呼ぶ手
「すると椅子の下から手が伸びてぐっと足を掴まれた。その手は赤く血まみれで……」
「きゃあああああ!!」
「あはははは」
彼女は奇声をあげて怖がった。
「怖いよぉ」
「大丈夫だって、ほら」
部屋の中は仄暗い。
今僕は怪談を彼女に聞かせていた。
僕の彼女は怖いものが大の苦手。こうして怖い話を聞かせるとめっちゃ怖がる。その反応が楽しくて僕はついつい話をしてしまう。
「もう、春樹くんの意地悪」
「ごめんって」
「本気で思ってないくせに」
ぷんぷんと怒った姿もまた面白い。
「もうテレビつけて! 怖いのなし。トイレ行ってくる!」
「はいはい。一人で行けるの?」
「行けるよもう!」
彼女は怒って部屋を出てしまった。僕は彼女に言われたので部屋を明るくして、テレビをつけることにした。ニュース番組が映りだした。
『続いてのニュースです。国会では新たに……』
僕は、彼女が戻ってくるまでの間、なんとなくスマホをいじって待っていた。
――“にゅう”
「うわぁ!!」
突然の現象に、僕は驚いてのけぞった。
「な、な、なんだ?」
テレビのすぐ後ろ。そこから手が伸びてきた。
誰かがいる……?
いや、そんなはずがない。誰かが入れる隙間などないからだ。
僕は怖くて、急いでトイレに向かった。
「ねえ、ねぇ! 沙織ちゃん開けて! お化けが出たんだ!」
どんどんとドアを叩いて呼びかける。
僕は怖くて怖くて仕方がなかった。
「何よもう。引っかからないんだから」
「違うよ。本当なんだって!」
彼女は冗談だと思ったのか、開けてくれない。
「お願いだから出てきて!」
「…………」
無視されてしまった。嘘じゃないのに……
僕は一旦、深呼吸した。そして恐る恐る部屋に戻った。
(何もありませんように何もありませんように……)
テレビの後ろをそっと確認する。
――何もなかった。
ほっと胸を撫で下ろす。と、その時、
「あれ?」
あたりが妙に静かに感じた。
「そういえば沙織ちゃんまだ」
僕はまたトイレに向かい、ドアに向かって呼びかけた。
「ねぇ、沙織ちゃん」
「…………」
返事がない。
「沙織ちゃんお願いだから返事して」
「…………」
「沙織ちゃん! 返事してよ! もう怖がらせたりしないからさ!」
「…………」
僕は嫌な予感がしてドアの鍵を外側からこじ開けた。中を開ける。しかしそこには誰もいなかった。
「なんで?」
僕はまた部屋に戻った。
静かな部屋には、無機質にテレビからニュースが垂れ流されていた。
『次のニュースです。今日午後2時半ごろ玉凪市西区の路上で、歩行者をトラックが跳ねたと通報がありました。すぐに救急車が駆けつけ、病院に搬送しましたがまもなく死亡。亡くなったのは市内に住む大学生、東舞沙織さん(20)。警察はトラックを運転していた男性に事故当時の詳しい状況を聞くなどして……』




