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呪いの支配者  作者: 春香秋灯
外伝-魔法使いの悪友の友達
83/101

寄宿学校に入学

 父の正妻は、止められても、帝国に、お家乗っ取りを訴えたのだ。

 帝国は、お家乗っ取りには、敏感となっていた。すぐ、母と僕が世話になっている屋敷に、役人がやってきた。

 役人だって、ただの人である。見るからに、母ナツキを犯罪者扱いである。俺は、母の野望のための道具と見られていた。まだ子どもだから、何も出来ないと、判断したのだろう。

 それでも、お家乗っ取りである。俺と母ナツキは、犯罪者として牢に入れられた。

 取り調べは、母ナツキのみである。俺は、母と同じ牢で、昼夜過ごすこととなったが、扱いは酷いものだった。ナツキが平民なので、俺も平民扱いである。

 それでも、母方の伯父からの差し入れは、面会と一緒にされた。だが、面会を許されたのは、証言力もない俺だけである。母は、不当な取り調べを受けて、昼夜居ないことが多かった。

「こんなことになるなら、遠くへ逃がしてやればよかった」

「あの、俺たちは、これから、どうなりますか?」

「我々が出来ることは、お祈りだけだ」

「母さんが、子爵家の不利になる証拠を出したはずなんですが」

「どうせ、握りつぶされたのだろう」

 母ナツキの訴えは、平民だからと、無視されたようだった。

 そういう日々がしばらく続いたが、突然、解放されることとなった。

「ま、マクルス、様」

「こんなことになっているとはな。もう、大丈夫だ」

 伯爵となったマクルスが、俺たち親子を牢から出してくれた。

 そして、空いた牢に入ったのは、俺たち親子を不当に扱った兵士や、調査官である。

 何か、とんでもない大きな権力が動いたのだ。それは、外に出た時に、目の当たりにした。

 これまで、一度として、負けを認めず、母ナツキに嫌がらせをしていた父の正妻が、騎士たちによって、地面にひれ伏されているのだ。その前で、綺麗な男が立って、冷たく見下ろしていた。

「テラス様、ありがとうございます」

 伯爵マクルスは、慌てて、その綺麗な男の前に膝をつく。

 その名を聞いて、俺は、無礼にも、見てしまう。この人が、帝国の頂点にもっとも近いといわれる賢者テラスか。

 貴族の教育を子爵家で受けていれば、賢者テラスのことは、イヤでも知ることとなる。帝国で最強の妖精憑きである。

 妖精憑きとは、生まれつき、神の使いである妖精を憑けて誕生する者のことだ。妖精は万能だ。その妖精を憑けて誕生する妖精憑きもまた万能である。魔法というもので、あらゆることを可能とするという。そんな万能な妖精憑きを支配するのが、帝国最強の妖精憑きである賢者テラスである。

 帝国で、賢者テラスに勝てる者はいないかに見える。だが、この男を従えるのは城の奥深くで暮らす皇族が存在する。

 賢者テラスは、権力では皇族より上ではあるが、皇帝よりは下の立場だと学んだ。

 子爵家を見て、俺の中では、子爵は大したものではないな、と感じていた。

 爵位が一つ上の伯爵マクルスは、伯爵子息であった時も、子爵である父レクサーを跪かせるほどの権力を持っていた。爵位を継いだのなら、マクルスは、かなり上の存在だ。

 賢者テラスなど、殿上人と言っていいだろう。

 マクルスが膝をついて礼をいうのだから。

 父の正室を帝国の騎士を使って捕縛するのだから。

 母ナツキが、慌てて、俺を跪かせようとするも、それを賢者テラスが手で制した。

「この子が、そうですか。このままでは、彼女が救ったこの親子まで罪が及んでしまいます。この女の命で、許してあげましょう」

「そ、その女がぁあああーーーーーーー!!!」

 立場が逆転しても、父の正妻は悪あがきするように、叫んだ。憎悪をこめて、母ナツキを睨み上げて、叫ぶ。

 それも、騎士が乱暴に殴り、蹴り、とすることで、父の正妻は苦痛の声をあげるだけとなった。

「子爵家には、罰金と数年の増税とする。これほどの脱税をしてたんだ、問題ないだろう」

 賢者テラスは、父の正妻の目の前に裏帳簿をぽんと捨てると、踏みしめた。

「その女は、お家乗っ取りをしたのよ!!」

 父の正妻は母ナツキを道連れにしようと叫んだ。

 母親違いの兄が死んだことは事実である。調査すれば、他殺であることははっきりする。

「ただの事故死だ。お前は、跡継ぎを失って、可笑しくなったんだな」

 嘲笑う賢者テラス。それに釣られるように、騎士たちまで、父の正妻を嘲笑った。

「そういえば、伯爵の所も、そんなことが起こったな。大事な跡継ぎを実の母親が殺してしまうとか」

「兄上をそこまで愛しているとは。無理心中ですよ。気づいた時には、甥が義姉上に刺されていました。兄上の葬儀で、こんなことが起こるなんて」

「続いて、先代も亡くなって、大変でしたね」

「父は、もう、先が短いとわかっていたから、準備は出来ていました。ただ、甥が亡くなるのは、読めませんでした」

 恐ろしい話なのに、和やかに話す賢者テラスと伯爵マクルス。

 それを拘束されて聞いている父の正妻は、もう、何も言えない。真っ青になって、縋るように母ナツキを見上げた。

「あの、奥様の罪は、軽くしてあげてください。奥様も、跡継ぎを亡くして、気が触れただけなんです」

 母ナツキは、膝をついたまま、賢者テラスに頼んだ。

 賢者テラスは、少し、考えこんだ。

「お家乗っ取りの訴えは、罪にはなりません。ですが、脱税は、罪です。しかも、この金が、彼女の生家に流れ、秘密裡に武器の購入の費用となっていることが、今回の調査でわかりました。武器の購入は、帝国の許可、報告が必要だというのに、それをされていませんでした。これは、内乱の準備をしていたようなものです。残念ながら、帝国の敵は、許されません」

「そ、そんなこと、知らない!!」

 父の正妻は、ただの脱税が、そんな大事になっているなんて、知らなかった。必死で、暴れて、どうにか賢者テラスに縋りつこうとした。

「知りませんでした!!」

「そうだったとしても、あなたが横流しした金が使われたんです。逆に言えば、あなたが脱税して、横流しさえしなければ、武器の密売なんて起きませんでした。こういうのは、結果が全てです。ほら、さっさと牢に連れて行け。この女は、帝国の敵だ。それなりの牢に収監しろ」

「わたくしは、き、貴族なのよ!!」

 帝国の敵となった父の正妻は、暴れ、抵抗して、叫んでも、容赦なく、俺たち親子が先ほどまで入れられた牢が並ぶ建物へと消えていった。

「では、私は忙しいので、これで。君たちは、彼女が救ったんだ。あまり、無茶なことはしないように」

「あ、ありがとうございます!!」

 母ナツキは深く、額を地面につけてお礼をいう。俺は、立ったままだが、深く頭を下げた。







 無事、母の生家に俺たち親子は戻った。それで終わりになると思った。

 ところか、俺たち親子が戻ってすぐ、父レクサーがやってきたのだ。

「戻ることを許そう」

 偉そうにふんぞり返っていうレクサー。それを立ったまま、冷たく見つめる母ナツキ。相手は貴族であるため、椅子に座る許可がないと、ナツキは座れないのだ。

「お嬢様も、お坊ちゃまも、私がいては、腹が立つでしょう。もう、責任云々は必要ありません。この通り、生家は私たち親子を抱えても、問題なく成り立っております」

「し、しかし、その子は、貴族の子だ」

「貴族の学校に通う時、書類にサインさえしていただければ大丈夫ですよ。あとは、私たちでこの子を立派に育てます。どうせ、学校を卒業したって、子爵家を継ぐのは、旦那様と奥様の子です」

「………」

 だらだらととんでもない汗を流すレクサー。

 今、子爵家は危ない立場となっていた。正妻の生家が、武器の密売に手をつけていたことが、公となったのだ。そのため、その血筋である、正妻の子どもを跡継ぎとするのは、とても危険な立場となった。

 子爵としては、どうにか、立場を良くするために、俺たち親子を連れ戻し、円満な解決をしたいのだ。正妻の罪を暴いた母ナツキの味方をした、と世間に知らしめたいのである。

「サインはするが、貴族の学校には通わせれないようにしてやる」

 何かするのだろう。それを出来るだけの余力をまだ、父レクサーはあるようだ。

 ただの強がりかもしれない。母ナツキを見れば、呆れていた。

「別に、金で解決出来ることです。寄宿学校に入れます。あそこは、金さえ払えば、どんな成績でも、問題児でも、貴族の学校の卒業資格をくれます」

「そんな、金、どこにっ!!」

「昔と今では、違います。今では、我が家は、この子を寄宿学校に通わせる以上の収入があります。お嬢様も、お坊ちゃまも、この子と同じ学校に通うのは、気分が悪いでしょうから、そうするよう、話を進めていく予定でした」

 子爵の屋敷を出る前から、母ナツキは、俺を寄宿学校に通わせる計画をたてていたのだ。

 そういう話を俺も聞いていた。すぐ近くの貴族の学校に通えばいいが、どうせ、学校では散々な悪評を語られているのは、目に見えていたのだ。

 だったら、最初から問題児として、寄宿学校に通えばいい。そう、母ナツキは考えていた。

「それに、元々、息子とは、いずれ、お屋敷から出て行くつもりでした。子爵家にいつまでも厄介になるなんて、考えてもいませんでしたよ」

「だったら、どうして、俺の所にいたんだ」

「あなた方が、どこにも頼れないようにしたからです。昔馴染みの人たちにすら圧力をかけて、妊娠した私を孤立させたのはあなたがたでしょう。それも、伯爵様のお陰で、私の生家もすっかり、持ち直しました。奥様もいなくなり、奥様の生家も帝国の敵となりました。もう、誰も、私たち親子を邪魔しません」

「最初から、そのつもりで!!」

「お家乗っ取りを訴えたのは、奥様です。そうしたから、私から、裏帳簿を提出したんです。賢者様を敵に回すようなことをして、爵位返上にならなかったことを感謝するべきです。賢者様は言っていましたよ。ルキエル様のご生母様のために、子爵家を見逃す、と。あなたは、ルキエル様のご生母様を死なせたことを一生、反省し、償うべきです」

「お前、頭がおかしいんじゃないか? お前を助けたって女は、貧民だ!! その貧民の子どもだって、貧民だ!!! 貧民はな、家畜なんだよ!!!!」

「ルキエル様は、あなたよりも上の存在です」

「その、ルキエルとかいうのは、アクサと同じ年頃のガキだというじゃないか!!」

「私たちが、こうして生きているのは、ルキエル様のお陰です。ルキエル様が、私たち親子を見つけなければ、死んでいたでしょう」

「じゃあ、そのガキのせいで、我が家は今、窮地に立たせられているわけか!!!」

「ルキエル様に逆らったりしなければ、今も、私たち親子は、あ

の屋敷で息を潜めて生きていましたよ」

「死ねば良かったんだ」

 心底、そう思って、口にする父レクサー。

 子爵家にとって、そうなんだろう。俺たち親子が死んでいれば、面倒なことに巻き込まれることはなかった。

 俺たち親子が生きていたから、今、子爵家は大変なこととなっている。

「お前たちは恩を仇で返す、恩知らずだ。もう、戻ってくるなよ」

「全ては、神と妖精、聖域の導きですよ」

 何故か、母ナツキは、祈りの言葉で誤魔化した。








 それから、子爵家がどうなったのか、俺は知らない。俺は、母の生家で家族の一員となって、商売を手伝ったりしていた。

「別に、平民の学校に通わせればいいだろう」

 母方の伯父は、俺に平民の学校を勧めた。

「どっちにしても、金はかかるが、無理して、貴族の資格なんかとらなくてもいいだろう」

「平民の学校で学ぶことは、私が教えるわ。アクサには、貴族の学校でしか学べないことを学ばせてあげたいの」

「二つは、大変だぞ。お前は、文官になれるほどの成績をとって卒業したといっても、子どもも同じ実力じゃないんだから。兄である僕は、平凡だ」

「………」

「ご、ごめん」

 失言をしてしまったことに気づく伯父。

 母ナツキは、城の文官を目指していたのだ。そのために、平民の学校では、たくさんの授業を習得していたという。

 それも、貴族のお手付きとなり、不当な扱いを受けることとなって、ナツキは平民から貧民へと堕とされたのだ。

 だいたいの貴族のお手付きは、一度、堕ちたら、戻ってくることはない。俺たち親子は、本当に運良く、助かったのだ。

 それもこれも、ルキエルのお陰だ。

 母ナツキは、ルキエルの母よりも、ルキエルに強く恩を抱いていた。当時は、俺とはそう歳の変わらない、幼児だったルキエルに、何故か、強い想いを抱くナツキ。それは、時には怖く感じる。

 ルキエルに強い恩を抱くことで、母ナツキは、とんでもない恩返しをしよう、と考えているのかもしれない。

 ルキエルへの恩返しとして、思いつくのは、平民に引き上げることだろう。

 そういう、平和なことを考えながら、平凡で平和な日常を数年、俺は、母の生家で過ごし、そして、寄宿学校に放り込まれたのだ。







 寄宿学校なので、保護者である母ナツキと過ごすのは、長期休暇とか、外出許可が下りた時くらいである。

 あとは、何事かの催しだ。

 最初の催しは、入学式である。入学試験は一応、受けた。それほど難しいわけではないが、首席をとれなかった。それでも、上位クラスなので、まあまあの出だしである。

 ともかく、中位、下位は、酷い環境である。正直、関わりあいたくないので、俺は、勉強を頑張ることにした。

 俺の学年で、入学試験の首席をとったのは、伯爵子息オクトである。

 なんと、伯爵マクルスの養子だと、教師たちが騒いだ。

 貴族の学校の天才マクルスは、教師の間で有名だという話だ。たかが学生、とバカにした教師が痛い目にあったりしたという。マクルスのせいで、試験が難しくなった、という噂まであった。

 天才マクルスの養子である。その実力もすごいものだろう、なんて教師たちは噂した。それは、同じ寄宿学校に通う生徒の保護者たちもだ。

 そこまで有名だとは知らなかった俺は、入学式で見かけた伯爵マクルスに近づけなかった。お世話になったことのお礼を言いたかったのだが、まず、近づくことすら出来ないほど、マクルスの周囲は騒がしかった。

 それは、マクルスの養子オクトもだ。首席をとったということで、人が大勢、集まった。

 同じクラスならば、と狙ったが、そう簡単なことではなかった。養子とはいえ、伯爵マクルスの正式な跡継ぎである。オクトには、同い年の側近候補が数人、側についていた。成績も、それなりなので、近寄りがたい存在となっていた。

 オクト自身は、とても気さくな人だ。とても話しやすく、将来は伯爵と決まっていても、それを笠に着て偉ぶったりしない。

 授業でも、俺はオクトと接することはそれなりにある。だけど、俺の過去のことだから、伯爵マクルスにお礼を言いたい、とは人前で頼めることではなかった。

 もう、ほとんど、俺の中では、オクトと話す機会があればいいな、と諦めていた頃、オクトに呼び出された。

 呼び出された、といっても、強制連行である。オクトと同室で、将来はオクトの最側近となるだろう、と思われる同級生セコンを中心に俺を囲んで、強制的に空き教室に連行されたのだ。

 成績は常に首席のオクトは、生徒会役員の特権で、いくつかの空き教室の鍵を自由に使えるという。

 空き教室にある使われていない机と椅子が二つ、教室のど真ん中に置かれて、その一つには、伯爵子息オクトが座っていた。

 俺は、もう一つの席に、押されるように、座らされた。

「君は、どうして、僕のことを見ているのかな?」

 いかにも、気持ち悪そうな顔でいうオクト。

「えー、オクト様、男にも好かれてるのか」

「伯爵様じゃあるまいし」

「けど、伯爵様のそういう教育も受けてるって」

「黙っててよ!!」

 側近たちは小声で言っているが、教室が静かすぎて、響き渡った。それを聞いて、顔を真っ赤にして怒るオクト。

 そういう会話を聞いて、俺も合点がいった。

「違う違う。昔、伯爵様にお世話になったんだ」

「義父上の、知り合い? こんな学校にいるなんて、聞いてないぞ」

 寄宿学校の生徒のことを調査したらしい。

「君は、片親が貴族だけど、この学校の費用は君の母親の生家が支払っている、という気の毒な貴族の子だと聞いてる」

「それで合ってる」

「貴族の子だと認知は受けてるだけだと」

「今はそうだが、昔は、ほんの数年だけど、貴族の家で世話になってたんだ」

「そこまでは、調べていないな」

 調べたというのは、現状だろう。

 ただ、引っかかる。俺と伯爵マクルスとの繋がりは、そこまで薄っぺらではない、と俺は思っていた。

 ルキエルの母親が助けた親子を助けるために、伯爵マクルスは、賢者テラスまで巻き込んだのだ。

 これほど、印象の強い親子である。養子と同じ寄宿学校に通うと知っていたら、もっと激しく反応しそうだ。

 オクトが俺のことを一生徒と見ていたのは、てっきり、俺のために距離をとっていると思っていた。オクトも、伯爵マクルスも目立つ存在だ。その煽りで、俺の過去までさらけ出さないように、気を使われている、と妄想していた。

 この教室にいるのは、伯爵マクルスの縁者たちだ。目の前で、首を傾げているのは、マクルスの養子である。

 話してもいいか、と俺は判断した。俺の生まれ、育ち、過去を全て、オクトたち同級生に話した。

「義父上の初恋関係かー。それじゃあ、黙っていたいだろうな」

「ルキエルは、元気だろうか」

「さあ」

 ルキエルと聞いても、オクトの反応は鈍い。

「僕も、まだ、跡継ぎ教育中だから、全てを知っているわけじゃないんだ」

「一度、伯爵様に親子でお礼を言いたいんだが」

「そういうのは、やめたほうがいい。過去の古傷を抉る行為だから」

 ルキエルの母親のことは、伯爵家の中では、禁句となっているのだろう。

「何か、機会があったら、感謝している、と伝えてほしい」

「わかったわかった」

 軽く手を払っていうオクト。もう、俺のことは、どうでもいいんだな。俺の周囲の警戒も解かれていた。

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