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セイクリッド・カース  作者: 気高虚郎
第2章:頼もしき騎士団
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第11話:騎士の矜持

今回は前回「漢の説得」の直後の酒場のシーンからになります。


団長の目には闘志を越え、怒りさえ放っていた。


「この爺さんについては色々調べはついてる。長年、魔物と戦ってきたそうだ。さらに『やつら』との戦いに関しちゃ、俺らの倍のキャリアをお持ちだ。そして失うものはないと来た。止める理由なんざありゃしねぇ。」


騎士団長たるもの腕っぷしだけでは務まりはしない。

この調査能力を以てすればこそなのである。


「だが便利屋さん、あんたは実力、経歴、それらが一切不明だ。そんなあんたが危険地帯のど真ん中に行く?司祭様の許可があろうとおれは許可できん!」


今の騎士団長は先ほどまでの団員たちを鼓舞したリーダーではない。

闘志に満ちた戦士へと変わった。


「俺たち騎士団に必要なのはこの都を守る意志だ。そして俺はこの都で最も強い男と自負している。でなきゃ、騎士団団長なんてやれやしねえんだ。」


その目と向き合った便利屋はすぐさま彼の思惑を理解した。


「実力を示せ、そういうことか。」


「その通りだ。この都を蝕む危険地帯のど真ん中へ都最強の俺にさえ司祭様は行く許可を下さらない。なのにいきなりやってきたあんたには許可を出してるってことが気に入らねぇ。行くんだったら俺に勝て。それが筋ってやつだ。」


トランが団長の槍を取り、便利屋へと渡した。便利屋の美しさに見とれていたにやけ面は消え失せ、彼もまた戦士の顔に変わっている。


「すまない、便利屋さん。こればっかりは俺にもどうにもできない。」


「いや、シンプルでいい。」


先ほど団長が開けた酒場の真ん中のスペースを挟み、便利屋と団長は相対した。さらに団長は重厚な兜を被り、団員から頑丈な盾を渡された。


「鎧に兜に盾だ。卑怯かもしれねえが、あそこに行くならフル装備の俺に勝ってもらわないとな。」


「全力のあなたと戦える機会を設けてくれて光栄だ。」


火花を散らす2人の間に怯えもなく、震えもなく、毅然とした態度でフィリップは団長に立ちはだかった。


「待ちなさい、団長様。あなたの使命はアリアンナ家を、この領地の人々を守ることのはずです。なのにあなたはそのような意地のために敵でもない便利屋様に槍を向け、人々の盾となるべき体に無用の傷を負う決闘をするとおっしゃるのですか?アリアンナ家執事として看過できるものではありません。」


「わりーな、執事さんよ。この意地のおかげで崇高なる使命を果たせてる。そしてこの騎士団の奴らがついてきてくれてんのさ。伯爵や司祭様にどうこう言われようと引っ込められるもんじゃねえんだ。」


男としての意地と、騎士としての使命。交わりあうべき2つは今、相容れぬものとなっている。

騎士団と言いつつも騎士と呼べるのは団長一人で、部下たちは兵士と呼ぶべき立場だ。

元は救いようのない不良だった団長は都の武術大会に出場して優勝した。

そして優勝者への褒美としてティモシー・アリアンナ伯爵への挑戦権を得た彼だが、完膚なきまでに負かされた。

団長は伯爵に忠誠を誓い、伯爵は彼の強さと根性を買って騎士の身分を与えて都を守る組織を託した。

身分を勝利でもぎ取り、忠誠を敗北で叩き込まれた彼にとって強さは絶対の判断基準。

領地で一番強いのは伯爵という考えなので、さっきの言葉とは矛盾しない。


「フィリップよ。何事も器用にこなし、いかなる時でも賢く立ち回れるおぬしにはわからんものじゃ。こやつは騎士としての使命を果たすことしかできぬバカなのじゃ。バカの気持ちをおぬしには理解できん。ならばせめて放っておいてやってくれ。」


「そうだぜ、執事さん。今、この店の中でバカじゃないのはあんただけさ。周りを見てみな。」


バルマンと店主の言葉を聞いたフィリップは酒場を見回した。団員たちやバルマン、店主までもがこれから起こる決闘を見届ける覚悟を決めている。多数決を採れば決闘に反対するのはフィリップのみだろう。


「しかし…!」


便利屋は主であるティモシー伯爵を救う依頼を請け負ってくれている。団長はこの都を守る騎士団の要だ。重要な2人の人間が理解しかねる論理で傷つけ合うことにフィリップは受け入れることはできない。


「執事さん。任せてください。」


フィリップは自らを呼んだ便利屋の方を向いた時、彼の中の戸惑いは消えた。便利屋の瞳を見ると何故かはわからないが安心してしまったのだ。彼は黙って酒場内の即席の決闘場から退いた。


「お任せしました。」


すれ違いざまにフィリップは便利屋に信頼の証である一言を交わした。

便利屋はフィリップの信頼を無言の笑みで受け取っていた。


「便利屋さん。装備はその槍だけか?鎧も着ねぇで、舐めてんのか!?」


「違う。これがあなたに勝てる最善手だ。」


兜、籠手、鎧、さらには盾で身を固める団長に対し、軽装で槍一本の便利屋。

都を守るという重い使命を背負う自分を差し置いて危険地帯のど真ん中へ行く許可をもらい、さらにはシャツだけで自分と決闘を受けるというのだ。

団長の怒りはかつてないほど高潮している。


「合図もルールも審判もいらねえな。双方、満足するまでやれ。」


店主の言葉を境に酒場からは一切の雑音が消えた。

便利屋は槍を構え、団長も槍と盾を構えた。

団員たち、バルマン、フィリップ、店主、決闘の観衆の耳に聞こえるのは己の呼吸だけ。

呼吸がやたらと長く感じる。時が止まったのではとフィリップが錯覚した次の瞬間、便利屋が鋭い踏み込みと共に槍を高く振り上げて団長に向かった。


「はあぁぁ!」


団長は振り下されるであろう槍に対応し、左手の盾を頭上に掲げた。

そして右手に持った槍を酒場ごと吹き飛ばす勢いで大きく薙ぎ払った。


「おお!?」


観衆たちから驚嘆の声が漏れた。便利屋は振り上げた槍の石突を床に突き立てて、槍を支えにして高く跳び上がった。

団長の薙ぎ払いは支えとしての役目を果たし終えて床に突っ立っただけの槍を叩いただけだ。


「ぬぅ!」


団長の頭上に構えた左手の盾に強烈な重みを感じた。

槍を支えにして跳び上がったあと、便利屋は団長の構えられた盾に乗っかった。

筋骨隆々の団長の体に支えられ、盤石な足場となった盾を強く踏み込み、さらに真上に跳び上がった。


「うわぁぁぁ!」


団長は恐怖した。

便利屋の踏み台になったことで体勢が崩れ、真上という死角を攻められたことで動揺したのだ。

便利屋の命を気遣う余裕もなくなり、団長は頭上の便利屋へと槍を突き上げた。宙に舞う便利屋は体を捻って槍の一撃を交わし、槍はそのまま酒場の天井に突き刺さって無用の長物へと変わった。

そして便利屋は落下したまま団長の兜で守られた頭を両脚で挟みこみ、体を捻って回転させた。

団長の巨体は落下の勢いを得た便利屋の両足によって投げられ、そのまま床に倒れ込んでしまった。


「なぁぁぁ!」


団長は兜で狭まれた視界が二転三転して何が起こったのかもわからなくなってしまっていた。

直後、首に何かが添えられた。

数秒経って団長はようやく自分が倒れていることに気付いた。そして立ち上がった便利屋が拾った槍で、自分の首を抑えていることに。


「このような行為は無礼だと存じている。しかし重要な戦力であるあなたを傷つけるわけにもいかない。どうかお赦しを。」


重い鎧を身に纏ったまま素早く立ち上がることは敵わず、得物は手放している。

おまけに相手は自分の急所に槍を添えている。

勝者は見下ろし、敗者は地に伏せている。勝敗は明らかだ。


「完敗だ…。」


団長の一言で勝敗は決した。便利屋は立ち上がり、敗者から離れた。

しかし、歓声は聞こえない。誉れ高き騎士団団長が床を寝転がるという無様を晒したのだ。兜からは野太い嗚咽が漏れていた。


「みんな、ごめんな…。負けちまった…!」


敗者となった団長を迎えたのは温かい言葉だった。


「団長!負けたっていいさ!」


「俺らのリーダーは団長だけです!」


敗北したからといって団員の忠誠は変わりはしない。

部下の温かい言葉と、敗北の悔しさで倒れた鎧姿の男は酒場の外まで聞こえるほどになきじゃくった。


「うおおおおおおおおおおん!!!」

団長が負けた後の団員達の言葉が優しいですね。

敗北してもこうやって支えてもらえるようなリーダーになりたいです。

それでは次回で。フォローやブクマをして頂ければ作者が泣いて喜びます!

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