小さなことに使われた大きなもの
「やっべぇ……完全に遅刻だ……」
飛び起きたときには、すでに会社に着いていないといけない時間をとうに超えていた。
時刻は十二時二十五分。
しがないサラリーマンである俺、氷室は平日の朝はいつも九時半に家を出ることにしていた。自転車で駅に向かい、そこから一時間ほど電車に揺られて、行きたくもない会社のデスクの前でパソコンを起動させているのは約十一時。
どう考えても遅刻だった。
だが、「ふぅ……」とひとつ深呼吸。
カーテンを開けて、日光を浴びる。日差しが暖かく気持ちが良い。
俺はしごく落ち着いていた。
ここまで来ると焦りは感じなかった。逆に変な余裕さえ生まれてしまっていた。清々しささえ感じられる。
まあ何はともあれ、まずは携帯を確認。
何しているんだという怒号のメールが来ているのでは……と、軽く身構えてつつ見てみると。
「やっぱり……」
予想通り、そこには複数の着信履歴があった。
そしてあいつからこんなメールまで。
『もしかして寝坊しちゃった? 大丈夫だよ安心して。私が何とかしといたから。このメール読んだなら急いで準備してね♡ こんな日はバス通勤がお勧めだよ!』
これの送り主は、俺の元同僚。
そしてある意味俺のストーカー。
いいと言っているのに毎日俺の分の手作り弁当用意したり、やたらと俺に話しかけてきたり、俺の捨てたゴミを漁るし、一度家まで勝手について来たことがあった。
そういうのもあって俺は転職をしたのだが、しかしなんでこいつは俺の寝坊を知っているんだろう?
かるく悪寒を感じた。
嫌な予感がするが、そして何が大丈夫なのかさっぱり分からないが、頭のおかしい奴の言うことはとりあえず無視して、テレビをつけた。
朝のニュースを確認するのが俺の日課だった。と言ってももう昼なのだが。
画面の中では、ごま塩頭のニュースキャスターが原稿を目で追っていた。
『……さて、ええ、今朝の十時ごろ組頭子駅で発生した人身事故なのですが、その影響で内架島線は今現在も運転を見合わせており、今のところ復旧の目処は立っておりません。線路に人が飛び込んだとのことですが、防犯カメラの映像から、人に押されたような動きが見られたことで、警察は今のところ事故と事件の両面で捜査を進めております。えぇ、詳しい情報が入り次第……』
……組頭子駅。
俺が通勤で使っている内架島線上の駅だ。
『私が何とかしといたから』
ふ、まさかな……




