凶星の申し子の玩具
禍々しいものが湧きあがってきた。ドアはなくなり、そこには、気持ち悪い椅子が出来上がった。
「ロイド、こっち」
何故か、子どもは俺の手を引っ張る。俺は、この子どもには抵抗できない。嬉しい、また、会えた。歓喜しかないのだ。
最初、子どもがその椅子に座って、俺に手を広げる。だけど、すぐに椅子から降りて、俺を椅子に座らせた。
音は気持ち悪いままだ。だけど、ちゃんとした曲が邸宅から流れる。俺はただ、座っているしかない。そんな俺の膝に子どもは座る。
「ロイド、すっかりでかくなったな。もう、俺の膝には収まらないや」
「にいちゃん」
「ほら、ガラクタの行進だ!!」
子どもが笑って手をふるうと、何もない地面が盛り上がり、気持ち悪い義体が出来上がった。それが、歩いて、恐怖で動けなくなった魔法使いハサンに襲い掛かったのだ。
「な、何を」
「あいつ、俺の弟に呪いをかけようとした、悪い奴だ!! 痛めつけてやれ!!!」
俺や母サツキでも、結局、手も足も出なかった魔法使いハサンを気持ち悪い義体たちが殴って、蹴ってとしている。
ハサンだって、抵抗している。だけど、数の暴力だ。しかも、あの義体は、操られているわけではない。
黒い涙を流しながら、妖精憑きにしか聞こえない声を叫んでいる。
『助ケテ』
『モウ、帰リタイ』
『自由二、ナリタイ』
『イツマデ、ココニ?』
『苦シイ!!』
怨念の塊だ。あれらは、やりたくもない。かといって、逆らえないのだ。
この禍々しい姿となった邸宅の主となった子どもに逆らえない、奴隷だ。
「ルキエル、こんなこと、やめなさい!!」
母サツキは子どもを抱き上げる。生身だったら出来なかったが、義体だから、子どもを抱き上げられたのだ。
「離せよ!! 母ちゃんは、レーリエットの面倒でもみてろ!!!」
「こんなこと、止めなさい!! これは、呪われた所業です!!!」
「うるさい!! 俺はいい兄になって、誉めてもらうんだ!!! ロイドをいじめたアイツを痛めつけて、いい兄をするんだ。そうして、約束を守ってもらうんだ!!!!」
「誰の約束ですか!?」
「マクルスだ。マクルスは、いい兄になれば、俺と遊んでくれると言ってくれた。名前を読んでくれると言ってくれた。俺を特別にしてくれると約束したんだ!!!」
ちくしょー!!!! 腹が立った。次兄は、随分昔に死んだ貴族に縛られていた。母サツキの腕の中で泣きながら抵抗して、子どもは地面に降り立つ。
力の強い妖精憑きは執着も強い。次兄ルキエルは、幼い頃に可愛がってくれた伯爵マクルスに強い執着を持っていた。それは、大人になって、その身を捧げるほどの執着となった。
愛とか恋とかではない。次兄ルキエルは、伯爵マクルスに縋っていたのだ。幼い頃、唯一、手を差し伸べてくれた大人、それがマクルスだ。大人になっても、その執着が捨てられず、縋った。結果、本当の意味で、ルキエルはマクルスに全てを捧げたのだ。
本来、伯爵マクルスは、もっと昔に死ぬはずだったという。寿命が足りなかったのだ。それを延命したのが、次兄ルキエルだ。本来、五百年ものある寿命をルキエルは、伯爵マクルスに捧げたのだ。そうして、延命し続け、ルキエルは、人並の寿命となった。
「ロイド、どうして泣いてる? 悪い奴、今、痛めつけてるぞ」
俺は泣いていた。情けないことに、我慢できなかった。悔しかったんだ。次兄ルキエルの行為は、俺のためじゃない。とっくの昔に死んだ伯爵マクルスとの約束だ。
「おい、どうして、ロイドは泣いてる? お前、ちゃんとロイドを守ってなかったのか!? まさか、また、俺を裏切ったのか!!!」
そして、苛烈に怒り、俺のすぐ横を見上げた。その途端、俺の横に、禍々しい妖精が顕現する。
『お前の家族を守った。あの呪いをかけようとした妖精憑きも殺した。痛み全て、防いだ』
子どもの前に膝を折って、深く頭を下げていう禍々しい妖精。だけど、子どもの怒りは収まらない。
「お前たちは裏切る。母ちゃんを死なせたのも、お前たちだ。マクルスから俺の記憶を消したのも、お前たちだ。二度も裏切った。二度も裏切ったお前たちを信じれるわけがないだろう」
『それは、ルキエルのために』
「俺のためじゃない。お前たちは、俺の神から与えられた役目のためにやったんだ。嘘つきめ」
憎悪を込めて子どもは見下ろし、吐き捨てる。
「ロイドがこんな危険な目にあっているのも、お前たちの企みだろう。そうして、俺に力を取り戻させようとした。俺のためじゃない!!」
そして、泣いて、叫んだ。
裏切られてばかりの次兄ルキエル。妖精憑きにとって、一番、信頼していたのは、一緒に誕生した妖精だろう。ルキエルは、その妖精から裏切られたのだ。これ以上の絶望はないだろう。
「ルキエル、ごめんなさい!!」
母サツキがルキエルを後ろから抱きしめた。
「ルキエル、わたくしもあなたに甘えていました。あなたは、手がかからない子でした。面倒見のいい兄なので、つい、甘えてしまったのです。あなたは、立派な兄です!!」
「本当?」
母サツキに笑顔を向ける子ども。サツキは泣き腫らした顔で頷く。
「ええ、あなたは立派な兄ですよ。世界で一番の立派な兄です。だから、もう、いいのですよ。これは、とても怖い力です。解放してあげましょう」
「………せっかくの玩具だけど、ロイドが怖がってるし、捨てよう」
子どもがそう言えば、また、世界が反転した。
魔法使いハサンを攻撃していた義体たちは、動きを止めた。空を仰ぎ、そして、透明な涙を流した。
『自由ダ』
『ヤット』
『終ワッタ』
そして、キラキラとした輝きを放つと、義体はものすごい音とたてて倒れて、動きを止めた。
「ルキエル………なんて、素晴らしいことを!!」
母サツキは子どもを高く抱き上げた。最初、不貞腐れていた子どもは、高く抱き上げてもらって、笑った。
「母ちゃん、弱いんだから、無茶するなよ」
「義体ですもの、これくらい、簡単ですよ。それにしても、どうして、こんな姿に」
サツキは子どもを抱き上げたまま、座ったまま呆然となっている俺の元にきた。
「ルキエル兄、なのか?」
あらためて、俺は、子どもに問いかけた。そうだと思うのだが、その姿が子どもだから、自信がなかった。
「そうだぞ。けど、お前が大好きなほうじゃないけどな。俺は、お前をいっつも怖がらせてばっかりだからなー」
「誰?」
「俺もよくわからない。こいつ、俺のこと、凶星と呼ぶんだ」
膝をついて項垂れる禍々しい妖精のことを憎悪を込めて見下ろす。禍々しい妖精、妖精だけでなく、妖精憑きまで殺したというのに、子どものルキエルの前では、震えている。
「ルキエル、本当にすごい子!! まさか、あの大昔、帝国がやらかしてしまった負債を解放してしまうなんて」
「どうせ、あれで俺に何かやらせようと、神が企んだんだろうな。悪戯が過ぎる。お前たちも、諦めろ。俺はもう、何もしない」
『そ、そんな』
禍々しい妖精は、子どものルキエルに縋りつこうと手を伸ばす。しかし、それをさせまいと、母サツキはルキエルを抱いたまま、離れた。
「お前たちは、もっと、俺の好きにさせるべきだったんだ。なのに、母ちゃんを俺から取り上げ、マクルスの記憶を奪った。お前たちが余計なことをしたから、俺はさらに寿命を削って、もう、死にかけだ。お前たちはただ、俺の願いをかなえるために動けばよかったんだ」
『あの男に、百年の寿命を捧げたじゃないか!?』
「たった百年だ。それに、取り戻すことは出来たんだ。この邸宅型魔法具を反転させれば、逆のことが出来た。これは、表向きは、生命力を与える装置だが、反転すれば、生命力を奪う装置だ。たかが百年、簡単に取り戻せたんだ」
『そ、そこまで』
「裏切るような妖精は、どうせ、邪魔になる。なのに、お前たちは散々、邪魔して。俺のためじゃない。神のためだ。それで、失敗したんだ。バカめ」
『うう、ううううう』
むせび泣く禍々しい妖精。子どものルキエルは容赦ない。
「もう、母ちゃん、離せよ」
「もっと、抱きしめてあげたかったんです!! 後悔しています」
「もう、そんなガキじゃないよ。ほら、離せって。俺よりも、ロイドを抱きしめてやれよ。こいつ、母ちゃんのこと、本当に覚えてないんだ。可哀想だろう」
こんな恐ろしい所業を平然としているのに、子どものルキエルは、大きくなった俺を優先する。それに、俺はまた泣いてしまう。
「ほら、ロイドが泣いて、って、母ちゃんまで。泣くなよ!!」
「にいちゃん」
俺は、母サツキごと、子どものルキエルを抱きしめる。
俺とサツキに抱きしめられ、子どもルキエルは恥ずかしがったが、すぐに、嬉しそうに笑って、サツキの胸に顔を寄せた。
俺と母サツキが落ち着いた頃には、全て、元通りだ。あの禍々しい邸宅だったものは、元に古びた邸宅に戻っていた。
酷い傷だらけであった魔法使いハサンは、次兄ルキエルによって、綺麗に治されていた。傷は治ったが、ハサンは意識おを失ったままで、動かなかった。
「こいつもバカだなー。ロイドに呪いをかけたって、全て返されて失敗するってのに」
「ルキエル兄」
「あの古い玩具は全部、処分した。母ちゃんも、いい加減、天に上れよ。俺はもう、帰るから」
「待って、ルキエル兄!! もう、俺の前に出ないって、言ってたじゃないか!?」
次兄ルキエルは、二度と、俺に会わないと言っていた。
ルキエルに会いたいヤツは大勢いる。だけど、ルキエルは一度、会うも、二度と、その姿を見せなかった。
なのに、俺の前に、また、次兄ルキエルは姿を見せて、助けてくれた。
「本体は海の貧民街だ。会ってない」
「どういうこと?」
「お前なあ、壊れてるといっても、義体を持ってるのは、悪いことなんだぞ」
「ま、まさか」
「これ、お前が隠し持ってた義体だよ。悪い奴だなー。さっさとハガルに渡すんだぞ。謝れば、ハガルは許してくれるからな。じゃあな」
「待って」
待ってくれない。瞬間、子どものルキエルだったものは、ガラクタになった。がしゃんと音をたてて、義体は倒れた。
あれほどの所業を目の前にされたというのに、次兄ルキエルはあっけなく去っていった。残された俺と母サツキは呆然となるしかない。
「な、なあ、ここって、一体、何なんだ?」
わけがわからない。この場所が一体、どこなのか、俺は知らない。ただ、母サツキの読み通りの場所に、魔法使いハサンは俺を連れて行ったということだ。
「ここは、伯爵領の心臓といっていいでしょう。昔、帝国は、義体で悪さをしたのです。そのため、あのような呪われた義体が残ってしまいました。このような所業は、道具作りの一族の責任でもあります。道具作りの一族が止めなければいけませんでした。それを反省して、あの義体たちをここに封印して、慰めたのです」
「慰めたって」
「本来、義体は戦争の道具に使ってはいけないものです。ですが、あの義体に妖精を縛り付けて、妖精たちに無理矢理、悪行をさせたのです。悪行によって、義体に縛られた妖精たちは穢れてしまいました。憎悪と悲しみに暮れる妖精たちを慰めるため、この邸宅は演奏の道具にしました。綺麗な音楽で、可哀想な妖精たちの心を慰めたのです」
「だけど、ルキエル兄は反転させた」
「仕方のない事なのです。善と悪は表裏一体。逆の作用をどうしても作らなければなりませんでした。それが、反転です。いつか、あの呪われた義体が解放される時、この反転も役目を終えることとなっていました。しかし、そのために、膨大な時間が必要でした。わたくしの代でも、呪われた義体の解放は、やっと半分です」
「わかってて、捨てたのか、これを」
「はい、捨てました」
責められない。母サツキ一人で背負わされていたのだ。
話を聞けば、大昔は、一族というだけあって、道具作りの才能持ちはたくさんいたのだ。そのたくさんの才能持ちで支えていた。だけど、代を重ねるごとに、どんどんと才能持ちは減っていった。そして、とうとう、母サツキ一人だけとなってしまったのだ。
まだ半分残っているという呪われた義体。それを裏切られ、孤独に戦っている母サツキが捨てたって、責められない。領地が滅茶苦茶になっても、それは、仕方のないことだ。まず、才能持ちがいないのだから、領地ごと、滅んでしまえばいい。男爵マイツナイトのいう通りだ。
「ですが、結局、ルキエル一人で、全て、解放されてしまいました。もう、この邸宅の反転は必要ありません。さあ、ロイド、鍵を閉めましょう」
母サツキは、あの禍々しい鍵を持っていう。
「こんなの、なんで、ルキエル兄が持ってたんだ?」
「作ったのですよ。道具作りの才能持ちなら、出来ます。わたくしは、ルキエルに全てを教えましたからね」
「そんなこと、ルキエル兄は、知らないみたいだけど」
次兄ルキエルは、道具のこと、あまり知らないようだった。知らずに、道具を修理していた。
「今思えば、わたくしも、あの禍々しい妖精たちに操られていたのかもしれませんね。あんな子どもに、こんなことを教えたって、理解できるはずがありません。なのに、何故か、わたくしは絵本を読むように、ルキエルに教えていました。わたくしが教えたのは、きっと、凶星のほうです。妖精憑きのルキエルではありません」
「………そっか」
ずっと、次兄ルキエルは、凶星の申し子としての役割に振り回されていたのだ。
「これで、やっと、道具作りの一族の役割は終わりか」
「ですが、才能は必要です。いつか、帝国に保護された、才能持ちがここを治めるでしょう。そうするべきなのです。この領地は、道具作りの一族が、道具を作るために、帝国から支配の許可を得た領地です。ただの人には、手に余ります」
「俺はならない」
「わかっています。あなたではない、誰かですよ。わたくしからも、ハガルに言っておきますね。ロイドは、貴族に向いていません、と」
「なんだそれ!?」
役立たずみたいなこと、母サツキに言われた。いくらデキの悪いっていったって、息子にいうことじゃないだろう。
母サツキは笑う。その笑顔は、母親だった。
俺は筆頭魔法使いハガルの前で土下座していた。ハガルは、ソファに座って、腕を組んで、素顔で怒っていた。
「まさか、あんなにいっぱいの義体の部品を発見して、隠しているなんて!!」
「ごめんなさい」
「義体は、壊れていても、帝国の所有物なんですよ」
「すんません」
「昔、義体を使って悪さをされたんです。それをさせないために、帝国は義体を回収しているのです。それを組み立てて遊ぶなんて」
「もう二度としません」
「まあ、反省しているからいいでしょう。義体の部品全て、私に差し出しましたし、許してあげます。ライホーンにも内緒にしてあげますよ」
「ありがとうございます!!!」
最後の言葉が泣くほど嬉しい。ライホーンに黙ってもらえるのが、一番、嬉しかった。他はまあ、ハガル、優しいから、許してくれるんだ。
俺は次兄ルキエルに言われた通り、義体の部品全てをハガルに差し出した。ハガルを無理矢理、海の貧民街に連れて行って、地下迷宮から集めたガラクタを見せたのだ。ハガル、それらを見て、呆れていた。怒らなかった。
今だって、怒っていない。怒ったふりをして、俺に反省を促しているだけである。そうしないといけない立場だからな、ハガル。
「ロイドだから許してあげます。他だったら、反省しなかったら、許しません」
「反省するなら、許すんだ」
「反省したら、もう二度と、しないでしょう。だから、許します」
筆頭魔法使いハガルは優しい。色々と恐ろしいことをしているが、きちんと理由があってのことだ。自分勝手に行っているわけではない。我儘と言われがちだが、その我儘にも理由がある。ご機嫌取りをされているわけではない。ハガルを理由に、邪魔な者を排除しているだけだ。
だけど、俺は、いっぱい悪いことをしている。謝っているが、同じことを繰り返しているのだ。反省していない。それでも、ハガルは俺を許してくれる。
「今回は、いいでしょう。裏切者を炙り出してくれましたし。ハサン、もう、処分してしまうか。予備とするには、お粗末すぎる」
「やっぱり、俺をエサに使ってたのか!?」
手を出すな、大人しくしてろ、と言ってたくせに、やっぱり、俺を利用して、魔法使いハサンの所業を炙り出したのだ。やっぱり、俺は利用されてんだよ!!
「魔法使いを育てるには、それなりのお金がかかっているのですよ。おいそれと処分するわけにはいきません。理由をきちんとしないと。ですが、今回は見逃すこととなりました」
「どうして!?」
「ルキエルが、ハサンの記憶を改ざんしました。あなたとハサンは円満にお別れしたこととなっていました。本当は、ハサン、ロイドを監禁して、ルキエルの血族を呪い殺そうとしたくせに、まるで大人として落ち着いた対応したような顔をしていましたよ」
真実を知っているだけに、ハガルはハサンから聞いた報告を嘲笑った。
「なあ、一つ、疑問なんだけど、妖精は妖精憑きを殺せないという話だよな。けど、ルキエル兄の妖精は、妖精憑きを殺した。やっぱり、凶星の妖精だからか?」
答えは知っていた。そうだろう、と俺は思っていた。だけど、確認のために、ハガルに訊ねた。
「それ以前に、ルキエルの血族には、妖精の呪いの刑は発動しません。そんなことされたら、凶星の申し子が死んでしまいます。だから、逆に返されるのです。皮肉なことに、サツキの父親の血筋には、妖精の呪いの刑は出来ません。だから、今も無事なのですよ」
「それじゃあ、まさか」
「ハサンがサツキの父親の血筋に命をかけて妖精の呪いの刑をしたって、無駄死にです。そこのところは、残念です。見たかったのに」
「おいおい」
「百年の才能の妖精憑きと凶星の申し子の戦いですよ。見てみたいじゃないですか。どうせ、ハサンが無駄死にするのですけどね」
酷いな!! ハガルは、ハサンとそれなりの付き合いのはずだ。それなのに、ハサンのこと、掃いて捨ててしまえるほど、軽い扱いである。俺はもう少し、ハガルとの付き合い方を考え直そう。
しかし、ハガルなりに、ハサンの所業は納得いかないのだ。
「あの男、私には、スーリーンの扱いを責めたのですよ。閉じ込めて、囲って、可哀想なことをしている、と。なのに、ハサンは、恋人が別の男と結婚して子を為したこと、許せないのですよ。許せなくて、サツキの父親の血筋を根絶やしにしようなんて、ハサン、私のことを責める資格なんてありません」
「そ、そうだな」
確かに、どっちもどっちだな。ハサン、ハガルのことを悪く言っちゃいけない。
「ハサンはそのうち、ルキエルが望む通りの処分をしましょう。しばらく、生かしておいてあげます。どうせ、ハサンはもう二度と、サツキの血族に手出しできないように、洗脳されています」
「凶星は、そんなことも出来るのかよ!?」
「復讐心を消されました。ハサンには、二つの目的があります。一つは、恋人である女伯爵カサンドラの復讐です。そして、もう一つは、姪の幸福です。復讐心が消えたハサンに残されたのは、姪の幸福です。もう、ロイドたちには何もしないでしょう」
これで、万事、解決なんだが、引っかかる。
「あの魔法使い、どういう処分をされるんだ?」
次兄ルキエルが望む処分をハガルはするという。想像がつかない。
「ルキエルが望むことは、伯爵マクルスの願いを叶えることです」
「もう死んだ」
「ですが、伯爵令嬢サツキの復讐は終わっていない」
「………そんな」
復讐なんて、誰も望んでいない。もう、母サツキの復讐は終わったんだ。復讐を想い続けるのは、ただの人には不可能だ。
しかし、力のある妖精憑きは可能だ。執着を強く持つ対象である伯爵マクルスのため、ルキエルは、ハサンの身柄を捧げるのだ。そのために、ハサンの記憶を改ざんした。
「どうしてほしいか、ルキエルは手紙で伝えてくれるでしょう。楽しみです」
ハガルは、友達であるルキエルの手紙を待っていた。




