帝国最強の騎士は、仕事がいっぱいで大変そう
試験当日は、とても大変なこととなった。試験会場である貴族の学校は、この日、特別に、試験を受ける子どもたちの保護者も入れるのだ。
その、同伴が出来る保護者に人数制限はない。時には、期待の跡継ぎと、家族総出で同伴することもある。
だが、今年は、とんでもない人数の同伴者となった。皆、一目、誰かを見よう、もしくは近づこう、なんて邪なことを考え、受験生である子どもを理由に、家族どころか、一族でやってきたりしたのだ。
その事実に、受付がそれなりの人数を通して気づくと、入場制限を設けるだけでなく、すでに入ってしまった同伴者にも、それを適用したのである。
「今更、帰れというのか!!」
「例年であれば、問題なく、入れたじゃないか!!」
「人数制限なんて、これまでなかったぞ!!!」
相手は学生なので、居丈高にふるまって、どうにか入ろうとする大人たち。
そこにやってきたのは、最低最悪な卑怯者貴族アクサである。居丈高にふるまう大人たちを容赦なく殴ったのだ。
「貴様!! どこの誰だ!!!」
「帝国騎士の騎士団長様だ。お前たちにとっては、最低最悪な卑怯者貴族のほうが馴染み深いだろう」
「まさか、子爵アクサか!!」
悪名高い子爵アクサに、噛みつこうとしても、だいたいの貴族は下がる。まず、爵位でフルボッコされる。
表向きは子爵を名乗っているが、こいつは、これまで領地戦で奪った爵位を持っているのだ。
まず、爵位の数だけで、帝国中の貴族は誰も勝てない。爵位四つ持つなんて、異例中の異例なのだ。
さらに、奪った爵位の高さは、上から侯爵、伯爵、子爵とあるため、そこら辺の貴族では勝てない。アクサ自らが名乗る肩書で上に立つ奴は、世間知らずのバカだ。
そういうバカは、どうしても出てくる。
「たかが、子爵の分際で、伯爵の我が家に楯突くとは!!」
瞬間、アクサはそのバカな伯爵を殴った。
「貴様っ!!」
「私は騎士団の団長だけでなく、将軍職もいただいている。将軍は、準侯爵くらいの地位を約束されているんだよ」
笑顔で将軍職を示す勲章なんか手で持つ。ついでに、侯爵位を示すバッチまで取り出した。
「最初は子爵だから子爵だと名乗っているが、侯爵でもある。伯爵の分際で、侯爵に楯突くと、こうなる」
大勢の前で、アクサは、口答えした伯爵を無理矢理土下座させ、その頭を踏みしめたという。
そして、アクサは王族の護衛に戻ってくるのだ。
「権力の濫用って、癖になるね。貴族やめたい」
言動がこれっぽっちも一致していない子爵アクサ。俺は妖精を使って見てたけど、嬉々と問題を起こした貴族どもをしばいてたよ。
問題が起こると、現在、騎士団団長と貴族の学校の警備責任者を兼任しているアクサは上へ下へと引っ張りだこだ。大人気だね。
「もう、私が行きますから、仕事してください!!」
それを引き留める騎士団副団長メッサ。アクサが部屋に戻ってくる度に、しっかりと部下と一緒に捕獲して、書類が山積みになってる机につかせる。
「メッサくん、これ、機密文書だから、貴族の学校でやるのは、ダメだと思うんだよ。後にしよう」
「そう言って、いっつもやらないじゃないですか!! この書類は許可をとりました。万が一がないように、筆頭魔法使いの妖精が監視しています!!!」
「ハガルとは、友達だと嘘でも認めておけば良かった」
友達の友達だから裏切られた、と子爵アクサは思っている。友達だと、監視だけでなく、周囲を囲い込んでくるから、もっと大変なことになるよ!!
「将軍、大変です!! また来ました!!!」
「次は侯爵かなー」
そして、また、どっかのダメ貴族が問題を起こして、子爵アクサが出動である。
「私がしますから!!」
「こういうのは、権力で黙らせるのが手っ取り早いよ。馴れてるから。メッサくんは、引き続き、王族様を警護してて」
「待ってぇえええーーーーーー!!!」
とんでもない早さで走り去っていく子爵アクサ。現役で訓練だってしている副団長メッサが追いつけないよ。
そして、メッサ、泣きながら、王族の警護に戻ってくる。
「可哀想、メッサ」
「アクサ、酷いよね」
「うううう、優しい!!」
そして、双子の王族姉弟に慰められるメッサ。一回り以上年下に慰められるって、どうなんだろう。
「このままだと、試験開始時間がずれこみますね」
王族の接待役を押し付けられたお嬢さんサリーが、几帳面に時計を見て、現状を危ぶむ。
「別に、遅れたってかまわないだろう」
「入学試験もそうなのですが、貴族の学校の試験は、帝国中で同時に行われます。だから、延期、延長ということはありません」
「なんで!!」
「時間を守るのは、当然のことなんです。試験に遅刻するような者は、まず、貴族の資格なし、と判断されます。どうでもいいことで、厳しいんです」
「くだらん」
理由を聞いて、あまりのくだらなさに、呆れた。だが、時間厳守というのは、人として当然のことだ。
だけど、その時間厳守が出来ていない、ダメな大人もいたりする。俺とサリーの話を聞いて、山積みの書類の前で泣いてる騎士団副団長メッサ。うん、お前は頑張ってるけど、上司が悪かった。
そして、再び、戻ってくる子爵アクサ。
「あなたは、ここで、大人しく護衛と書類決裁をしていなさい」
筆頭魔法使いハガルつきで戻ってきた!! ハガルでは、腕っぷしが足りないので、リスキス公爵の血縁サンセがアクサの首根っこつかんでやってきた。
「私は一応、ここでは教師だから、試験前に受験者と接触は禁止されてるんだが」
「臨時ですし、入学試験問題に一切、関わっていませんから、許されます。まさか、私が出ることとなるとは」
とうとう、筆頭魔法使いハガルの人外の力まで必要となった入学試験の受付。
てっきり、ハガルが受付で監視すると思われたが、ハガルは、あの書類が山積みな机の横に座る。
「アクサ、さっさと仕事を進めてください」
「えー、私は、警備責任者、なんだけど」
「これからは、私が行います。臨時で魔法使いも出動させました。騎士と魔法使いで連携して、受付を行っています。受付の窓口も増やしましたので、すぐに終わるでしょう。口答えする貴族はその場で消し炭にしていい、と私から許可しました。これで、口うるさい貴族はいなくなります」
人外の力の脅しまで許可されたのだ。貴族どもも、静かにするしかない。今頃、すごすごと引き返している、自称親族もいるだろう。
アクサは、しょぼーんと落ち込んで、書類が山積みとなっている机についた。
「私は、貴族の学校では、上位クラスだったけど、どうにか頑張って食いついてただけで、実力は、中位クラスなんだよなー」
「期日が終わってしまったものからやりましょう。一緒に見ますから」
「だったら、ハガル様がやればいいでしょう!! ハガル様、優秀なんだから」
「私がやったら、軍部の権威を落とすこととなります。こういうことは、大切なんです。私は、ラインハルト様が泣いて頼んでも、皇帝の仕事は手伝いませんでした」
普段は帝国最強の妖精憑きとして、やりたい放題しているように見える筆頭魔法使いハガルだが、公私とか、そういうことはしっかりとしているのだ。
帝国の為政、全てをハガルはこなせるだろう。だが、それをやると、筆頭魔法使いが皇帝より上になってしまう。そうなると、皇族の立場を悪くするのだ。そうしないために、ハガルのほうから、きちんと線引きして、傍観するようにしている。
軍部に対しても、ハガルは同じことをしている。魔法使いには魔法使いの領分があるように、軍部には軍部の領分がある。それを侵害しては、軍部の立場を悪くしてしまうから、ハガルは口出しはするが、手は出さない。
面倒な書類仕事を前にして、嫌そうな顔をするアクサ。だが、諦めて、ハガルが渡す書類に目を通し始めた。
そうしていると、入学試験開始を知らせる教師が、王族がいる部屋にやってきた。
入学試験中、進入禁止の場所はあちこちある。王族が試験を受ける場所も、進入禁止にされているので、この場所に来るのは、入学試験を運営する側である。
入学試験は一日がかりなので、途中、昼休憩が入るという。昼食は、特別に、食堂を使えるようになっているという話だ。費用も、帝国が特別に支出するという。
普段は学生のみで使われる食堂は、今は、保護者も一緒なため、違う賑わいと、混雑となっていた。使い慣れない子どもたちに、付き添いの保護者は懐かしさに、と大騒ぎだ。
「食事はこちらで取ってください」
王族は、生徒会専用の食堂に案内された。それは、王族の案内を任されている俺とサリーもだ。
「この学校に通う予定だったんだが、在籍しただけだったなー」
王族の護衛である子爵アクサは、騎士たちを引き連れて、人数分の昼食を持ってきた。
「団長、寄宿学校卒業じゃないんですか?」
「爵位を受け継ぐため、色々と面倒なことがあって、普通の貴族の学校に通うこととなったんだ。だけど、王都の貴族の学校に通うと思って、試験受けて、手続きまでしたってのに、王都の屋敷を処分することとなって、海のほうにある領地で暮らすことになったから、また、試験受けて、手続きしたんだよ。あの時は、色々と大変だったなー」
「二回も試験受けたんですか!! それで合格って、やっぱ、団長、頭いいんですね」
「人並に努力はしてたからなー。親の借金には気をつけろよ。大変だから」
「あー、今度、聞いてみます」
騎士たちは、団長相手に軽く世間話をして、生徒会役員用の食堂から出て行った。
「私語しまくりだな!!」
騎士たちがいなくなってから、俺はついつい、突っ込んでしまう。こういう場では、私語厳禁だろう。
「私が任された騎士団は、特殊なんだ。騎士団も臨時の扱いだ。公の場では、私の騎士団は出ることはない。訓練も、他の騎士団とは行わない。色々と、秘匿することが多いんだ」
「むちゃくちゃ、私語してるけど!!」
「世間話程度だ。私が珍しくいるから、はしゃいでいるだけだ。いつもは、きちんと真面目にやってる。ほら、温かいうちに食べなさい」
「毒見しないんだ」
「どれが王族の食事になるかなんて、相手はわからない。今は、騎士どもも交代で食堂で食事をとっているからな」
あえて、そうさせているのだろう。子爵アクサ、なかなか、頭がいい。
妖精の目を使って、机に並ぶ食事を見たが、薬の類を盛られている様子はない。ただ、王族に与えるには、格が落ちるメニューである。
知らない料理もあるから、双子の王族姉弟は物珍しそうに食べている。
「魚の料理はないの?」
「魚、食べたい」
「貴族の学校の食堂では出ないぞ」
双子の王族姉弟の要求に、俺は普段の食堂のメニューを思い浮かべていう。そういえば、魚の類はないな。
「城でも、魚の料理が出ない」
「王国では、毎日、出たのにぃ」
普段から、魚料理を食べていたから、双子の王族姉弟、我慢出来なくなってきたのだ。
「王都では、魚を食べる文化はないな。魚はどうしても、海のほうの領地寄りになってしまう」
「魚は、あの骨がなー」
「そういうことだ」
王都では、魚料理は敬遠されるのは、骨をとるのが面倒だからだ。それなりの高級料理店であれば、骨まできっちり抜いた料理は出てくるが、庶民には手が届かないほど高価だ。
「骨が残るような裁き方をするからだよ」
「骨、綺麗にとれるよ」
「そういうことは、筆頭魔法使い様に相談だな。だが、ここでは、それを望むな。下手をすると、薬を盛られる」
「う、うん」
「わかった」
子爵アクサがどうにかしてくれる、と聞いて、双子の王族姉弟はわずかに表情を和ませる。だいぶ、アクサに馴れてきたな。
最初の頃は、双子の王族姉弟はアクサを毛嫌いしていた。アクサ、城でも、何かと双子の王族姉弟を構い倒したのだろう。それも、時間とともに和やかになってきた。
これで、我が子に恐れられている、というのだから、我が子には厳しい父親なんだな。双子の王族姉弟に対しては、恐ろしい所を見せないアクサに、そう感じた。
俺も、最初は警戒していたが、今では、次兄ルキエルの友達らしいアクサに、それなりに親しみを感じている。
だけど、俺、すーぐ裏切られちゃうから、気をつけよう。リスキス公爵の血縁サンセだって、俺のこと友達と言いながら、俺のこの見た目を利用して、金儲けしやがったからな。
俺は自身の甘さを自覚しつつ、適当な距離感を模索していた。
「そういえば、今日こそは、皇族様に会えるかと楽しみにしていたけど、いないんだな」
今更、生徒会役員である皇族セキラがいないことをぼやく子爵アクサ。
それは、俺も気になっていた。当日になって、セキラが欠席扱いだ。生徒会では、セキラも王族の接待役となっていた。
ただ、側にいるだけだから、接待、やっていないけど。もう、接待しなきゃいけないほど、浅い仲ではない。王族の勉強会で、すっかりずぶずぶの仲だ。
「セキラは、今、お見合い中です」
これは、驚いた!! 皇族の役割のために、皇族セキラ、無理矢理、されてるな。皇族セキラは、女嫌いである。近づくのでも、物凄い拒否反応を示す。
だから、貴族の学校では、皇族セキラは男好きなんだ、なんて勘違いされている。
「よくもまあ、セキラ様が従ったな」
全力で拒否して、逃げるだろう。皇族セキラ、ひ弱そうに見えるが、腕っぷしはそれなりにある。過去に、向かってきた暗殺者を毒つきの暗器で殺す、なんて所業をした。あの見た目で、皆、騙されるんだよな。俺もちょっと騙されそうになったけど、それなりに接して、服に隠された体躯が鍛えられていることを知って、セキラの見方を変えた。
本気になれば、見合い会場を逃げ出せるだろう。
「学校側にも協力してもらって、騙しました。この学校の中で、お見合いしていますよ」
「皇族、外に出していいの!?」
皇族って、その血筋が大事だから、城の奥で大事に守られているのだ。城の外に出るのは、なかなかない。
ほら、皇族には、契約紋で縛られている筆頭魔法使いハガルの妖精が守護についている。城の外に出て、襲われでもしたら、皇族の周囲は消し炭である。
そういうことを予防するために、筆頭魔法使いハガルがいるのだろう、となんとなく読んだ。貴族の学校の護衛とか、入学試験はついでなんだろう。
「相手のお嬢さんが乗り気ですし、なかなか腕っぷしも強いですから、大丈夫ですよ。セキラでは勝てません」
「えー」
「セキラが押し倒されますね。彼女も、お転婆が過ぎて、夫の為り手がありませんでした。血筋もまあまあいいですし、いい組み合わせですよ」
「そこに、セキラの意志とかは?」
「セキラの血筋は、絶対に残さないといけませんから、そんなもの、無視です。お相手のお嬢さんは、もう、セキラに夢中ですよ」
「………」
確か、皇族セキラ、女たちに迫られすぎて、女嫌いになったという話だ。逆にダメだろう。
「それで、お相手のお嬢さんも貴族の学校に通うこととなりました。年齢はセキラより上ですが、セキラとは仲を深めたい、ということで、同じ学年に途中編入です」
「え、それ、もしかして、護衛対象が増える?」
「そうなりますね。良かったですね、サリー嬢との結婚資金が溜まりますよ」
「しないよ!!」
「嬉しい、ロイド様!!」
どさくさで抱きついてくるお嬢さんサリー。まだ、ハガルは、俺とサリーが婚約していると思い込んでいる。違うよ!!
「ずるい!! わたくしだって、ロイドと結婚したい!!!」
そこに、王族ネメスが割り込んできた。サリーと俺の間に入り込もうと必死だ。
「こらこら、ネメス様は、こっちに戻る。あなたは、王族として護衛されてるんだ。護衛を巻くようなことはしないように。ネメス様のせいで、王国と帝国の関係が悪くなる」
そこに、子爵アクサが王族ネメスを片腕でひょいっと抱き上げ、元の席に下ろした。
ネメスは顔を膨らませるも、自らの立ち位置を指摘されたので、大人しく、食事を続けた。
「結婚かー。私も、それなりに夢を見たなー」
「アクサは結婚してますよね」
「筆頭魔法使いは、家族が持てないですよね」
「家族は、弱点になりますからね」
筆頭魔法使いになる前、ハガルには家族がいた。しかし、筆頭魔法使いと表だってから、ハガルの家族は帝国に隠されたという。
家族と聞いて、ハガルは寂しく笑う。ハガルほど、家族を熱愛している人は、この場にはいないだろう。失ったからこそ、その愛は狂う。
「家族を持って、それなりに柵が増えましたが、気づいたら、その柵をぶち壊してました。私は、家族を持つのに、向いてませんね」
「えー、息子が五人に、娘が二人もいる、愛妻家じゃないですかー」
「爵位四つに、領地も三つあるから、それなりの跡継ぎが必要だったんです!! 計算したら、ちょうどいい数になるはずだったのに、双子が二組も生まれちゃったから!!!」
聞いていると、大変だなー、なんて他人事のように思ってしまう。貴族も、跡継ぎが必要だから、子作りも仕事の一つだ。
「問題は、私の跡継ぎに誰がなるのか、揉めそうだ、ということです。私の悪名を引き継ぐこととなるから、嫌がるだろうなー」
「そんな、悪名も誉め言葉、と教育すればいいじゃないですか」
「それは、そういう才能がある子だけに通じる教育です。私を恐れるような子です。そんな素養はありませんよ」
驚いた。俺は、悪名も誉め言葉、という主義を普通に受け入れているが、それ、普通じゃないのか。
まあ、俺は貧民だからなー。貴族とは違うか。
「えー、悪名は誉め言葉なんて、かっこいいのにー」
そういう素養がある筆頭魔法使いハガルは、普通の感性が理解出来なかった。




