終わりなき円環
「くそ……どこなんだよ、畜生……!」
俺は出口が見つからずに彷徨っていた。
◇◆◇
いくらか時は遡る。
俺のクラスメートにオカルト好きな奴が一人いた。名前は野呂伊楼。
見た目はどこにでもいそうな普通の陰キャ。だがこいつが相当にヤバかった。
オカルトと一口に言っても色々あるだろ。こいつの場合それは、呪術系。呪いとか生贄とかそういうのに相当詳しいらしい。いつも教室の隅でオカルト雑誌読んでたり、ぶつぶつ独り言呟いてたりしてんだわ。
そんである日の休み時間、クラスメートの陽キャがそいつに面白半分退屈しのぎに絡んでったんだと。
良くあるだろ。陽キャが意味もなく陰キャをいじる構図。
で、そのときに野呂から呪いをかけられたそうだ。
野呂が言ったセリフっつーかかけた呪いが“消しゴムの角が勝手に使われる呪い”らしく、ぼそぼそって『お前を……呪った……』とかいうもんだから陽キャ達大笑いして馬鹿にしてたんだよ。
「何言ってんのこいつ、キモ!」
「俺の消しゴムすでに角無いんですけど〜」
「キャハハハハハ」
みたいな感じで馬鹿にして笑ったんだと。
でもコレが笑えねー話になるなんて誰も思わないだろ?
その日から野呂いじりがクラス内で密かに始まった。
授業で誰も手をあげないときに陽キャの一人が、
「先生〜、野呂が答えわかるそうでーす」
とか言って、野呂を表に出す。
で、先生も沈黙が嫌なのか陽キャから嫌われたくないのかそこに乗っかって野呂を指名するわけよ。
まあ、案の定野呂は答えない。
で、陽キャがまたそこをいじる。一部クラスメートがクスクスと笑う。
野呂がまた小声で呪いの言葉を呟く。
「……お前に“小指の先を蚊に刺される呪い”をかけた」
それを陽キャは面白おかしく拡声させる。
「おい、なんだよそれ!」
「かけるならもっとましな呪いかけろよな!」
馬鹿にした笑いがクラスに浸透していた。
しかしまさかあんな意味が込められていたなんて。
俺はこの一連の流れを傍観していた。
俺のクラス内カーストは中の下。どちらかといえば野呂みたいな陰キャ寄り。学力そこそこにキモがられない程度にコミュ力を発揮しつつ、目立たないように振る舞っている。だからこの件に関して、同じクラスにいるだけの部外者だった。陽キャのように積極的にいじったりクスクス笑ったりしない一方、助け舟を出したりもしない。無関心を貫いていたのだが……
しかし、野呂はそうは思ってなかったようだ。
「お前にも呪いをかけた」
と、突然言われた日には少しだけイラッとした。いじられる奴が悪いとは言わない。ただ、俺は関係ないだろう。
「意味わかんねーよ」
「お前にセロハンテープの始まりがわからなくなる呪いをかけた」
「はあ……?」
とてつもなく地味な呪いだった。
前から思っていたが、そんな地味な呪いでいいんだろうか。もちろん死ぬ呪いとかかけろって意味じゃあねーけど、なんつーかそんなんでいいのか? みたいな。
特別にどうってこともなかった俺は当然ながら無視した。
だが後に、俺はこの浅はかさを呪った。
ことの発端から約一週間後のこと。
一番初めに野呂を馬鹿にして笑っていた陽キャが交通事故にあった。左足を轢かれ複雑骨折したそうだ。また転倒した際に指先から地面に着いたらしく、左手も骨折したそうだ。治療は相当に難しいらしい。
それからしばらくして授業中に野呂をいじっていた陽キャに異変が起きた。
雰囲気がおかしくなっていた。
終始何かにイライラしていて貧乏ゆすりが絶えなかった。隣に座るクラスメートの小さな寝癖を気にしたり、前の席に座るクラスメートの机が列から少しずれているだとかでまたイライラしていた。
ちょっとしたことで語気が強まり、クラス内で浮き始めた。ついには自傷行為に走った。気が狂ってしまったようだ。
そのほかにも次々とクラスメートに不運な出来事が重なっていった。
これを単なる偶然と片付けるのか、それとも何かしらの力が働いていると見るべきなのか。
結論から言えば後者だった。
全ては野呂の呪いが効いた結果だった。
『消しゴムの角が勝手に使われる呪い』
これは一種の比喩表現で、それは“他人から自分の一部分を奪われる”ことを意味していた。
『小指の先を蚊に刺される呪い』
これは、“小さなことが気になって仕方がなくなってしまう”という意味が隠されていた。
そして俺にかけられたこの、
『セロハンテープの始まりがわからなくなる呪い』
これが暗示する本当の意味を俺は身をもって知ることとなった。




