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【書籍化】意味がわかると怖いお話・解説付き(370万PV達成!)  作者: 絢郷水沙


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地震

 僕は同僚の浩二から相談を受けていた。

「あいつ束縛が強すぎるんだよ」

 浩二のいう『あいつ』とは、浩二の恋人のことで、田沢(かのじょ)は僕の以前の職場の同僚だった。ちなみに二人を引き合わせたのも僕だった。

「もう耐えられないんだよ。四六時中どこにいるかとか、何してるかとか聞いてくるしさ」

 と、浩二は愚痴をこぼしていた。

 そこで彼から相談、というか頼まれたのは、別れ話を僕の口から伝えてくれないかということだった。二人を引き合わせた僕にも責任はあるのかもしれないと、仕方なくそれを受けることにした僕だったのだが、しかし直接会っていう勇気はなく、僕は彼女に電話で伝えることにした。


「もしもし田沢(たざわ)立浪(たつなみ)なんだけど」

『あ、立浪君、ちょうどよかった。浩二君今どこにいるか知らない? 私が電話しても全然出てくれないのよ。もうほんとどうしちゃったんだろ。あ、もしかして事故にあったのかも。どうしようどうしよう。もしそうだったら――』

 電話に出た彼女は、のべつ(まく)なしに浩二の話をしだした。彼の言うように束縛が強すぎるのは確からしい。多少なりはそう言う一面を知っていた僕だが、これは酷い。浩二が彼女の電話に出ないのも頷ける。

「実はな、浩二が――」

 と、僕が話を切り出したその時、ガタガタと周囲のものが揺れだした。

「地震だ」

 さらにガタガタと揺れだす。

 僕は周囲に注意を払った。電話越しに彼女の声が聞こえるが、それどころではなかった。

 数秒後、少し収まったところで僕は聞き返した。

「ごめん。なんか言ったか?」

『…………ほん、う……な』

 電波が届いていないのかわからないが、彼女の声は消え入りそうだった。かろうじて聞き取れたのは、『本当なの?』という一言だった。


 と、そこまで聞いてまた揺れだした。今度はより激しさが増していた。

「じ、しんだよ。なんだ、そっ、ちは——ッ!」

 大丈夫か? と聞こうとして、言葉が詰まった。他人の心配をしているどころではない。

 ぐらぐらと揺れる。

 棚から色々と物が落ちてきて危険だ。

「あ、とで、掛けな、おす」

 僕はすぐさま机の下に潜り、降り注ぐ本や書類から身を守った。程なくして揺れは収まったが、あたりはめちゃくちゃに散らかってしまっていた。

 それはかなりの規模の地震だった。


 揺れが収まった後は、周囲の後片付けに追われ、彼女のことは二の次となってしまった。

 別れ話はまた今度にしよう。


 しかし、それは実現しなかった。

 なぜならその直ぐあと、彼女は自殺してしまったからだ。


【解説】

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 彼女は語り手の「実はな、浩二が――地震(じしん)だ」という台詞を「浩二が死んだ」と認識してしまった。

 電話が繋がらなかったことと、それを関連づけた彼女は、自殺してしまったのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言]  こんな別れ方は彼も望んでいなかったでしょうに。  メイルならよかった。
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