表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミステリーリレー小説2021『カガミの呪い』  作者: ミステリーリレー小説2021「ホラー×ミステリー」参加者一同
9/34

第9話 封印せし者の集い (水沢ながる)

「悠玄を遣わせておいた」

 と、老僧は言った。


 まるで現世から切り離されたような、鬱蒼とした木々の中にある寺だった。年月を経た建物であることは明らかだった。広くがらんとした本堂の中に電気は通っていない。あちこちに灯る蝋燭の光だけがそこに集った者達を照らしていた。

 老僧は本尊である仏像の前に座っていた。何百年もの間、その場にそうやって座っていたかのような風情であった。その佇まいは年経た大樹や大岩を思わせた。

「悠玄は若いが、腕は立つ。法力も強い。きっと役に立つことじゃろうな」

「ありがとうございます」

 老僧に向かって深々と頭を下げたのは、志乃河創一郎だ。ついこの前まで喫茶店のマスターだった男は、今は白い和服に身を包んでいる。

「私の力が足りないせいで、老師のお手を煩わせることになってしまいました。申し訳ありません」

「なに、気にすることはない」

 老僧はフォッフォッと笑った。

「我らはあの地──そなたらの言うところのカタコンベを共に封じた者達の末裔。あの地に封じられたものが再び目覚めんとした時は、我ら総出で事に当たるというのが、代々課せられた役割じゃ。当然のことよの」

「そうだよ。それにさぁ、志乃河のオッサンよくやってたと思うよ」

 口を挟んだのは、巫女姿の若い娘だ。二十歳そこそこか、ともすれば十代にも見える。よく見ればかなりの美少女なのだが、金色に染めた髪、濃いめのメイク、そしてその言葉遣いはギャルかヤンキーのようだ。

「自分の喫茶店に怪談奇談をたくさん集めて、その言霊を目眩ましにすることで怪異から霧音の存在を見えなくするなんて、そうそう思いつかないよ。実際、それで今まで守れてたんだろ? すげーじゃん」

 そう、作家としてネタを集めるというのは表向きの理由だ。彼女の言う通り、ストレンジテイルはある種の結界を張る為の場だった。人々から集めた怪奇談の言葉を言霊として密かに霧音に纏わせることで、怪異の側からは同質のモノとして認識させる。そんなやり方で、創一郎はずっと霧音を守っていたのだ。

「ありがとう、(ゆずりは)くん。だが、その目眩ましも破れた。次の手を打たねばならないな」

「遅くなりました」

 そこへ、新たな来訪者がやって来た。三十代半ばの、きっちりとスーツを着た男だった。メタルフレームの眼鏡をかけている。

「ああ、倉敷さん」

「今朝、鷹野橋智也の遺体が発見されました。……霧音さんの部屋で」

 倉敷と呼ばれた男は淡々と言った。それを聞いて、一同の顔にさっと緊張が走った。

「霧音は?」

「まだ行方はつかめていません。が、市街地でそれらしい女性と不審なトラックに乗った人物とが格闘していたという通報があったようです。恐らく霧音さんは、M街にあるというカタコンベに向かったのではないかと」

「さっすが警察庁特別公安課、情報が早いね」

 楪が混ぜっ返した。

 彼女の言った通り、倉敷は警察庁の人間である。ただし、その所属が表に出ることは決してない。怪異や呪術的な存在が世の人々に多大な影響を与えると想定される事案に対し、それを秘密裏に鎮圧する為の組織──それが特別公安課だ。彼らに関する情報は全て極秘とされ、その存在は現場の警察官でさえ知らない。ちなみに倉敷という名も偽名である。

 今回、カタコンベに関する一連の事案を、特別公安課は一種のテロとして扱っている。ここに集う者達は、その為の協力者という体裁だ。倉敷により、現在警察に知られている限りの情報はこの場の者達に共有された。


「鷹野橋という男、気づかぬうちに憑かれおったな」

 老僧の言葉に一同はうなずいた。

 目的は恐らく、霧音をカタコンベへと導く為だ。創一郎によって霧音にかけられた守護呪術を突破する駒として使われたのだ。

「とすれば……鷹野橋くんが言っていた、行方不明になった友人の考古学者というのも」

「実在しない人物かも知れませんね」

 鷹野橋が利用されていたとすれば、記憶などを改竄されている可能性が高い。

「まるで、何とかいうカタツムリの寄生虫だね。鳥に食べられやすいように宿主を操って、木の上まで行かせるって奴」

「ロイコクロリディウムか」

「そうそう、そのロイコ。伊達に作家やってないね」

 楪はケラケラ笑ったが、すぐに真顔に戻った。

「そのM街にあるカタコンベって、何なんだろうね。あたしらの先祖が封じたカタコンベは、S市にある方だろ?」

「恐らく、S市のを模して何者かが作ったものだろうな。相似のものは霊的に同調させやすい。本物のカタコンベは厳重に封じてあるので、レプリカを作ることで封印に風穴を開ける気だろう」

「つまり抜け穴だね。それに入って行った、霧音そっくりの女か。もしかして、雨音──」

「あれは死んだ。死んだ筈だ」

 創一郎は楪の言葉を遮るように、きっぱりと言った。その手はぎゅっと握られ、わずかに震えている。

「それでは、私はこれで。また何か進展がありましたら、お知らせします」

 倉敷が立ち上がり、本堂を出て行った。

「じゃ、あたしも行くね。ヤバそうなことになったら参戦するかもね」

 楪も軽やかな足取りで去って行った。老僧と創一郎だけがその場に残された。


 倉敷は停めておいた自分の車に乗り込んだ。本堂の中は携帯も通じないので、その間にたまっていたメールなどの通信をチェックする。

 霧音の事件を捜査している所轄署にも、情報を流してくれる者を何人か仕込んでいる。彼らによると、現場を担当しているのは前橋篤郎という警部だという。異様に粘り強く、一度食いついたものは離さないスッポンのような男であるらしい。

(……であれば、真実の一端に到達してしまう可能性はありますね)

 倉敷は考えた。もし真実を知ったとして、その前橋警部はどう行動するか。それによってこちらの対処も変わって来る。口をつぐませるか、それとも──

(出来れば、こちらに取り込めればいいのですが)

 倉敷は車を発進させた。


「霧音が気になるか」

 落ち着かない様子の創一郎に、老僧が声をかけた。

「は、はあ……」

「我らがどれ程気を揉もうと、最終的に道を選ぶのはあの兄妹自身じゃ。我らに出来るのはその後始末のみ」

「それは……わかっております」

「ただ、の」

 老僧の目に一瞬、ぎらりとした光が宿った。

「あの地の封印が破れるようなことがあれば、我らは……否、わしは再びあの地を封じねばならぬ。どんな犠牲を払おうともな。必要とあらば、例え霧音であろうと死んでもらうこととなろう」

「重々、承知しております」

 創一郎は平伏した。

「そう……それがあの地を封じた者の名を受け継いだ、わしの使命よ。──この()()のな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ