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呪いの支配者  作者: 春香秋灯
妖精の目を持つ男
8/70

覚悟

 色々とあったが、サリーは母親と姉妹たちに引き離され、退場した。俺もそのまま、離れに戻ろうとしたのだが、侯爵と男爵マイツナイトに呼び止められてしまった。

「少し、酒に付き合ってほしい」

「ぜひ、お礼をしたい」

「この家で、一番いい酒なら、受けよう」

 無茶苦茶なことを言ってやった。どうせ、いい酒といったって、それが本当かどうかなんて、俺はわからない。適当な酒を出されると思っていた。

 むちゃくちゃいい酒を出された。飲む前に、瓶を見て、すぐにわかる。

「赤なんだ」

 だけど、赤ワインかー。確かにいい酒だけど、帝国では禁忌だよね、それ。嫌味か?

 気にせず、俺は容赦なく封を外して、三つのグラスに注いだ。

 男爵マイツナイトは普通に飲み干した。ほら、侯爵家の酒蔵から出てきた代物だから、気にしない。

 ところが、侯爵は手をつけない。俺をじっと見る。

「いやいや、俺は呪うとか、そういうのは出来ないから」

 俺が野良の妖精を顕現させ、引き連れていたから、侯爵、赤ワインが呪われていると警戒したのだ。

 昔、帝国は一度、滅びかけた。皇族、貴族、神殿がやらかしたのだ。聖域は穢れ、病気が蔓延し、多くの帝国民が死んだ。そんな悪政を憂えたのが皇族マリィである。マリィは皇族でありながら、妖精憑きであった。マリィは赤ワインに呪いをかけてた。

 呪いは単純だ。善人であれば、ただの赤ワイン。しかし、悪人であれば、それは毒杯となった。

 マリィはまず最初に、身内である皇族に呪われた赤ワインを飲ませた。そして、生き残った皇族を皇帝にして、次は貴族を呪われた赤ワインで粛清したのだ。そうして、悪しき政治は皇族マリィによって、力づくで健全化された。

 しかし、この行いにより、皇族マリィは血のマリィの後世では呼ばれることとなる。そして、赤ワインは帝国では罪の飲み物とされ、嫌われたのだ。

 帝国では、貧民だって知っている昔話である。侯爵、赤ワインが毒になるんじゃないか、と警戒したのは、仕方のない話だ。

「呪われてたら、まず、マイツナイトが死んでる」

「私はこう見えても、悪運が強いから、死なない」

「父上!!」

 呆れたな。たぶん、男爵マイツナイトは経験済みなんだろう。だから、俺が注いだ赤ワインを飲み干せたんだな。豪胆というか、なんというか。

 別に、侯爵が飲まなくても気にしない。俺はせっかくなので、瓶からごくごくと飲んだ。

「貴様一人で飲むつもりか!?」

「えー、毒が入ってるかもー、なんて思われたんだから、俺が飲まないと、勿体ないだろう」

「私は飲める」

「毒かも、と思って飲む酒は美味しくないから、やめたほうがいい」

 マイツナイトの苦情を適当に受け流す。確かに、俺が独り占めするには、むちゃくちゃいい酒だな。赤ワインだけど。

 さすがに弱虫、みたいに言われたくない侯爵は、一気にグラスを空けた。

「勿体ないことをした」

 そして、無茶苦茶、後悔する侯爵。いい酒だったんだなー。赤ワインだけど。

「お嬢さんを助けたことなら、礼なんかいらない。仕事なんだからな。それなりにはずんでくれ」

 まず、前提が違う。俺はお嬢さんサリーの護衛として雇われたのだ。仕事なんだから、礼はいらない。

「いや、ぜひ、話したいことがある。君の母親のことだ」

「知ってる。野良の妖精はおしゃべりだからな」

 男爵マイツナイトは呆然となる。

 ある意味、男爵マイツナイトも気の毒な男である。マイツナイト、表向きでは、家を一度没落させた、と言われているが、マイツナイト自身は悪くないのだ。

 マイツナイトには、昔、出来の悪い両親と弟がいた。この両親と弟が、当時、伯爵令嬢であったお袋に悪行三昧をしたのだ。マイツナイトは逆に、お袋を助けようとしたのだが、お袋は裏切った身内から親類への復讐のため、伯爵家に残った。そして、お袋は死を偽装して、裏切った全ての者たちを破滅させたのだ。それに巻き込まれたのが当時、侯爵であったマイツナイトであった。身内のやらかしが表沙汰となり、マイツナイトは爵位返上したのだ。

 まさか、帝国で有名な不幸な伯爵令嬢サツキが俺の母親だなんて、思ってもいなかった。てっきり、偽名だと思ってたよ。

 お袋が死んだのは、俺が物心つくかつかないかである。だいたい、皇帝のハーレムに送られた時、お袋よりも次兄に懐いていた俺は、お袋の思い出がこれっぽっちも残っていない。誰も、死んだお袋のことを話さないし、俺も聞かない。お袋に、俺はこれっぽっちも興味がなかった。

 不幸な伯爵令嬢サツキは、今も語り継がれるほど有名だ。だが、俺には赤の他人といっていい。

「お袋とは、昨夜、それなりに話した。もう、ここにはいない」

「いないって」

「当然だろう。俺が追い出した」

 昨夜、本当に腹が立った。そのまま、ここを出て行ってやろう、と考えたほどだ。







 夜になると発動する妖精の目に紛れて、死霊まで寄ってくる。俺は仕方なく起きた。

「誰だ、お前」

 起きて、見てみれば、俺は一気に頭が冴えた。

 次兄に似たような死霊が目の前に立っていた。次兄が死んだんじゃ、と一瞬、疑った。ハガルから、次兄が死んだ、という報告はされていない。もし、死んでいたら、再会した時に、真っ先にハガルは教えてくれただろう。そういう男だ。

 全身を見ればわかる。綺麗な女だ。次兄は女のような容姿であるが、男と一目でわかる体格をしていた。

「あんた、誰だ?」

『あなたは、父親似ですね、ロイド』

「質問に答えろ!! 誰だ!?」

 俺を抱きしめようと寄ってくる死霊を野良の妖精の力で退ける。近づくだけで、俺に触れられない死霊は泣きそうな顔をする。

『ロイドはわかりませんよね。母サツキです』

「ふざけるな!?」

 俺は怒りに震えた。

「どうして、あんたはここにいるんだ!? 死んだんなら、真っ先に行くのは、家族の元だろう!!」

 野良の妖精たちから色々と聞かされた。お袋にとっては、この侯爵家は特別なんだろう。だけど、腹を痛めて産んだ子も大事なんじゃないのか!?

「あんた、わかってるのか? あんたがいなくなってから、滅茶苦茶になったんだ。それでも、兄貴は、どうにかしようと努力してた。それなのに、あんたは死んで、また、おかしくなって、立ち直って、を繰り返した所に、兄貴が壊れたんだ!!」

『ご、ごめんなさい、わたくしは、ただ、マイツナイト様のご家族を守ろうと』

「俺たち家族はどうだっていいのか? 兄貴は妖精憑きだ。死霊のあんたが側にいれば、兄貴だって救われたはずだ!!」

『わ、わたくしは、復讐しか、ありません』

「………は?」

『復讐のために、貧民たちも利用しました』

 あ、こいつ、ダメだ。

 死の際まで、お袋は変わらなかったんだろう。腹を痛めて産んだ子のこと、これっぽっちも考えていない。

「それで、ここに居座って、平和に茶会を楽しんでいたのか」

『………ごめんなさい』

「俺の記憶の中に、あんたはいない。だから、俺はいいんだ。だけど、兄貴たちの記憶の中には、あんたがいるんだ!!」

 俺はどうだっていい。お袋のこと、本当に覚えていないんだ。そういう頃にいなくなった。兄たち、姉はお袋のことを覚えている。良い部分も悪い部分も知っているだろう。話では聞いたが、愛情をこめて育ててもらった、と言っていた。

 この女は、全てをなかったかのように、侯爵家の庭に居座って、家族のことを見ようともしなかった。

 だから、俺は許さなかった。

「あんたは、さっさと天に召されるべきだ。ここに居座る資格はない。さっさと出ていけ!!」

『っ!! ごめんなさい、ロイド。わたくし、本当に、悪い母親だわ』

「謝るな。お前は後世では悪女と呼ばれるようにしてやる。いいか、お前は、帝国の悪女として、悪名が残されるんだ!!!」

『そうね、それこそ、わたくしに相応しいわ。悪名こそ、誉め言葉よ』

「っ!?」

 泣き笑いして、お袋は、すっと消えていった。







 こうして、長年、侯爵家の庭に居座った死霊はいなくなったのだ。

 詳細は話さない。話したら、きっと、男爵マイツナイトに殴られそうだ。殴らないかもしれないが、頭下げられるかもしれない。それもイヤだな。

 男爵マイツナイトは昼も夜も小さな茶会の準備をされている庭のほうを見る。外は真っ暗だし、窓は遠いから、見えない。それ以前に、マイツナイトは死霊が見えないという話だ。

「一度は、サツキと話したかったな」

「死んだんだ。その後は何もないのが普通なんだ。で、俺のことは、お嬢さんを通して聞いたんだな?」

 俺のことは調べても出て来なかったというのに、一晩ですっかり態度や待遇が変わったのだから、お嬢さんサリーが情報源と見ていた。

 昼間は俺が装着している妖精の目は休止している。だから、サリーと死霊であるお袋のやり取りは見えないし、聞こえない。だが、お袋が昨夜、俺の元に来たということは、サリーにも話しただろう。

 サリーを通して俺の正体を伝えることで、お袋なりに、俺の待遇を良くしようとしたんだな。そこが世間知らずなんだよ。人によっては、俺を排除しようとするんだからな。

 男爵マイツナイトは、俺が不幸な伯爵令嬢サツキの子だと知って、どうにか囲い込もうとした。だが、不幸な伯爵令嬢サツキを追い出した家臣たち使用人たちは、どうにか俺を排除したがった。ほら、俺がお袋から何を聞かされているかわからないからだ。そんな、俺は物心つく前のガキだったし、お袋はそこまでおしゃべりじゃないから、家族の誰も、侯爵家との繋がりを知らない。

 それ以前に、まさか、お袋が不幸な伯爵令嬢サツキと同一人物だなんて、誰も思ってもいなかったんだよな。名乗っていた名前だって、偽名と思っていた。実際、元貴族の娼婦は、サツキ、と名乗ることが多かった。

 俺はいい赤ワインを瓶ごと飲み干した。

「おかわりある?」

「ないよ!! 我が家の最高級を一気の飲み干しおって!!!」

「もっと酔わせれば、口が軽くなるかもよ」

「持ってこい!!」

 男爵マイツナイトが俺の戯言に乗ってくれる。別の赤ワインが運ばれてきた。冗談で言ったのに、あるんだ。さすが、侯爵家だな。

「それで、護衛の任務が終わったら、俺は自由にしてもらえるんだよな? だいたい、俺は、誘拐されたお嬢さんを助けただけなのに、どうして、こんな事になったんだ」

「悪いとは思っている。後悔はしていないが」

「しようよ!!」

「お陰で、サリーは無事だ」

「結果だけ見ればそうだけど、俺が無事じゃないよ!!」

 男爵マイツナイトは清々しいとばかりにいい顔でいう。巻き込まれた俺はそうじゃないってのにな。

「ま、ハガルに見つかっちまったし、もう逃げられないよな」

「本当は、魔法使いで、何かの任務についているのか?」

 侯爵は、俺が貧民ではなく、魔法使いだと疑った。実際、野良の妖精を引き連れていれば、そう考えるものだ。

「違う。俺は生まれも育ちも貧民だ。ただ、事情があって、ハガルの実験に付き合っている。俺は本来、処刑されることとなっていたんだ。生かしてもらう代わりに、ハガルに魔道具の実験体となることを承諾した。俺の片目は妖精の目という魔道具だ。それを装着して、どうなるか、ハガルに色々と調べられてるんだよ」

「実験体というには、自由だな」

「俺が装着している妖精の目は、俺自身の行動記録も保存しているらしい。せっかくだから、外で自由にさせて、色々とやらせて、記録を増やしたいんだと。どうせ、ハガルが本気になれば、帝国のどこにいたって、俺は見つけられるからな」

「見つかったって」

「ちょっと試しただけだ。思ったよりも、ハガルは俺を自由にしてくれた」

 てっきり、ハガルはすぐに連れ戻すかと思っていた。なのに、ハガルは王都から追い出された俺を探しもせずに、そのまま静観である。きっと、そこら辺で野垂れ死んだ時はそれまで、なんてハガルは悟っているのだろう。俺の存在なんて、ハガルにとっては遊び道具の一つだ。

「で、俺は自由にしてもらえるのか?」

「出来れば、償いをしたい」

「父上!!」

 男爵マイツナイトは何か決意をしていた。侯爵が止めるも、マイツナイトの決意は揺るがない。

「私は、本当に酷い男だ。サツキが死んで、サツキの子のその後なんて、まるで気にしなかった。後悔している」

「あんた、情報を制する力を受け継いだんじゃ」

「あえて、見ないようにしたんだ。昨夜、読んだ。私が動けば、まず、サツキの子どもたちだけは不幸にはならなかった。本当に、すまなかった」

「別に、俺は不幸ではなかった」

 俺はあのままで良かった。側に、大好きな次兄がいれば、それだけで幸せだった。貧民として、後ろ暗いこといっぱいしていた。今もそうだ。だが、次兄がいれば、それで良かったのだ。

 そして、次兄のために死ねれば、それで良かった。

「文字の上では、俺たちは不幸に見えたんだろう。だけど、俺は不幸じゃない。あれはあれで良かったんだ。気にしなくていい」

「しかし、皇帝襲撃なんてこと、起こすことはなかった」

「ハガルが言っていた。本能だから、仕方がない。そういうトコまで、お袋に似なくていいのにな」

 本当にそうだよ。お袋も、次兄も、復讐心ばかり強い。復讐のために、自らをも使うとは、そこのところは、似たもの親子だ。

 それに、男爵マイツナイトの目を反らしたのは、本人の気持ちばかりだけではない。周囲が、あえて、そうさせたのだ。これ以上、お袋に関わらせたくなかったのだろう。

 実際、お袋に関わって、一度、侯爵家が没落した。今は返り咲いたとはいえ、没落した事実は残る。その原因がお袋だ。縁を切りたいばかりだろう。

 今だって、侯爵はどうにかして、俺と男爵マイツナイトの縁を切ろうと考えている。だが、妹サリーが強く俺に執着してしまっているので、二重で困っている。

「とりあえず、お嬢さんの傷は綺麗に治ったんだから、良かったじゃないか。あとは、俺がさっさと離れてやるよ。これで、元通りだ」

 本当に、俺はそう思っていた。

 だが、お嬢さんサリーは、ただの女ではなかった。

 遠くで悲鳴が上がった。その声に、俺たちは動き出した。

 悲鳴は騒ぎとなり、近づいていけば、使用人たちの人だかりが出来ていた。そこを俺と男爵マイツナイト、侯爵が押し入っていく。

「サリー、なんてことを!!」

 嘆きの声をあげたのは、男爵夫人アッシャーである。そんなアッシャーの目の前で、短剣片手に持つサリーは笑っている。

「こりゃ、大変な女だな」

 俺は呆れた。サリー、自らを傷物にするために、どっかから短剣を盗んで、長い髪を切り刻み、頬に深い傷をつけたのだ。

「ロイド様、これで、傷物になりました!!」

 笑顔でやってくるサリー。

 俺は容赦なく、サリーの頬をぶった。

「い、痛いぃ」

「お前は傷として痛いだろうか、お前の身内は、心が痛いだろうな」

「で、でも、わたくし、ロイド様と一緒になりたくて」

「周りを見てみろ」

 ぶたれて半泣きとなるサリーに、親兄弟姉妹を見せてやる。皆、泣いたり、心を痛めたりしている。

「お前の体は、お前だけのものじゃない。もっと、大事にしろ」

「ご、ごめんなさいぃー」

 俺に叱られて、周囲の様子を見て、サリーはやっと気づいて、泣いた。






 一瞬で酔いも眠気も吹っ飛んだ。俺は離れに戻ると、少ない荷物を整理する。さっさと出ていこう、こんなトコ。依頼料なんていらない。金だったら、別に働けばいいんだ。

「待ってくれ!!」

 そこにやってきたのは、侯爵である。もう、お前は俺を追い出したいばかりだろう!!

「どうか、サリーの側にいてほしい」

「あんたは、俺を盗人として殺すように、家臣どもに命じてただろう」

「っ!?」

 男爵マイツナイトは俺を殺したりしない。それは、俺が不幸な伯爵令嬢サツキの子だから、ではない。マイツナイトにとって、俺は些事なんだ。殺す以前の存在である。いつでも殺せるのだから、あえて殺さないで、様子見していただけである。

 侯爵はそうではない。家臣たち、使用人たちから、過去のやらかしを聞かされたのだろう。俺が不幸な伯爵令嬢サツキの子だと知って、不安になったのだ。だから、俺に金を受け取るように仕向け、盗人として葬り去ろうとしたのだ。そうして、どうにか、不幸な伯爵令嬢サツキを家臣たち使用人たちが追い出したという事実を男爵マイツナイトから隠し通そうとしたのだ。

 たぶん、男爵マイツナイトは、家臣たち使用人たちのやらかしを知らない。不幸な伯爵令嬢サツキが勝手に逃げ出した、と考えている。当時は、そう考えるしかなかったのだろう。

「あのお嬢さんのことは、甘やかしすぎだ。もっと厳しく育てろ。まだ間に合う」

「サリーは普通じゃない!! 我が家には、稀に、ああいう子が生まれるんだ」

「だったら、神殿に預けろ。金さえ払えば、それなりの待遇で受け入れてくれる」

「そんな可哀想なこと」

「なに甘いこと言ってるんだ。あんたは侯爵なんだろう!! 身内だって切り捨てる非情さがないと、大事な家臣も、領民も、守れないぞ。その身内のせいで、一度、没落した過去を忘れたのか!?」

 不幸な伯爵令嬢サツキの話は有名すぎた。過去を振り返れば、侯爵であったマイツナイトは、両親と弟をさっさと切り捨てるべきだったのだ。それをしなかったから、没落させてしまった。

「貴様はどうなんだ? 知ってるぞ。貴様の兄が元凶だと。あの皇帝襲撃を実行させたのは、貴様の兄だ」

「別にいいだろう。俺はやってよかったと思ってる。今も、後悔してない。兄貴が望んでるんだ。それでいい。貧民なんだ。野垂れ死ぬのが普通なんだから、何やったっていいだろう。責任なんて存在すらしない。貴族とは違うんだよ」

「なっ!?」

「もう、狂ってるんだよ。そんなのに、何言ったって無駄だ。まともなんだから、お前らはお前らで、まともなことやってろ」

「………」

 今にも泣きそうな顔されちゃったよ。俺より年上だってのに、打たれ弱いな。俺が悪いみたいだ。

「わかったわかった。ハガルにも婚約が認められちゃってるから、しばらくはごっこ遊びだ」

 俺も激アマだな。心底、そう思った。俺は少ない荷物を手放した。

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