見知らぬ老人2
君を探し始めて、さらに、1ヶ月が経った。
警察はまだ、探してくれているようだった。
連絡もない。
仕事場に電話しても来てないと言う。
どこにいるの?
光るスマホの画面に少し苛立ちを感じるようになった。
どこにいるの?
仕事もあまり手に付かない。
「結婚しよう」
そう言われた時のことを思い出す。
私は、彼に言われた通り、待ち合わせ場所に行った。
少しすると、スーツを着て、ネクタイもしっかり締まった彼が、現れた。
「ごめん!待った?」
「待ってないよ」
彼と歩き出す。
少し歩くと、彼は、立ち止まり、
「ここだよ」
と指す。
その場所を見ると、如何にも高級そうなレストランだった。
「え?」
「行こっか」
そう言い、私に手を伸ばす。
私は、戸惑いを隠せない。
その不安そうな私の顔を見た彼は、
「大丈夫だよ」
そう言いながら、私の手を握り微笑む。
「でっでも…」
レストランの扉を開けると、
「いらっしゃいませ」
女のお店の方が現れる。そして、お辞儀をする。
彼は、お店の人の後を普通に慣れているかのように着いていく。
私は、戸惑いを隠せない。その後を普通に彼と手を握ったまま、着いていく。
ドキドキ
緊張する。
お店の人に席を案内され、
「こちらの席へどうぞ」
お辞儀をする。
思わず、釣られたかのように、お辞儀をしてしまう私。
彼は、私の直ぐ近くにあった椅子を引き、
「どうぞ、お嬢様」
「おっお嬢様って…」
「いいから」
そう言い、座らせた。
彼は、それから、自分の席に座り、
「何食べたい?」
そう聞く。しかし、分かるはずもない。
「何でも…」
彼は、お店の人に注文して、
「私、こういうところ来たの、初めてなんだよね」
「俺もだよ」
「え?それにしても、慣れてるね」
「予習したから」
「ふーん…」
何気ない雑談をしていると、あっという間に、料理は、次から次へと来た。
「食べよっか」
「うん!」
「頂きます」
二人で食べた。
「うーん…おいしいー!」
私の顔を見て彼は、うれしそうに、
「良かった」
二人で微笑み合いながら、食事を楽しんだ。
その帰り道、
真っ暗な夜で、君の顔がはっきり見えるのに時間がかかった。
でも、直ぐ近くにいるということは、わかった。
暖かな優しいゆっくりと温もりを感じるから。
「今日は、ありがとう!」
二人で並びながら歩いている時、私はそう言い、口を開く。
少し間が空いてから、
「あっあのさ…」
「うん?」
少し間が空く。
風が私達を包み込む。
少し風が止んで来てから、彼は、再び、口を開く。
「あっあのさ…」
「…」
「俺と…」
「…」
ヒューヒュー
「俺と…」
「結婚してください!」
宙に心が浮かんだ。
「はい、よろしくお願いします」
お辞儀をする。
彼はすごくうれしそうな顔をしていた。
「やった!やったー!」
そんな彼のうれしそうな顔を見て、微笑み合った。
そして、彼は、私を抱き締めた。
あれは、夢だったのだろうか。
幻?それとも…妄想でもしていたのだろうか。
どうして…
どうして…
私から消えたの?
目から涙が床へ零れ落ちる。
遂に、床に座り込んでしまった。
待つと決めたのに。ずっと、待つって。
そのまま、何となく、時は流れ、12月のクリスマスまで来てしまった。
街中は、キラキラと輝いており、人混みになっている。
楽しそうに心が踊っている人達が多い中で、私は、仕事の帰り道、何も変わらない道を歩いていた。
下を俯きながら、彼のことを想う。
そこで、突然、
「あっあの…すいません…」
真っ暗なところに少し光を照らしている辺りで、声を掛けられた。
私は、振り返る。
背後には、老人がいた。
そう、私は、再び、老人に出会った。
「あっあの…」
「はい…」
少し怪しむ。
「此間は、ありがとうございました」
そうゆっくりと言い、ゆっくりとお辞儀をする。
私は、釣られたかのように、お辞儀をする。
「道案内してくれた方ですよね?」
「道案内?」
「通り道に…」
私は、思い出す。
「あっ…」
「あの…その時のお礼がしたいのですが」
「いいですよ、そんな…」
断りを入れるが、老人は、口を開く。
「何か、一つだけ、お願い事を叶えます」
「え?」
その時、私の頭に咄嗟に思いついたのは、彼だった。
私は、怪しむことさえせず、一度は、疑ったが、
「なっ何でも…いいんですか?」
老人は、にっこりとした顔で、
「勿論ですとも」
顎の下に生えたヒゲに触れる。
少し間が空く。
私は、少しずつ、老人に話した。そして…お願い事をした。
しかし、それから、老人は、年が明けても、1ヶ月経っても姿を私に現さなかった。