銃なんかに頼るな!! 最後は人海戦術だ!!!
入学試験が終わり、順番ではあるが、貴族の子息令嬢は保護者と一緒に貴族の学校を出ていく。一度に放校しないのは、混乱を避けるためである。
学校を出る時も、受付を通してである。万が一、学校内に部外者が残ることを避けるためである。
入場の時の受付以上の退場の受付と誘導が行われた。そういう光景を俺は王族の控室から眺めた。
「これ、いつ終わるんだ?」
この人込みがなくなってから、やっと、王族の移動である。
入学試験のためにやってきた生徒会役員だって、帰れないのだ。今頃、俺に恨み事を言ってそうだ。俺、悪くないのにぃー。
「今年は、生徒数も多くなりそうですから、使用教室も倍になりますね」
「え、定員ってないの?」
「実力があるのに、定員で足きりなんて、ありえませんよ。人材は帝国の宝です」
貴族の学校、実力さえあれば受け入れるという。さすが、帝国運営の学校である。
「どうせ、いくつかの貴族家は、数年の内に没落しますから、いい投資ですね」
もう、ハガルの中では、次の世代の育成という考えである。こわっ!!
大人の話を聞いて、双子の王族姉弟も、帝国の闇を垣間見たように、恐怖に震えた。お前たちは、その投資によって王族としての恩恵を受けている、と自覚したほうがいい。
「ううう、逃げたいよー」
そして、騙されて、お見合いさせられて、どうにか逃げてきた皇族セキラは、俺の後ろにがっしりと抱きついて離れない。セキラ、頑張って、お見合い会場から逃げたという。
「決闘は、いつにしますか?」
そんな俺の横で、これまた綺麗なお嬢さんが、俺に向かって決闘を申し込んでくる。笑顔だけど、目が笑っていないね。
「あなたに勝てば、セキラもわたくしと結婚してくれる、と約束してくれました」
「ロイド、絶対に勝ってね!!」
「無理だよ!!!」
俺は全身全霊で叫んだ。この皇族のお嬢さん、立派なハガルの妖精の守護がある。俺が消し炭にされちゃうよ!!!
「そんな腑抜けで、セキラの護衛だなんて。セキラ、わたくしが守りますから、安心してください」
「僕の護衛はロイドだよ!! ロイド、頑張ってよー」
「皇族相手に、決闘なんかしたら、俺が消し炭だよ。無理無理。諦めて、このお嬢さんと子作りしろ。手伝ってやるから」
そういう仕事もやったことがある。うまいよ、俺。
こういう色恋に巻き込まれたくなくて、筆頭魔法使いハガルのためになる話をしているというのに、ぶち壊しだよ。
「お似合いですよ」
「ありがとうございます、ハガル様!!」
筆頭魔法使いハガルは、さっさとセキラを裏切って、お見合い相手の軍門に下る。ハガルに誉められて、心底、嬉しそうに笑う皇族のお嬢さん。
「さあ、セキラ、わたくしと愛を深めましょう!!」
「い、いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだーーーーーーーーー!!!」
全力で、俺の後ろに抱きついて離れない皇族セキラ。男に抱きつかれても困る。セキラ、むちゃくちゃ鍛えてるから、胸筋と腹筋が背中にぶち当たる。もう、護衛いらないだろう。
「そんなふうに、迫っていてはいけません!! 時には、退くことも大事な戦略です!!!」
そこに、男爵令嬢サリーが割って入った。
「小娘、邪魔をするな!!」
「セキラ様は、迫られて、女嫌いになったんです。だったら、それなりの距離を保つべきです」
「そう言って、貴様もセキラを狙っているのだろう!!」
「わたくしはロイド様と結婚します。ですが、このままでは、セキラ様が付いて来ちゃう!! セキラ様は邪魔です!!!」
「そ、そんなぁ!!」
まさかの伏兵が身近にいた。サリーである。
これまでは、友好関係を築いていたが、ここにきて、サリー、セキラを裏切ったのだ。
「わたくしも手伝います!! ロイド様に皇族がついていたら、王国に連れて行けません!!!」
さらに、王族ネメスまで、セキラの敵に回った。
ネメスとサリー、睨みあったが、互いに考えこんで、手をとりあった。
「一時、休戦です」
「まずは、セキラを排除しましょう」
「ロイドーーーーー!!!」
女三人が敵となったことで、セキラの腕の力がさらにこもる。痛いけど、我慢しよう。俺は、我関せず、と外の様子を眺める。はやく、帰りたい。
「団長、大変です!! 入場受付時よりも、退場受付の数が少ないです!!!」
「身分証の不正使用が出ましたか」
今回のことで、一番、危ぶまれていたことが起こった。
入退場の際、身分証の確認はされている。それでも、絶対ではない。身分証の不正使用は、妖精憑きを使えば可能なのだ。身分証を作るのは、魔法使いとなった妖精憑きではあるが、とても簡単で、力の弱い妖精憑きでも出来るという。その事実は隠されているが、野良の妖精憑きを子飼いにしている勢力では、すでに把握されている事だ。
それが発覚した時、すでに遅かった。
「妖精を狂わせる香か」
常人にとっては無味無臭の香だが、妖精憑きであるハガルはわかる。顔をしかめて、何かを操作したようで、部屋の空気が変わったような気がする。
「侵入者の情報、わかる限りで報告してください。このまま、逃がしてなるものか」
「野良の妖精は使い物にならないぞ!!」
俺が妖精の目を発動させるも、野良の妖精たちは、香によって、前後不覚となっていた。俺の声も届いていない。
貴族の学校の敷地内には、まだ、魔法使いだっているが、妖精憑きでもある彼らもまた、妖精を狂わせる香の影響を受けてしまっているようだ。動きが鈍い。
こういう時、妖精という存在に頼り過ぎていることが欠点だと思い知らされる。
狙われているのは、双子の王族姉弟だ。皇族のお見合いは、非公式である上、その事を知っているのは学校の教師くらいだ。皇族の情報を漏らしても、帝国の敵となってしまうので、うま味なんてない。
双子の王族姉弟を真ん中にして、部屋の中心で、円を作った。どこから襲撃されてもいいように、身構える。
何かの作動音が響いた。その音と同時に、何か小さなものが俺の横を横切った。
そして、小さな粒みたいなものは、宙で止まり、落ちた。
銃だ!! 実物は見たことはあるが、役に立たないと思った。
水に弱く、運が悪いと暴発して、使い手を死なせることがあるという。どこかの商人が王都の貧民街の支配者であった俺の父親に売りつけに来たが、そう言って、断っていたことを覚えている。
「誰でも、人を殺せますよ!!」
「ただ、人を殺すだけなら、そこら辺の石をぶつければいい」
そう言って、父親は鼻で笑い飛ばした。
それでも、諦めきれず、商人はその場にいた俺や、長兄ライホーン、次兄ルキエルにまで、銃のことを熱く語った。
次兄ルキエルは、商人の前で、銃を一瞬で分解して見せた。
「これを使うと、強くなった気になる。勘違いのバカが増えるだけだ」
ルキエルがそう言ったので、商人は貧民街から叩き出され、二度と、王都の貧民街で商売が出来なくなった。
あの商人、王都以外で頑張って売ったんだなー。帝国はバカでかいから、銃の買手はいくらだって見つけられる。
気に入らない武器だが、今の状況では、有効な武器だ。妖精を封じられると、俺では、その銃を止めることすら出来ない。
それが出来たのは、この場に筆頭魔法使いハガルがいたからだ。ハガルはつまらなそうな顔をする。
「向かってきてくれたほうが、面白いのに、詰まらない」
そうハガルが呟くと、あちこちで、悲鳴があがった。
「香で封じれるのは、下級の妖精ですよ。妖精王にまでなれる格を持つ私の妖精にとっては、腐臭と感じるだけです。さて、隠れて、銃なんかを使う敵は消し炭にしましたが、それ以外は逃げていますよ」
「なんで消し炭にしないの!!」
「えー、証言とらないといけないじゃないですか」
「ハガル様、そういう面倒臭いことしないって、いつも豪語してるじゃん!!!」
「それは、力の加減が出来なくて、殺してしまうから、誤魔化しているだけです。かっこいい言い訳でしょう。便利だから、使っています」
いい笑顔で言い切るハガル。そーうーなーんーだー!!
同じようなことを俺の身近な妖精憑きも言っていたなー、なんて思い出しながら、警戒を続ける。逃げている、というが、全てが逃げるとは限らない。
「それじゃあ、私が動こうか。こういう時は、ただ人の人海戦術だ」
「あんたは王族の護衛だろう!!」
もう、ここで敵を待っているのに飽きただろう子爵アクサが背伸びなんかして動き出す。
「ハガル様がいるのだから、大丈夫だろう。ここの警備責任者は私だから、私の指示がないと、騎士どもも動けないからな。普段の訓練の成果を出してもらおう。メッサはここで待機だ」
「私が伝令じゃないんですか!!」
「逃げ道は決まっている。現在、緊急時のため、この敷地全体は邸宅型魔法具として発動している。侵入者は全て、部外者として登録済みだ。ほら、出てきた」
驚いたことに、保護者や受験生に扮した者たちが、受付場所に出て来た。そこには、騎士団が待ち構えているから、すぐに逃げるが、再び、元の場所に戻された。
同じような光景を見たことがある。支配者の建物の地下だ。あそこは、何か魔法がかかっているようで、支配者不在の場合、地下は迷宮となる。侵入者に対して、地下は常に変化して、排除するのだ。
邸宅型魔法具は、所有者の意志で制御されるという。敵意を持つ者を排除することも出来るのだ。
貴族の学校で、それが起こっていた。そんな秘密があるとは、俺は知らなかった。
子爵アクサは、無駄に抵抗する侵入者たちをつまらなそうに見下ろした。
「あんな奴らに手を焼いて、鍛え直しだ。行ってくる」
そして、窓から軽い身のこなしで飛び降りて、騎士団と侵入者たちで入り乱れている場所へと突っ込んで行った。
「こ、怖いよー」
「来るなー!!」
戻ってきた子爵アクサを拒否する双子の王族姉弟。俺が盾にされた。
「えー、護衛に戻ったのにー」
「着替えてこい!!」
血まみれの恰好で戻って来るアクサが悪い。顔にも返り血浴びてて、それが乾いて、べったりとついてる。
こういう事に無縁に生きていた双子の王族姉弟、そりゃ怯えるよ。
「帝国で最強の騎士というのは、本当なんだな。私でも勝てない」
「女子どもでも容赦なく殺したからね」
「………」
笑顔でとんでもないことをいう子爵アクサ。盗賊殺しなんて呼ばれているサンセも、さすがにドン引きだ。やっぱ、サンセも育ちはまあまあ良いよね。
俺も、アクサみたいな生き方をしてたから、アクサを悪くは言えないな。黙ってるけど。アクサを反面教師にして、気をつけよう。
「アクサ、ご苦労様です。尋問は、私が行いますね」
物凄く嬉しそうに笑って労う筆頭魔法使いハガル。生け捕りしてもらって良かったのか、それとも、尋問出来るから嬉しいのか、気になるけど、黙ってよう。知らないほうがいい時がある。
ハガルはさっさと退場していき、やっと、安全確保出来たので、俺たちも貴族の学校を出ることとなった。
「まさか、貴族の学校に、あんな仕掛けがあったとは」
「貴族の学校に入るためには、それなりの登録が必要だ。貧民のロイドが、普通に貴族の学校に通えるのも、前もって登録していたからだ」
「そ、そうなんだ、知らなかった」
「私も警備責任者になるまで、知らなかったことだ。だから、外に漏らさないように。いいね」
血まみれの子爵アクサにそんなこと言われると、その場の全員は頷くしかない。爽やかに笑っているけど、その返り血の痕とかが、台無しにしてるよ。
「団長、上着着ましょうよ」
「貸しますよ」
途中、見かねた騎士団の騎士たちが、自らの上着を持ってきた。
「そうやったって、お前たちの訓練は厳しくするからな。あんなの、私なしでも制圧しなさい」
「無茶言わないでくださいよ!!」
「あ、あれは、仕方がないことで」
「副団長ーーーー!!」
「助けてーーーーー!!!」
副団長メッサ、騎士たちに泣きつかれて大変だー。普段から、困った時はメッサ、なんて泣きつかれてるんだろうな。
「団長、仕方がないことですよ!! 彼らは、その、あの、調子が悪かったんですから」
言葉を選んで、メッサは騎士たちの味方をする。
「自己管理も出来てなかったのか。まずは、そこからだな」
「やめてあげてぇえええーーーーー!!!」
「メッサが可哀想だよーーーー!!!」
「怖いことしないであげてえーーーーー!!」
とうとう泣きつくメッサと一緒に、双子の王族姉弟まで子爵アクサに泣きついた。
「これからは、皇族だけでなく、王族も学校に通うこととなるんだ。警護を強化するためにも、お前たちの強化訓練は必須だ!!! お前たちが強くなることで、帝国の平和が保てると思え!!!」
一番、帝国の平和なんて考えていないアクサがいうと、嘘くさいな。だけど、そうだと知っているのは、俺くらいだ。他の奴らは、アクサの見せかけの忠誠心に、何か感じてる。
「尋問はハガル様がするというから、浮いた時間は、訓練だ。特別訓練を考えてやる。もう二度と、不調なんて理由、使わせないからな」
「うううう、頑張りますぅー」
「優しくしてくださいぃー」
「痛いのはイヤですぅー」
どうしても、アクサが団長をする騎士団の奴ら、覇気とか、威厳とか、全くないな。アクサが暴君すぎて、騎士たちは、へたれてしまったのかもしれない。
そんなバカっぽいことして、騎馬で学校の敷地を出た。皇族と王族は、もちろん、馬車である。騎馬なんて、狙ってください、と言っているようなものだ。
そこに、まだまだ諦めきれないように、何かの音がする。それも、たくさんだ。また、銃か!!
ところが、小さな粒は、騎馬をしている俺たちより少し離れた場所で、バラバラと落ちていった。そして、一斉に、離れた場所で悲鳴とともに、燃える人が落ちたり、のたうったり、と大変なこととなっていた。
「団長、大丈夫ですかー?」
また、間延びした感じで騎士が同じく騎馬で進む子爵アクサに声をかける。
「筆頭魔法使い様のように、一瞬で消し炭にならないんだな」
「いやー、俺たち、魔法使いにもなれない、貧弱妖精憑きじゃ、全身を燃やすだけがせいぜいですよ」
「そうそう、威嚇程度ですって」
「銃の弾を止めることは出来るんだな」
「その程度は、簡単ですよ」
「やるなら、銃を暴発させろ」
「はっ!!」
「確かに!!」
「さっすが、団長、あったまいい!!」
そして、あちこちで、何かが壊れる音が鳴り響いた。
筆頭魔法使いハガルの尋問により、双子の王族姉弟の暗殺を企んだ王国側の貴族は摘発された。ついでに、王国側の貴族に手を貸した、帝国側の貴族も帝国の敵として、筆頭魔法使いハガル自ら、妖精の呪いの刑を発動し、一族郎党、破滅することとなった。
だが、表向きでは、捕縛された暗殺者たちは、敵国の残党として処理された。帝国と王国の友好関係を崩すこととなってしまうため、敵国に泥を被せたのだ。どうせ、敵国にこの発表は届いたとしても、不可侵条約なので、何も言えない。
という話を一か月に一度の身体検査の後、筆頭魔法使いハガルから聞くこととなった。俺、聞きたいなんて言ってないのにぃ。
「王族の警護なんて、引き受けるんじゃなかった。余計な労力を使うこととなりました」
「断ればいいじゃん!!」
「サンセには、妖精の目の実験に協力してもらっています。その見返りで、頼まれました。次からは、帝国人を使おう」
「だったら、サンセの実験、止めればいいだろう」
「王国人な上、王族ですから、一石二鳥なんですよ」
「………」
容赦ないな、筆頭魔法使いハガル。リスキス公爵の血縁サンセは、ハガルにとって、これ以上ない、都合のいい実験体であった。




