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呪いの支配者  作者: 春香秋灯
妖精の目を持つ男
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舞踏会

 気持ち悪い検査から解放されたが、そのまま城から放り出されるかと思ったら、そうではなかった。

「せっかくなので、舞踏会の食事でも食べて行ってください」

「あそこ、貴族のための場所だろう。俺みたいな貧民が行くのはまずいと思うんだが」

「黙っていれば、バレませんよ。それに、誰もあなたのことは気にしません。声さえかけなければ、気づかれることはありません」

「ハガル様がそういうのなら、食いだめしに行こう」

「また、時間を置いたら、次こそは、痛い検査ですよ」

「………」

 結局、痛くないけど、気持ち悪い検査をされた。痛くないんだけど、あの気持ち悪さは馴れないから、もうしたくないんだよな。

 が、このハガルとの繋がりで、お嬢さんサリーとは縁を切れるかもしれないな。どっちか選べ、と言われれば、一か月にたった一回の気持ち悪さである。サリーは一生涯の束縛だから、自由がない。

 ハガルのお言葉に甘えて、舞踏会会場に行った。本来であれば、招待状がないと行けない場所だが、裏口からこっそりと入ってしまえた。

 帝国中の貴族が集まるという舞踏会は、ともかく人が多い。十歳以上は強制参加である。そんなものを集めたのだから、かなり広い会場が使われている。

 多くの人でひしめいている会場を見て、俺は納得する。確かに、俺一人が入っても、バレないな。貴族といったって、ぴんきりだ。こう、流行遅れな服を着ている、幸薄そうな貴族もいる。俺なんか、男爵のお古だよ。男はほら、流行関係ないから。

 気楽に俺は豪勢な食事を口にする。俺みたいに、食べてる貴族はそれなりにいる。食べるのも困ってる奴なんだろうなー、なんてついつい見てしまう。お互い、食べているなんて恥ずかしいから、目も合わせないようにしている。

 一通りのメニューを制覇して、腹も満たされた所に、一角でちょっとした騒ぎとなっていることに気づいた。

「行きたくないなー」

 その騒ぎに、イヤなものを感じた。

 これほどの貴族が集まるのだ。礼儀のなっていない者だっているものだ。

「貴様、男爵家の分際で、生意気な口をききおって!!」

 男爵かー。

「貴様の父親は、一度は家を没落された、情けない貴族というではないか」

 い、いるねー。

「我が家がお前を娶ってやろうと言ってやってるんだ!! 有難く思え!!!」

「お断りします!!」

 聞き覚えのある女の声が喧噪の中、響いてきた。

 俺は皿にケーキを数種類乗せて、騒ぎの中心に行った。

「ロイド様!!」

 騒ぎの中心にいたお嬢さんサリーは、俺を見つけるなり、飛びついてきた。

「お嬢さん、ほら、ケーキを持ってきたぞ」

「食べさせてください!!」

「はいはい」

 さっさと退散してやろう、と俺はサリーに腕をとられながら背を向ける。

「待て!! まだ、話している最中だぞ!!!」

 それを貴族の子息が大声で止めてきた。もう、振られてるんだから、やめろというのに。

 せっかく、公衆の面前での恥を俺がなくしてやったというのに、貴族の若造は無駄にしてくれた。

「えーと、こういう婚約のやり取りって、まずは、両親を通してという話だと学んだんだが」

「貴様はどこの誰だ!? 僕は、伯爵家だぞ!!」

 まあまあの家柄を前面に出して胸を張る伯爵家子息。

「俺のことはどうだっていい。まずは、段階を踏むべきだ、と忠告してやってるんだ。親の爵位は伯爵だろうが、今のお前は貴族の子でしかない。爵位持ちのほうが上だ」

 あえて誤魔化した。貧民です、なんて言ったら、大変なこととなる。

 俺は見た目というか、実年齢がそれなりだから、お子様から見れば、それなりの立場と見たのだろう。この調子で、誤魔化されてくれ。

「父上、この生意気な男が邪魔をするんです!!」

 そこに、伯爵登場しちゃったよ。

 子どもの無茶ぶりに顔を出さないでぇ!! 心で叫んで、穏便に事が過ぎてほしいな、なんて祈っているのだが、この伯爵は子どもに甘かった。

「貴様、どこのどいつだ!? 我が家は、王都でもそれなりの立場だぞ!!」

「そうですか」

 そうらしい。周囲は遠巻きに見ている。権威を傘にきて、色々とやってるんだな。

 俺の腕にしがみつくサリーに、伯爵、気持ち悪い顔を見せる。

「これはこれは、男爵に都落ちした元侯爵のご令嬢ではないですか。我が家との婚約、もちろん、受け入れてくれますよね?」

 あえて、サリーの父親の立場を大声で叫ぶように言って、コケ落とす。有名だもんな、侯爵が男爵に都落ちした話って。

 一応、男爵マイツナイトは、再び、侯爵位を取り戻してはいる。しかし、一度、爵位を返上した、という事実は残るのだ。貴族は足の引っ張りあいだから、この事実はいつまでも、悪評として残っているのだ。

 サリーはというと、そっぽ向いてしまう。

「お断りします。わたくしは、ロイド様と結婚するのです」

「我が家に逆らって、ただで済むと思っていますか?」

「知りません」

 逆だろうな。伯爵家のほうが危ない。殺気がひしひしと感じる。

 この騒ぎの中心にサリーの兄である侯爵も、父親である男爵も入っていきたいのだ。だが、無駄に騒ぎを大きくするわけにはいかないので、我慢している姿を遠目に見てわかる。そして、俺に目で命じてくれるのだ。なんとかしろ、と。

 ところが、遠くから喧噪がどんどんと静かになっていく。それを耳で聞いて、肌で感じた俺は、皿を床に置いて、サリーを引っ張って、膝をついた。

「貴様、何を」

「いつまで立っている、豚が!!」

 見えない何かに吹っ飛ぶ伯爵家親子。

 それで、一瞬にして静かになり、皆、床に膝をついた。

「ハガル、やり過ぎだ」

「邪魔でしたから、つい。それで、どういう理由で、騒いでいたのですか」

 皇帝アイオーンに軽く叱られる筆頭魔法使いハガル。これっぽっちも反省していない。

 吹き飛ばした伯爵家親子をまた見えない何かで引きずって、中心に置く筆頭魔法使いハガル。

 伯爵家親子は、立っているたった二人の男を見あげた。伯爵は息子の頭をおさえこんで、膝をついた。

「婚約の申し込みをしていたところです」

「申し込まれた者、立ちなさい」

 ハガルに命じられたのだ。立つしかない。サリーは仕方なく、立って、礼をとる。

「まだ子どもではないですか。貴族は随分と若いうちに婚約を結ぶのですね」

「息子が一目惚れしまして」

「それで、どうして、騒ぎとなったのですか? 親同士で打診すればいいことでしょう」

「わたくしには、すでに心に決めた方がいます!!」

 発言の許可もないというのに、サリー、発言しちゃったよ。俺はどうすればいいか、なんて考えていると、サリーに引っ張られて、立たされてしまう。

「わたくし、ロイド様と結婚します!!」

「そうなのですか!?」

 驚く筆頭魔法使いハガル。

 いつもだったら否定するが、場の雰囲気を読んで、俺は無言となる。俺は発言の許可貰ってないから、黙っているしかない。

 サリーは笑顔で俺の腕にしがみ付いた。

「そうです、わたくしはロイド様と結婚すると決めています。一目惚れです」

「それで、王都に戻ってきたのですか。婚約者がいるなら、話してくれればいいのに。おめでとうございます、ロイド」

 お祝いの言葉を述べるハガル。俺はもう、貝のように口を閉じるしかない。

「ハガル、この男とは、知り合いなのか?」

 皇帝アイオーンは、俺を見ても、どこの誰かなんてわからない。見たことはあるけど、一回二回だしな。

 ハガルは笑顔で頷く。

「はい。友人の弟ですよ。こうして、愛し合っている者同士が婚約を結んでいるのです。伯爵も諦めなさい。女なんて、世の中にはたくさんいますよ」

「し、しかし、その、歳の差が」

 頑張れ、伯爵!! そうだよ、どう見たって、俺とサリーは犯罪的に歳の差がありすぎる。一歩間違えれば、俺も幼女趣味にされちゃうよ!!

 ハガルは、俺とサリーを見て、首を傾げる。

「たかが二十、三十の歳の差ではないですか。私に言わせれば、大した差ではありませんよ」

「大した差ですよ!!」

「私も彼とそう変わらない年齢ですが、若い女を金で買っています。やはり、最低なのでしょうか」

「伯爵、謝るんだ!!」

 慌てて皇帝アイオーンが伯爵をしかりつけた。そうか、俺とハガルって、年齢、同じだ。

 見た目は俺のほうが年上だ。力の強い妖精憑きって、老けないんだよ。だから、ハガルはいつまでも若い見た目だ。だから、ちょっと勘違いしちゃうんだよな。まだまだ若い、と。

「そうですね、人なんて、ちょっと目を離すと死んでしまうほど、儚いですからね。私にとっては、百の歳の差でも、誤差なのですが、人ではそうではありませんね」

「いやいや、百はさすがに誤差じゃないぞ」

「二十、三十も誤差ではない、とその男が言っています」

「誤差だ、誤差。気にしないように」

 アイオーンが一生懸命、ハガルを励ました。ハガル、ちょっと情緒不安定なんだから、気を付けないといけない。

 少し、浮上したのか、ハガルは笑顔になる。

「そうですよね。先ほども、若い娘を紹介されましたよ。皆さん、綺麗でしたが、好みではありませんでしたから、お断りしました」

 こんな場所でも、ハガルにどうにか取り入ろうとする貴族たちは、なりふりかまってないな。娘使って、ハガルを篭絡しようとするなんて。

 筆頭魔法使いハガルは女好きでも有名である。金で女を買うことを見習い魔法使い時から平然とこなしていた。今も、ちょっと時間があくと、どこかの店で女遊びをしている。

 俺とサリーの仲を貶すということは、ハガルに女をあてがおうとした貴族たちを貶すこととなるのだ。

 伯爵は真っ青になった。きっと、そういう企みをした貴族の中には、大物貴族がいるんだろうな。殺気がいっぱいだよ。

 すっかり立ち直った筆頭魔法使いハガルは、俺に向かって笑いかける。

「良かったです。ロイドも、やっと、過去を振り返るのをやめたのですね」

 俺は、発言を許されていないことを利用して、強く、口を閉ざした。








 舞踏会が終われば、次は移動行列である。侯爵家と男爵家は急いでもいないので、人が退くのを待っていた。

 その間、俺はというと、筆頭魔法使いハガルに捕まっていた。

「どうして、あんな子に見染められてしまったのですか」

「あの小娘、一体、なんなんだ?」

 人前では、ハガル、あんなにお祝いしたというのに、俺と二人っきりで密談となると、真逆である。

「あの娘は、とんでもない悪運の持ち主です。あらゆる悪運を引き寄せ、最後は彼女だけ、無事となる、天涯孤独の星を持っています。それなのに、親兄弟がいるということは、余程強い加護が近くにあるということです」

「そういう分野は、あんたにまかせるよ。それで、俺はこれから、どうすればいいんだ?」

「どうにもなりません。あなたとあの娘の縁が強固に結ばれています。ああいうものは、穏便に過ごさせるしかありません。下手なことをすれば、手を出した側が破滅します」

 つまり、俺はもう、逃げることは出来ない、ということだ。

「あの小娘、最後は天涯孤独になるんだな?」

「そうです」

「そうか。なら、丁度いい。俺はどうせ、生きていても、どうしようもないからな」

「………あなたは大事な実験体です。簡単に死なないように」

 心を許した相手には、ハガルは不器用だ。こんな言わなくていいことを言う。

 俺は簡単には死ねない。妖精憑きである兄の妖精が守っているのもある。ガキの頃から鍛えられているから、向かってくる敵は腕っぷしだけで撃退出来てしまう。なにより、潜り抜けた修羅場が多いから、一人で行動していれば、惰性で生き続けていられる。

 だが、サリーという得体の知れない存在の側にいれば、俺も死にやすくなるだろう。妖精の加護といったって、最低限のはずだ。神に与えられた悪運とやらも、妖精ではどうしようもないだろう。

 ちょっとした雑談程度で終わった。ハガルは一個人の問題に首をつっこむほど、お人よしではない。俺はさっさと退散しようとした。それをハガルは無意味に止める。

「ロイド、あなたは、大事な実験体です。きちんと生き抜きなさい」

「まだ、一か月か二か月後な。じゃあな」

 最後まで不器用な男だ。俺は軽く手を振って、筆頭魔法使いハガルと別れた。

 男爵家侯爵家の元に戻れば、順番待ちの貴族たちも随分と減っていた。さっさと城の外、王都の外に出しているのだろうな。残っているのは、まだ、話が残っている面々である。

「ロイド様!!」

 空気とか、そういうものを無視して、お嬢さんサリーは俺の腕にしがみついてきた。

「お前は、舞踏会に出たんだから、もっとこう、淑女になれ」

「ロイド様は、淑女が好みですか?」

「………妖精みたいな奴だな」

 ハガルに会ったからだろう。つい、ぼろっと出してしまう。忘れられない男は、妖精みたいな男だ。我儘で、気まぐれで、でも、情が熱く、たった一人の相手に身も心も捧げる、そういう男だ。

 そう言ってから、ふと気づく。

「そうだな、お嬢さんも、妖精みたいだな」

 サリーにも、妖精と似た部分がある。

 そう言われて、サリーは笑顔になる。

「では、結婚してください!!」

「ガキ相手には、そんなこと言わない。だいたい、身分が違うだろう。お前は貴族の令嬢、俺は、貧民だ」

「貧民だと!?」

 そこに、騒ぎを起こした伯爵の息子が割り込んできた。いたんだな、側に。

 伯爵の息子は俺を蔑むように見た。

「貧民がここに入ってくるなんて、許されることではない!! おい、誰か、貧民がいるぞ!!!」

 これでもか、というデカい声で叫ぶ伯爵の息子。

 さすがに貧民となると、周囲の視線は冷たくなる。俺はサリーから距離をとりたいのだが、サリーが離れてくれない。

「サリー、離れるんだ」

 さすがにサリーの兄がサリーを無理矢理、俺から離した。

 貧民と聞けば、衛兵がやってくる。城にそんな不審人物の侵入を許してしまったのだ。排除も素早いな。

 これもサリーの悪運だな。サリーだけは無事で、それ以外のものを排除するという、何かが動いたのだ。

「よく言った!!」

 伯爵は息子を誉めて、気持ち悪い顔をする。

「止めないか!!」

 それを止めるのは、騎士団副団長メッサである。

「しかし、貧民だと」

「その男は、ハガル様の客人だ。迂闊なことをするんじゃない」

「けど、貧民だ!!」

 伯爵が叫んだ。そう、結局は貧民なんだよ、俺は。

「こんな貧民にハガル様も騙されたんでしょう。帝国のためにも、さっさと捕縛するべきことだ」

 悪知恵が働くな。言われて、衛兵たちは納得して、前へと出てくる。だけど、メッサ、俺を庇ったままだ。

「メッサ、やめろ。お前はせっかく騎士になれたんだ。俺なんか、切り捨てろ」

「私一人でなったんじゃない。お前の兄がいなかったら、私は騎士にすらなれなかったんだ!!」

 事情は知らない。メッサと俺の兄貴は、古い知り合いだという。メッサは、兄貴に随分と恩を感じていた。

 それを聞いて、俺は笑った。

「貧民相手の恩なんか捨てろ。利用してやったんだ、ぐらいの気持ちを持たないと、上にあがれないぞ」

「今でも、上がり過ぎだと思っている。むしろ、下がったほうが丁度いい」

 メッサも不器用だな。もう、俺は笑うしかない。これで、サリーとの縁は切れた。

 だが、俺の周囲に迫った衛兵たちは、見えない何かに吹き飛ばされた。ついでに、無関係のメッサまで吹き飛んだよ。

「あ、間違えました」

 筆頭魔法使いハガルが、騒ぎで戻ってきて、魔法を使ったのだ。ハガル、吹き飛んでしまったメッサをなんと、伯爵親子にぶつけた。わざとだよ、それ!!

 メッサは騎士団にまともな方法で合格した男である。体躯だって、そこら辺の衛兵や私設の騎士とは比べられないほど立派だ。こんなのの下敷きになったのだ。伯爵親子も無事ではない。メッサの下で呻いていた。

「ハガル様ー、そんなー」

「城の中なので、細かい操作が難しいのですよ。せめて、メッサがロイドの体にべったりくっついていれば良かったのですけどね」

「どんな間抜けだよ!?」

「確かに」

 想像して、ハガルは笑う。そして、同じような想像をした俺とメッサは鳥肌がたった。いくら俺が男に想いを残しているといっても、男好きなわけではない。メッサとくっつくなんて、俺だってイヤだよ。

 メッサはすぐに伯爵親子の上からどいた。それでも、あんな巨体の下敷きになったのだから、伯爵親子はなかなか起きない。苦痛に呻きながら、俺のほうを睨んだ。そんな伯爵親子の目の前に、筆頭魔法使いハガルが立つ。

「私の友人の弟が、何か悪さをしましたか?」

「貧民が侵入したんです!!」

「だから、私の友人の弟が、どうかしましたか?」

「貧民が………」

「私の友人の弟です」

「………」

 ハガルは、決して、俺のことを貧民と呼ばない。わかっているが、それを口にしない。そうして、最強の後ろ盾が俺についていることを態度でも、口でも、示しているのだ。

「男爵家に堕ちた娘が、貧民を連れこんだんですよ!!」

 だが、諦めていない伯爵は、次にサリーへと飛び火させる。

 サリーは、父親に拘束されていた。あれだ、離したら、また、サリーが俺の元にやってくるから、大変なこととなっている。

 ハガルは、サリーたち家族には目も向けない。冷たい目で、伯爵親子を見下ろした。

「表沙汰にはなっていませんが、私の友人は、皇帝陛下の友人でもあります」

「ひ、貧民が、騙した、の、です、よ」

「私だけでなく、皇帝陛下まで貶める貴様には、貴族である資格はない」

 とうとう、ハガルの堪忍袋の緒が切れた。とんでもない怒りを含んだ声でいう。

「我々は、筆頭魔法使い様と皇帝陛下のことを思って!!」

「煩い煩い煩い煩い!! この豚をさっさと城から追い出せ!!! 久しぶりに気分よくロイドと再会したというのに、貴様のせいで、全て台無しだ。貴様、何様のつもりだ? 帝国最強の妖精憑きである私に対して、進言とは、神にでもなったつもりか!?」

 とうとう、怒りでハガルの魔法が発動する。

 筆頭魔法使いハガルには、裁判とか、そういうものは必要ない。無条件の生殺与奪の権利が与えられているのだ。

 ハガルを怒らせて、魔法の暴発で死人が出ても、罪に問われることはない。

 しかし、人がまだまだいるそこで、ハガルの魔法を暴発させるのは、悪手である。俺は仕方なく、親父から受け継いだ力を発動させる。

 俺の片目には、親父が持っていた妖精の目がつけられている。才能がない者がつけると廃人となる、とんでもない魔道具だ。だが、才能さえあれば、妖精憑きの力が手に入る。

 俺は妖精の目を使って、ハガルの暴走した妖精を盗った。

「ハガル様、落ち着いて」

 俺はすぐに妖精をハガルに返した。あんな化け物じみた妖精、いつまでも持っていたくない。

 俺に妖精を盗られて、ハガルはちょっと不貞腐れた。

「城じゃなかったら、勝ってました!!」

「あー、そうだね。もう、そんなに怒るなよ。俺はあんたの手足だ。悪く言われたって、気にするなよ」

「そ、そうだ。貧民の分際で」

「その姿でいう言葉じゃないな」

 俺はあえて、伯爵親子の情けない様を嘲笑ってやる。あまりの恐怖に、下半身が大変なこととなっている。臭うから、両方かー。

 まだ残っている貴族たちは、伯爵親子の様を見て、クスクスと笑った。これで、こいつら親子は、社交界では笑い者だろう。

「汚物が」

 さらに、筆頭魔法使いハガルが容赦なくいう。

「せっかくロイドが何度も機会を与えたというのに、お前たちは、何もわかっていませんでしたね。爵位を取り上げます。平民からもう一度、やり直しなさい」

「そ、そんなっ!? この貧民が嘘をついているのですよ!! 我々は、ただ」

「平民がここにいる。さっさと追い出せ」

 筆頭魔法使いハガルは帝国で二番目の権力者である。きっと、爵位を取り上げる権利も持っているのだろう。ハガルに言われて、衛兵は容赦なく、元伯爵だった親子を引きずって行った。

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