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第5話:気になること

「本日の授業はこれにて終了。では各自解散」


「終わったぁ~……」


ヴィオレッタとの決闘があってから七日程経った。

最初は不安な寮生活も存外慣れて来たし、授業もさしたる問題はなかった。

筆ペンもインクも問題なく使えるし、ノートの材質にももう慣れた。

が、それでもやっぱり学校と言うものは精神的にダルくなってくる。

学生として治しようのない病気みたいなもんだから仕方ないんだけどな。


「お疲れ様です、お嬢様」


「だーかーらー……お嬢様って呼ぶなってサンドラ。同級生なんだからクロエでいいっての」


「そう言われましても……私にとってお嬢様はお嬢様ですし」


サンドラは折角俺と対等な立場で学び舎に入ったと言うのに相変わらず硬い。

何で俺のことをかたくなにお嬢様って呼び続けるか理解できんね。

そう思ってカレンの方を見ると、カレンはサッと顔を逸らして教科書を眺めている。

……コイツ、俺が話振ろうとしたの察してやがるな。


「まあいいけどよ。取り敢えず俺は部屋に戻るわ」


「かしこまりました、それでは夕食の時にお迎えに上がりますね」


「へいへーい」


別に食堂くらい一人で行けるし、第一帰るも向かうも何も寮なんだから学校内の設備内だろ。

……しかし、部屋に帰るって思っても放課後はやることがなくて暇で暇で仕方ないな。

クラス代表なんて物になっても、結局特に何をやるわけでもなく七日過ぎたわけだしなぁ。


「うーむ」


俺は部屋に戻ってベッドに身を投げ出しながら左右にゴロゴロと転がって暇の潰し方を考える。

この世界にはゲームも漫画もないわけだから、現代日本人であった俺からすると少し寂しい。

飽き性でも色んなゲームや漫画を楽しんだし、ライトノベルとかも結構読んでたんだよな。


「……ラノベくらいなら図書室とかに置いてあるかな」


このガッコ内にも図書室と言うものはあるようで、色んな本がずらーっと並んでるようだ。

紙は確かにこの世界じゃ前の世界ほど乱用出来る物じゃないが、量産体制は揃っているらしい。

どうやら治癒の魔術に優れている奴は木の成長とかの促進が出来るらしいとかなんとかで。

それで木を効率よく植林して、そこから紙を作る技術は魔術を利用した工場で出来るみたいで。

これを無制限に出来るようになれば、紙を作りたい放題になるとか何とかみたいで。


「思ったよりもすげぇんだな、この世界」


俺はそう呟きながら図書室へと足を運び、そーっと中に入って見る。

図書の委員として任命されたであろう上級生と思しき生徒が本とにらめっこしながらカウンターにいた。

前の世界の図書室とかでも見たような、ありふれた光景だ。

が、異世界でこういうのをお目にかかってると思うとちょっと新鮮だな。

図書委員の生徒は女子みたいで、赤ぶちの眼鏡をかけていて金髪ストレートと珍しい組み合わせだ。

……胸は真っ平みたいだが、貴族にも真っ平はいるし平民にもボインはいるから気にすることじゃないな。


「なんの本があるかな」


俺は本棚に並んでいる本の背に書かれているタイトルを流し見しながら興味を引きそうな本を探す。


「お、これは……」


俺は一冊の本を手にとってパラパラとめくって中身を見る。

内容はよくある恋愛小説っぽい感じだった。

貴族の子息令嬢が主人公とその友人達と織りなす恋模様を描いた物語と言ったところだろうか。

主人公は侯爵家の令息で、ヒロインはその伯爵家の娘さん……うん、この世界じゃ王道の類なんだろうな。

一年くらい前にカレンもこんな感じの恋愛小説を片手に『私もこんな恋をしてみたいものです』とか言ってたな。

『どう足掻いても無理だろ』って返したら喧嘩になったけど。


「カレンはいったい何があったらアレくらいの馬鹿力になったんだろうなぁ」


少なくとも俺が物心ついてアイツと初めて出会った時はまだまだ非力なお嬢様って感じだったんだが。

なのに、今は丸太に穴開けられるくらいの馬鹿力に育っているのに、見た目はそこまでゴリゴリじゃない。

鍛え上げられてこそいるが、美のラインを保っている女って感じで……無駄のない体って感じなんだよな。

俺も父ちゃん母ちゃんに鍛えられてきたが、カレンみたいな力はまだまだない。


「ま、いいか」


俺は適当にその辺にあった椅子に座って読書を始める。

この本の内容は割と面白そうだし、暇つぶしにはなるかもしれないな。


なんて、そんなことはなかった。

暇つぶし感覚であっさりと読める……と思ったのだが、内容が意外と重い。

何というかこう……主人公が貴族の子息令嬢である以上、どうしても避けられない身分の差と言う物が浮き彫りになっている気がする。

そしてそれを解決するために主人公達が必死に奔走するが、結局最後は悲恋で終わってしまう。

ハッピーエンドの本はないのか、と思って片っ端から色んなのを漁って見たが、結末が悲しいのが多かった。


「なんか、モヤッとするな」


俺はそう思いながらも今手に取っている十冊目を最後まで読み進め、最後のページに辿り着く。

そこには著者名と作者のサインと、一言だけ添えられていた。

『この物語は虚像です。実在の人物・団体等とは関係ありません』


「……」


俺は無言で本を閉じる。

確かにこの世界には身分制度はある。

が、別に絶対ってわけでもないはずだ。

俺も一応は中級貴族の生まれではあるが、前世の記憶がそんなの関係ないと言っている。

サンドラは平民で俺に仕えてこそいるが、俺にとってのサンドラは対等な存在だ。

だから、身分差による恋や愛を否定する気は毛頭ないが、俺は俺なりに自分の気持ちを貫くつもりだし、もし仮に貴族社会に否定されたとしても俺は俺のやり方で生きて行くだけだ。


「……しかし、これを書いた作者はどんな奴なんだ?」


俺はふとそう思って、本に書かれている作者の名前をまじまじと見てみる。

『アメリア=ウィルバー』……聞いたことのない名前だけど、ペンネームだろうし仕方ないか。

しかし、文体に引き込まれる物があったから他にこの人の本が他にも気になって来るな。

恋愛ものを十冊も書いてる、それも全部身分の差があるタイプなのにどれも面白かった。

そんなに凄い作家なら恋愛もの以外も書いてるかもしれないし、読んでみたい。

そう思いながら、俺は本を全部棚に戻して整頓し、食堂へと足を運ぶ。


「お嬢様、こちらです」


「待っていましたよ、クロエ」


サンドラとクロエが食堂で席を確保しておいてくれた。

俺は二人の取っておいてくれた席に座り、二人に礼を言う。


「ありがとよ」


「いえ、構いませんよ。同じ部屋の生徒ですから。

しかし随分と遅かったですね?サンドラがあなたを探しに行こうと不安そうにしていましたよ」


カレンは人差し指を立ててそう言うが、探さんでもいいわい。


「図書室で本読んでた、恋愛系」


「恋愛系……ですか。どのような作品ですか?」


「沢山読んでたけど……えーと、全部『アメリア=ウィルバー』って人が書いてた奴だな。身分差がある恋愛小説」



俺がそう言うと、カレンは驚いたように目を少しだけ見開いた。

何も知らないサンドラは首を傾げ、俺もカレンの様子に首を傾げた。


「どうかしたのか?」


「あ……いえ、なんでもありません。

それよりも、早く食事を取りに行きましょうか」


「ああ」


俺達は空のトレイを持って、銅貨や銀貨をジャラつかせながら食券の木札を選びに行く。

……今日はちょっと多めに食べたいので、大盛のオプションがついている揚げ鳥セットを選んだ。

すると、四人組の女子生徒が何やら話す声が聞こえた。


「ねぇ、聞いた?今年の新入生の中に『天才』がいるらしいわよ」


「あら、そうなんですか?私、あまり噂話に興味がないのですけれど」


「それが、何でも学園始まって以来の才女だとか。

しかもかなりの美人だって」


「へぇ、それは会える日を楽しみにしたいですね」


どうやら、新入生の話をしているようだ。それにしても、『天才』か。

この世界にもあるんだな、そういう単語。

でも、なんでそんな話をしているのかわからないな。


「サンドラ、知ってるか?」


「いいえ。少なくとも私は知りません。お嬢様のことではなさそうですし」


「だよなぁ……うん、今回はそうだよなぁ……」


まぁ、入学してまだ七日だし、蓋を開けてみればそんな大したことなさそうだな。

それに、俺は天才って呼ばれる程でもないし美少女って程でもないし。

俺はそう呟きながらトレイに乗った大盛揚げ鳥セットを片手に確保していた席へと座る。

サンドラは蒸し鶏セットで、カレンは牛のステーキのセットにワインまでつけていた。

俺はミルクだと言うのに。


「さて、頂くとするか」


「はい」


「頂きます」


俺は三人揃って手を合わせて、そう言ってから食事を始めた。

アメリア=ウィルバーって単語を聞いて驚いたカレンに、このガッコにいるであろう『天才』。

気になることが一気に二つも出来たけど……コレのことを考えてりゃ退屈しないで済みそうだ。

この世界でアレコレと楽しむってのは、思ったよりも簡単そうだな。

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