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前兆

「         アさま?」

「え?」


シスツィーアがしぱしぱと瞬きすると、目の前にはルリが心配そうにしている。


「どうかなさいましたか?先ほどから、お顔の色が優れないようですが?」

「え・・・・・・・?」


(えっと・・・・・・・・・?)


ルリは椅子から立ち上がると、シスツィーアの側に寄って来て


(えっと、いまは・・・・・・)


目の前にはティーセットとガラス皿に盛り付けられたフルーツ、それに美味しそうなショートケーキ。


(お茶の・・・・・・時間?)


ゆっくりと、シスツィーアのぼんやりしていた意識がはっきりとしてくる


ルリの向こう側に見えるのは、薄いピンクを中心としたバラの花々


初夏を迎えて強くなってきた陽ざしを遮るためのパラソルがシスツィーアたちに木陰を作って、ときおり吹く風がシスツィーアの髪を揺らし


(そうだわ。天気が良いからって、お茶の時間を)


シスツィーアが今いるのは、アランとはじめてお茶会をしたバラ園


ここ数日雨が降っていて室内で過ごしていたシスツィーアだったが、雨が上がった今日のお茶の時間はここで過ごそうと、ルリたちが準備をしてくれたのだ。


「どこかお身体の具合が?」


ルリはシスツィーアの横で跪くと、様子をうかがってくる。だけど、まだシスツィーアはうまく頭がまわっておらず、どこかふわふわしたまま


「ごめんなさい。・・・・・その、なんだかぼんやりしてしまって」


いつもより声に力がないことに、ルリは眉をひそめる


「申し訳ありません。気が付かずご無理を」

「ちがっ・・・・・・そんなことは、ないわ」

「医師をお呼びいたしま」

「待って!本当に大丈夫だから!」


(いけない!心配かけては)


ルリたちに心配をかけることもだけど、医師を呼ばれてはきっとレオリードにも報告がいってしまう。


ただでさえレオリードには、申し訳ないくらい気を使ってもらっているのだ。これ以上は負担をかけたくない


シスツィーアの意識はとたんにしっかりして


「ちょっと、ぼんやりしてしまっただけよ。本当よ?ごめんなさい。迷惑かけて」

「初夏の気候で疲れたのでしょうか?」

「そうかもしれないわ」


いくら心地よい風が吹いても、陽ざしも強くなってきたし、雨上がりでまだ微かに湿り気をおびた空気と相まって、いつのまにか疲れてしまったのだろう。


ルリはシスツィーアがいつも通りに戻ったことにほっとし、申し訳なさそうに言う。


「申し訳ありません。お部屋でお過ごしいただいた方が良かったですわね」

「そんなことないわ。ここに来たのは久しぶりだし、綺麗なお花に囲まれてお茶が出来て、気分も明るくなったのよ?」


シスツィーアはフルーツに手を伸ばして、パクっと食べて見せる


口のなかに甘酸っぱい果汁が広がって思わず目を細めると、ルリも「まぁ」と笑いを零して


「美味しいわ。ね、ルリも座って。もう一度話を聞かせてくれるかしら?たしか、弟さんの話だったわよね」












同じころ












「あとどれくらい?」

「明日の昼過ぎには着く」

「けっこう遠いんだね」


書類へと目を向けたままシグルドが答えると、アランは退屈そうな顔をして馬車の窓から外へと向ける。


馬車のなかにいるのは、アランとシグルド、それにリオリース


向かう先は旧マーディア領だ


「ホントならもっとかかるよ。魔道具使ってるから二日で着くんだし」

「分かってるよ。けどさ、そのせいで景色だって見れないなんて知らなかったし。先に教えといてよ」


アランが退屈のあまりでそうになる欠伸を噛み殺すのを、リオリースが顔を顰める。


もともと旧マーディア領へは、シグルドとリオリースが向かうことになっていた。


アランがふたりに付いていくと決めたのは、つい数日前


護衛計画の立て直しをはじめ、準備が慌ただしかったのは言うまでもない


「みんなに迷惑かけて!」とリオリースはぷりぷり怒ったけれど、シグルドは反対することなくあっさりと受け入れた


それもリオリースが面白くない理由の1つだけど、それだけじゃなくて


「ホントに、ツィーア姉さまに内緒で良かったの?」

「ん。言っても仕方ないだろ」


目まぐるしく変わる景色を見ていると気分が悪くなりそうになり、アランは窓に付けられているカーテンを閉める


アランはシスツィーアになにも告げずに、旧マーディア領に行くことを決めた。もちろん、なんでも報告して相談する必要はないが、王都を離れることでシスツィーアにもなにかしら影響があるかもしれないのに、黙って出立したことをリオリースは納得してないのだ。


「それに、夏季休暇には王都を離れることにしてたし、それが早まっただけだしね」


なんてことなさそうにアランは言うけれど、アランもずいぶん迷った。


シスツィーアに変化が見られないのはアランが側にいることが大きいことも想像がつく



だけど




『各領地を巡り『護符』の修復と強化を』



神殿に残されていた『女神の祝福を受ける者』に関する文献のなかにあった一文


最初はそれが何を意味するのか分からなかったけれど、シグルドに頼んで見せてもらった資料のなかにも、召喚されてきた者たちが国中の領地を巡った記録が残されていた。


(ツィーアに聞いたら、分かるかもしれないけど)


シスツィーアがエツィールド家に残されていた、初代王妃の手記を読み込んでいたのは知っているけれど、アランがはなにが書かれているのか詳しくは知らない。


シスツィーアに頼んで教えてもらうことも、一緒に読むことも、『召喚されてきた者たち』へ受け継がれてきたのものを『召喚する者』が読んで良いものなのか気が引けてしまって、敢えて触れることはなかったのだ。


それでも「アランのこれからに必要かも知れないから」と、シスツィーアがいくつか教えてくれたことがあり、『『女神の部屋』から流した魔力が各神殿の『女神像』を通じて大地に還る』ことは知っている。


それは神殿や王家に残されている文献にも書かれていたし、それなら国中の領地を巡る必要がないはずなのに、記録には『女神の祝福を受ける者』は必ず一度は各領地を巡り、『女神像』に魔力を捧げていたことが記されている。


『護符』は女神像同士を繋ぐためのものだと想像もつく。


(月日が経つと『護符』がダメになるってのら理解できる。だから、ダメにならないように 修復するってことだよね)


そう、シグルドとアランは結論づけた。


そして、本来なら次の『召喚』は30年は先のこと


アランが『護符』の修復も強化も行う必要はないけれど、これまで寝たきりで、王都はおろか王宮すら出たことがなかったこともあり、夏期休暇中にできるだけ各領地を訪問しようと、話は纏まっていたのだが



『アランディール殿下には、お伝えしておいた方が良いかもしれませんので』



アランは神殿で暮らし始めてからセフィリア教のことをレザ司祭に教わっており、そのときの話のなかで「先日訪れたある教会で、以前はなかった違和感を感じた」と言ったのだ。


違和感の原因は分からない


だけど、それが『女神像』に関わることなら、国の礎にも影響するかもしれない


偶然にも、レザ司祭が訪れた地方領地は旧マーディア侯爵領


そこでアランはシグルドと相談し、急遽同行することにしたのだ。


シスツィーアに言わなかったのは、余計な心配をかけたくなかったからのもあるけれど、本当に国の礎に関係することだったら、さすがに話すわけにはいかないから


(ツィーアはきっと気にするしね)


問題が起きたとしても、それを解決するのは王家の役目だ


シスツィーアは国家機密を知ることになったが、それは王家の問題に巻き込まれてのことで、これから先まで巻き込むつもりはない。


それはアランだけでなくシグルドも同意見で、レオリードには聞かなくともわかる。


もちろんレオリードもには旧マーディア領に行く理由も話してあるし、なにかあればすぐに伝令を飛ばすように言ってある。


シスツィーアの性格上、身体に変調が起こったとしても素直にレオリードに話すとは思えず、キーサとメイド長、それに騎士団長にも命じて、シスツィーアに少しでも変化があれば報告するようにとも


リオリースはまだ幼いから、今回アランが同行する理由は説明してないけれど、状況次第でシグルドから話すことになってる。



だから



(違和感が、単なる勘違いならいいけど)



違和感が気の所為であること



その確認をしたくて、アランは同行することになったのだ


最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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