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呪いの支配者  作者: 春香秋灯
学校へ行こう
19/101

食べ歩きと夜遊びはやめられない

 王都にある侯爵家に到着すれば、そこも大変な騒ぎとなった。

「荷物、これだけなんですか!?」

「ロイドがいうには、金で解決しろ、だと」

「解決出来ることと出来ないことがあります!!」

 俺を恨みをこめて睨む侯爵マキラオ。生真面目だから、こういう変化に弱いんだよな。

「最低限は、男爵家の使用人が揃えてくれたというから、心配ないって」

「貴様のだ!?」

「俺のは、マイツナイトのお古でいいって話だが」

「そういうわけにはいかなくなった。今年から、皇族が学校に通うこととなった。時代遅れの恰好なんか、させるわけにはいかん!! その顔と髪、この機会に、綺麗に整えろ!!!」

「断る!!」

「力づくだ」

「やめてぇー!!!」

 俺は逃げた。逃げるなんて恥ずかしい、なんて言われるが、なりふり構ってられない。

 侯爵家の邸宅には離れがある。ここに滞在する時は、あの離れが俺の場所となっている。俺は迷うことなく、離れに飛び込んだ。

 使用人たち、何故かこの離れに入るのは躊躇う。いつでも使えるように、掃除までされているというのに、俺の滞在中は、絶対に、ここに入らない。

 何か理由があるのだろう。それは、離れを作った本来の目的が関わっている。

 昔々、悪女と呼ばれた伯爵令嬢サツキがいた。ともかく評判が悪かったという。しかし、実際は、逆だ。伯爵令嬢は家族に虐待され、血族に裏切られ、亡くなった母親の友人知人にまで見捨てられた。

 表向きはそうなっている。しかし、サツキの婚約者の兄であるマイツナイトだけは、サツキの味方だった。サツキのために復讐を手伝い、なんと、サツキを匿う離れまで作ったのだ。

 だが、どういうわけか、伯爵令嬢サツキは、この離れから消えていなくなった。書置き一つされておらず、マイツナイトは、サツキが逃げた、と思い込んでいた。

 実際は違う。サツキは、侯爵家の使用人、家臣たちから疎まれていた。離れに匿われるも、マイツナイトがいない隙に、追い出されたのだ。

 その秘密を俺は野良の妖精から、世間話程度に聞いていた。知られてしまっているから、どうにか、口封じをしたかっただろう。だが、俺は妖精の目を使って、野良の妖精を使役出来る。ある意味、妖精憑きのような俺に手を出すことは、妖精の復讐を受けることとなってしまうから、使用人たちも、家臣たちも、俺を恐れた。

 この離れは、ある意味、母サツキから俺が引き継いだようなものだ。俺の滞在中は、最低限のことだけして、使用人たちは、さっさと逃げるように離れていった。変な疑いを俺に持たれて、マイツナイトに告げ口されることを恐れたのだ。

 お陰で、今回、いい逃げ場になった。絶対に、身なりを整えてやらない。

 俺の荷物は、離れの入口にドサドサと放置だ。俺の許可なく入るわけにはいかないから、これ幸い、とやってくれる。あれくらい、俺一人で整理出来るからいいけど。

 だけど、俺がベッドで横になっていると、人の目に見えない何かが、勝手にドアをあけて、荷物を部屋の中に運び入れる。仕方なく、俺は妖精の目を発動させる。

『もう、だらしないわね』

『大人なんだから、きちんと整理しないといけないわ』

『見て見て、懐かしい!!』

 女の妖精たちが、きゃっきゃうふふと、俺の荷物を勝手に広げて、賑やかな声をあげている。口では俺のことを注意するけど、こういう整理整頓が大好きな野良の妖精が、勝手にやってくれるんだよな。

 普段から、人の手でやられてしまうから、出番のない野良の妖精たちは、ここぞとばかりに、俺の荷物を片づける。どこに何入れてるのか、俺は全くわからないけどな。

「あ、それはここにしてくれ」

 貴族の学校の制服だけは、俺がわかるトコに入れてもらう。あと、普段使いの服だけは、俺の手で収納だ。

 ふと、男爵家に世話になる前の服が出てきて、俺の手が止まる。

 すっかり、みすぼらしく、ただの布きれになってしまったほうがいいくらい、傷んでいるそれは、次兄の手作りだ。次兄の手作りのもの、それなりにあったが、残ったのは、この服一枚だ。

 野良の妖精の力を使えば、新品同然まで戻すことは出来る。しかし、この布地は、もとからそういうのじゃなかったんだ。貧民だから、色々と使いまわしだ。これは、次兄が着ていた服の布地を使って作られていた。新品同然にされてしまったら、次兄の名残もなくなってしまう。

 これだけは、大事にとっておいた。いつか、また、貧民に戻ったら、これを着るだろう。まだ、俺は貧民の生活に戻ることを諦めていない。

 俺がちょっと物思いに耽っている間に、俺の荷物はすっかり綺麗に収納された。俺は、一応、どこに何が片付けられたか確認する。

 そして、いつもと違うことに気づいた。

「お袋?」

 筆頭魔法使いの屋敷であっても、母サツキの幽体は俺にぴったりとくっついていた。なのに、侯爵家の敷地内には、妖精の目を発動させても、母サツキの幽体は見当たらない。

 庭にいるかも、と窓から庭園を見てみるも、そこにもいない。

「律儀だな」

 俺が怒りにまかせて言ったこと、母サツキは守っているのだろう。

 母サツキは、幽体となってずっと、侯爵家の庭園に居座っていた。悪い奴らに悪戯し、侯爵家をマイツナイトに返したのだ。それからずっと、サツキは庭園で、小さなお茶会をしている。

 俺は、そんな呑気に過ごしていた母サツキを許せず、怒りにまかせて、この家から出てけ、と言ったのだ。後から事情を聞けば、母サツキが悪いわけではないことは後から知った。

 母サツキは、死んだ後、王都の貧民街の近くにある、家族が暮らしている屋敷には行ったのだ。しかし、暮らしていた屋敷は邸宅型魔法具で、幽体であるサツキの侵入を許さなかった。結局、その周辺にも近づけず、サツキは家族を見守ることが出来なかったという。

 そのまま天に召されればいいのに、母サツキは、初めての自由にはしゃいじゃったんだな。伯爵家にいる時も閉じ込められ、親父に捕まった時も閉じ込められ、生涯のほとんどを閉じ込められていた母サツキ。死んで初めての自由なんだ、そりゃ、色々とやっちゃうよ。

 もう、俺は母サツキには怒っていない。許す許さないではない。仕方がない、と納得している。だけど、母サツキは、自分自身が許せないのだ。だから、侯爵家の敷地には入らないのだろう。

 母サツキのために作られた離れは、どう見たって、女性向けである。だからといって、俺向けに仕様を替えさせない。俺が断った。俺はサツキの息子だが、ここは、サツキのための離れだ。これからも、ずっと、このままでいい。

 荷物の配置も一通り、確認するだけで、外はとっぷりと暗くなっていた。

 行きたくないなー。正直、このまま、屋敷を抜け出して、王都の露店で適当なのを食べたい。

 男爵家は仕方がない。まわり、何もないど田舎なんだ。食べる場所も限られている。王都はね、人も店もいっぱいなんだよ。入れ替わりも激しいから、いつ来ても目新しいものが見つかる。

 このまま抜け出そうかなー、なんて迷っていると、ドアをノックされる。

「はいはい」

「さっさと食堂に来い!!」

 常に俺に対して苛立ちを持っている侯爵マキラオさんが、わざわざ俺を呼びに来た。

「使用人でいいよ、そういうの」

「貴様のことが怖くて、今じゃあ、譲り合いになってるんだよ!!」

「すんません」

 俺、何も悪いことしてないのにー。基本、善人だよ。俺に向かって、妙なことしなけりゃ、野良の妖精さんだって、優しく許してくれるし。

 許してくれないことが起こったという。一度、俺を盗人として金を握らせて始末しようとしたんだ。それを企んだ家臣が一族ごと、なくなった。俺、やってないよ。家臣の身内が、どんどんと原因不明の皮膚病を患って、どんどんと死んでいくんだよ。その皮膚病、最初は体のどこかが黒くなるんだ。それがどんどんと広がって、全身が真っ黒になると死ぬという。たが真っ黒になるだけならば、気の毒にね、という話なんだが、この皮膚病、とんでもない苦痛が伴うのだ。最後は、全身が火で焼かれているような苦痛だという。

 それを聞いて、実際に見せられた俺は、お祈りするしかない。こういうのは、人の手でどうこう出来るものじゃないんだ。泣いて縋ってきたが、俺は蹴って見捨てた。

 こういう事は、表沙汰にはされないが、使用人たち、家臣たちの間で噂で広がったのだ。それからは、俺に妙なことしちゃ、色々と危ない、ということとなった。

 サリーの兄である侯爵マキラオは生真面目でいい人だ。いざとなったら、家門のために、俺を殺そうとする非情さを持っているが、基本、いい人である。

 普段は人のいう事を無視する俺だけど、マキラオには大人しく従うことにしてる。

「なあ、兄貴、元気にしてる?」

「ライホーンさんは、変わらずだ」

「仲良くしてんだな」

「貴様の過去の所業を色々と聞いてる。私からは、現在の所業をライホーンさんに教えてやってる。心配しているよ」

「………」

 いや、心配してないよ。会って話さなきゃ、なんて兄ライホーンは言ったんだろうけど、言葉の通りに受け止めちゃいけない。それは、俺に説教しなきゃ、というやつだよ!!

 俺の兄ライホーンと侯爵マキラオは、性格が真面目で長男だからか、身分関係なく、仲良しだ。時々、ライホーンとマキラオが後ろ暗いお仕事をすることもあるという。持ちつ持たれつだな。

 俺は昔、兄ライホーンと殺し合いの兄弟喧嘩で、ライホーンを殺しかけた。そのせいで、俺は王都の貧民街を追い出されたのだ。二度と、王都の貧民街に足を踏み入れるな、とライホーンに言われ、それを今も俺は守っている。

 もう、王都の貧民街に行っていい、という許可はおりてるんだけど、どうせ、ライホーンに説教されて、殴られるのは目に見えているから、行かないけど。

 大人しく、俺は侯爵マキラオの後ろに従った。そうすると、使用人たち、家臣たちが、マキラオに尊敬の眼差しを向ける。マキラオ、生真面目だけど、こう、ちょっと気が弱い所があるから、お腹をおさえたりして、胃痛を受けている。もっと気楽に生きればいいのに。

 当主自らが俺を食堂に案内するので、俺は大人しく席につく。良かった、俺、末席だ!! やっほー。

 男爵家では、上座に座るマイツナイト、向かいにはマイツナイトの妻アッシャー、隣りにはサリーと、気が休まない席順だ。本当は、これが正しいんだよ。

 普段は、上座に侯爵マキラオなんだけど、今日は男爵マイツナイトが座っている。そこから、マイツナイトの妻が座り、その向かいにはサリーだ。サリーより下座には、侯爵家の家族である。そして、俺は向かいが誰もいない席にぽつんと座る。ちょっと、侯爵家家族とも距離とろう。

 俺が来たことで、食事が始まる。皆さん、忙しく動き出す。マイツナイトがいるから、いつもより緊張してるな。男爵とはいえ、元は侯爵位も持っていた男だ。そこら辺の貴族とは違う。

 俺は適当に、食べていいものだけ食べて、さっさと下げさせた。この後、こっそり抜け出して、王都の夜店を回るんだ。一応、礼儀だから、出された料理は二口くらいつけないと、失礼になる。

 ところが、残したのが気に食わない料理人が俺の元にやってきた。

「俺が作った料理に、ケチつけるのか!?」

 料理人だから、貴族相手のマナーなんてない。俺の馴染みの乱暴な口調で、俺の胸倉つかんできた。

「怒るなよ。俺の口は貧しいから、あわないんだ」

「今日のために、しっかりと試作を重ねたのに!!」

「ほら、他のやつらはしっかりと食べてる。残したのは俺だけだ。気にするな」

「ちくしょーーー!!!」

 俺だけ満足させられなかったことに、料理人が悔しがった。

「お前は、自尊心だけは高いな」

 料理長がわざわざやってきて、料理人の首根っこをつかんだ。

「大変、失礼しました」

「いや、いい。あんたのだったら、食べたんだけどな」

 この料理長は、俺のことをよくわかっている。こんないっぱい、俺の皿には盛らないのだ。俺が王都の出店とかで食べていることを料理長は知っている。ほら、味の探求と称して、料理長もちょくちょく、出店を回っていて、そこに数度、俺は出くわしたことがあるのだ。会話はないが、悟ってくれていた。

 実際、料理長は、俺の皿は少なく、と料理人に指示したはずだ。それを無視したのは料理人である。命令違反、軍隊だったら殴られる罰とかだが、料理だから、料理人の自尊心をへし折るだけだ。

 人が悪いな。料理長は、あえて、俺を使って、この自尊心のバカ高い料理人を叩きのめしただけである。

 こんな騒ぎとなったからか、デザートは料理長のものとなった。これはきちんと食べよう。

 男爵マイツナイトがナイフとフォークを置いたので、食事は終了である。俺はさっさと席を立つ。

「どこに行くんだ、ロイド」

「疲れたから、部屋で休むんだよ」

「そうだな、金もないのに、外で夜遊びなんて出来ないよな」

「そうそう!!」

 そうそう、男爵家に俺が持ってた金全部、置いてきたよ。今は、生家が商売やってる使用人に投資したな。きっと、失敗して、金が綺麗になくなっているだろう。

 金がないから、夜遊びなんて出来ない、と男爵マイツナイトは判断した。俺はさっさと離れに逃げ込んで、お忍び用の服に着替える。夜になると、どうしても妖精の目は発動してしまうので、こういう時は、眼帯で隠している。発動している妖精の目、光って目立つんだよ。

 そうして、離れも真っ暗にして、さっさと抜け出した。

 侯爵家は王都にあるも、ちょっと端っこなんだ。王都の中心地辺りは、ほら、デカい邸宅作れないから、有力貴族は、端っこのほうにデカい邸宅作るんだよ。移動は馬車で解決だ。徒歩なんてしない。

 お陰で、王都の夜店に行くために、それなりに走ることとなる。普段から、訓練とかしているから、俺には大したものではない。

 妖精の目が発動しているから、外では、色々と見える。明るくないのに、野良の妖精が見えるから、明るく見えるんだよな。お陰で、夜道も怖くないときている。

 俺にとってはちょっと走れば、すぐに中心街である。一か月に一度、王都には来ているが、相変わらず、店の出入りが激しい。そんな店を通り抜けて、一つの立派な商店に入った。

「ひっさしぶりー、ダクトいるー?」

 勝手知ったる知り合いの店の奥へとどんどんと入っていく。片目眼帯の見るからに怪しい人だけど、店員たち、使用人たちは馴れたものだ。笑顔だよ、笑顔。

「旦那様、ロイド様が来ましたよ」

「こんな夜に来るなと言っただろう」

 店の奥から、店主ダクトが出てきた。

 ダクトは平民だが、危篤な経歴の持ち主だ。幼い頃に、母親と父親の弟に裏切られ、一度、ダクトとその父親は、貧民に落とされたのだ。貧民となった親子が行ったのは、もちろん、王都の貧民街である。そこで、ダクトの父親の経歴を知った俺の母サツキは、色々と手助けして、貧民になって一か月で、再び、平民に戻り、今では、王都の中心街で立派な商店を構える大物になっている。

 ダクト、本当にいい奴なんだよ。たった一か月だけ、貧民街で俺の次兄と仲良くしただけなのに、それなりに腕っぷしが強くなってから、また、貧民街に遊びに来たんだ。口が固くて、その場の空気を読むことに長けているから、俺たち家族に気に入られ、伯爵オクトに気に入られ、筆頭魔法使いハガルにも気に入られ、とんでもない人誑しなんだ。ダクト、あの我儘で手がつけられない姉リンネットをも懐柔したのだ。てっきり、リンネットと結婚するかなー、なんて皆、暖かく見守っていたんだけど、ダクトは結局、親から紹介された許嫁と結婚して、普通の家庭をこさえた。後で聞いたんだが、ダクト、リンネットは好みではなかったとか。あの見た目がダメなんだって。本当かなー? 俺の知らない姉リンネットをダクトは知っている。リンネットは、ダクトにだけは、随分と心を開いていた。

 夜来た俺に、ダクト、呆れながらも、奥へと入れてくれた。夜も遅いけど、王都は眠らないから、常に客がくるから、交代で店番してる。ダクトも、寝れる時に寝て、夜中起きてるのは普通なんだとか。

「悪いね、ダクト。お詫びに、魔道具、直しておくよ」

「助かる。魔道具のお陰で、店の盗みが防がれているといっていい」

「動かすのは妖精さんだけどな」

 俺は壊れた魔道具を野良の妖精さんの導き通りに直す、薄汚れていた魔道具は新品みたいに綺麗になる。それをダクトは使用人に命じて、店のどこかに設置させる。ああやって、盗みの気持ちを起こさせないように、人心を操るのだ。お陰で、店員の目を盗んでの盗難はないという。

 そうしてお詫びをすると、俺の前に金が入った袋が置かれる。

「どうせ、金がなくて、ここにせびりに来たんだろう」

「話がわかって助かる!! 金あるけど、ほら、貴族から受け取った大金だから、迂闊に持ち歩けないんだよな。いつ、泥棒と言って、後ろからばっさりされちゃうか、わかったもんじゃない」

「そんなに物騒なら、ここに来ればいい。お前一人、遊ばせておくくらいの稼ぎはある」

「えー、俺、そんなに無駄遣いしないよ?」

「知ってる。だからだ。王都から出て行ったと聞いた時は、本当に肝が冷えた。お前は、俺に挨拶してから出奔するから、俺が色々と疑われたんだ」

「その節は、すんませんでした」

 頭下げるしかない。

 俺は兄弟喧嘩の末、王都の貧民街を追い出された時、一応、ダクトにだけは挨拶したのだ。ダクトには、家族全てが世話になっている。ダクト自身は、俺たち家族に恩を感じているが、逆もそうなんだ。だから、生涯、会えないかもしれないから、と俺はダクトにだけは挨拶したのだ。

 その後、俺を探す奴らに、色々と尋問されたんだな。

 ダクト、俺たち家族に関わったお陰というか、せいで、色々と経験した。だから、もう、馴れたんだ。ちょっとした事も、ダクトはのらりくらりと潜り抜けてしまう。

 ダクトはまあまあ美味しいお茶を出してくれた。

「つい最近、王都に来たばかりだというのに、どうした?」

 だいたい、一か月に一度、俺は王都に来ている。その間隔が短いから、ダクトは訝しんだ。

「俺、王都の貴族の学校に行くこととなったんだよ」

 ダクト、飲んでいた茶を吐き出した。

「どうしてそうなった!?」

「ハガルだよ、ハガル。俺のことをいつか貴族にしよう、と企んでるハガルが、色々と裏で手を回したんだ。俺には拒否権なんてないからな。ハガルに行け、と命じられたら、ワンと吠えるしかない」

「それで、婚約者はどうするんだ? 婚約者は別の貴族の学校に通うこととなってるだろう」

「ハガルの策略で、お嬢さん、王都の貴族の学校の試験を見事、首席で合格だよ。あ、お嬢さんは婚約者じゃないぞ!! 周りが勝手に言ってるだけだからな!!!」

 きちんと婚約者、という部分を強く否定しておく。油断すると、外堀埋められちゃうよ。俺は一人の女に縛られたくない。

「お前も大変だなー、その歳で学校なんて、ついていくのが大変だぞ」

「そこは大丈夫。俺、優秀だから。ガキの頃に、いっぱい、兄貴にしこまれたからな」

「無駄に、能力高いよな、お前」

「誉めて誉めて」

「偉い偉い」

 呆れるダクト。返事もいい加減だ。

 ダクトも昔は、軽い感じだったんだ。それも、こうやって立派な店の店主になると、しっかりと落ち着くんだな。大人の対応をするダクト。

「せっかく金も手に入ったし、普通に美味しい料理でも堪能してくるよ。ありがとな」

「いつでも来てくれ。お前は、大事な友達の弟だ」

 どこに行っても、俺は弟扱いだった。

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