人気者は辛いよ
困った時は、次席ユナンくんに質問である。ほら、彼は上に兄姉がいっぱいいるという苦労人である。貴族の学校のことは、色々と知っているのだ。
「話では聞いてたけど、腕試し、本当にやるんだ」
「あれは、公に教師を攻撃出来るから、血の気の多い学生がよく参加しているよ」
「確かに」
教師って、清廉潔白な奴ばかりではない。時には、理不尽を絵に書いたような奴だっているのだ。差別はするし、依怙贔屓はするし、気分で単位を落とすことだってする。
さすがに、皇族様が通っているから、そんな恐れ多いことはしないけど。定期的に、監査も入るので、そういう教師は自然といなくなる。自然と、だよ。病気、とか、ちょっとした犯罪、とか、そういうのだ。
だけど、公に教師に攻撃出来るから、という理由だけで、この腕試しの大会を行うわけではない。これは、騎士の登竜門的なものだ。ここで上位に入ると、なんと、本物の騎士と対戦出来るのだ。もし、いい成績であれば、卒業後は即騎士である。実際に、過去、この大会で有償して、素晴らしい成績をおさめた学生が騎士に採用されたことがある。貴族の学校に通っている子息は全て、貴族になれるわけではない。次男は予備として残るが、それ以下は、平民となるのがほとんどだ。どっかの娘しかいない貴族家の婿養子になるか、城勤めになるか、騎士になるか、それしか、貴族として残る手段がないのだ。
騎士は帝国の花形である。魔法使いは生まれた時から決まっているが、騎士は努力でなれる。だから、貴族の学校の授業では、騎士向けの選択授業もあるのだ。騎士団だって、そこら辺のわけのわからない平民貧民よりも、氏素性がはっきりしている貴族の子息を騎士団にひきいれたほうがいい。何より、教育済みだから、即戦力となる。
というわけで、貴族の学校には、騎士になりたいから、と金を出して通う平民、実際にいるのだ。騎士になると、商売をやっている家にとっても、いい箔付けとなるという。実際にいるんだよな、平民の生徒が。
そういう話を次席ユナンくんに教えてもらって、俺は、「へーそーなんだー」と他人事である。俺には関係ないな。
そんな生返事をすると、ユナンが呆れた。
「ロイドはさ、もっと危機感を持ったほうがいいよ。この腕試し、ただやるわけじゃないんだ。文化祭の劇もそうだっただろう」
「ま、まさか、投票があるのか!?」
「あるよ」
「なんだそれ!!!」
本当に、おかしいよ。騎士になりたい奴らだけで、がっちゃんがっちゃんやってればいいだろう。
「この腕試し、学校だけでは収まらないんだ。一般人からも出場者用の予選が組まれるんだ」
「危ないだろう!!」
「だから、それなりの腕を持っている生徒が出場するんだ。無礼講といえども、貴族の子息を平民がコテンパンにしたら、後々、大変なことになるからな」
裏取引もされそうだ。大した実力はないけど、家の権力が強い貴族の子息は、金の力で勝ち進みそうである。
だから、最後は騎士との実践なのだ。騎士だって、不正は出来ない。何せ、王都民が見ているのだ。負けたら恥じだし、将来の出世はなくなる。お互い、必死だ。
そして、今回、公に賭博にもなっている。誰が優勝するのか、賭けるという。その胴元は、帝国なんだが、別に、商人とかが勝手にやってもいいとなっている。これもまた、娯楽だな。
「ロイドって、本当に、こういうこと、無知だよね」
「貧民街では、こういう話は出てこなかったんだよ!!」
知らないのは仕方がない。だって、貧民は生きるのに必死だから!!!
と言い訳をするのだが、ちょっとそれ関係の仕事をしたことはある。帝国は弱肉強食である。足の引っ張りあいが普通だ。
つまり、貧民を使って、有力選手同士の足の引っ張りあいに巻き込まれたことはある。そういう依頼、受けたことがあるよ。将来を嘱望されてそうな若者をダメにしたな。仕事だから、仕方がない。
あれも、これも、それも、そうだったのかー。不自然な仕事だなー、と思ったけど、疑問すら持たなかったな。ほら、仕事に私情は禁物だ。言われた通りにやるだけである。相手の家族とか、考えない。
「まずは、投票をぶち壊したい」
「生徒会の仕事だよね」
どうにか、不正で、俺の名前だけ消し炭にしてやりたかったが、後で筆頭魔法使いハガルにバレたら、もう日の目も見れなくなるから、諦めた。
俺は諦めない。月一回の身体検査で、筆頭魔法使いハガルと面談である。今は、リスキス公爵の血族サンセと一緒だ。仲良く検査って、変な感じだなー。
「そういえば、そんな催しがありましたね。毎年、開会式と閉会式だけ見ました」
帝国で二番目の権力者が顔を出すのって、最初と最後だけだよね。知ってた。
「ロイドは除くように、と学校には言っていませんでしたから、今回は後手になってしまいましたね。すみません」
泣きつく前に、無理だとハガルから言われた。えー、帝国で二番目の権力者だったら、いけるよ。
「今回は、サンセも参加すると聞いています。いいですか、サンセには負けないように。負けても、腕の一本は折ってやってください」
「聞こえてるぞ!!」
同じ空間で身体検査を受けているサンセが叫んだ。元気だな、サンセ。
「王国と帝国って、大した違いがありませんね。妖精の目も良好です」
ハガルの助手になりきっている俺の母サツキは、笑顔でサンセから取り出した妖精の目をいじっている。そうか、こういうふうなんだ。えぐいな。
「まさか、サツキ、人ですらなかったとはなー」
俺と同じ実験体となって、やっと、リスキス公爵の血族サンセは、母サツキが義体に憑いた幽霊であることを知った。最初は、触ったりして、感触で確かめたりしたんだよなー。途中で、サツキにぐーで殴られたけど。調子に乗り過ぎだ。
身体検査が終わると、やっと俺は自由だ。サンセは、体のあちこちを確かめながら席から立つ。
「王国の威信にかけて、帝国民を倒してやる」
「戦力にならない帝国民を倒されても、痛くも痒くもありませんけど」
「ロイド、見てろよ。王国では盗賊狩りを散々したからな。あまりにやりすぎて、俺を見ると盗賊が逃げ出すほど、有名になりすぎたんだ。期待しているぞ」
「そんな自慢やめろーーーー!!!」
こいつも、問題あるな。盗賊狩りって、相手が犯罪者だから許されるが、場合によっては、やり過ぎで、サンセが暗殺されるよ。
しかし、サンセは、最強の武器である妖精の目を手に入れてしまった。俺の体を使って、散々、改良された妖精の目である。こんなやんちゃな奴に、与えてはいけない代物であった。ハガルもやっちゃったなー。
地下から一階に戻り、いつもの応接室に行けば、誰かが用意しただろう茶と菓子である。
「ロイドのは、私が用意しますね」
そして、俺の分は、その場で処分され、ハガルの手で新しく淹れられる。
「俺の分は?」
「その冷めたのを飲んでください」
王国の賓客であるリスキス公爵の血族サンセには冷たいハガル。酷い!!
サンセは凶悪に笑って、冷めた茶を一飲みである。冷めても美味しいんだよな、それ。だって、ハガルが淹れたヤツだから。
サンセが菓子をもりもりと食べている向かいに、母サツキは座って、資料をめくった。
「サンセは、使い心地、どうですか? 改良版ですから、夜の勝手な発動は出来ない仕様となっています」
「夜は勝手に発動するのが、普通の仕様みたいな言い方だな」
「そうですよ。夜は人って、無防備になりますよね。だから、妖精の目は夜、勝手に発動して、野良の妖精たちの力を借りるのです」
「そうなの!?」
俺は初めて聞いた。てっきり、そういう欠点かと思ったら、そういう仕様にされていたのか。
「妖精の目が発動時、光るのもそうです。光ることで、発動の視認をするためです。ただの人には、正常に発動しているかどうか、わかりません。だから、あえて、光らせただけです」
「ただの人に発動をわからせて、どうするんだよ」
「魔道具魔法具を実際に製造修理をするのは、そのただの人ですよ。妖精憑きでも、それなりの才能がないと出来ません。その才能だって、百年の才能以上ですよ。改良だって、ハガルでさえ手がけられない部分がありますから、わたくしが手がけています」
「なんだ、ハガルも万能じゃないんだな」
「万能ではありませんが、教えれば、出来るようになります。それが、千年の才能です。甘く見ないように」
笑えないサンセ。現在、ハガルは、母サツキから色々と教えられているのだ。こんな化け物に、いらん知識を植えこむなんて、恐ろしい。
「なあ、俺にも教えてくれよ」
俺だって出来るのだから、と母サツキに頼んでみた。
「ロイドはいりません。貴族になりたくないのでしたら、これ以上、知らなくていいことです」
「けど、さすがに」
俺も、母サツキと同じく才能持ちだ。
俺と、次兄ルキエル、母サツキは、道具作りの一族の才能を受け継いでいる。元は、貴族として、領地を治めなければならないのだ。しかし、長い歴史で、その役目を忘れた一族に裏切られ、道具作りの血筋でない家族にお家乗っ取りをされた母サツキは、その役目を放棄した。そのせいで、領地は今も酷いこととなっている。領地は、道具作りの才能持ちが邸宅型魔法具を動かさないと、不毛地帯になっていく、というとんでもない仕様なのだ。それを忘れて、母サツキを追い出したのだから、領民も、一族も、自業自得である。
次兄ルキエルは、母サツキから唯一の教育を受けたと言われる。どういうものなのかは、知らない。しかし、ルキエルは今も、海の貧民街で、帝国中にある壊れた道具を集めては、修理している。
俺も出来るんだ。実際、下手だけど、組み立てたり、ちょっとした修理は出来る。だけど、それだけだ。母サツキのように改造が出来るわけではないし、次兄ルキエルのように修理して図面を作成できるわけではない。
「俺も、ちょっとは手伝いたいとは思ってるんだ」
才能があるのに、知識とかがないので出来ないのが、我慢ならないのだ。
「ほら、ハガルが虎視眈々と、あなたを貴族にしようと狙っていますよ」
「やめてぇーーーー!!」
そうだった。ここで、俺が母サツキから色々と知識と技術を引き継ぐということは、貴族になるということである。それだけは、断固拒否だ。
ハガルは、ニコニコと笑っている。
「ぜひぜひ、サツキから全て引き継いでください。いつでも、貴族の席を空けて待っていますからね。一緒に、帝国のために、暗躍しましょう!!」
「暗躍って言った!!」
絶対に表に立たせないつもりだ。猶更、悪いよ。
「ハガル、約束したではありませんか。私の子どもたちは、貴族にしません」
「才能と資格があります。こういうものが孫の代で誕生すると思っているのですか?」
「常に、一族も監視してください。妖精憑きが誕生した、ということは、才能持ちも誕生します。それが、どこの子として誕生するか、わからないのです。私の血筋だけとは限りませんよ。皇族と同じです。ある日突然、どこかで誕生するものです」
「そうですね。そこは神の判断ですからね」
いざとなると、神さまである。ハガルは神さまと交信が出来るというから、誰よりも、神を信じている。
だからこそ、才能持ちを貴族に戻そうとしているのだ。
「ロイドは予備ですよ。人はちょっと目を離すといなくなります。ラインハルト様も、私を可愛がってくれた宰相、大臣たちも、もう、いなくなりました」
ハガルにとって、ただの人は儚い。俺は妖精憑きの力を使えるが、妖精憑きではない。魔道具によって、魔法が使えるだけである。その体は、ただの人だ。
「さて、誰の子が、才能持ちとなるか、監視を強めましょう。ロイド、いくらあなたが拒否しても、子は作らせます。私だって、無理矢理、子を作らせること、出来ますからね」
まさか、俺がハガルに言われちゃうなんて。俺は黙り込んだ。
普段は、俺が皇族セキラに言っていることだ。セキラは大の女嫌いだ。だけど、セキラは絶対、跡継ぎを作らないといけないのだ。俺は、そういう仕事もしたことがあるので、出来るのだ。
いつか逃げよう。俺は無駄な抵抗をした。だけど、不可能ではない。俺は目の前で平然とふんぞり返っているリスキス公爵の血族サンセを盗み見る。王国に逃げ出す手段が、俺の目の前にあるのだ。不可能ではない。
生徒会って、暇なわけではないんだが、お祭り騒ぎは地味に忙しい。投票結果とかを集計するのも生徒会役員である。
「ロイドは決定だな」
生徒数の半数が俺になったので、生徒会役員は投げ出した。燃やしたい。
「き、棄権は」
「体調不良とか、不慮の事故とかで、そういうこと、過去にあったな」
あるんだ!! きっと、そういうことを依頼でやったこと、俺もあるな。ということは、俺もそういう危険な立場ということだ。
ちょっと期待したが、役員全員が冷笑である。
「ここまで票を集めたんだ。誰もロイドの足を引っ張らないだろう」
「見たいよな、王国の盗賊殺しの貴族サンセ様との対戦」
とんでもない悪名だな、リスキス公爵の血族サンセ!! 実際に、王国では、有名な悪名であるという。それが、船を渡って、帝国でも広まったのだ。ほら、貴族の学校の臨時講師となったんだ。皆、興味ある。
「教師も、投票で決めるんだな」
そして、野次馬で参加するリスキス公爵の血族サンセ。ほら、教師も投票で強制参加を決めるのだ。ほら、恨みのある教師を選手にしてやろう、と生徒たちは考えるのだ。公開処刑できるからな。
「サンセ様も大人気ですね」
「やはり、ロイドとの対戦を皆、期待していますよ」
「こんな投票しなくても、私は出場宣言しているのにな」
「人気投票も兼ねてますから」
「私の票が多いのは、帝国側にとっては良くないだろう」
「いえいえ、この投票には不正が許されませんので」
「あ、校長がありますよ」
「なんで!?」
冗談票もあるんだな。校長は不参加だってのに、いれる生徒がいるのだ。
そんな談笑をしながら、票のまとめである。
「もう、俺の票は数えなくていいと思う」
燃やしたい。内心では、出てきた票全て、燃やしてやりたい。
「正確な得票数を発表するからね。今年は、記録更新しちゃうかもね」
「そんな更新やめてぇええええーーーーーー!!」
燃やしたい!! 今ほど、筆頭魔法使いハガルの消し炭の気持ち、理解出来る。消し炭にしてやりたいよ!!!
賑やかにそんな作業をしていると、ふと、サンセが止めて、ジーとお嬢さんサリーを見る。つい、俺は体を使ってサリーを隠す。
「サンセ、サリーお嬢さんに変な目を向けないでくれ」
「友人の婚約者だから、そんな間違いはしない」
「婚約者、違うから!!」
「嫉妬してくれるのですね!! 嬉しい!!!」
婚約者を否定しても、サリーは違う面で喜んでいる。もう、それでいいよ。面倒臭くなった。
俺に抱きついて喜ぶサリー。俺はちょっと距離をとりたくて、離した。
「サリーお嬢さん、体も育ってきたから、距離とって。間違い起こしたら、大変だから」
「わたくしは構いませんから!!」
「俺が構うよ!!!」
「在学中の妊娠出産は問題ないんだな。過去も普通にあった」
どうしよう、周りは俺の敵だ。味方が一人もいない。サリーはさらに俺に体を密着させてきた。うわ、柔らかっ!!
教師たちが俺の肩を叩いた。
「過去には、教師と生徒、というのもあったよ」
「結婚してしまえば、問題ないから」
「若い子に手を出しても、ほら、貴族は跡継ぎ大事だからね」
「元気な男子だったら、逆に感謝されるよ」
「君は、上の覚えが目出度いから、誰もが歓迎するだろう」
逃げ道なんてないよ。こいつらまで勧めてくるって、どんな腐った教師だよ!!
「女は出産が仕事というのが一般的だからな。子産めない女ほど惨めなことはないよ」
何か、思い当たることがあるのだろう。教師の誰かがそんなことを言った。
そして、全員がうんうんと頷く。
「誤魔化されるか!! それとこれとは話は別だ。俺は絶対に逃げてやるからな!!!」
どんなに周囲を囲まれようとも、俺は負けない。全員を振り払って、集計の手を動かした。ちくしょー、また俺の名前だ!!
そうやって、投票も、俺とリスキス公爵の血族サンセの一騎打ちとなった。サンセのやつ、俺と同じく生徒の半数の得票数だよ。サンセはいいんだよ、どうせ出場するから。
「もう、開票したの、燃やしていい?」
俺は証拠隠滅しくなった。燃やしたい。残っていなかったら、票数を操作できる。
「最後は重さを量るんだ。そのために、分けてるんだよ」
そうかー、箱まで置いて票を分けてるのって、そういう目的なんだー。
票数の誤魔化しがあるといけないから、最後は、公衆の面前で測定だという。とんだ公開処刑だな!!
貴族の学校って、平和だな。心底、そう思った。




