皇族様にはくじ運は必要ない
長期休暇が終わるとすぐ、試験である。休み明けって、だいたいの生徒はだらけている。半分、眠そうだ。きっと、遊んでいたりしたんだな。
俺は常に規則正しい生活である。早朝に起きて、護衛しっかりして、夜中にはちょっと中央都市の貧民街に行って、と規則正しく、忙しい毎日である。護衛だから、休みなんてないよ。ついでに、勉強する時間もなかったな。
だけど、次兄のお陰で、試験は普通に解ける。長期休暇前と、長期休暇後の試験の結果で、クラスが決まるという。教師も大変だなー、数日で結果を出さないといけないから。
少しの間は、入学試験の結果で振り分けられたクラスだ。仲良くしてるけど、入れ替わったりするんだって。ほら、入学試験はまだ、簡単なんだ。入学後からが本番である。
「来年からは実技も入るから、そっちのほうが大変だ」
一年次席ユナンがぼやいた。筆記試験よりも、そっちのほうが憂鬱そうだ。
「二年からは、男子は剣術と体術が必須だったな。体動かせるのはいいなー」
俺は正直、椅子にずっと座っている、今が苦痛だ。護衛なんだから、廊下で立っていたいな。体が鈍りそうなんだよな。
「ロイドは、実技は完璧で羨ましい」
「社交のマナーのほうが重要視されるけどな。体術と剣術なんて、お遊戯だよ、お遊戯、適当にやっとけばいいって」
実際、見てみたが、体術と剣術はもう、あってないようなものである。とりあえず、怪我しないように、という感じだ。真面目に騎士目指している人たちは、その熱量が違うけどな。
試験も終わったので、そんな無駄話をして、帰る準備をしていた。
「成績には関係ないけど、文化祭があるよなー。毎年恒例のあれは、どうなるのやら」
「毎年恒例?」
俺は貴族の学校の行事に詳しくない。何せ、知識の元は幽体となった母サツキである。母サツキは、生徒会主催の舞踏会前に、生家から追い出されているから、その後がない。
侯爵マキラオとかに聞けばいいのだが、面倒臭くて、聞いていない。どうせ、通っていればわかるだろう、と思ったからだ。
だが、毎年恒例、となると、俺はイヤなものを感じる。
「どこの学校でも、毎年、不幸な伯爵令嬢サツキの何かをするんだ。演劇でも、朗読会でも、何でもいいんだ」
「そんなの、誰が決めたんだよ!?」
「あれだけ有名だからな。今の貴族は、伯爵令嬢サツキのことを知らないのは恥だ。そうならないために、あえてやるんだよ」
「それ、どこがやるんだ?」
「どの学年がやるか、生徒会役員がくじ引きで決めるんだよ」
「えー」
これはまた、とんでもない話だ。くじ引きだから、恨みっこなしだが、これはこれで、大変だ。だって、きっと、二年連続、とかあるだろう。一度やったから、なんてことは許されない。今年やっても、きっと、来年もくじ引きをさせられるのだ。
絶対、生徒会役員は恨まれるな。本当に、生徒会役員って、損ばっかりだよ。
「今年、一年がなったら、ロイドは間違いなく、騎士役だな」
「こんなガラの悪い騎士はダメだろう」
「貧民出なんだから、まさしく、適役だろう」
「いやいや、現実そのまま持ち込んじゃだめだろう。だいたい、台本では、こんな乱暴なセリフなわけないだろう」
俺だって、演劇とか見たことがある。貧民出の騎士としているが、こんな乱暴な口調ではない。
「それはそれだ。その身から出る貧民出の雰囲気で、頑張ってくれ」
「もう、一年がやるの決定みたいない言い方やめてぇー!!」
なんか、そうなりそうで怖いよ。
しかし、配役は、ちょうどいい感じに揃ってるな。本物の皇族だっている。伯爵令嬢サツキ役は、美人なら、誰でもいいだろう。一年が引いてしまったら、どうせ、責任をとって、とか言われて、一年の生徒会役員は無理矢理、配役されるな。
これのいい所は、衣装とか、そういうのが使いまわし出来るということだろう。たぶん、過去のものがそのまま残っている。
「楽な朗読会がいいなー」
けど、出来るなら、簡単なのがいい。
試験の結果もまとまったところで、俺は筆頭魔法使いハガルに呼び出された。
「えー、検査したばっかじゃん」
試験前日にやるという、極悪さ。どうせ、何やったって結果は一緒なんだけど、試験前日ぐらいは、心安らかに過ごしたかったよ。
筆頭魔法使いハガルには、俺の都合なんかどうだっていい。どうせ、結果は変わらないから、なんて考えてるんだろうな。いいけど。
「クラス常駐決定、おめでとうございます」
「そんなことをいうために、俺を呼んだのかよ」
「挨拶ですよ、挨拶。大事でしょう」
他の話だった。わざわざ呼び出すのは、重要な何かだろう。現在、俺の周囲の問題事といったら、不幸な伯爵令嬢サツキのための復讐を実行している誰かの捜索だ。
きっと、気をつけろ、とか、その程度の話だと俺は想像していた。
「もうすぐ、貴族の学校では毎年恒例の文化祭があります。文化祭、どういうものか、ご存知ですか?」
違った。学校生活のことだから、俺は首を傾げてしまう。身構えていただけに、幻聴を聞いているような気になった。
「やはり、知らないですよね。文化祭は、平民の学校にもありますが、ロイドは学校、通ったことがありませんからね」
「え、あ、うん、そうだな」
改めて、思考を動かして、俺は真面目に返した。
「大衆小説に書いてあるような程度だな、知ってるっていっても」
「ロイドは見た目によらず、読書家ですね」
「いや、勉強だから、と強制されたんだよ」
無理矢理だよ。俺はそこまで勤勉じゃない。
「小説はこう、簡単に行事の一つとして流す感じですね。詳細は書かれていませんから」
「ハガル様は、文化祭に参加したことがある?」
「お客様としてですね。見習い魔法使い時では、保護者として、弟たち妹たちが通う学校の文化祭を見に行きました。筆頭魔法使いとなってからは、視察として、貴族の学校の文化祭を回りましたよ。帝国中にある学校全てを回りましたが、皆、似たり寄ったりですね。ただ、その地その地の文化と特色が出てきてしまいますから、観光している感じになります」
「今年も、どっかの文化祭に視察に行くんだな」
「皇族が貴族の学校に通っているのですから、王都のみの視察ですよ」
うわ、最悪だ。きっと、他の貴族の学校は、筆頭魔法使いの抜き打ち視察がなくて、喜んでいるだろうなー。王都だけ、貧乏くじだ。
「皇族が貴族の学校に通う場合、色々と事件がおきます。私が文化祭の視察をするのは、それを起こさせないための抑止力ですよ。何せ、貴族の学校の文化祭は、平民も参加可能ですから」
「それは、危ないんじゃ」
「貴族の学校は、貴族に対しては無償で通えます。つまり、運営は税金です。税金は、貴族だけが支払っているわけではありませんよ。平民だって支払っています。むしろ、平民の数が貴族の数より多いのですから、割合的には、平民のほうが多く払っているでしょう。ですから、一般公開は、平民たちが貴族を知る機会を与え、教育の優遇を受けることの必要性を示すためです」
「そんな、文化祭ごときで、平民が納得するわけないだろう。ガキのお遊戯みたいなものだろう」
「別に、歌って、踊って、演じて、ばかりではありません。きちんと研究発表をしますし、軍隊の模擬訓練のようなこともします。貴族でしか出来ないことを見せるわけです」
「へー、そうなんだー」
「ですが、学のない平民がほとんどですから、難しすぎて、すごいことやってるね、という感想がほとんどですけどね」
「………」
とりあえず、難しいことやっておけば、平民も納得できるわけである。その中で、平民寄りに、舞台をやったり、演奏会をしたり、舞踏会のダンスをしたり、と誰もがわかりやすい催しもやるのだ。
「というわけで、当日は、身分確かな平民が貴族の学校の敷地内に入ります。それなりに騎士を配置しますが、全てを防ぐのは不可能です。ロイド、気を付けてください」
「つまり、俺は当日、護衛に徹していればいいんだな。簡単簡単」
「いえ、あなたはしっかりと文化祭の実行側の活動をしてもらいますよ」
「なんで!?」
皇族の護衛を理由に、俺は面倒臭い文化祭を逃れられると思った。だけど、ハガルは俺に、ガキどものお遊戯に付き合えという。
「せっかくだから、ロイドは学生していてください。私が視察をしますから、セキラは大丈夫でしょう」
「いやいや、皇族は大丈夫だけど、その周囲は大丈夫じゃないよ!!」
俺が護衛をする理由は、皇族セキラを守るためではない。セキラに何かする奴らを防ぐためである。
だいたい、皇族は筆頭魔法使いの妖精に守られている。毒も薬も効かない。傷つけようと襲っても、妖精の復讐により、敵は破滅するのだ。
ただ、妖精の手加減って、妖精寄りなのだ。昔、皇族を害そうとした奴ら、無関係な学生を道連れに、消し炭になったのである。あまりの被害に、皇族に護衛がついたのは、妖精の復讐の被害を抑えるためである。
そのために、俺は学校での規則を全部、覚え直したのだ。皇族が通う時と、そうでない時では違うのだ。学校の対応だって、皇族が通う時と、そうでない時では違う。そこも俺は連携出来るように、入念に話し合い、訓練までしたのだ。
「皇族が通う時は、一般人は参加出来ないようにすればいいだろう!!」
「学校に通う生徒は皇族が通っていると知っていますが、それ以外は知りません。わざわざ、皇族が貴族の学校に通っている、なんて喧伝しませんよ。逆に危険ですから」
「じゃあ、皇族は文化祭の間、お休みで」
「文化祭の参加は、皇族の力を見せることに繋がります。皇族は、絶対の勝利者です。たかが一般人の参加のために、隠れるのは許されません」
無茶苦茶な論理だな。しかし、それが皇族なので、仕方がない。
「どうせ、不穏分子を誘き出すために、皇族を使うんだろう」
皇族が貴族の学校に通っている、という情報、それなりに漏れるものだ。この文化祭という行事を利用して、何か起こすだろう。今の帝国に不満を持つ者はそれなりにいる。
「そういうことです。妖精の復讐が過剰にならないように、私が見ています。ロイドは、普通の学生として、色々と参加してください。あなたは、経験豊富ですからね」
「自慢じゃないが、出店の料理は一通り作れる」
「そういうのは、外注ですから。貴族は店の運営側ですよ」
「俺に何やれっていうんだよ!?」
「今年は一年生が外れくじをひくかもしれませんね」
「やめろ!!」
ハガルの不吉な予言に、俺は叫ぶしかない。ハガルがいうと、一年生が、不幸な伯爵令嬢サツキの何かの外れくじひいちゃうだろう!!
「ごめん!!」
皇族セキラが半泣きで謝った。だけど、一年生は誰も責められない。ほら、皇族様だから。
不幸な伯爵令嬢サツキの何かをどの学年がやるか、生徒会役員が代表して、くじ引きしたんだよ。見事、セキラが引き当ててくれた。
不正がないように、しっかりと一般公開して、教師がくじを作って、と徹底してのくじ引きであった。
この結果に、他の学年は歓声をあげた。皇族様がやらかしたといっても、みんな、そんなこと、頭の片隅にもわかっていないな。こういうのは、無礼講みたいなものだ。
一年生は沈んでいた。きっと、俺やお嬢さんサリーがくじを引いたら、かなり責められていただろう。皇族セキラだから、一年生の皆さんは色々と飲み込んだ。
というわけで、さらに、くじ引きが続く。このままでいくと、朗読会なんて地味なのに決めてしまうだろう。そうしたいのだ。だが、それでは面白味がないので、不幸な伯爵令嬢サツキを題材に、何をやるのか、そこもくじ引きである。
「セキラ様、出番です」
「またボク!!」
「あんたがやれば、誰も文句は言わない」
一番、文句が出ないやつだ。皆、お願いだから朗読会を引いて、と祈っているだろうな。ちなみに、一番面倒なのは、演劇である。
セキラは恐る恐る、教師が作ったくじをひく。残念ながら、教師も不正が出来ないように、色々と対策している。何より、どれが何なのか、教師もわからないようになっている。
「えーと、演劇ですね」
教師が読み上げる結果に、どーんと一年生は落ち込んだ。よりによって、一番、面倒臭いのになったよー。どんだけくじ運悪いんだよ、セキラ様!!
だけど、皇族がやったことなので、誰も文句は言えない。皆、我慢した。我慢を覚えられて、貴重な体験だよ、これは。
こうして、一年生は強制的に不幸な伯爵令嬢サツキを題材にした演劇となったのだが、これがまあ、王都の貴族の学校だけに、面倒臭いのだ。
そこから、生徒会役員が主導となって、演劇の色々なことを決めるのだ。俺は、そこのところを、甘く見ていた。
毎年恒例で、不幸な伯爵令嬢サツキの出し物は、もう、決まり切っているのだ。ただ、王都の貴族の学校は、かなり力を入れている。何せ、不幸な伯爵令嬢サツキが、実際に通っていた学校である。
大衆小説になった、不幸な伯爵令嬢サツキが在学中の話は、実際に起こったことが元となっている。いやー、本当に酷いのだ。
まず、入学式では、サツキの義妹は、首席合格したサツキをあえて馬車に乗せないで、遅刻させようとしたのだ。サツキが来ない隙に、義妹はサツキの代理として、新入生代表の挨拶をしようとしたのである。結局、サツキは徒歩で登校し、入学式に間に合ったという。
首席合格したサツキは、生徒会役員になるはずだったが、サツキの義妹とサツキの婚約者が、サツキの悪評で生徒会役員二年を騙し、生徒会役員の勧誘を邪魔したのだ。サツキの義妹とサツキの婚約者が生徒会役員となったのだが、仕事が出来ない口ばかり横柄だったため、結局、除名され、改めて、サツキが生徒会役員になったという。
生徒会役員を除名されたサツキの婚約者は、皇族の前でサツキに暴力をふるった。それを助けたのが、貧民出の騎士だった。除名された当てつけに、義妹はサツキを置いてさっさと馬車で帰ってしまい、サツキは帰れなくて途方にくれている所を助けたのも、貧民出の騎士だった。
貧民出の騎士と馬で相乗りしている所を浮気と言い張り、サツキは婚約者から婚約破棄された。そして、サツキの婚約者は、サツキの義妹と婚約し、サツキを生家から追い出した。その事を学校で言いふらしている現場に言わさせた貧民出の騎士は、サツキの元婚約者を殴り、騎士を捨てて出奔したという。
これだけのことが、王都の貴族の学校で起こっていた。目撃者もあり、皇族の前で起きた出来事であるため、皇族が認めたのだ。
「というわけで、わが校での演劇は、実際に起こった現場で演じることとなっている」
とんでもない説明を生徒会長にされた。聞いて、俺は耳を疑った。
「どうやって?」
「演者が現場に行くんだ。そして、演じる。順番はすでに決まっているから、観客は、それを追いかける形となっている。開演は入学式からだから、講堂だ。そこからは、観客は、演じる現場に移動することとなっている。ほとんど、二日がかりだな」
「なんで!?」
「一日では終わらない。何せ、この学校では、大衆小説にすら書かれていない出来事がいくつか起こっているんだ。そういうのをあえて組み込むことで、学校でもきちんと認識している、ということを外部に示すんだ」
そんなにたくさん、やらかしたのか、母サツキの義妹と婚約者は!!
その流れも、きちんと作られているから、その通りに進行していけばいいのだ。
「では、配役を一般投票で決めよう!!」
「はああああーーーーーー!!!!」
さらにとんでもないことを言われた。
「推薦とか、立候補じゃないのか!?」
「この演劇は、ともかく注目を集める。適当に配役するわけにはいかないんだ」
「いやいや、演劇だぞ。下手くそな奴がやってはまずいだろう」
「下手でいいんだ。見た目はよくて、それっぽいのであれば」
そして、生徒会長は俺をじっと見る。
「騎士は決まったな」
「決まってないよ!! 投票で決めようよ!!!!」
生徒会長だけでなく、生徒会役員全員が、もう決まった、みたいに俺の肩を叩いてきた。
というわけで、投票とかの準備と集計も生徒会役員一年のお仕事である。学校中が注目しているので、文化祭前から、お祭り騒ぎである。ほら、試験も終わったから、理由をつけて、騒ぎたいんだな。
そして、こういうことをやっていると、賭博まで始まるのだ。
「聞きましたか。騎士役の予想は、ロイドですって」
「もう、賭けにはなっていないなー」
他人事だから、生徒会役員二年のリコットとナバンは笑顔で俺に言ってきた。ちっくしょー、来年は覚えてろよ。笑う側になってやるー。
「誰が言い出したんだよ!! 絶対に操作されてるよ!!! 陰謀だよ!!!!」
だいたい、賭けをする段階で、俺だけ、倍率が低いのだ。もう、狙ってるよな、これ。
しかも、生徒会側が盛り上げるため、中間発表をするんだよ!! 誰得だよ、これ!?
もう、騎士役は俺で決まりみたいな中間発表だった。




