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【書籍化】意味がわかると怖いお話・解説付き  作者: 絢郷水沙


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馬鹿とカス

 俺の名前は芦田(あしだ)窓太(そうた)。どこにでもいそうな平凡な高校生だ。そんな俺には変わった友人が何人かいる。中でも突き抜けて馬鹿なのが、蠣崎(かきざき)兵太夫(へいだゆう)っていうクラスメートだ。こいつは相当の“馬鹿”だ。

 ここでいくつか、奴のお馬鹿エピソードをご紹介しよう。

 ある日のこと。蠣崎は手に包帯を巻きつけて登校してきたことがあった。

「おい、どうしたんだよその怪我」

 当然ながら俺は訊いた。そしたら蠣崎は、

「ああこれ。これは昨日、車の窓から手出してたら、木にぶつけたんだわ」

 と、なんとも馬鹿丸出しの笑顔で答えてきた。

 その理由を聞くと、やはりこれも馬鹿みたいな理由で、家族と外食しようと車で出かけていた際、後部座席に座っていた蠣崎は急にムラムラしだしたらしい。

 それでおっぱいを揉みたいと思った奴は、窓を開けてそこから手を出したそうだ。どうやら風を手に当てておっぱいの代わりにしたのだとか。だが車がとある木の近くを通った時に、運悪く伸びていた枝に手を当ててしまい、このような怪我となってしまったとのこと。

 いやはや、本当に馬鹿だ。ていうか怪我したのは運が悪かったというより、ただの自業自得だろう。

 ――と、そんな感じでお馬鹿エピソードは尽きないが、挙げていたらキリがなかったので、これで終わりにしよう。


 他にも色々と馬鹿はやっていて、実はそのせいで結構クラスメートから嫌われている。当の本人は気にしちゃいないようだけど。


 そしてそんな蠣崎から昨日、LINE(ライン)が届いていた。

『おい、大変だ芦田(あしだ)! お前に脅迫状が届いているぞ!』

 なんのことだとスマホの画面を下にスクロールすると、写真が添付(てんぷ)されていた。

 添付されていた写真は、その脅迫状を上から撮ったものだった。

 それは鉛筆で書かれていて、

【あしだ、おまえを、ころす】

 と読めた。かなり汚い字で読みにくく、消しカスがいっぱいくっついている。

 そして、

『これお前んだよ。俺の下駄箱と間違えたんだよ』

 と、文が添(そ)えられていた。

 なるほど、と俺は理解した。


 俺の出席番号は『あ(・)しだ』だから想像できると思うが、一番だ。そんで、『か(・)きざき』のは六番になっている。そして下駄箱は出席番号順に端から使っていくことになっているわけなんだが、そうすると俺は一番左端の列の一番上になるわけ。で、出席番号二番の奴は俺の一つ下の下駄箱を使うことになり、三番の奴はさらに下を使って……となる。そして五番目までそれが続いた後、六番である蠣崎は、再び上に戻り、左端二列目の一番上の下駄箱を使うことになるというわけだった。

 要するに奴の言うよう、俺たちの下駄箱は隣同士なのだ。

 となると、経緯(いきさつ)はおおよそこういう感じになるだろう――。


 昨日、何者かが殺害予告を書いた手紙を俺の下駄箱に入れようとした。だがそいつは間違えて、隣の蠣崎の下駄箱に手紙を入れてしまった。そしてあの馬鹿の蠣崎は、それをラブレターとでも勘違いしたのだろう、家に持ち帰ってから読んだのだ。だが驚いたことに、そこにはなんと俺への殺害予告が書かれていた。驚いた蠣崎はそれを伝えるために、LINEで俺に知らせてきたのだった――。


 はあー、と俺はため息ひとつ吐き出し、どうしたものか、と腕を組んで考えた。

 正直言って、心当たりがない。

 恨まれるようなことをした覚えもない。どちらかと言えば蠣崎の方がそうだろう。

 まったく、こんな脅迫文を送りつける奴がいたり、蠣崎みたいな馬鹿がいるこの高校は、相当の底辺らしい。

 ま、俺もその高校に入った一人なんだけどな。


 と、俺は自分に呆れながら、改めて脅迫文の写真を見返した。

「ん?」

 すると何か、違和感を感じた。俺は写真を拡大して見てみた。

「おい……蠣崎……お前は相当の馬鹿だよ」

 気づいた事実に、俺はまた溜息をついた。いや、ついたと言うよりつかされたよ。これが溜息をつかずにいられるか。まったく馬鹿も休み休みにしてもらいたい。


 俺は頭の中で事実を整理してみた。


 蠣崎が脅迫文を読んだのは昨日(きのう)だ。そして蠣崎から写真が送られてきたのも昨日。だが俺は送られてきたことに気づかずに、今日――もう昼休みの時間になってしまったが、そのLINEを初めて見た。

 そして今、俺は教室を見渡した。

 蠣(・)崎(・)の(・)姿(・)は(・)無(・)か(・)っ(・)た(・)。

 馬鹿は風邪を引かないとは言うが、まさしく蠣崎は学校を休んだことがなかった。隣の席のやつに確認したが、蠣崎は今日学校に来てないらしい。

 つまりはそういうことだ。

 もう過ぎてしまったことなら、俺にはどうすることもできない。


 俺はもう一度写真を見て確認した。

 やはり間違いなさそうだ。

「まさか、脅(・)迫(・)文(・)に(・)つ(・)い(・)て(・)い(・)た(・)消(・)し(・)カ(・)ス(・)が(・)濁(・)点(・)に(・)見(・)え(・)た(・)なんて」

 そんなことあるのかと思うだろう。でもあるんだよな、これが。実際俺も初めはそう見えた。だけど写真で見ている俺と実物をじかで見ている奴とでは、見え方は全然違うはずだ。それなのにあいつときたら……。


 馬鹿をみくびっちゃいけないよ。

 馬鹿っていうのはね、本当に馬鹿なんだ。



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