ミントのガム
鬼の居ぬ間に洗濯をしようと、僕はパソコンの電源を押した。
その鬼こと妻の洋子は、いま買い物に出かけている。「いつまでゲームしてんのよ!」と、最近の洋子はまるで母親みたいなことを言ってくるようになった。でもその理由は、むしろ母親と言うよりは恋人のそれで、僕に構って欲しいらしい。ヤンデレというか、かまってちゃんというか、付き合っている時からわかっていたけれど、少々危ないやつなんだ。この間なんかは、僕から女の匂いがするとかなんとか言って、ヒステリックを起こしていた。
だから鬼の居ぬ間に命の洗濯、もといゲームをする。
◇◆◇
一時間くらいMMORPGで遊んだが、本当にあっという間に時間が過ぎていった。気分的にはまだ遊び足りなかったが、もうそろそろ洋子が帰ってくる時間かなと思い、名残惜しいがここいらでやめにしておくことにした。
そして僕はこの後の予定をぼんやりと考えながら、椅子から立ち上がった。
そういえば、「帰ってくるまでにリビングの掃除しといてよね」なんていわれてた気がする。まさかパソコンが熱くなっているか調べて「遊んでたでしょ!」とか言ってこないよなあ。なんだか背中がゾワっとした。
と、そのとき、僕がなんとなくパソコンに視線を向けると、一本のUSBコネクタが外れていたことに気がついた。
「あれ? キーボードのが抜けてる」
僕は床に落ちていたそのケーブルを元に戻しておこうと拾い上げた──が。
「うわ! コネクタの中にガム詰まってんじゃん!」
みちみちに詰められた緑色の粘着物質。
しかも僕の嫌いなミントの匂いがする。
「ほんと、最悪!」
きっと妻が僕に嫌がらせするために詰めたのだろう。これは流石にひどいぞ。
と、そこへ、
「ただいまー」
どうやら洋子が帰ってきたようだ。よし、ガツンと言ってやろう。
【解説】
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
コネクタの中にガムがつけられていたら、しっかりと差し込むことができません。しかし語り手はそれまで普通にキーボードを使っていました。いったい彼はどうやって遊んでいたのでしょう?
彼はガムのことを奥さんに話したので、遊んでいたことがバレてしまいました。




