運命のマックラスキー隊
ついにマックラスキー隊が一航艦を発見、攻撃態勢にはいりますが・・・
午前10:16 前衛の重巡「利根」から発光信号
「左百二十度高角三○度に敵飛行機を認む」の警戒警告
「赤城」戦闘機隊 白根大尉はミッドウェー島攻撃に参加帰投後「赤城」発着艦不能の為、同じ一航戦の「加賀」に着艦し燃料及び零戦二一甲型用12.7㎜機銃弾の補給を済ませると敵艦隊攻撃には組み入れられず艦隊上空の防空戦に駆り出されていた。
その後応急修理が完了した「赤城」に着艦し黒焦げになった艦橋周辺と南雲長官以下の一航艦及び「赤城」の幕僚達の死傷に衝撃を受けながらも第四次攻撃隊第一波出撃を見送った後、この日二度目の艦隊直援のための準備が整い発艦直前の最終打ち合わせ中であった。
白根大尉以下艦隊直援隊はこの発艦間際の打ち合わせの際に飛行長の増田中佐から「利根」からの警告を受けた南西方向に向かう様指示を受けると、舷側ポケットからの手空き乗組員の声援を後に僚機四機を従え発艦した。
乗機には長時間の防空戦を想定してか落下タンクが装備されていたが、直ちに敵機の侵攻方向に向かい発見しだい迎撃戦に移行する為、もったいないが満タンのタンクを投棄し一気に軽くなった機体を左旋回に入れながら上昇していくと下方の「利根」「霧島」が盛んに主砲、高角砲を撃ち上げているのが見えた。
すぐさま上空に目を戻すと高度二千五百から三千付近に黒いゴマ粒とその周囲に黒い花が咲きだしている。「いかん!敵は急降下爆撃だ!」と前方上空付近に味方機はと探すがあいにく先程までの敵雷撃機の迎撃で低空に降りているのか自分たち以外は見当たらない。
団雲に見え隠れしながらも敵機は次第に大きくなって来る、敵機はSBDドーントレス急降下爆撃機ばかりで約三十機ちかくはいるようだ、とても自分たちだけでは防ぎきれないがとにかく撃墜しなくても混乱させ爆撃の照準を狂わせれば良いのだと迷うことなく下方より突進していく。
幸い敵はまったく気づいていないようで敵編隊の先頭に陣取る指揮小隊らしき三機編隊に狙いを定め右前方下方から五機横隊で機銃を見越しで撃ちながら突っ込んだ。
この予想外の迎撃を受けたのはマックラスキー少佐が率いる「エンタープライズ」のSBDドーントレス急降下爆撃隊三一機であった。
マックラスキー隊は「エンタープライズ」を発艦後約三時間何も見えない海上を不安と闘いながら飛行を続け、もう間もなく燃料切れの為母艦への帰投を考え始ていた頃、日本軍の巡洋艦を発見しその進行方向に向かう最後の賭けにでたのだ、そしてその賭けは見事に的中し午前10:05に35マイル先に待望の日本機動部隊を発見したのだ。
この巡洋艦は実は駆逐艦「嵐」であり米潜水艦「ノーチラス」を探索攻撃するため艦隊から離れて行動しており、この時一航艦に戻る途中を偶然発見されてしまったのだ。
「嵐」があと五分当該海域で「ノーチラス」の探索を続行していたらマックラスキー少佐は、一航艦の発見には至らなかったであろう。
この時の少佐はなんという幸運に恵まれたのかと喜びを隠しきれなかったに違いないが、
それはまた同時に地獄の釜をあけてしまってもいたのだ。
マックラスキー隊はリチャード・H・ベスト大尉の第六爆撃中隊とウィルマー・E・ギャラハー大尉率いる第六哨戒中隊とそれを指揮するマックラスキー小隊から成り立っていたが、進撃途中で合流するはずの護衛のF4F戦闘機隊とはぐれてしまい、恐るべき零戦が待ち構える中へSBDドーントレス艦爆だけで突入する悲壮な敵空母攻撃になると覚悟していた。
しかし日本空母発見以降のラッキーは続いており、発見からあと少しで急降下地点というところまで零戦による迎撃をまったく受けずに近づくことに成功したのだ。
マックラスキー少佐は自分の今日の幸運に感謝しこれからの敵空母への爆撃でも必ず命中弾を出せると確信の様なものを感じさらに闘志が湧き上がってきていた。
しかし次の瞬間破局は突然襲ってきたのだ、右下方から突撃してきた白根隊にマックラスキー小隊の三機は全く気づかず、大量の機銃弾の中に突っ込む形となり、小隊の先頭を飛んでいたマックラスキー機も突然の激震とともに高初速の12.7㎜弾が床下から貫通し操縦席及び少佐自身の体内で炸裂した。
このコンマ何秒の世界の中で操縦席にあった少佐の人生は突然強制終了させられ、他の小隊機も同じように下方から機銃弾を浴びせられ指揮小隊三機は事態を理解する間もなく編隊のまま墜落し始めた。
それはほんとに一瞬の出来事であった。
さらにこの時マックラスキー小隊の上空を飛行していたギャラハー大尉の第六哨戒中隊は団雲と周辺で炸裂する高角砲の爆炎にはばまれこの攻撃に気づかず、マックラスキー小隊を撃墜し素早く旋回して戻って来た白根隊の再攻撃を左後方下方から奇襲として受けることになってしまった。
初の敵空母への急降下爆撃直前の緊張感のなか敵艦隊の動向と混線する無線電話に意識を集中していたギャラハー隊各機は突然編隊後方の機から発せられた「撃たれた火がでた メェデーメェデー墜落する助けてくれー」「後方にゼロ!三番機のケリーがやられた」「ゼロに撃たれ爆弾が落下した!」の絶叫に、大混乱に陥り編隊を大きく崩し、なかには爆弾を投棄し離脱する機が出るなど攻撃力を大きく減じてしまった。
ギャラハー大尉は必死に「全機編隊を崩すな 爆弾を捨てるな敵は目の前だぞ!」と無線に怒鳴るが、混乱した戦場のなかで再度体制を立て直すのは無理と判断しマックラスキー少佐に攻撃目標の指示を請うたが返ってきたのは「少佐はゼロにやられたようだ こっちはこれから手前のやつに突っ込む!」とベスト大尉からの驚きの返事であった。
これを受けてギャラハー大尉も「各機 前方の敵空母を攻撃せよ!グッドラック!」と自隊に命令を発し自身も高度が少し低いが団雲の切れ間に見える大型空母に向け緩降下で接敵し途中から角度を深めながらの降下爆撃を行うべく針路の修正に入った。
いっぽうベスト大尉の第六爆撃中隊はマックラスキー小隊が突然攻撃され隊長機の風防が粉々に砕けて僚機とそのまま墜落していくのを見て、「下からゼロだ!よく見張れ!編隊を崩すな食われるぞ!」「エンジン全開だ急げ 少佐をやったゼロが戻って来るぞ!」と先程のゼロが旋回して戻って来る前に事前の打ち合わせどおり一番近い空母に向かって急降下するべく急降下開始位置に就こうと急いでいた。
この一番手前の空母とは一航戦二番艦「加賀」でありその前方に二航戦「蒼龍」その右横に一航戦一番艦「赤城」が布陣しており「飛龍」は敵雷撃機回避の為「赤城」の前方少し離れたところを航行していた。
一航艦の各母艦とも白根隊がこの「エンタープライズ」の敵急降下爆撃隊に攻撃を始める頃には回避運動と対空砲火を撃ち上げ始めた。
また低空に在った零戦も気付いた機からマックラスキー隊に向け急上昇を開始した。
次話は一航艦「被爆炎上」です。




