迷惑な奴らに鉄槌を
生徒会主催の舞踏会が開催される日は、どこもかしこも大変だ。衣装がー、とか、料理がー、とか、招待客がー、とか大騒ぎだ。生徒会役員って、小さな問題ごとが起こると、すぐに駆けつけて解決である。だいたい、権力に物を言わせてだな。
生徒会役員の最高権力者は皇族セキラである。問題事が起これば、セキラを連れていく。しかし、皇族様は一人だ。その次の権力者が伯爵家だから、侯爵家のバカが騒ぐと、手がつけられない。
しかし、当日で起こった騒ぎは、呆れるものだ。
「あなたがパートナーとなると言ったじゃない!!」
「聞き間違いじゃないのか? 俺は、リーゼのパートナーとして参加する。なあ、リーゼ」
「お姉様ったら、きちんと、申し込みしないから。エンペル様、パートナーがいないと困っていましたから、私がなってあげました」
「エンペルから、パートナーの申し込みをしたじゃない!!」
「俺はパートナーがいなくても困らないが、お前は生徒会役員だから、困るだろう。こういうのは、リコットが俺に頼むのが筋だ」
「そんなっ!?」
舞踏会当日、パートナーの問題で、二年の生徒会役員リコット、一年生でリコットの妹リーゼ、三年生でリコットの婚約者エンペルが生徒会室で言い争いを始めた。
すでに、舞踏会の準備万端な上、衣装のデザインや色合いをあわせたリーゼとエンペルは、完璧なパートナーである。対するリコットは、生徒会役員の仕事で走り回っていたから、まだ、準備も出来ていない。
生徒会役員は最後に入場だ。だから、これから舞踏会の衣装に着替えるのだ。そのため、パートナーを生徒会室に待たせることとなる。その中での騒ぎだ。
パートナーがいなくなったリコットは真っ青だ。生徒会役員は、絶対に出席で、パートナーは必須だ。
「パートナーがいないのですから、お姉様は、病気で欠席したらどうですか。病欠なら、許されると聞いています」
ただし、病気であれば、生徒会役員でも欠席は許される。
悔しそうに顔を歪めるリコット。リーゼとエンペルの策略に、まんまと引っかかっちゃったなー。
これで、リコット、そのまま欠席になるかに見えた。
「リコット先輩、良かった、パートナーがいなくて」
そこに割り込んできたのは、皇族セキラだ。長く、生徒会役員のお仕事の教育を二年生であるリコットがしたので、セキラ、すっかりリコットに馴れていた。
「ぼ、ボク、パートナーいなくて、でも、病欠、出来なくてー。皇族、病気にならないからー」
あー、唯一、病欠が絶対に出来ない人がいたー。セキラ様、結局、パートナー見つからなかったんだなー。
皇族だから、というわけではない。女が大嫌いなセキラは、大丈夫そうな人にパートナーを頼んだのだ。
まず、これっぽっちも女と感じないお嬢さんサリーに申し込んだ。
「わたくしは、ロイド様のパートナーです。それ以外とは、絶対になりません」
はっきりと断られたのだが、セキラは諦めない。
「わかった、ボク、女装して、ロイドと一緒に入場する!!」
「やめてぇええーーーーーーー!!!」
俺が全力で阻止した。お前、俺に両手に華をさせるつもりか!? これ以上、醜聞いらないよ!!
そういうアホなことをやって、結局、セキラ、パートナーを見つけられず、なんと、当日、男物と女物の衣装を持ち込む、という力技に出たのだ。こいつ、意地でも俺を巻き込むつもりだったな!!
だが、ここに、救世主リコットが登場だ。リコットは婚約者もいるから、とセキラからは圏外扱いだったのだ。
「リコット先輩、お願いします!! 良かった、クズな婚約者がいて」
外に出て、馴れてきた皇族セキラ様、どんどんと饒舌に、口も悪くなってくる。そっかー、これが本性かー。
皇族様から、クズな婚約者認定されてしまったエンペル、屈辱で顔を真っ赤にするが、口答えなんてしない。すでに一度、皇族暴行未遂で捕縛されている。次は皇族侮辱罪で捕縛されてしまう、と学習したのだ。痛い目にあわないと、学習出来ないとはなー。
こうして、円満解決である。
「部外者は出て行ってください」
生徒会副会長が、リコットの妹リーゼと、婚約者エンペルに冷たく言い放つ。生徒会まで巻き込んだ騒動に、生徒会役員も怒り心頭だ。
生徒会室で、リーゼとエンペルの味方はいない。皆、冷たく、二人を見る。この状況に耐えられるはずもなく、二人はさっさと出て行った。
「お騒がせして、申し訳ございませんでした」
改めて、リコットが深く頭を下げた。誰も、リコットを責めない。暖かい言葉をかけて、準備のための部屋に案内する。
だけど、リコット、すぐに戻ってきた。
「どうしよう、衣装がないんです」
次から次へと、クズなことするなー、あの妹はー。生家から運ばれている衣装がないということは、あの妹が何かしたのだろう。衣装を管理していた使用人たちも真っ青である。
「じゃあ、ボクの衣装にちょっと手を加えよう。リコット先輩なら、着れます」
相手がリコットだから、皇族セキラ、男前なことをいう。だが、女物の衣装を持っている時点で、男らしくないけどな。あれ、いざという時は、セキラが使うつもりだったんだからな。
すぐに、セキラが持ってきた衣装を手直しされ、リコットが着れば、これはまた、似合っていた。デザインもそうだが、素材がいんだよな。
「こんな高価なもの、汚してしまったら」
「一度も着ないかもしれない物だよ。今回のお礼に、差し上げます。本当に助かりました」
俺も、たすかりました!!! 俺はこっそりと、リコットが着ている衣装に妖精の祝福を与えた。これで、多少の汚れは防がれる。
男は時間がかからない。ほら、着替えるだけだから。俺は、男爵マイツナイトの昔の衣装に着替えるつもりだった。
「ロイド、いた!?」
そこに、もう部外者である伯爵オクトがやってきた。
「また、復学した?」
「卒業したよ!! 一応、卒業生だから、手続きすれば、入れるよ」
「いや、今日はさすがに無理だろう」
「皇族も一緒だ」
後から、皇族サイがやってきた。サイを見た途端、セキラは俺の後ろに逃げた。実の父親、そんなに怖がらなくていいのに。
男も女も狂わす美貌を晒す皇族サイに、生徒会室にいる学生たちは、一瞬にして動けなくなる。
「お嬢さん、サイ様を別室に案内してくれ」
「はーい」
この中で唯一、皇族サイの美貌に揺るがないサリーが、サイの案内役となった。あれ、サリー、まだ準備していない?
どうにか、呼吸出来る状況になってから、伯爵オクトは、数人の使用人を招き入れた。
「君宛の荷物だ」
使用人たちが持ってきたのは、舞踏会に着る男女の衣装である。
「ハガル様か?」
見るからに、俺とお嬢さんサリーの衣装だ。見ただけでわかる。俺がサリーとペアー組むことは、筆頭魔法使いハガルも知っている。
「いや、違う。お前の兄からだ。いつか舞踏会に出ることになるだろう、と手紙つきで送られてきた」
「………え?」
俺は呆けた。
俺が舞踏会に出ると知って、こんなことをする兄は二人しかいない。一人は、残念ながら、こういう甲斐性がない。だが、もう一人は、力ある妖精憑きだから、作ってしまえるのだ。
力の強い妖精憑きは気に入ったものを囲うという。口に入る食べ物から、身に着ける服まで、全て囲うのだ。結果、服まで作るのだ。
まだ、歪な家族関係であった頃、次兄は家族が着る服まで手作りしてくれた。それなりに大きくなったら、既製品とかを買って渡したりしたのだ。
「着づらい」
「動きにくい」
「アタシに似合う服がない!!」
「お兄ちゃんが作ったのがいいの!!」
そういう声があがって、結局、次兄が手作りしていた。
もう、皆、大人になって独立したんだ。服だって、もう、そこら辺で買ったりすればいい。実際、そうしていた。
俺はオクトの使用人たちから衣装を受け取った。
「妙な所で、こだわるよな」
会ってなくても、次兄にはわかるのだろうな。きっと、これは、俺とサリーにぴったりの大きさだ。
「あと、これも」
ついでなんだろう。オクトは俺に手作りの眼帯を手渡した。
舞踏会の入場って、ちょっとした恥だよ。ほら、入る時、注目を浴びて、色々と陰口たたかれるんだ。俺なんか、サリーと入場だから、きっと、幼女趣味、みたいに陰口たたかれてるんだろうな。皇族セキラが女装して一緒に入場じゃないだけ、マシだけどな。
そうして、生徒会役員が全員、入場し、生徒会長が開会の挨拶をして、やっと舞踏会が始まった。
始まったといったって、随分と待たされた一般生徒たちは、好き勝手に雑談して、料理をつまんで、ともう帰りたい奴らもいる。最後までいる必要はないから、帰る生徒だっている。
生徒会役員は、それが許されないんだよな。最後までいなきゃいけないんだ。しかも、後片付けの指示、確認も生徒会役員である。準備も片づけも生徒会役員が責任もって監督するって、本当に損な役職だな!!
それでも、貴族で爵位を持てない子息令嬢にとっては、将来を約束されたようなものだ。貴族の学校の生徒会役員、一回でもやれば、宮仕えは約束されたようなものだ。そこに、在籍年数が多いと、昇進も早いし、最初の役職もそれなりに高いという。
勉強ばかりして、と影で笑う奴らはいるが、将来は、その嘲笑った相手に嘲笑われるのだ。
そんなことを考えながら、疑問がいくつか浮かぶ。リコットも、サリーも、生徒会役員にならなくてもいいのだ。まあ、サリーはあれだ、首席になったのは、俺に誉められたいだけだろう。可愛げがない、とサリーは影で言われているのだが、サリーは他の所が抜けているから、それなりに人気が高いのだ。
リコットが首席を二年連続で取り続けるのは、おかしな話だ。リコットは女子爵の将来が約束されている。成人すれば、代理子爵をやっている父親を蹴落として、リコットが女子爵になれるのだ。
好奇心程度で、俺はそこのところをリコットに質問した。
「あなた、思ったよりも、バカよね」
「まあ、否定は出来ないな」
俺は賢いわけではない。経験があるだけだ。同じ条件の相手には、絶対に負ける。
「私みたいな小娘を力づくで黙らせるなんて、男には簡単なのよ。私は成人しても、爵位は取り戻せないでしょうね」
「じゃあ、諦めるのか?」
「まずは、力をつけないと。さっさと、あの家から出て行ってやるの。そのためには、宮仕えになるのが一番なのよ。幸い、今年は皇族が入学してきたから、皇族との繋がりを持てるわ」
なるほど、リコットもまた、皇族セキラのことを男と見ていないわけだ。だから、セキラは、リコットを警戒しない。
目の前で、利用します、とリコットが話しているのに、セキラは気にしていない。隠された美貌に笑顔を浮かべる。
「気の長い話だね。ぼ、ボクに頼めば、明日には、君を女子爵にしてあげるよ」
「そ、そんなこと、どうして」
「来年も、舞踏会のパートナーになってもらうためだよ。これで、リコット先輩が卒業するまでは、ぼ、ボクは、父上に叱られることは、ない」
皇族セキラは、ある方向を見て、びくびくと震える。セキラの視線の先では、あの美貌を晒す皇族サイがいる。隣りで伯爵オクトがどうにか、サイを会場から出そうと腕を引っ張っているが、びくともしない。皇族サイもまた、体を鍛えているな。
俺にとってはしょぼい悩みだが、セキラにとっては、安全なパートナーを見つける、ということは難題なのだ。
それを聞いたリコットの同級生であり、生徒会役員であるナバンは、微妙な表情をする。ちなみに、ナバンは先輩である生徒会役員のパートナーとなって入場した。お互い、婚約者も恋人もいない、という寂しい者同士として、パートナーとなったのだ。来年こそは、と両者、誓いあっていたなー。
なんか、色々と思惑が混じった舞踏会も、ただ談笑しているわけにはいかない。ほら、舞踏会だから、一回は踊らないといけない。
もうそろそろ、生徒会役員全員が踊る伝統の曲目である。俺、貧民なのにー。
サリーはその前の曲目で踊ろうと俺の腕をぴっぱった。
「はいはい、引っ張らなくても行くから」
「足、踏んでしまったら、ごめんなさい」
「お嬢さんに踏まれたぐらい、大したことがない。女に踏まれたからって、怒る男が狭量なんだよ」
ちょっと、周囲がざわめたい。たぶん、近くに、その狭量な男がいたんだな。俺が睨まれた。
一つ早いけど、俺とサリーがダンスの輪に入った時、グラスが割れる音と、女の悲鳴が会場に響き渡った。
大変なことが起きた、ということで、生徒会役員は、そこに行かないといけない。サリーは頬を膨らませて不機嫌になるが、生徒会役員なので、遅い足取りで進む。いつまでも現場に行けないので、俺は片腕でひょいっとサリーを抱き上げて、駆け足で向かった。
現場は大変なこととなっていた。床に散らばるグラスの破片のすぐ側に、衣装を真っ赤に汚したリコットの妹リーゼと、リコットの婚約者エンペルがいた。また、すごい色になったなー。果実水を被ったのは明白だ。ほら、貴族の学校に、酒は出ないから。
リーゼは怒りに震え、目の前にいるリコットを睨んだ。
「お姉様、なんてことをするのですか!?」
犯人はお前だ!! みたいに指をリコットに突きつけた。
「いや、リコット先輩は何もしていない」
それを否定するのは、リコットのすぐ近くで成り行きを見ていた皇族セキラである。視線が集中してるが、珍しく、声をあげているな。
しかし、セキラの視線の先、よくよく見ると皇族サイがいる。サイは、目を細めて、美貌に笑みを浮かべている。息子がしっかりと場をおさめるか、見て、採点してるんだな。皇族って、大変だ。
「私とエンペル様の服が、こんなに汚れたのですよ!! お姉様がやったんです!!!」
「リコット先輩は背中を向けていたのに?」
「パートナーであるセキラ様の発言には信用性がありません」
あ、一番、言っちゃいけないことを、リーゼは言った。
皇族は絶対に間違えないのだ。間違えたことをしても、それを否定することは許されない。過去、皇族の発言を貴族が否定して、爵位を剥奪されたり、場合によっては処刑されたりすることもあったのだ。
リーゼは、自分こそ正しい、と思い込んでいる。何せ、服を汚された被害者だ。
俺は、何故、リーゼとエンペルが汚れたのか、知っている。妖精の目を使わなくても、あんな被害なんだから、俺だけはわかる。
妖精の復讐だ。俺はリコットの着ている衣装に妖精の祝福をこっそりかけたのだ。多少の汚れは防がれるという祝福だが、それは、仕方がない、事故的な汚れである。この祝福、妖精がかけるものだから、悪意をぶつけたら、倍返しなのだ。
リーゼは、リコットがさらにいい衣装を着て、皇族セキラと登場して、怒ったのだ。そして、リーゼの衣装を汚そうと、果実水をリーゼの後ろかかかけた。ところが、これを妖精の祝福で防いだのだが、悪意があったため、倍返ししたのだ。
リーゼはリコットだけを汚そうとした。それの倍返しなので、リーゼだけではなく、婚約者エンペルも道連れに汚れることとなったのだ。
結果、こんな大騒ぎとなった。まさか、こんなアホなこと、皇族のパートナーに向かってやるなんて、思ってもいなかったよ。やはり、リーゼは頭空っぽだな。
こういう復讐を皇族セキラ、見たことがあるのだろう。呆れたようにリーゼを見た。
勝手に犯人扱いされたリコットは困った。やってもいない。だが、被害にあったリーゼとエンペルが立っているのは、リコットに近い場所だ。目撃者もいないし、リコットは最初から諦めている。
ずっと、そうなんだろう。やってもいない罪を被せられるのは、リコットは日常なのだ。貴族の学校ではそうではないが、生家に戻れば、リコットの言い分はほとんど通らないのだろう。
そんな騒ぎの現場に、お嬢さんサリーが介入した。
「これは、リコット先輩がやったことではありません」
声高に宣言するサリー。そんなサリーを嘲笑うリーザ。
「被害にあった私がいうのよ。私こそ、正しいわ!!」
「では、検証してみましょう。グラスを」
サリーが手を出せば、近くの使用人が並々と果実水が入ったグラスを渡す。
サリーはリーザを挟んで、リコットが立っている位置とは真逆に立った。そして、トドメとばかりに、リーザとエンペルの顔に果実水をぶつけたのだ。
「何するのよ!?」
「貴様、男爵の娘の分際で」
「どうせ汚れているのですから、いいではないですか。だいたい、こういう場では、予備を持ち込むのが高位貴族です。侯爵家のくせに、予備、ないのですか?」
「貴様、こんなことして、タダで済むと思うなよ!?」
「現場を見てから、そう言いなさい。リコット先輩がかけたというのなら、この床にも、それなりの汚れが起きます。ですが、床にはグラスの破片だけで、果実水が零れてもいません」
リコット側の床は綺麗なものだった。なのに、リーゼ側の床には、果実水のしぶきが残っている。
「ここから推察できることは、あなたがたが、皇族に向かって、果実水をかけ、妖精の復讐により、倍返しを受けた、ということです。妖精ですもの、グラスに入っていた、零れた果実水もふくめて、あなた方にかけることなど、お手の物ですよ。だから、割れたグラスは洗ったように綺麗です」
確かに、床は綺麗だ。グラスの破片は果実水が入っていたというのに、汚れ一つなく、綺麗な破片である。
「私がかけたのは、お姉様よ!!」
「語るに落ちましたね」
サリーは酷薄に笑った。
リーザは、皇族相手にやってもいない罪を被せられるのを恐れ、自白した。
自業自得である。それを見ていたであろうリコットの婚約者エンペルも同罪だ。二人は真っ青になった。




