裏切り
大翔が死んだ。
私の恋人が、死んでしまったわ。
きっと、あいつのせいだ。
あいつが怪しい。
だから私は、彼女に会いに行った。
前々から怪しいと思っていたのよ。
私は夏菜子を問い詰めた。
「私が殺したと思ってんの? 言っとくけど大翔が殺されたのって五日でしょ。五日は私県外にいたから」
夏菜子は変なこと言うなと言わんばかりに、眉間に皺をつくった。
「県外ってどこ?」
私は訊いた。彼女の顔をじっと見つめた。
「えっと、……北のほうよ」
「北の方って、具体的には?」
「何よ、そんなのどうだっていいじゃない。それより私は殺してないから!」
「ねえ、北の方ってどこなのよ?」
もう一度訊いた。まっすぐ彼女を見据えて。
「しつこいわね! ⋯⋯北海道よ、北海道!」
彼女は渋々に口を開いた。
「本当に?」
私は念を押して訊いた。瞳の奥を覗き込んだ。
「ほ、本当よ!」
一瞬、その表情に葛藤が見えた。だが彼女は目を逸らすことなく、大きく見開いて大声で返した。嘘は見破られると悟ったのだろう。
そして私には嘘を言ってるようには見えなかった。だけどそれでわかってしまった。
そうか、やっぱりそうだったのね……。
彼女は、それがボロだとは気付いていないようだった。まさかバレないと思ってるのかしら……。
私は彼女に質問を重ねた。
もう確認は取れたが、念を入れておいた。
「ねえ、なんで北海道にいたの?」
「え、もういいでしょ」
「ねぇ、なんでいたの?」
「……ちょっと友達と旅行しただけよ!」
「友達って、誰?」
「あ、えっと……」
「その人と一緒に写ってる写真とかないの?」
「それは……」
「ねぇ言ってよ。ねぇ……殺してないなら、言えるでしょ!」
私は問い詰めた。すると彼女は――
「そんなこともうどうでもいいでしょ! それより私はやってないんだらからね!」
もう関わらないでという態度で、彼女はその場を去っていった。
結局、夏菜子は肝心なところは言わなかった。
……だよね、答えられないよね。
友達と行ったなんて嘘。本当は誰とも行ってないくせにさ。
そして私の彼女へと疑いは確信へと変わった。
やっぱり、こいつだったんだ……。
だから私は、夏菜子を殺すことに決めた。だってそうでしょ? あいつが生きてるなんておかしいじゃない。
私が殺してあげる。
この手で大翔の元へ送ってしまうのが憎いけれど、大翔とあの世で二人きりになるのが心底むかつくけれど、いいわ、送ってあげる。
それに一人も二人も同じこと。
夏菜子、あんた旅行が好きなんでしょ。だったら地獄を旅行すればいいわ。
だってあんた達、私に内緒で二人で出かけるのが好きなんでしょ。
【解説】
大翔を殺したのは夏菜子ではなく語り手。
大翔は恋人である語り手に内緒で(嘘をついて)北海道旅行に出かけようとしていた。
そのことで語り手が誰と行くのかと彼氏を問い詰め、口論になり、ついには彼氏を殺してしまった。
そして語り手は浮気相手と睨んだ夏菜子を問い詰めた。夏菜子は誰と旅行するかは言わなかったが、北海道に旅行することを言ってしまった。同伴者の素性を言わなかったことから、自分には言えない相手、つまり自分の恋人である大翔が旅行相手だと語り手は確信してしまったのだった。




