王国からわざわざ嫁探しに来ました
王国史は、意外にも、評判が良かった。王国の文化だからだろう。物珍しいということもある。さらに、リスキス公爵の血族サンセは話上手だ。色々な小話を出してくれる。
単位も関係ないから、生徒たちは気楽には王国史の話を聞いた。
「私はリスキス公爵の血族だということは、皆さん、ご存知だろう。この、リスキス公爵というのは、実は、特殊な家柄なんだ。帝国でもそうだが、貴族に名はない。ただの侯爵、伯爵、子爵、男爵と呼ばれる。こうやって、一族のような呼称を持つ貴族は、帝国でも王国でもリスキス公爵家だけだ。どうしてか? リスキス公爵は、国王になれなかった王族を受け入れる受け皿となっている。そのため、今の国王よりも、王族としての血が濃いと言われている。だから、何代かに一度、リスキス公爵家から国王へと嫁ぐことがある。そうして、王族の血筋を確かにしているんだ」
帝国とは違う。帝国では、皇族は外に出さない。皇族は帝国最強の妖精憑きである筆頭魔法使いを支配する血筋だ。だから、貴族に下げ渡されることはないのだ。そうして、城の奥で、大切に皇族は育てられる。それでも、皇族失格者は出る。皇族でなくなった失格者は、貴族になれるかというと、そうではないのだ。そこは、皇帝のさじ加減である。皇帝の気分で、皇族失格者は、貴族に、平民に、貧民になるのだ。
王国はそうではない。まず、王族を選別するような文化はない。親が王族であれば、子も王族である。その血筋の証明する手段を王国は持ち合わせていないのだ。親子だから王族、と言っているだけである。それでも、国王になれるのは一人だけだ。それ以外の王族は、貴族になるか、城の中で役立たずとなるか、どちらかである。貴族となる王族は、だいたい、リスキス公爵家が受け入れるという。いわば、リスキス公爵家こそ、帝国でいう皇族なのだろう。
そういう話をサンセがする。わかりやすいし、おもしろい。だけど、帝国育ちでは、王国の水は合わないな、なんて感じる。それは、講義を聞いている生徒たち全てだ。
そんな空気を感じ取って、サンセは苦笑する。
「帝国では、理解出来ない文化だろうな。しかし、王国では、妖精憑きを見つけることも、妖精憑きを支配する手段も失われてしまった。過去にあったかもしれないが、わからない。だから、今、王国では、別の手段をとっている。それが、聖女エリカ様の代理人だ」
王国史というと、聖女エリカとは縁が切れない。やっぱり、そこに行きつくんだなー、なんて俺は考えていると、そこで、サンセは堅く口を閉ざした。
「兄上、どうして」
絞り出すような声でいうサンセ。
サンセが兄と呼ぶということは、リスキス公爵その人がいるということだ。サンセの視線の先を見れば、毛色の違う騎士に囲まれた一人の男がいた。顔立ちがサンセに似ているから、これが、リスキス公爵だとわかった。
「私に構わず、続けなさい」
「何しに来たのですか、兄上」
サンセは、俺に視線を送りながら、時間稼ぎをした。俺はお嬢さんサリーと皇族セキラを貴族の中に隠した。道具の範囲を広げて、認識阻害をする。
サンセからは、俺の周囲だけ、不透明となっているように見えただろう。サンセは安堵して、いつもの余裕ある顔を見せる。
リスキス公爵は周囲にざっと目を向ける。誰かを探しているようだが、見つからない。俺の周囲も視線が流れる感じだ。道具が役立った。
これで、サリーを隠せたと俺が安堵しているが、それは早すぎた、リスキス公爵はわざわざ、サンセがいる壇上に立った。
「これから見せる肖像画によく似た女を探している。知っている者がいれば、前に出なさい。それなりの褒賞を出そう」
「兄上、何を勝手に」
「お前の好き勝手をただ、させていると思ったか? お前はいい繋ぎになった」
笑うリスキス公爵。思ったよりも、サンセのこと、道具として使っているな。サンセは真っ青になって黙り込んだ。
リスキス公爵は、布で覆い隠された大きな肖像画を運ばせた。
それを見て、俺は不吉なものを感じた。あの肖像画を貴族の子息令嬢がたくさんいる所で公開させてはいけない。
だから、俺は妖精の目を使って、野良の妖精に頼んだ。あの肖像画をどうにかしてほしい、と。
そして、布に覆われたままの肖像画は一瞬にして消し炭になった。本当に、すぐだよ。あまりのことに、リスキス公爵を含む王国の者たちは呆然となる。
「魔法使いがいるのか!?」
そうなるよね。勢いでやっちゃっただけど、あんなこと出来るのは、妖精憑きである魔法使いだけである。大変なこととなる。
俺は後始末どうしようか、と悩んでいるが、それはどうにかなった。
「私がやりました」
筆頭魔法使いハガルが前に出た。いたのか!!
ハガルはちらっと俺を見た。俺がやらかしたことに苦笑する。俺の罪をハガルが被ってくれた。
魔法使いの中でも最強と呼ばれる筆頭魔法使いは、衣装が違う。あの派手な衣装に、リスキス公爵も、ハガルが筆頭魔法使いだと気づいた。
「我が家の持ち物を燃やすなんて、何をするのですか!?」
「勝手に王国の者が動いているのです。帝国は許可を下ろしていませんよ」
「弟が講師をしているから、貴重な肖像画を見せようとしただけだ」
「誰のですか?」
「王国の聖女エリカ様です」
「帝国にもありますが、門外不出となっています」
「王国では、信仰の象徴となっていますから、誰もが見て、知っています」
「帝国では、皇族マリィと皇族エリカは、王国に殺された過去です。一時期は、マリィとエリカの肖像画を公開していましたが、王国との友好のために、表に出すのをやめたのです」
「それは知りませんでした」
「帝国側の都合です。それよりも、帝国に来て、皇帝に挨拶もなしというのは、どうなのでしょうか」
「弟が帝国で教鞭をとっていると聞いたので、見に来たのですよ。立派な姿に感動しました」
「そうですか。満足しましたか?」
「はい」
「では、城にご案内しましょう」
「何故、筆頭魔法使い様がここにいるのですか?」
「王国史を聞いていたからです。今後の友好のためにも、王国のことを勉強する必要があります。サンセの話は、ためになりますね」
「だったら、最後まで聞いてください」
「三度目ですから。あなたの弟は、話し上手ですね。同じような内容でも、二度、三度聞いても楽しいです。ですから、ご心配なく。城へご案内します。私の皇帝が、首を長くして、あなたがたの来訪を待っていますよ」
「………お待たせしてしまいまして、申し訳ない」
とうとう、リスキス公爵が折れた。皇帝が待っている、なんて言われてしまっては、城に行かないわけにはいかない。
立ち去る時、もの言いたげにリスキス公爵はサンセを見た。サンセは、表情を歪めて、顔を背けた。
結局、その日の王国史は中断となった。
何故か、俺は皇族セキラの護衛として、会談場所に連れて行かれた。相手は、リスキス公爵ご一行である。
その中には、リスキス公爵の血族サンセがいた。サンセは無表情で、リスキス公爵の隣りに座っていた。
俺は、護衛なので、皇族セキラの後ろに立っていた。王国側は、俺とセキラのことを見知っている奴らも混ざっていた。ほら、王国の戦争に出たんだ。護衛騎士は、あの戦争に出たのだろう。
だから、筆頭魔法使いハガルが恨みを込めて睨まれていた。あの戦争は、ハガルのせいで滅茶苦茶だったからなー。記憶が新しすぎるから、ハガル、睨まれているよ。
俺とセキラは、同じ目にあっていたから、同士扱いだな。哀れみをこめて、俺たちが見られた。あの時は、俺も死ぬかと思った。
皇帝とのご挨拶は終わったという。挨拶の後は、軽く会談である。会談だと、皇帝は参加しない。ほら、皇帝と会談するには、リスキス公爵では身分が足りない。会談は、皇帝の代理である皇族セキラである。ほら、セキラは王国にとって、親しみ深い皇族である。猶更、場は和やかになった。
「王国の戦争は終わりました。お礼の言葉もいただきました。王国と帝国の友好のために、使者であるサンセが貴族の学校への講師の申し入れがありました。お試しですが、とても評判が良く、今度の武道大会の教師代表に、サンセが選ばれました。あんな短期間で、人望を得られる優秀な弟を持つリスキス公爵が羨ましいです」
ぴくり、とリスキス公爵の眉が動いたように見える。笑顔だけど、凍り付いた感じだ。
早速、ハガルの嫌味が炸裂した。王国の事情を知っているからこそ、嫌味とわかる。だけど、帝国側であるハガルだから、嫌味ではないかもしれない、と王国側は疑心暗鬼になっているだろう。
俺とサンセは呆れた。ハガル、喧嘩売るの早いよ。もう、ハガルの性格をよくわかっているから、その笑顔を信じてはいけない。ハガルは人のいい笑顔で、相手の心を抉るから。
だけど、お互い、友好を深めないといけないので、リスキス公爵は我慢した。耐えたのだ。すごいなー、面倒臭いなー。
「帝国がサンセを受け入れてくれるとは、こちらも感動しました。帝国は、王国の過去の失敗をやっと許したということですね」
「それとこれとは別です。皇族マリィ、皇族エリカを死なせたことは、帝国にとっては、絶対に許してはいけないことです」
どれほど時が経っても、帝国は、皇族マリィとエリカの死を許さない。
「そうですね。王国としては、皇族マリィ、皇族エリカの死の責任を背負い続けます」
「だからといって、それを盾に、帝国は王国に無理をいうわけではありません。王国と帝国で、諍いが起こるようでしたら、真っ先に私に報告してください。外交に、皇族の死を持ち込むことは、帝国としては卑怯ですから」
「ありがとうございます。さすが、筆頭魔法使いハガル様。では、どうか、エリカ様の子孫を王国にください」
リスキス公爵の要求を聞いた途端、ハガルは笑顔を消す。
一体、どうなっているのか、俺はわからない。王国側の使者とはいえ、リスキス公爵は、所詮、一貴族である。いるかどうかはわからないが、皇族エリカの子孫を要求するのはおかしい。
ただ、誰のことを言っているのか、予想はつく。サリーだ。肖像画は燃えてしまったが、サリーは皇族エリカに似ているのだろう。
肖像画がなくても、王国民であれば、サリーを一目見れば、聖女エリカの血筋を疑う。王国民にとって、聖女エリカは信仰だ。どこにでも、エリカの肖像画は見れるのだろう。
帝国で皇族マリィと皇族エリカの肖像画を隠したのは、その血筋を隠すためだろう。皇族マリィは悪名が高すぎるから隠したとわかる。皇族エリカは、その血筋に強く出てしまうのだろう。
帝国は、皇族エリカの血筋を隠し通すことにしたのだ。だが、そんなことしなくても、皇族エリカは皇族である。皇族のどこかに皇族エリカに似た子孫は出るはずだ。何より、皇族失格者は市井に落とされる。隠す必要なんてないだろう。
皇族エリカの子孫と聞いて、ハガルの態度は尊大になる。
「王国には自覚があるのですか? 皇族エリィを毒殺し、皇族エリカに王国の聖域に貯まった穢れを押し付けて死なせた、という自覚。皇族エリカは帝国に保護されて五年と経たない内に亡くなりました。保護された時は、やせ細った、幼児のような知能の女だったと聞いています。そんな憐れな女なんですから、帝国は平穏を与えました」
「聖女エリカ様は、婚約者のことを心底、愛していました。保護された時、エリカ様は婚約者との愛を望み、婚約者もそれを受け入れて、子を為しました。日記が残っています」
「流産したのですよ。そう言っているでしょう」
初めて聞く話だ。まさか、皇族エリカは、王国の婚約者との間に子を為していたとは!? だけど、ハガルは子は流産したと、存在自体を否定する。
ハガルは嘘を言っていない。流産したことは、真実だ。だけど、何か隠している。
王国側は諦めていない。一度は消失した肖像画をまた、持ち出した。王国では、聖女エリカは象徴だ。いくらでもあるのだろう。
今度は、さすがに燃やすわけにはいかない。ハガルも大人しくしている。
布を取り払われた肖像画を見て、俺はなんとも言えなかった。
サリーに似ている。しかし、肖像画の年齢とサリーの年齢では差がありすぎる。肖像画にある聖女エリカは、成人した女性だ。サリーはまだ成長途中である。
だが、あと数年で、この肖像画と同じような清楚華憐な女になる。
肖像画の女は、保護されて、帝国に行き、再び、王国に訪問した時に描かれたものだろう。子どものような笑顔を浮かべた清楚華憐と純真無垢が同居していた。宗教の象徴なんだから、そういうふうに描かれているのだろう。
「日記にありました。聖女エリカ様は、子を産んだ、と」
「皇族エリカは、王国のお陰で、どれだけ帝国が教育しても、知能は幼児のままでした。人形を抱きしめて、可愛い子、とあやしていたそうです。流産した時は、子がいなくなった、と大泣きしましたが、人形を与えれば、我が子と可愛がりました。皇族エリカは間違ったことを言っていません。人形を我が子と思い込んだのです」
「王国の使者の中に、聖女エリカ様の面影をもつ貴族の学校の生徒がいた、と確かに言いました。皇族の側にいたとか。確か、その護衛の婚約者という話です」
「どうしても、そう思いたいのですか。いいですか、皇族の血筋なんですから、貴族の間にも、似たような子は誕生します。皇族失格者は、城から追い出されます。貴族として残るか、平民貧民となるか、それはその人の運です。ですが、確かに市井に皇族の血は混ざります。逆に言えば、帝国民であれば、誰もが、皇族エリカに似た子を産む可能性があるということです」
「筆頭魔法使いハガル、あなたは、もっと情報を持つべきだ」
リスキス公爵はハガルを嘲笑い、もう一枚の肖像画を持ってきた。
「こちらは、私の祖母の若い頃の肖像画です。複製ですが、燃やさないでください。思い入れがあります」
「っ!?」
布を取り払われたそこには、皇族エリカと瓜二つといっていい女だ。だが、身に着けている服は貴族のそれである。皇族エリカは、王国では神聖視されているから、その衣服は白の修道女のようなものである。
「私の祖母は、若い頃、エリカ様と領民から呼ばれていたと聞いています。貴族の学校に通えば、神聖視され、大変だった、と昔話で聞きました。聖女エリカ様は、王国側の顔立ちを持っていました。エリカ様が虐待されたのは、祖母に似すぎていたから、という説があります。エリカ様の父親は、祖母を嫌っていました。そんな祖母に瓜二つに成長したエリカ様を見て、父親は憎悪を募らせたのではないか、と言われています」
「さすが、貴族の中の王族。確かに王族の血筋はリスキス公爵家の中にも色濃く流れていますね」
「やはり、生きていたのですね!!」
「いえ、流産したことは事実です」
「嘘だ!!」
「嘘ではありません。本当です」
聖女エリカの肖像画に似た女が帝国にいた。その事実は、皇族エリカの子孫が確かにいた、と証明しているようだ。
しかし、筆頭魔法使いハガルは否定した。ハガルは嘘をついていない。ただ、隠しているだけだ。
「まさか、別の男の間に子を」
その予想に行きついたのは、リスキス公爵家の血族サンセだ。
「そんなこと、あるがずがない!! 聖女エリカ様は、婚約者を愛していた。簡単に他の男を受け入れるなど」
「知能が幼児なんだ。わからなかったと考えるほうが正しい」
「ご名答です」
ハガルは手を叩いて、サンセの予想を賞賛した。
「王国は、幾度となく、皇族エリカの子孫の存在を訴えてきました。最初は、婚約者です。皇族エリカの子を浅ましくも要求したのですよ。互いに愛し合って誕生した子だと戯言を言って。ですが、流産したと拒否しました。実際、流産したのですよ。婚約者と皇族エリカの血を引く子は存在しない」
「では、帝国は聖女エリカ様を強姦したのか!?」
「知能が幼児とはいえ、女帝の姪ですよ。女帝は恐ろしい人だったといいます。皇族エリカに近づく男は全て排除しました。皇族エリカに近づけるのは、次の皇帝といわれた、女帝の息子だけです。女帝の息子は、妹のように可愛がりました。ですが、知能が幼児だと、恥じらいというものはありません。婚約者に教えられた行為に嵌った皇族エリカは、女帝の息子に同じことを要求しました。そして、子が誕生した。どうですか、納得出来ましたか」
とても、聖女からかけ離れた事実である。その事実をハガルから語られ、真っ青になるリスキス公爵。
サンセは気づいていたようだ。過去の帝国と王国のやり取りは記録されているだろう。幾度となく、王国は聖女エリカの子孫を要求した。そして、断念する。その理由は全て、帝国が存在を否定した、である。
そうじゃない。聖女エリカの神聖性が失われる事実に、あえて、王国は隠したのだ。万が一、聖女エリカが性に奔放な女だ、と知られたら、大変なことになる。その事実を帝国が隠すことを約束し、王国は要求を取り下げたのだ。
幾度も王国が要求をしたのは、王国の使者が、帝国の貴族の中に、聖女エリカと瓜二つの貴族の見つけたからだ。帝国では知られなくても、王国では聖女エリカの肖像画は一般公開されている。教会に行けば、誰もが聖女エリカの肖像画を見ているのだ。
「兄上、帝国がああ言っているんだ。聖女エリカ様の子孫は存在しない、それでいいじゃないか」
「いや、今度こそ、本物かもしれない」
狂気のように笑うリスキス公爵。
「どうか、聖女エリカ様の子孫を王国との友好のため、ください」
「兄上!?」
「帝国に奪われたんだ。絶対に王国に取り戻してみせる」
何か別の目的があるのだろう。リスキス公爵は引き下がらなかった。
「皇族エリカの子孫はいません。それが王国と帝国の決めごとです」
「いないなら、我が国に、聖女エリカ様に似た女をくれてもいいだろう」
「皇族を望むならまだしも、ただ皇族エリカに似ているという女を要求するのは、どうしてですか?」
「その女が、王族が引き継ぐべき力を持っているかもしれないからだ!!」
それを聞いて、俺は思い当たる部分があった。
男爵マイツナイトは、本来、侯爵である。この侯爵家、本来は、特別な力を持つ者が跡継ぎ、と決まっているという。マイツナイトには父親がいたが、資格がないため、侯爵になれなかったという。そして、資格のあるマイツナイトが、父親が存命中にもかかわらず、侯爵になったという。そして、男爵となったマイツナイトの跡継ぎは、末娘であるサリーだ。上にはそれなりに優秀な兄姉がいるというのに、跡継ぎにはなれない、とマイツナイトは切り捨てたのだ。
リスキス公爵が何を言っているのか、筆頭魔法使いハガルは理解している。だから、嘲笑った。
「今更、返せと。言ってあげます。あなた方王国民は、噂に騙され、偽物の王族たちの言い分を信じ、守るべき皇族エリカに石を投げました。そんなお前たちに、皇族エリカの子孫を取り戻す資格はありますか?」
「知らなかったんだ!! 騙されていたんだ!!!」
「それで、あなたがたはどうしたのですか? 皇族エリカを取り戻すよりも、帝国との五年間の援助を求めましたよね。皇族エリカと睦会った婚約者は、国王となってからずっと、皇族エリカの身の上を口にしなかったとか」
「王国民を助けたい一心だ。聖女エリカ様は、帝国で保護され、丁重に持て成されていたんだ。心配の必要なんかなかった!!」
「妊娠、知っていたでしょう。何故、子のことを聞かなかったのですか?」
「だから、帝国で保護されて」
「あなた方は、根本を間違えていますよ。愛など恋など、世迷い事に縋って、真実を忘れています。どうして、皇族エリカが婚約者を愛したのか、その理由を知っていますか?」
「それは、一目惚れしたと」
「皇族エリカを虐待した家族は、もっと恐ろしい事を企てていたのですよ。帝国では、その事実を王国には報告しませんでした。そして、皇族エリカの子を隠したのです。王族は、反省しなければなりません。皇族エリカの子孫を取り戻したところで、真の王族は誕生しません」
筆頭魔法使いハガルは、大昔、王国が皇族エリカを使ってやろうとしていた真実を口伝で知っていた。だから、歴代の筆頭魔法使いは、皇族エリカの子孫を隠し通し、王国の要求を突っぱねたのだ。




