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呪いの支配者  作者: 春香秋灯
外伝-魔法使いの悪友の友達
89/101

借金をなくして、貴族をやめたい日々

 王都のほうが騒がしくなった、妖精金貨が発生して、王都の貧民街が封鎖されたという。その妖精金貨を発生させたのは、なんと、見習い魔法使いハガルだという。

 えー、これまで、ばんばんと金使っていたのに、今更、妖精金貨を発生させるなんて。それを新聞で知って、思ったのは、こんな事だ。

 もう、俺には、王都の出来事は無関係である。だいたい、見習い魔法使いハガルと関わったのは、わずかだ。

 実は、時間からすれば、一か月も満たないのだ。

 それは、ルキエルもだ。あれほど強い執着を持っていたルキエルでさえ、二か月あるかどうかである。

 王都の貧民街のことだから、ルキエルのことが心配になって、伯父に手紙で訊ねたが、元気そうだ。

 ただ、この妖精金貨を境に、色々と変化した。

 まず、見習い魔法使いハガルは、筆頭魔法使いとなった。実は、隠された筆頭魔法使いであることを公表されたのだ。

 筆頭魔法使いが表だったことで、何十年ぶりに、皇族の儀式が行われ、ハガルは多くの皇族失格者を出した。それだけでなく、ハガルに逆らう皇族を皇帝に処刑させたという。ハガル、あんないい人そうに見えたのに、実は、怖い人だったんだなー。もう、王都から離れたし、関わることはないが、気をつけよう。

 新聞には出る内容ではないが、ダクトの父親が引退したという。これからは、ダクトが立派に店を仕切るとか。そういう情報はいらないのに、伯父が手紙で書くのだ。くそ、結婚までしたって書いてあるよ!! 俺は、借金でそれどころじゃないってのに、むかつく。

 ルキエルを通してだが、伯爵マクルスの養子オクトともそれなりに縁があったのだが、別れの挨拶出来ず、寄宿学校から王都に移動したのに、さらに海にある領地に引っ越してしまったので、オクトのその後は気になった。手紙を書くまでの仲じゃないけど、それなりに伯父が教えてくれた。

 オクト、俺より後に、王都の貴族の学校へと転校していったのだ。そして、そこでも首席をとって、生徒会役員となり、皇族様の世話をすることとなったという。

 貴族の学校に通っている皇族はそれはそれは王都でも有名だ。見目麗しい、力の強い妖精憑きではないか、と言われるほどだという。

 だが、とんでもない傾国なのだ。

 皇族様は美貌と才能を使って、近づく男も女も狂わせ、壊して、とやったという。人生を狂わされた貴族の子息令嬢は、それはそれは多いが、相手は皇族だから、と貴族は泣き寝入りである。

 そんな問題児な皇族の悪行を止めたのが、オクトだ。オクトには、皇族の美貌も才能も通じなかった。お陰で、貴族の学校は一年、平和だったという。

 オクト、大変だなー。そういう話を手紙で読んで、思ったのは、これくらいである。もう、俺には関係ない人だから。ほら、王都と海はもう、別世界だよ。義弟が、海の貴族の学校をど田舎と罵ったが、そうだな。

 俺は、王都の変化を新聞と伯父の手紙で知りながら、すっかり定型化されてしまった領地運営をしている。

 領地を見回って、領民どもと会話して、抜き打ちで調査して、と色々だ。それなりに使える人を雇えるまで、余裕は出来たが、借金完済まで、まだまだ、引き締めないといけない。

「もうそろそろ、帝国の免税を訴えられるぐらいにはなったかなー」

 領民が領主に納める税率を領民がちょっと生活が苦しくなる程度に上げたけど、まあまあ、元気に働いている。

 最初は、反発もあったのだが、代官の横領が発覚してから、領民たちは静かになった。代官も家族ごといなくなったし、訴える先がなくなったのもある。

 煩い領民は、不満なんだろう、ということで、他領地に家族ごと移動してもらったのもある。

 とても聞き分けのいい領地民も受け入れている。領地民の交換である。他領地では問題児でも、ここではそうじゃないから。

 そうして、どんどんと、領地民を移住させたり、交換したりして、いい感じに軌道に乗ってきたので、俺も、気が楽になってきた。

 その頃には、義弟も貴族の学校を卒業して、貴族の予備軍の仲間入りを果たしていた。

 義弟はすっかり、大人しくなった。前に立っていた義姉がいなくなったのだ。両親ともに貴族だ、なんて威張り散らしていたが、一人では、そんなことすら言えない。

 今後のことを話し合うため、改めて、義弟を呼び出した。

「義姉さんは、嫁ぎ先で愛人たちと喧々囂々としているって。後妻、あってて良かったよー」

 まずが、義姉の現状を教える。義姉はしぶとく、嫁ぎ先で威張り散らしていた。

 無駄に虚勢を張り、生家の後ろ盾がないから、後ろ盾のある愛人たちにバカにされているという。それでも、正妻という立場を出して、嫁ぎ先の女主人になろうと必死に戦っているのだ。

 だが、義姉の夫が愛するのは、死んだ先妻とその子どもである。あんなにたくさんの愛人がいるのは、死んだ先妻の身代わりだ。

 義姉は、死んだ先妻とは似てもいない。そんなのを正妻として迎えいれたのは、伯父のような商人たちが、見た目、先妻に似た女たちを紹介しているからだ。伯父に頼まれ、正妻の席を埋める必要があったので、引き受けてくれたにすぎない。

 そんな事情、義姉も愛人たちも知らない。互いに、絶対に貰えない愛情を得ようと、必死に牽制しあっているのだ。

 俺は一切、義姉を支援しない。義姉だって、俺に頼むなんてしない。むしろ、俺の足を引っ張ってやろう、と嫁ぎ先で問題を起こしたこともあったのだ。

「あんたはいいけど、まだ、爵位継承の資格を持つ、義弟の立場も悪くなるぞ」

 俺が一言、それを言ってやれば、義姉は考えを改めた。逆に、女主人になろう、と必死になった。

 絶対にありえない、義弟が爵位継承をした時のために、義姉は孤軍奮闘している。

 そんなこと知らない義弟は、俺の前で震えて、小さく身を縮めていた。

「お前がいると、俺も妻を迎える時、面倒なことになる。成人したら、屋敷を出てもらう」

「ぼ、僕も、子爵になる、資格が、ある」

「母親の血筋が、帝国の敵なのに? むしろ、お前の血筋を絶やせ、と世間は思っているよ」

 一度、ケチがついた血筋だ。義姉と同じく、義弟にも、これといったいい話は来ない。

 貴族の学校に通っていたというのに、いつも、義姉の後ろで威張り散らしていたという。頭も普通、体術剣術は毛が生えた程度、といい所がない義弟は、海の貴族の学校では、孤立した。社交のお誘いは一切ない。

 俺が邪魔しているわけではない。義姉も義弟も、本当に、そういうものがないのだ。

 義姉に続き、義弟も不良債権だ。義姉は女だったから、売り先はどうにかなったが、男は見つかっても、お断りされる。

「文官になれるわけでも、騎士になれるわけでも、どこかの貴族家で家令とか執事とかになれるわけでもない。本当に、何もないんだよ」

「お、お前の爵位を僕が引き継げば」

「借金はどうなる? 返せる目途はたっているのか?」

「お前と同じことをやればいいんだろう。それだったら、僕でも出来る」

「同じことやったら、また、借金まみれになるぞ」

「じゃあ、お前は借金を増やしてるのかよ!!」

「将来的の話だ。今は、どんどんと減らしている。でも、これだと、先はない。だから、次の段階だ。ほら、次はどうするんだ?」

「そ、そんなこと、代官が」

「代官はいない」

「誰がやってるんだ!!」

「俺がやってる。代官なんて、領地に暮らしている俺にはいらない。むしろ、代官への褒賞も借金だったんだ。真っ先に代官をクビにした。これで、借金が増える速度は落ちた。でも、増えているから、色々とやって、減らしてるんだ」

「そうか、ご苦労だったな」

「お前がやったら、すーぐ、借金が増えて、爵位返上だけどな。だいたい、お前の存在が余計な支出だ」

「なんだと!!」

「ただ生きているだけで、何も生み出さず、消費するだけなんだからな。はやく成人して、屋敷から追い出したい」

 生きるのって、金がかかるってのに、我儘放題な義弟に、大変な目にあっているのだ。

 勝手に買い物はする。

 勝手に人を雇い入れる。

 勝手に借金をする。

 こういうことを平気でするのだ。全て、尻ぬぐいしたのは俺だ。

「王都のいた頃みたいなこと、ここではやるな」

「貴族として、必要なことだ」

「借金を全額返済してからやってくれ」

 そういうやり取りは日常茶飯事である。

 そうして、やっと貴族の学校を卒業させた。ギリギリだよ。口だけで、無能め。

 いつも言い負かされているというのに、反省もせず、成長もせず、小さいガキのままの義弟は、成人するとすぐ、領地からも追放することとなった。







 数年しても、借金はまあまあ返済出来ている。その間に、何故か、高位貴族からの縁談が持ち込まれた。

「いやー、我が家は借金がー」

 借金で右も左も首が回らない俺に、これまた、綺麗なお嬢さんの縁談である。

 しかも、このお嬢さん、貴族の学校では首席とか次席を数度、とったことがある優秀さだ。とても、俺には勿体ない縁談である。

 伯父関係ではない。相手から、突然の申し出である。いやいや、俺には勿体ないよ、と断ったのだけど、高位貴族のごり押しで、一度、お見合いすることとなった。

 そして、それなりに身だしなみを整えて、相手の屋敷にお茶会である。俺は一人、相手方は父親とお嬢さんである。

「この子は、愛人の娘なんだ」

「そうですね」

 知ってる!! そういうことは調べたし、釣り書きにも書いてあった。

「私は、よくある、愛のない結婚なんだ。愛人も、その子どもも愛しているが、良縁がなかなか得られなくて。そんな時、君の噂を耳にしたんだ。片親平民で、なんと、生まれと育ちは貧民でありながらも、本妻の跡継ぎたちを押しのけて、爵位を受け継いだと聞いている」

「とんだ醜聞ですね」

 お家乗っ取りしたんだね、と言われているような気がする。実際、合法的にお家乗っ取りしたようなものだ。

 俺の知らない所で動いていたけど。

 俺が爵位を受け継いだので、結果だけを見れば、俺がお家乗っ取りしたと見られるのは仕方がない。

 生まれ育ちから、とても、このお嬢さんの相手としては、相応しくないんだが。

「実は、私の愛人は、正妻の策略で、貧民街で身をひそめていたんだよ」

 あれ? 同じようなこと、どっかで聞いたなー。

「私の元に愛人と娘が戻ってきたのは、随分と時間が経ってからだ。それからは、娘には、出来る限りのことをしたんだ。この子は、正妻の子よりも優秀でね。正直、私の跡継ぎとして、申し分ないほど、と思っている」

「では、ぜひぜひ、跡継ぎにするか、正妻の子の補佐にしたらどうですか」

「君に一目惚れしたというんだ」

「んー、こんな綺麗なお嬢さん、俺は知らないですね」

「君は知らなくても、娘は知っている」

 見れば、綺麗なお嬢さんが頬を染めて照れる。こんなお嬢さん、見たら、忘れない………とは限らない。

 たぶん、俺は、どんなに綺麗な女が側に来ても、見向きもしなかっただろう。

 何故って、俺は今も、ルキエルのことを引きずっている。

 海の貴族の学校に通うのだから、嫁候補を見つけないといけないというのに、どれもこれも同じ顔に見えるのだ。いや、顔じゃなくて、その能力で、なんて考えを改めたんだが、どうしても、ルキエルのことを思い出してしまう。

 俺の初恋は、男として、ダメにしてくれる。

 正直、結婚は諦め、伯父への借金を返済したら、さっさと爵位返上してしまおう、なんて考えていた。貴族で領地を持っているから、跡継ぎがー、なんて悩まないといけないが、平民で何も持っていなかったら、そういう悩みはない。一人勝手に生きて、勝手に死ねばいいのだ。

 と開き直っていたというのに、また、俺の知らない所で、盛り上がっていたのだ。

「もちろん、私は大反対したんだ。君は、親の世代が作ったとはいえ、借金がある」

「そうです!! だから」

「だが、君は、爵位を受け継いで、十年も経たない内に、借金をどんどんと減らしていった。今では、当初の五分の一となっている」

「………」

 ちょっと、頑張り過ぎちゃった。俺の評価が爆上がりしちゃったよ。

「いえいえ、元の借金の額はすごいですから、五分の一といっても、それはそれで」

「娘の持参金で完済出来る額だ」

「そ、それは、男としての沽券がぁ」

 ものすっごい、いい話だ。だけど、これを受けたら、貴族やめられない。

 俺は、元々、貴族になるつもりなんかなかったんだ。むしろ、貴族やめたい。

 貴族なんて、いいもんじゃない。借金という尻ぬぐいをするために、爵位を分捕ったけど、色々と悪いことやったよ。領地民を売り払ったり、財産没収したり、増税もした。実は、農作物の横流しだってしたのだ。ちょっと取れ過ぎたなー、という時があったので、横流ししたあげく、不作なんて嘘ついて、帝国に納める税金を減額させたのだ。

 それもこれも、借金を減らすためにしたことだ。悪いことしたんだよ。

 こういうこと、もうしたくないので、貴族を辞めたい。爵位返上すれば、嫁いだ義姉や、どこかで生きているかもしれない義弟が訴えるかもしれない。借金はなく、手放したんだから、俺はどうだっていいのだ。後は知らん。

 そして、王都に戻りたい。

 貴族であるということは、この領地から離れられない、ということだ。そんなの、うんざりだ。


 大嫌いなダクトと言い合いをしたい。

 また、伯爵の養子オクトと、バカみたいな話をしたい。

 ルキエルに、会いたい。


 そういう、いつかしたいことを叶えるために、頑張って、ちょっと頑張りすぎて、評価されてしまった。

 俺の笑顔、ひきつっているのは、俺もわかる。もう、貴族の体面としても不合格だ。よし、この縁談は流れたな。

 だが、高位貴族は、俺に温かく見てくれる。まるで、俺の失態なんて許すようだ。そうだよね、立派な、嫁入りするような娘がいるような大人なんだ。成人したって、毛が生えたような大人の失敗なんて、笑って許せるくらいの度量を持っているよ。

「娘は、本当に優秀なんだ。きっと、君の役に立つ」

「だったら、跡継ぎの元に、飼い殺しにすればいいでしょう」

 もう、俺は破談にするために、本音を吐き出す。

 この縁談には裏がある。目の前の高位貴族が、娘のことを溺愛しているのは確かだ。

 しかし、正妻の子どもたちは、そうではない。むしろ、この優秀な娘が目障りなんだ。高位貴族の庇護がなくなれば、この優秀な娘は不幸となるだろう。

「君だったら、我が家の乗っ取りも出来るだろう」

「しませんよ!!」

 とんでもないこと言ってくるな、この親父!! いくら、子爵のお家乗っ取りしたって経歴があるといえども、それ、経過は俺、全く関係なしだから。やったのは、俺の母と伯父だから!!!

「娘との間に生まれた子がいれば、可能だ」

「正妻の子だって、いっぱいいるでしょう!!」

「君と娘の子であれば、とても優秀だろうね。正妻の子どもたちは、皆、クズばかりだ」

 どっかで、同じような話を聞いたなー。どこの貴族か、思い出したくな!!

「我が家は、歴代、貴族議員の席を歴任している。過去には、大臣をしたこともあるんだ。そちらも、昔は貴族議員の血筋だ」

「先代が、変な欲を持ったから、その席を奪われましたが」

「一つ、余分に席を持っているんだ。今は、出来の悪い息子が座っている」

「いい交渉材料になるので、そのまま、そのまま、その席を持ち続けてください」

「王都に行く理由が出来るよ」

「っ!!」

 相手も、俺の過去をよく調べている。

 貴族議員になれば、定期的に、王都に行って、議会に参加しないといけない。

 恩恵も多い。また、貴族議員の給与と、色々とな諸経費代を受け取れる。これで、借金を完済できるだけでなく、ちょっと生活にゆとりが出来る。

 いい話だなー。でも、貴族やめたい俺には、魅力がない!!

 この交渉、最初から、破綻しているのだ。高位貴族は、俺が貴族を続ける上で、交渉をしているのだ。だが、俺は貴族をやめたいから、貴族を続ける上での有利な交渉材料は意味がないのだ。

「お父様、アクサ様と二人で、お話させてください」

 初めて、お嬢さんが声を発した。え、この子、話せたんだ!! ずっと笑っているだけだから、話せないと思ってたよ。

 高位貴族は、簡単に席を外してきた。えー、年頃のお嬢さんと俺が二人っきりって、外聞に悪いことだよー。

「改めて、初めまして、アクサ様」

「そうだね、初めましてだよね」

「いつも、遠くから見つめておりました」

「学年違うね」

「アクサ様の義弟と同じ学年です。アクサ様は、良い兄ですよね。母親違いの弟のために、何かと学校に顔を出していましたね」

「恥ずかしいばかりです」

 あの義弟、色々と問題を起こしてくれて、保護者のような立場の俺が、頭を下げに行ったりしたのだ。まさか、貴族の学校を卒業してからも、そこに足しげく行くことになるとは、思ってもいなかったよ。

「とてもいい人だと、いつも見ていました」

「そんなことないよ。義弟は、成人したら、さっさと領地からも追放した」

「機会を与えていたではないですか」

「まあ、親が悪いのであって、その子どもは罪はないからね」

 俺は、義弟はまだ間に合うと、機会を与えたのだ。

 本来は、嫁いだ義姉に、義弟を押し付けるものだ。嫁ぎ先も、義弟つきでもいい、と言ってくれた。

 義姉の元では、ダメな未来しか見えなかった。だから、義弟に機会を与えたのだ。それを無駄にしたのは、義弟だ。後は知らん。

 そういうことをなんとかく見て、気づいたのだ。立場は、俺と同じ感じのお嬢さんだ。頭もいいと言ってたな。実際、優秀なんだ。

「一緒に、借金をなくしましょう。ぜひ、お手伝いをさせてください」

「持参金目当てになるけど、いい?」

「わたくしが、あなたをお慕いしています」

 どこがいいのだか。俺は、この縁談を受け入れた。


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