腐れ縁はめぐるよ、どこまでも
目出度く、入学式当日である。お嬢さんサリーは首席だから、首席の席で大人しく座っている。ほら、首席は新入生代表の挨拶しなきゃいけないから、責任重大だ。
俺はというと、上位クラスの真ん中辺りの席に座らされた。俺の周りだけ、空気が悪いよな。ほら、いきなり、オジサンが制服着て座ってるんだ。皆、俺から距離とるよ。俺もここじゃなくって、保護者席に逃げたい。あっちのほうが、違和感なく、座ってられるよ。
「もう、我慢ならない!! 何故、貧民がここにいるんだ!!!」
やっぱり、足を引っ張るやつが出てきたよー。俺よりも順位下だけど、上位クラスの令息が叫んだ。
貧民と聞いて、ザワザワと騒がしくなる。まだまだ入学式が始まるには、時間があるから、保護者席もちょっと騒がしくなる。
「本当なのか!?」
そして、令息の保護者がわざわざやってきた。
「そうだ。こいつは、貧民だ。舞踏会で見た!!」
俺のこと覚えてる奴、いたんだ。
いや、覚えているよな。覚えていて、あえて、関わらないようにしてるんだ。俺の後ろには筆頭魔法使いハガルがついているから。
ちょっと世情を読める奴は、俺を無視するものだ。だが、自尊心が高くて、筆頭魔法使いハガルの噂をそのまま鵜呑みにしてる貴族はそうではない。ここで、俺を引きずり落として、ハガルに恥をかかせよう、なんて考えるものだ。
「この歴史ある学校に、貧民が紛れ込むなど、許すわけにはいかない。貴様、ここから出ていけ」
「出ていくと、俺がハガル様に叱られちゃう」
そうなんだよ。ここで逃げたら、今度こそ、ハガルは俺を筆頭魔法使いの屋敷の地下牢に俺を幽閉である。それは絶対にイヤだ。
ハガルの名前を出しても、貴族は鼻で笑い飛ばす。
「我が家がどうにかしてやる。さっさと出て行け」
「本当に? どうにかしてくれるんだよな?」
あの侯爵マキラオも、男爵マイツナイトも、伯爵オクトだって、作った笑顔で俺を見送ったんだよ!!
「だいたい、こんな大人が今から学校に通うなんて、前代未聞だ」
「いえ、前例がないわけではありませんよ」
恐怖の象徴である筆頭魔法使いハガルが笑顔でやってくる。俺は慌てて椅子から降りて、膝を折る。
きちんと教育を受けている貴族の令嬢子息は、俺と同じだ。筆頭魔法使いハガルは、帝国で二番目の権力者である。頭を上げるなんて、礼儀知らずだ。
だけど、ハガルのことを噂通り、大した力がないと信じている貴族は立ったままである。
ハガルは手で、膝をつく学生たちに座るように許可を与える。
「昔、皇族で、どうしても貴族の教育を学びたい、と後継が育ってから、学校に通ったことがあります。あと、貴族の跡継ぎが次々と亡くなってしまって、仕方なく、当主の弟が跡継ぎとなるために、貴族の学校に通う前例もありました。別に、貴族の学校には年齢制限はありません。学びの門戸は平等に開かれています」
「それは、貴族にだけです。貧民が通えるのは、せいぜい、市井の学校だ」
「どこの誰か、とは言えませんが、彼も貴族の血筋なんです。よくある、お家乗っ取りされた貴族の子孫ですよ。そういう人、帝国中にはいっぱいいます。今、平民で生きている者たちの血筋をたどれば、貴族だった、ということは普通です」
「そんなことを言ったら、先祖が貴族と名乗ったら、この栄光ある貴族の学校に通えてしまうではないですか!?」
「通えます。実際、そうなんです。ですが、平民も貧民も、そんなことしません。貴族の学校の学び、彼らには役に立ちませんから。だから、市井の学校に通うのです。この学校で学ぶのは、貴族になるための知識と教養です。平民貧民はそんなもの、いりません。あなたは、この学校の成り立ちをよく知らないようですね。勉強し直したらどうですか? きちんと、授業でも話されることですよ。まず、一年生で学ぶことです」
「っ!?」
貴族、ハガルに足元を掬われた。相手が悪い。帝国の知識全てを持っている男だ。ちょっとした知識を出したって、ハガルの知識を披露すれば、叩きのめされるだけだ。
有象無象を黙らせ、改めて、ハガルは俺を見る。
「あなたは、相変わらず、身なりを整えないから、軽く見られるのですよ」
「いやいや、身なり整えたら、貧民では舐められちゃうよ!!」
俺の身なり、貧民なりに正しいのだ。整えたら、大変なこととなる。
「せっかくなので、本当の姿を披露してあげましょう」
「やめてぇ!!」
俺の抵抗なんて無駄だ。こんな人前で、妖精の目を発動させるわけにはいかない。俺は表向きは、ただの人なんだ。
一瞬にして、俺は身なりを整えられてしまう。
周囲、一瞬、俺の姿に飲まれる。そして、溜息なんかつかれたりするのだ。
「童顔だと聞いていましたが、本当なんですね。その顔は、父親から受け継いだだけあって、綺麗ですね」
「だから、髭生やしたり、頑張ったのに!?」
そう、俺はしっかりと身なりを整えれば、学生に違和感なく紛れてしまえるほど童顔である。しかも、美男子である父親の顔を受け継いでいる。
「あー、なんてことするのですか!?」
俺がすっかり美男子にされて、首席の席で大人しくしていたお嬢さんサリーが叫んでやってきた。
「酷い!! こんな姿になったら、ロイド様、女性に告白されてしまうではないですか!?」
「そんな猛者、いますか?」
「いるのです!! ロイド様を見つけたのはわたくしなのに、泥棒猫はどこにでもいるのですよ!!!」
サリー、筆頭魔法使いハガル相手でも遠慮がない。頬を膨らませて怒るサリー。
「ですが、これで見た目で悪くいう人は減りますよ」
「悪く言われていいんです。わたくしだけが知っていればいいのですから」
「幼くても、女ですね」
「もう、学校に通うほど、立派なレディです」
「そうですね。ですが、謝罪はしません。ロイドの身なりを整えることは、私に恥をかかせないために、必要なことです。ロイドの後見人は、私ですから」
「うー」
「はやく、ロイドを捕まえなさい」
「絶対に諦めませんから!!」
ハガル、絶対に謝罪しない。上手にその場をおさめてしまった。
さて、残るは、俺のことで苦情を叫んだ貴族の親子である。
「私が後見人としてついています。何か、文句がありますか?」
「あなたは、平民に育てられた妖精憑きだ」
「私の家族をバカにするのですか!?」
それは、絶対に言ってはいけないことだ。俺は慌てて、サリーを抱き上げ、その場から離れた。
貴族の学校の敷地内だって、それなりに妖精除けとかされている。並の妖精憑きでは、かなり辛いという。だけど、生まれついての化け物であるハガルには、ちょっと重くなったね、程度である。
貴族の親子は、瞬間、遠い壁い吹き飛ばされていた。イヤな音をたてて骨が折られる。
「私のことはどれほど悪く言っていいでしょう。ですが、私の家族を悪くいうことは絶対に許しません。その男の貴族位を剥奪します。親子ともども、平民になれ!!」
その場で、騎士が動き出した。あれ、騎士団副団長メッサがいるよ。
体中の骨を折られた貴族親子は、抵抗なんて出来ない。苦痛で悲鳴をあげなから、その場から退場していった。
「本当に、いつの世にも、礼儀知らずはいます。もう、入学式を始めてください」
ハガルは瞬間、乱れた椅子とか魔法で戻して、保護者席に戻っていった。えー、お前、そこにいたの!? ハガル、保護者席の最前列に座ると、俺に手なんか振ってきた。気分はもう、子どもの入学式に参加する親なんだろうな。見た目、むちゃくちゃ若いけど。
入学式前から、とっと問題が起こったけど、式は問題なく進んで、終わった。
入学式が終わって、俺は侯爵家の馬車で移動することとなった。
「ああいうのは、血筋なんだな」
「何が?」
「サツキの時も、入学前に、騒ぎがあったんだ。その時は、サツキが上手におさめたがな」
「そうなんだ」
「問題事を呼び込む血筋なんだな、きっと」
嬉しくないな、それ。
だけど、実際、そうなんだろう。俺の家族は昔、皇帝襲撃の実行犯である。失敗したから捕縛されたけど、あれもまた、問題事を呼び込んだようなものだな。
保護者席にいたのは、男爵マイツナイトだけではない。今回、男爵夫人アッシャーは男爵の邸宅で留守番なので、代わりに、サリーの兄である侯爵マキラオが保護者席に座ったのだ。気の毒に、胃痛で顔が真っ青になっている。大丈夫か? 俺、貴族の学校に通う間、ずっと侯爵家で世話になるんだけど。
今度、ハガルにいい薬貰ってこよう。胃痛、良くなるけど、苦労は耐えないから、再発しちゃうだろうな。
「ロイドの成績が良かったのは、驚いた」
席順を見て、マイツナイトは誉めてくれた。
「試験、いっぱいさせられたから、一番いいやつにしてくれたんだよ」
「いっぱいって、入学試験は年に一回だぞ」
「毎年、知らずに解かされてたんだよな。あと、定期試験の問題も解かされてた。一応、俺、すぐ卒業出来るくらいの点数はとってるって、ハガルが言ってた」
せっかくだから、ハガルの権力使って、一気に二学年飛ばしてやろう。そうすれば、あっという間に卒業だ。
「規格外だとわかっていたが、そこまで規格外だとは。もう、貧民と名乗れないな」
「貧民だよ!!」
「貧民は、貴族の礼儀作法なんて出来ない。お前は、口では否定しても、その教育は、貴族だ」
「………」
俺は言われた通りにやっただけなのに。俺、悪くない。
不貞腐れて、俺は黙り込んだ。俺の向かいに座る侯爵マキラオは、俺の実力に驚愕している。
「いっそのこと、ロイドが侯爵を継いでくれれば」
「ロイドが侯爵を継いだら、大変なことになるぞ!! 王都が壊される」
「しないよ!!」
「早速、一貴族の爵位を剥奪させたな」
「あれは、貴族が悪い。ハガルの家族のこと、悪く言っちゃいけない。俺だって怒る」
ハガルも俺も、自身を悪く言われたって、適当に受け流す。気にしないのだ。だが、家族を悪くいわれるのは許さない。そこだけは、絶対だ。
「いい家族なんだな」
「お袋がいなくなる前まではな」
本当にそうなんだ。母サツキがいなくなる前までは、いい家族だった。サツキは色々な意味で、大切な存在だったんだ。
俺は母サツキ、どうだっていいんだ。俺にとって、一番大事なのは次兄だ。俺のこと育てて、教育して、今の俺を作った人だ。だから、大事な家族、というと、次兄だな。あ、兄ライホーンは、心配な兄貴だな。
「無事、入学式も終わった。私は家に帰る。すまんが、転移の道具で送ってくれ」
「え、馬で帰らないの?」
「もう、いい歳なんだ」
「そうか。俺は明日から、馬で学校に行くけどな」
「ロイド様、わたくしも一緒に連れて行ってください!!」
「護衛だしな。いいよ」
「馬で帰る!!」
悪いことを言ってしまったらしい。怒りに震える男爵マイツナイトは、馬で帰ることにした。そんな無茶しなくていいのに。
「けど、貴族令嬢って、基本、馬車での登校だよな」
馬車の乗降場所があるのだ。馬車が普通なんだ。
「サツキは、徒歩で通学していた」
「いいんだ」
「馬車を使わせてもらえなかっただけだがな。徒歩は楽しかった、と言っていた」
「………」
悲惨だな。こうやって、ことあるごとに、マイツナイトは俺に母サツキの過去を聞かせる。
俺が母サツキのことを知らない、と言ったからだろう。何せ、物心つく前に、母サツキはいなくなったのだ。母親が死んだ、と聞いたって、「へー、そうなんだ」だった。それくらい、母親って、いてもいなくてもいい存在だったんだ。
だけど、マイツナイトはそれを気の毒と感じて、マイツナイトが知っている母サツキを語って教えてくれる。
その内容が、悲惨なんだよな。むしろ、話さないでほしいよ、そういうの。
マイツナイトの自己満足を俺は止めない。これは、マイツナイトのためでもある。こうやって話すのは、マイツナイトが母サツキを思い出しているのだ。
俺はただ、マイツナイトが満足するまで、それに付き合った。死ぬまで満足しないだろうがな!!
学校に通って数日で、それなりに集団が出来る。
「ロイド様、一緒に移動しましょう!!」
首席合格のサリーは、他人なんかどうだっていい。俺にべったりだ。
注意したいんだが、俺にべったりだから、同級生、話しかけ辛いんだろうな。同性なんて、サリーが警戒しているから。そんなに身なりを整えたって、俺は所詮、貧民だから。俺の見た目は保養程度だ。
お陰で、護衛しやすい。学校の登下校は一緒に馬だし、学校では常にサリーのほうから俺にくっついてくれる。この学校で不埒なことをする輩、いないわけではないが、俺とサリーは目立つから、そんなこと出来ないだろう。
そうやって、平和に過ごしている所に、学校の通例がやってくる。
今年は、皇族様が入学である。実は、新入生挨拶は、皇族なんだ。だけど、この皇族、色々と問題があって、それが出来なかったのだ。
俺とサリーが動くと、姿勢の悪い男子学生が俺の横にぴったりくっついてきた。
「ぼ、ボクも、一緒がいい」
「もちろん、喜んで、セキラ様」
声はこれっぽっちも喜んでないけどな。平坦だ。それでも、皇族セキラはかすかに口元に笑みを浮かべる。
皇族セキラは、こう、対人関係がダメなんだ。まず、人前に立つことも出来ない。なのに、どうして、貴族の学校に通うこととなったのか?
もちろん、強制だよ、強制。
俺が貴族の学校に通うと決まってからすぐ、ちょうどいいや、と皇族を学校に放り込むことが決定したのである。
わざわざ、筆頭魔法使いの屋敷に俺は呼び出された。俺は臨時の身体検査かなー、なんてびくびくしてたけど、根暗な若者を紹介されたのだ。
「私の息子のセキラです」
紹介したのは、根暗な若者のは対象的にキラキラしている美貌を晒している皇族サイである。こいつ、ただの人のくせに、妖精憑きばりの美貌で、男も女も狂わせたんだよな。貴族の学校に通っている間、たくさんの犠牲者を出したんだよ。それを最終学年で止めたのは、伯爵オクトである。ほら、オクト、そういう美貌に免疫あるから。
かくいう俺も免疫持ちである。こんな笑顔に騙されてなるものか。皇族サイ、わざと人を狂わせて弄ぶ、とんでもない悪趣味の持ち主である。もう、市井に出ることをハガルが禁止したほどだ。
あのサイから、こんな根暗なセキラくんが誕生かー。これっぽっちも血のつながりが感じられない。かといって、サイ相手に浮気はしないよな。サイが目の前にいれば、女はみんな、身を差し出すよ。
色々と疑って見てしまったから、サイはセキラくんの顔を晒してくれる。顔をあげ、髪で隠した素顔を見せてくれた。
「親子だーーー!!!」
やばい、セキラ、むちゃくちゃ可愛い顔してるよ!! 男だけど。
「セキラはね、私から、この顔を受け継いでしまったから、皇族間でも、色々と悪戯れてたんだよ。使用人にまで、手を出されてね。もちろん、全て未遂だよ」
皇族サイは笑顔で言って、セキラを離す。セキラ、部屋の隅っこで震えた。可哀想に。
「さすがにこのままでは、セキラ、餌食になってしまうからね。貴族の学校に行って、それなりに鍛えようと考えたわけだよ」
「ち、父上、む、無理です」
一生懸命、セキラなりに訴えるが、声がちっさいなー。皇族サイ、聞こえていても、聞き入れないよ。帝国では、もっと大きな声で言わないと、無視されちゃうんだよ。
「貴族の学校には、それなりの護衛をつけるんだろう? 鍛えるにも、限度があるだろう」
「護衛はつけない。君がいるから、十分だろう」
「無茶苦茶だ!!」
相手皇族といえども、俺は意見をいうよ!! 声を大きく言わないと、無視されちゃうからね!!!
口答えする俺に、セキラは、驚いたように見て、近づいてくる。
「ち、父上に、そんな口を、きくなんて」
「お前なー、身内だったら、はっきり言ってやるほうが、ためになるんだよ。サイ様は、ともかく、言わないといけない」
と伯爵オクトが言っていた。色々、現在進行形で大変なんだ。
「君も、声が大きいね」
「近づかないで。俺は絶対に惑わされないから」
しっかり距離とる。こいつ、本当にタチ悪い皇族だな!!
「俺、一応、お嬢さんの護衛に雇われてるだけで、騎士でも何でもないんだけど」
「私の息子は、それなりに鍛えているから、心配ないよ。君はただ、側にいればいいだけだから」
「本当に? 何かあった時、俺、責任とれないよ」
「セキラが襲われても、君が襲ったことになるだけだよ」
うわ、俺、泥被るために使われるのかよ。本当にタチ悪いなー!!
「セキラ、このままだと、皇族になれないよ。皇族、一応、子どもを作らないといけないから」
「だったら、神殿落ちします!!」
デカい声、出せるじゃん。セキラなりに、考えているわけだ。
「まだ、教皇長は健在です。あなたの席はありません」
それをハガルがばっさりと切り捨てる。容赦ないな、本当に。
皇族サイと筆頭魔法使いハガルは、まじまじとセキラの下半身を見る。
「役立たずなわけではないのですよね?」
「出来るよ」
「じゃあ、立派な皇族になってもらいましょう」
嫣然と微笑むハガル。もう、皇族セキラの言い分は無視だな。




