OUTSID(アウトサイド)
「私がどういう立場にいたかは、ご想像にお任せします」
取材に応えてくれた奥寺さんはそう言うと、滔々と語り出した。
◇◆◇
都内のとある場所で、ある日突然出現したそのアートギャラリーには数多くの人が詰めかけた。
《INSIDE》と題されたそのギャラリー内部には、壁にいくつもの写真が展示されていた。さまざまな人物を被写体としたそれらは、撮影場所や日時なども様々であった。二人で肩を寄せ合って微笑んでいる夫婦や、何かに怯えて後退りしている女性。大きく口を開けてバカ笑いしている男性や、誕生日会に撮影されたケーキに刺さる蝋燭を吹き消そうとしている少女の写真など。ぼやけていたり、焦点がずれていたりなど、素人が撮影したものばかりであった。写真の下には、被写体の名前とともにその写真が撮られた際の状況が軽く記されてあった。
一見、何の繋がりも見せない写真の数々。しかしこれらには全て、ある一つの共通点があった。
それは、それらの写真が彼らの死の直前に撮影されたものだった、いう点だ。
――今回は取材を受けていただき誠にありがとうございます。
「いえいえ。取材料いただいているので」
――早速ですが、当時、どれくらいの人々が展示を見に訪れたのでしょうか?
「そうですね。多い日で百人ほど。累計では、約三千人の方に来場していただいたと思います」
――入場は無料だったそうですね。
「はい。多くの方に見てもらいたかったそうで、そのようにしていたそうです」
――コンセプトはどういったものなのでしょうか?
「死の直前に撮影された、というものなのですが、むしろ伝えたかったのは“日常”という点です。写真はご覧になられましたか?」
――直接は見ていないのですが、取材に際して、いくつか得られたものは見させていただきました。
「ならば分かると思いますが、彼らは全く死について考えていないのです。笑顔で笑っている写真なんてありましたでしょう。ですが彼らは直後に亡くなっているんです。つまり分かりますか?」
――死はすぐ隣にある。と、いうことでしょうか?
「そういうことです。一見してどこにでもあるいつでも見られるような日常。死という非日常とは縁遠いもののように感じられますよね。それについて、見た人に考えてもらいたかったのです」
そう言うと、奥寺さんはやや眼を細くしながら笑った。
そのアートギャラリーには、写真の展示意外にも、もう一つの企画があった。
展示会場の奥に併設された一つの部屋。《OUTSID》と名のついたその部屋に入るには、同意書にサインする必要があった。
・部屋の中で行われることについて、一切の責任を当企画関係者は負いません。
・同意書にサインしていない方のご入室は許可されません。
・サインされた方は、同伴者の方ももれなく全員入っていただきます。ゆえに同伴者の方にもサインを求めます。
・部屋の内部について、一切の公言を禁止します。
(一部抜粋)
――その部屋の中には何があるのでしょうか?
「それについてはお答えできません。それは中に入った者にしかわからないようになっています。そういった企画です」
――仮に今ここで同意書にサインしたとしてもですか?
「はい。お教えすることはできません」
――どれくらいの人がその部屋に入っていったのでしょうか?
「こちらに関してはそれほど多くはありません。多くの方が検討するだけして、諦めていきました。百もいってない数だと思います」
――その部屋の企画は、写真の展示とどう関係があるのですか?
「それについても詳しくは述べられません」
取材を行うにあたり、事前の調査を行ったが、この部屋に関して全くと言っていいほど情報が得られなかった。中で一体何が行われていたのか。情報統制は徹底しており、入室した人間の口は相当に固いものと思われる。
その部屋の扉のすぐ近くにいた来場者によると、小さな悲鳴のような音を聞いたというが、それも一瞬のことで詳しいことはわかっていない。
この件に関して、色々な憶測が飛び交っていた。恐怖を煽るだけ煽り、部屋の中には何もないという仮説。表に展示してあった人たちの死後の姿が映った写真が展示してあるという仮説。部屋の名前の通り、屋外に繋がっているという仮説。さまざまな仮説が調査の中で得られたが、全てに確証はなかった。
――部屋の名前とはどういった意味なのでしょうか。また外側を意味するoutsideの「e」が無いのとはなにか関係があるのでしょうか?
「関係はあります。が、それらはご想像にお任せします」
――教えていただけないとのことですが、もしも私が同意書にサインした場合、その部屋に案内していただくことは可能でしょうか?
「ええ、それに関しては全く問題はありません」
ということで後日、奥寺さんとその件に関してとある場所へ来るようにと指示をされ、私は向かった。以前アートギャラリーが開催された場所からほど近い場所に建てられていた雑居ビルの地下二階。コンクリートの無機質な階段を降りていくと、入り口のドアのところで待ち構えていた奥寺さんが軽く会釈し、中へと向かい入れてくれた。
――この度はわざわざありがとうございます。
「いえいえ。こちらこそ。それで、事前にお渡しした同意書の方の提出をお願いします」
鞄から同意書を取り出して手渡しすると、建物の奥へと案内された。何もない部屋をいくつか抜けると突然、こちらです、と奥寺さんが手を向けた。その先には、一枚の扉があった。
「この扉を開けて中に入っていただきますと、例の部屋につながるドアがあります。お好きなタイミングで入ってください。私はここから先へは参りませんので」
奥寺さんが軽い微笑みで話す。
ドアノブを回して入ると、中は何もない部屋だった。白い壁に天井の蛍光灯があたりを隅々まで照らす。数歩前に進むと、後ろのドアがひとりでにしまった。目の前には、扉が一つ。この扉の向こうが例の展示会場にあったのと同じ部屋ということらしい。
(よし……!)
覚悟を決めていざ、中へと入る。
パシャリ、と音がした。部屋の中は先ほどまでいた部屋とほぼ同じだった。白い壁に天井の蛍光灯。唯一違っていたのは、扉と反対側の壁に、一つの大きな額入りの写真が飾られていた点だ。
それに、ゆっくりと近づいていく。
「……え?」
そこに飾られていた写真を見て、私は唸ると同時に、衝撃を受けた。額縁下の題名は『西村 剋介』
私の名であった。
額縁左横には小さく説明文が添えられていた。
【この写真は、愚かなルポライターが愚かにも踏み入れるべきではない場所へと不必要に訪れた際に撮影された写真である。】
「……」
果たして私は生きてここから出ることは出来るのだろうか……?
「ん…………何かが……何かが……くる!」
「うわあああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああ ああああああああああ ああああ ああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああ ああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ あ あ ああああああ あああ あ ああああああああああああ あ ああ ああ ああ あ あ ああ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ああ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ぁ あ あ あ ぁ あ あ あ あ あ ぁ あ あ あ あ あ ぁ




