メイドたちの控え室 ①
シスツィーアの部屋の隣にある、メイドたちの控え室
ここは主にお世話をするための準備をしたり、夜、主人が寝ているときに待機する部屋で、メイドたちが休憩をするときにも使ったりする。
いまこの部屋にいるのはサラとルリ
シスツィーアの昼食がはじまると休憩に入ったサラは、休憩が終わり、洗濯室から戻ってきたリネン類を片付けながら
シスツィーアが昼食を終えたあと、お茶の時間までは課題をするために一人になるから、サラと交代で休憩に入ったルリは、自宅から持って来たサンドイッチを食べながら
上司であるキーサが公休と言うこともあって、情報交換という名のお喋り時間だ。
今日の話題は、もちろんアランの外出のこと
ふたりはシスツィーアの様子がここ最近おかしいことに当然気が付いていたし、アランが旧マーディア領に行ったことを知り、シスツィーアがこのことを知っていて気を揉んでいたからだと考えたのだけれど・・・・・・・
「シスツィーアさま、教えていただけてなかったのね」
「ええ。ご存じなのかと思ったんだけどね。それなら、ここ最近様子がおかしかったのも説明がついたし」
「関係なかったなら、他に理由があるってことよね」
はぁっとサラがため息を零しながらリネンを片付け終わると、ついでに入浴用のタオルと寝衣へと手を伸ばす
ルリも憂い顔のまま、サンドイッチの最後の一つへと手を伸ばし
「やっぱり、王宮での生活に慣れないせいじゃないかしら?ほら、ずっと近くに誰かいるわけでしょう?」
シスツィーアのお世話は、キーサを筆頭にサラ、ルリの3人で行っている。シスツィーアが目覚める頃に一人出勤して、朝の身支度からお茶の時間が終わるまでを。シスツィーアの午前中の授業が終わる頃にもう一人が出勤して、夕食後の入浴までお世話をする。残った一人はお休みだ。
さすがに三人だけでは手が回らないから、シスツィーアが寝ているときは他の上級メイドが控えているし、食事の後片付けやお部屋の掃除といった細々したことも他の者がしていて、シスツィーアの視界に入らないだけで使用人は多くいる。
それ以外にも、扉の外にも庭側にも護衛の騎士がいるし、シスツィーアが部屋からでるときはぴったりと側に付いて来るから、息が詰まる生活なことは確かだ。
「シスツィーアさま、王宮での暮らしを望まれてなかったって話だしね」
「最初は「えー!なんで!?贅沢!」って思ったけど、たしかに陛下方と一緒に生活するって、気を使うし肩凝るわよね」
「わたしたちの存在もよ。サラには分からないかもしれないけど」
「なにそれ」
「使用人が側にいる生活には慣れてるでしょ?」
「ああ。まぁ、ね」
ルリは6人姉弟妹の一番上で、年子の弟と中等科の双子の妹、そして初等科に男女の双子がいる。当然、実家は経済的に余裕があるわけもなく、それぞれに専属の使用人がいたわけでもないし、両親の方針も「自分のことは自分でするように」で、最低限の使用人しかいなかった。
一方のサラは三人姉妹の末っ子。比較的裕福な家で、長女次女とは年も離れていることもあって家族みんなから可愛がられていたし、幼いころは乳母が、10歳をすぎたころからは専属メイドだっている。
「シスツィーアさま、子爵令嬢だったんでしょう?アルデス子爵家が裕福とは聞いたことないわ」
「元々男爵家のご出身って聞いてるから、きっと専属メイドなんていなかったわね。うん。たしかに慣れないかも」
サラも納得したけれど、メイドも護衛も外すわけにはいかないから、肩を竦めるしかない。
「でも、こればっかりは慣れていただくしかないわね」
「そうなのよね」
シスツィーアに王族に準ずる待遇を与えると決めたのは国王陛下だ。
シスツィーア付きにと任命された際に『シスツィーアがアランを救った』と、改めてシグルドたちより説明を受けている。
『アランを救うために、彼女には癒されない傷を負わせてしまった。どうか、彼女が心穏やかに過ごし、少しでも傷を癒せるように尽くして欲しい』
国王から直々にそんな言葉を賜ったサラとルリ
レオリードからも『彼女の心が少しでも晴れるよう、明るい雰囲気になるよう心掛けてくれ』と命じられて
サラもルリも『建国記念の夜会』で、レオリードとアランがシスツィーアの前で跪き心からの感謝を捧げたところも、頭こそ下げることはなかったものの、国王からの最大級の礼を尽くされたところも目の当たりにしている。
そのとき純粋にシスツィーアに対する称賛の思いが湧き上がったし、シスツィーア付きに抜擢されたときは、ルリもサラも「わたしたちで良いの?」と思いながらも、期待されているからだと誇らしい思いでいっぱいで、その日を迎えることを心待ちにしていた
シグルドたちからの言葉にも「可哀想」「期待に沿えるよう、しっかりやらないと!」と身が引き締まる思いだったのだし、直々の激励に舞い上がる気持ちも抑えきれなかった。
だけど
最後にアランから『ツィーアのことは君たちを信じて任せるよ。よろしくね』と言われたとき、にこりと微笑むが、どこか冷ややかでサラたちを値踏みするような笑顔に、ぞくっとして
『君たちのせいでシスツィーアになにかあれば、しっかり責任とってもらうよ』
そんな副音声が聞こえ
シスツィーア付きの責任者だと紹介されたキーサは、サラたちとは初対面だったけれど、王妃の信頼厚いメイド長の元上司で、一緒に働くときはピリッと引き締まった緊張感が漂い気が抜けないし、勤務時間も夜番がなく高待遇だとしても、仕える相手がいる分お給料が高くても、シスツィーアが仕えやすい相手だとしても
ふたりはメイドとして採用されてから3年の経験があるとはいえ、今年から上級メイドになった、いわば新人だ
上級メイドへの昇格はメイドとしては最短で、それだけでも有能だと認められたようなものだし、ふたりとも自分の仕事に誇りと自信を持っていたけれど、ひしひしとえも言えぬ重圧を感じはじめて
「シスツィーアさまになにかあれば、首が飛ぶ!」
と、あながち的外れとも言えない予感が湧き上がり
「そんな大役、わたしたちには無理よ!」と、恐れおののき、泣きそうになり
だからふたりとも、シスツィーアの様子はどんな些細なことでも見過ごさないように、気持ちが沈まないように朗らかに接するし、明るい話題を提供したりと、レオリードたちからの指示を忠実に守っている。
今日もアランが無事に帰ったと知れば、シスツィーアが喜ぶと思ったのに、シスツィーアの反応が思ったものではなくて、まさか「知らなかった」とは思ってなかったサラとルリはどうしようと物凄く焦ったけれど、シスツィーアのいつもと変わらない様子にほっとして
だけど、ほっとしたのも束の間
だんだんと落ち込んだように項垂れ、真っ青な顔となったシスツィーアに、サラは「なにかいわなきゃ!」と必死に頭を巡らせて
「わたくしたちにはともかく、シスツィーアさまには教えてくださっていても良かったのに」
シスツィーアを気遣うつもりで言った言葉にも
「アランの安全のためでしょう?教えてもらえなくても当然じゃないかしら?」
きょとんとした顔で言われて、「余計なこと言っちゃった!」とますます慌てたのだ。
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
次話もお楽しみいただければ幸いです。
※ちょっとだけ表現を変えました。




