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呪いの支配者  作者: 春香秋灯
妖精の目を持つ男
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責任の取り方

 侯爵家の豪邸に戻るも、俺はさっさと離れに閉じこもった。男爵マイツナイトは、どうにか俺と話そうとしたが、俺が無言で拒絶した。

 逃げても良かったんだ。逃げたって、もう、誰も責めない。俺みたいな得体の知れない存在は、いなくなったほうがいいに決まっている。

 貧民のくせに、帝国で二番目の権力者である筆頭魔法使いハガルとは顔見知りだ。ただ、ちょっと悪い扱いをすると、ハガルが激怒して、持っている権力で貴族の爵位を剥奪しちゃうほどの顔見知りである。

 試しにベッドに横になれば、まあまあの寝心地だ。よくよく考えれば、生家のベッドのほうが寝心地が良かったな。貧民のくせに、いい環境で育ったんだよ、俺は。

 だけど、やっぱり居心地悪いから、俺はベッドから離れ、人目がつきにくい床に寝転がって、目を閉じた。明日には、手切れ金でも渡されて、お役御免だろう。そう思っていた。

 普段は、俺につけられた妖精の目は、機能を休止している。これは、特殊な事例だとハガルは言った。

 本来、妖精の目、という魔道具は、常時、発動しているものだ。だから、才能がない者は、情報の多さに耐えられない。だが、俺と親父は、妖精の目という魔道具を休止させられる、特殊な体質だという。だから、普段の生活では、妖精の目は、悪く言えば、役立たずの目だ。人前では、俺は健康な両目を持っているように見えるが、実際は、片目が見えないのだ。最初は不便だったが、馴れれば、普通に生きていける。ちょっと、戦う時は、不利になったけど、それだけだ。

 あと、不便なのは、眠っている時は、どうしても、妖精の目が動き出してしまう。だから、俺の意思なんか関係なく、勝手に外部の情報が入ってくる。

 不穏な動きをする集団が侯爵家の敷地にある。それはいくつもだ。これをわざわざ俺に教える妖精って、どうなの? 野良の妖精が悪戯で俺に情報を流しているのは確かだ。本当にやめてほしいよ、そういうこと。

 安眠妨害された。俺は体を起こす。どうしようか、と考え込んでいる所に、侯爵家の執事がノックもなく入ってきた。手には、それなりの金額が入った袋がある。

 侯爵家の執事は、最初、ベッドに行って、誰もいないことに驚いて、慌てた。

「こっちだ、こっち」

 俺はわざわざ声を大にして、居場所を伝えた。最初、驚いた侯爵家の執事は、俺が物陰で座っているのを見て、なんともいえない表情となる。

「せっかく綺麗にしてくれてるが、そんなのでは、ゆっくり休めないから、ここで寝てた。何か用か?」

 失礼になるから、俺はわざわざ椅子に座って、侯爵家の執事に質問する。見ればわかることだけど、ほら、間違いかもしれない。確認作業だ。

「どうか、このまま、ここを出て行ってください」

 侯爵家の執事はいい音をたてる袋を俺の目の前に出して、深く頭を下げた。予想通りで、俺は呆れるしかない。

「あんたたちも、さすがに金を出すことは覚えたんだな」

「?」

「お袋には、何も渡さずに追い出したんだってな」

「っ!?」

 真っ青になる侯爵家の執事。

 妖精は悪戯好きだ。俺が知りたくもない情報を次から次へと伝えてくれる。

 俺は、離れから見える庭の小さい机と椅子を見る。

「あそこで、男爵とお袋は、ちょっとした茶会をしてたんだってな。ここは、お袋を隠すために作られた離れだ。男爵はどうしてもお袋を助けたかったが、あんたたちにとっては、お袋は邪魔な存在だった。だから、追い出したんだよな。そのこと、男爵は知ってるか?」

「どうか、黙っていてください」

「どうせ、口封じも考えているんだろう」

 周囲に殺気が立ち上る。万が一の時は、俺を殺して、いなくなったと言い張るのだろう。

 人の良さそうな顔をしたサリーの兄。だが、いざとなったら、後ろ暗いことも出来るんだな。そこは、やはり、男爵の息子だ。

 受け取っていいものかどうか、迷う。生きていて困るだろう、俺みたいな奴。金銭を受け取らせて、盗人として殺されるとわかっているのだ。俺は武器に手をかける。

 まずは、目の前の老い先短い侯爵家の執事を殺して、なんて物騒なことを考えていた。だけど、すぐに考えを改めて、俺は袋を押し離した。

「まだ、俺は仕事の最中だ。お嬢さんの護衛だからな」

「その事は」

「世の中には、往生際の悪い奴らというのはいるんだ。お嬢さん、危ないぞ」

 野良の妖精たちが、俺に色々と吹き込んでくる。そんな一杯の情報、俺みたいな頭の悪い奴が受け止めきれるわけがないのにな。

「まさか、お嬢様のことを狙って。復讐するために、近づいたのですか!?」

「違う!! いいか、よく聞け。俺は筆頭魔法使いハガルの実験体だ。後天的に妖精憑きの力を与えられたんだ。ここに来るまで、お袋と男爵の関係なんて知らなかった。妖精はおしゃべりだ。俺が来たから、悪戯心で、色々と話してきたんだ」

 この豪邸での最初の一泊は悪夢だよ。男爵はどこからか俺の情報を仕入れたようだが、俺は目に見えない目撃者からの情報だから、正確さが違う。

 言っている意味が理解出来ないのだろう。俺も言っていて、わけがわからない。ハガルが言った通りのことをそのまま復唱しているだけだ。実は、これっぽっちも理解出来ていない。

 だけど、意味がわからなくても、力は行使出来る。野良の妖精たちとのお付き合いも上手だから、俺がちょっとお願いすれば、野良の妖精たちが顕現する。

 部屋のいたるところに顕現する妖精たち。そのお陰で、部屋がちょっと明るくなった。

 ついでに、隠れていた、俺を口封じしようとしている奴らまで、姿を現すこととなる。知ってたけどね!!

「まさか、妖精憑き」

「もう、それでいいよ。ほら、こんなトコで俺のことを構ってないで、まずは、お嬢さんのトコに行ったほうがいい。あの豚、王都で絶対にやっちゃいけないことをやりやがった」

「何の話だ!?」

「わけのわからないことを言って。帝国に我々のことをどう報告した!?」

「魔法使いまで出してきて、今度こそ、侯爵家を潰すつもりか!!」

 過去のことを思い出して、皆さん、叫んでくれる。そう思われてしまうのは、仕方がない。

 だから、仕方なく、俺は野良の妖精さんたちにお願いして、冷静でない皆さんを壁に叩きつけてもらう。

「ちょっとは冷静になれ。せっかく、妖精さんが俺の味方して、色々と教えてくれてるってのに」

「ぐ、こんなことして」

「今度こそ、殺してやる」

「生かしておいてはいけなかったんだ」

 過去、お袋を殺す話も出てたんだな。こわっ。

 お袋を生かしておいたせいで、今度は息子の俺が復讐しに来た、なんて考えているわけだ。着の身着のままで追い出したんだから、お袋も苦労したんだろうな、と普通なら考える。

 だけど、王都にいる妖精たちは、逆だと教えてくれた。お袋は、親父に捕まる前まで、自由きままに平民のように生きていた。着の身着のままだったのが良かったのだ。お袋はさっさと高価な服を金にかえて、平民に扮して、適当な食事屋で働いて生活していた。実際、お袋は、追い出されても、図太く、気ままに生きていられた。

 だけど、侯爵家の家臣たち、使用人たちは、そうは考えなかった。お袋はきのみきのままに追い出され、苦労して、きっと、侯爵家を恨んでいる、と今も考えているのだろう。

 俺にとっては、どうだっていい話だ。そんなことよりも、お嬢さんサリーの護衛を優先する。

「う、動くな」

「俺は護衛の仕事をまっとうするだけだ。邪魔だ」

 腰も抜けているというのに、どうにか俺を止めようとする奴らを蹴っとばして、俺は離れを出た。








 本邸に行けば、すでに、最悪な状況となっていた。あの元伯爵がお嬢さんサリーを捕まえ、首に切れ味がいいかどうかわからない短剣をつきつけている。

「さっさと、私の息子と、この小娘の婚約を認めろ!! 貴様らのせいで、我々は貴族でなくなった。責任をとってもらう!!!」

「い、いやーーーー!!!」

「サリー、大人しくしなさい!!」

「絶対にいやーーーーー!!」

 男爵マイツナイトがどうにかサリーを宥めようとするが、サリーは無視する。抵抗して、首は小さな傷でいっぱいだ。

「父上、あいつだ!!」

 元伯爵は一人では行動しない。それなりの手勢とついでに息子まで連れて来ている。俺がその場にやってくるのに気づいた元伯爵の息子が声をあげた。

 元伯爵は憎しみをこめて俺を睨み下ろした。

「貧民の分際で、逆らいおって!!」

「すんません。なので、お嬢さんを離してください」

「さっさと土下座しろ!!」

「はいはい」

 俺は言われた通り、土下座してやる。額に床をすりつけて、頭を下げる。頭下げるくらい、いくらだってしてやるよ。金かかんないし、そんな自尊心、ないから。

 あまりにも簡単に土下座する俺の頭を元伯爵の息子は踏みつける。

「さすが貧民だな!!」

 だが、そこで大人しくしていないのが俺である。元伯爵の息子の足をつかむなり、高く持ち上げてやる。

「貴様!!」

「こっちも人質が出来た。ほら、人質交換だ」

「は、離せ!!」

「いいけど、頭から落ちて、痛いだけですむと思うなよ」

 俺はあえて、元伯爵の息子の足をつかんだままにしたのは、頭から落としてやるためである。運が悪いと、首の骨が折れて死ぬことがある。

 元伯爵の手勢が俺を囲むが、迂闊なことをすれば、大事な息子の命がないのだから、遠巻きとなる。

 どうにか同等に持ち込んだかに見えた。しかし、元伯爵は、隠し玉を持っていた。

 後ろから、見えない力で俺は吹き飛ばされた。だけど、俺は絶対に元伯爵の息子を手放さないので、道連れだ。

 手痛く床に叩きつけられる俺に、元伯爵の手勢が剣の切っ先をつきつける。それらの中心に、どこかか弱い感じの綺麗な男が立っていた。

「お坊ちゃま、ご無事ですか?」

「無事じゃない!! 痛いじゃないか!!!」

 元伯爵の息子はこれっぽっちも状況をわかっていない。そのまま駆けて行こうとしても、俺の手はしっかりと元伯爵の息子の足首を掴んだままである。結果、元伯爵の息子は無様に転んだ。

「離してもらおう」

 俺の手に複数の剣の切っ先が突きつけられる。

「斬り落とせばいいだろう」

 本当に、そうなんだよな。俺だったら、そうする。

「そうだな」

「ただし、死後硬直で、外せない、ということが起こるから、恨むなよ」

 そして、失敗例もいっぱい知ってる。腕を斬り落としたって、つかんでいる手が外れるわけではないのだ。そこが、人体の神秘である。

 苛立ちで、頬を歪める元伯爵の手勢たち。

「さっさと離せ!! 小娘の顔に傷をつけてやる」

「やめろぉ!!」

「さっさとしろ!!!」

「えー、どうしよう」

 男爵だけでなく、元伯爵も驚いて、声も出ない。

「俺は護衛だけど、別に、生きていれば任務達成だしな」

「ロイド、それでは、サリーの将来が」

「その時は、俺が責任とってやるよ」

 もう、腹を決めた。傷ものになったんなら、俺がどうにかしてやろう。

「お坊ちゃまを離せ」

 綺麗な男がとんでもない怖い声で、俺に命じてくる。だけど、俺は笑ってやる。

「やってみろ」

 そして、俺は妖精の目の力を解放する。鏡で見たことがあるんだが、俺の妖精の目は、力を解放すると、目の色が変わって、光るのだ。

 俺の片目が光ると、屋敷中にいる野良の妖精たちが顕現する。

『悪い子ね』

『サリーの恋路を邪魔してはいけないわ』

『ロイドったら、素直じゃないんだから』

「違うから!! お前ら、好き勝手言い過ぎだ!!」

 俺の本心を好き勝手に解釈して語る野良の妖精たち。やめてぇ!!

 野良の妖精たちは、あの綺麗な男の周囲を囲む。

『ロイドに逆らうなんて、悪い子ね』

『あら、妖精憑きだわ』

『ロイド、出番だ』

「はいはい」

 相手は妖精憑きだ。妖精は手が出せない。

 元伯爵の手勢は顕現した妖精たちに身動きできなくなったが、綺麗な男は妖精憑きであるため、動くことは出来る。

 しかし、俺が妖精憑きから妖精を盗ってしまったので、途端、蹲ってしまう。

「ど、どうすれば」

 妖精憑きは、妖精を盗られてしまうと、右も左もわからなくなるという。この綺麗な男は、妖精を失ったことで、動くことすら出来なくなった。

 野良の妖精を引き連れている俺は、恐怖だろう。俺はそんなの構わず、片手に元伯爵の息子を引きずって、元伯爵に近づく。

「く、来るな!!」

「だったら、さっさと尻尾まいて、逃げれて、影で動いていれば良かったんだよ。ちょっと偉くなったからって、いい気になって、やりすぎだ」

「こ、この娘が」

「てめぇみたいな豚に、何が出来る?」

 ちょっと挑発してやれば、元伯爵は大振りに腕を動かす。俺は容赦なく、引きずっていた元伯爵の息子を元伯爵に投げ捨てる。

 人間、緊迫した状況で、正しい選択肢が出来るわけではない。投げ捨てられた息子と、腕の中にいる人質。どうすればいいのか、悪い頭で、元伯爵は判断が出来ず、結局、息子を体で受け止めることとなる。

 拘束が緩んだところで、サリーはさっさと逃げ出し、俺の腕にしがみついてきた。

「責任とってください!!」

「傷が残ったらな」

 確かに言った。一生残るような傷があったら、責任とってやるって。

「くそ、どけ!!」

「ち、父上、痛いぃ!!」

「この役立たずが」

 こんな時だというのに、元伯爵は親子喧嘩である。肝心の人質を失い、もう、後がないというのに、喧嘩をしていられるなんて、頭の中が平和だ。

 人質がいなくなったのだ。侯爵家の騎士たちは容赦なく、元伯爵の手勢も全て、捕縛した。






 落ち着いた所で、俺はサリーの首に持ってた塗り薬を塗ってやる。

「こんな傷だらけになって」

 さすがに、女傑っぽい男爵夫人アッシャーでも、末の娘の体に傷が残るのを見て、嘆いた。それは、サリーの兄弟姉妹もだ。

 当のサリーはというと、俺にべったりくっついて、上機嫌である。

「これで、わたくしとロイド様は結婚できます」

「傷が残ればな」

「?」

 首を傾げるサリー。

 刃物の傷である。時間をかければ目立たなくなる、というが、首はどうしても目立つものだ。小さな傷が消えても、一度でも、傷ついた部分を人目にさらせば、生涯、傷ものである。

「あら、傷が」

 だが、サリーの首についた傷は、みるみるうちに消えてなくなった。アッシャーが触れても、傷があった形跡すらなくなっている。

 サリーはわけがわからない、と俺を見上げる。

「妖精の万能薬だよ。小さい傷なら、一瞬だ」

「そ、そんなぁ!?」

 信じられなくて、サリーは俺から離れて、鏡で確認して、愕然となる。

 妖精の万能薬の塗り薬版を俺は持っていた。ほら、筆頭魔法使いハガルの実験体だから、色々と持たされたんだよ。妖精の万能薬は、ちょっとした病気も治し、不健康な体も健康にし、古い傷跡でさえ消してしまう、優れものである。

「ほら、傷が残ったら、と言っただろう。綺麗に治ったんだ。これで、俺が責任をとる必要はなくなる。結婚は貴族の義務だ。大人しく、どっかの貴族と結婚してろ」

 最初から、俺はサリーの責任云々、とるつもりはなかった。

 あの元伯爵たちは、帝国に突き出されることとなっている。普通ならば、ちょっと痛い目にあって放牧なのだが、妖精憑きを使ったのが良くない。妖精憑きは本来、帝国の持ち物である。そんなものを元伯爵はよりによって、王都で使ったのだ。王都なんて、帝国のお膝元である。もちろん、筆頭魔法使いハガルにだってバレている。もう二度と、元伯爵たちは、手勢ともども、日の目に当たる場所には出られないだろう。

 こうして、サリーの首が傷ついた事実は闇に葬られる。身内ばかりの侯爵家男爵家は、絶対に表には出さないから、サリーは無傷だ。

 サリーはというと、また、俺の腕にしがみついてきた。

「絶対に、諦めませんから!!」

「俺は、束縛されるのはイヤだな」

「そ、そんなぁ」

 そう言ってやっても、サリーは俺から離れなかった。

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