償い
いま世間ではある人物に注目が集められていた。その男は無実の罪で投獄され、実に十七年間もの間、刑務所での暮らしを余儀なくされていたのだ。証拠捏造が明るみに出ててからは再審理が行われ、結果、冤罪との判決が確定した。証拠を捏造した警察官は、発覚後逃走。未だ行方をくらましている。
釈放後、数々の報道陣が押しかける中、一人のインタビュアーが男に好奇の目を向けながら、同時にマイクも向けた。
「今、一番に何がしたいですか?」
その質問に男は、どこか遠くを見るような目をして、そして重々しく口を開いた。
「私は⋯⋯この17年間で多くのものを失いました。それは決して時間だけじゃありません。一番悔しかったこと⋯⋯それは、妻の最期に立ち会えなかったことです。妻は最期まで私のことを信じてくれました。こうしてまた外の世界に出られたにもかかわらず、側に愛する人がいないのは⋯⋯胸が張り裂けそうに⋯⋯辛いです。もし私が殺人を犯したのなら罪は償います。ですが誓って言います。私は人を殺していません。もう一度言います⋯⋯いや、何度だって言います。私は過去に人を殺したことは、一度だってありません! 一つ⋯⋯この十七年間に価値のある意味を持たせられるとすれば、それは罪の償いだけです。私はこれから、この十七年間が無駄にならないよう、行動したいと思います」
話し終えた男の目には、一つの確固たる意志が宿っていた。
【解説】
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男はこう言っていた。『この十七年間に価値のある意味を持たせられるとすれば、それは罪の償いだけです』と。
すなわち、『この十七年間は罪の償いに費やされたと考えなければ価値を見出せない』と言っているが、ここで言う“罪“とはなんのことであろうか?
当然ながらそれは男自身が犯した罪のことだ。では男はどんな罪を犯したのか。冤罪と確定した今、男が過去に罪を犯していないと示された。ならばここで言う罪とはこれから犯す罪と言う意味だ。さらに男はこうも言っていた。『私は過去に人を殺したことは、一度だってありません』と。つまり未来では殺人を犯すかもしれない。そして最後に男は、この十七年間が無駄にならないように行動したいと言った──無駄にならないように人を殺す。殺すのは当然、証拠を捏造した警察官だ。
それは、妻の最期に立ち会えなかった男の復讐劇の始まり。
男はテレビの前で──日本中の人間が見ている中で、堂々と殺人予告をやってのけたのだった。




