?」と続けようとして、ミリアリザははっとする


(わたくしの)


ミリアリザが公務に復帰することは、シグルドが許可していない。だが、シグルドが城を空けるとなれば、執務を行えるのは成人したばかりのレオリードと側妃でありレオリードの母であるリネアラだけ


(彼女が陛下の代理を勤めることは・・・・・できないはず・・・・・)


今でこそミリアリザの代理を勤めているとはいえ、リネアラはこれまで公務に携わることを禁じられており、いくら王妃代理を無事にこなせていても国王の代理まで勤めるには無理がある。


そうなれば、必然的に負担はレオリードにいく


(また、レオリードに・・・・・・・)


レオリードには心の赴くままに過ごして欲しいのに、どうしても足枷をつけてしまう


それは立場上仕方のないことなのに、レオリードに顔向けできない立場となってしまったミリアリザは、「自分のせいだ」と思い詰めはじめ


泣きそうになるのをぐっと堪えるミリアリザに、キーサはさっぱりとした口調で


「シスツィーアさまがなにもお話してくださらない以上、レオリード殿下が必要以上にお側にいるのは、シスツィーアさまにご負担かと思いまして」

「え?」

「シスツィーアさまがなにも仰らないのは、わたくしたちにもですが、レオリード殿下に負担をかけたくないと気遣われてのことでしょう」


まだ仕えてふた月足らずだが、キーサはシスツィーアの『自分より他者を優先しがち』な性格をきちんと見抜いている


シスツィーアはシグルドが視察に出ることも知っているし、そうなれば、留守を護るのはレオリードだということもすぐに思い至るだろう


レオリードが大変なときに負担をかけるなど、シスツィーアが望むはずもないし、むしろ「自分のせいで負担をかけた」と、自己嫌悪に陥るのは目に見えている


だから、それを避けるためには


「であれば、シスツィーアさまにご負担をかけないように、レオリード殿下にはご遠慮いただくのがわたくしの役目かと」

「レオリードは、それで良いと?」

「はい。シスツィーアさまの性格はわたくしよりもご存じですから、すぐに納得なされておいででしたわ。まあ、渋々といったご様子ではありましたが」


にこりと微笑むキーサに、ミリアリザも「まあ」と目を見開いて笑みを溢し


「ふふ。そうね。キーサの言う通りだわ」

「ええ。もっとも、レオリード殿下にもなにやらお考えがあるご様子でしたけれど」

最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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