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湖面の月  作者: 山田ビリー
月に狼
36/38

13.

黄金宮に着いたのは、それから四日後の事である。

ディディエ殿下に書簡をお渡しして、その日はそのままお休みを頂いた。

翌日、ディディエ殿下から呼び出しがあった。

「どうやらディアナは上手くやったみたいだね。ノヴァも随分活躍したと聞いたよ。お疲れ様。ノヴァ=ヘルツォーク、只今を以て王女の護衛の任を解除する。はいこれ、辞令ね。」

ぺらんと辞令を渡されて、俺の怒濤の特別任務は終了した。呆気ないものである。

「通常任務に戻る前に、今までの有休が阿呆みたいに溜まってるから消化してね。申請書は勝手に作っといたから。」

というディディエ殿下の命令により、俺は突然暇になってしまった。

「私も丁度これから休憩時間でね、よかったらお茶でも飲んでいかない?」

当然断れない。


「マルセルに、一つ命令を出してたんだよね。」

優雅に足を組み、ティーカップを傾けながらディディエ殿下は話し始めた。

「その命令を遂行するにはね、ノヴァが向こうに居ない方が良いかな~と思ってさ。ヨハンナにお願いしてたんだよ。やれやれ、ノヴァが戻ってきてくれて良かった。

実は従妹殿のことなんだけど、彼女が故郷の村に帰るなら、こっそり護衛してあげてってマルセルに頼んであるんだ。ディアナはもうフィンセント殿下んとこの近衛が護衛に就くからね。」

殿下が俺を除け者にしていた事実に少し落ち込んだが、何故その任務に俺が邪魔なのかが分からない。

それに、ルナを迎えに行くときは、あんなに派手に連れてきたのに、何故帰りはひっそりと送り届けるのか。

「あの子が真っ直ぐ家に帰る欲の無い子なら、そのまま今までの暮らしを保証してあげようと思ってね。」

俺は問い掛ける。

「真っ直ぐ帰らなかったら何かあるんですか?」

「うん。この城に寄るなら、そのまま帰さない。何処かの貴族に嫁がせて軟禁。今回の件をネタにゆする気なら殺すかな。ノヴァ、顔が怖いよ。」

殿下の御前だが、表情筋を消すのに失敗したらしい。

「無理矢理連れてきて巻き込んで、勝手ではないですか。」

俺の口答えに、殿下は苦笑した。

「そんなことになったら、ノヴァは邪魔するだろう?制約の無い状態での、彼女の選択を知りたかったんだ。ただまぁ、ノヴァの心配するような事にはならないと思うよ。」

そう言って殿下は、再び優雅に紅茶を啜った。

殿下は空になったカップに、自ら茶を注ぐ。この部屋には俺と殿下しか居ないからだ。そして俺は紅茶を淹れられない。

「そういう事だから、ノヴァ。君は休暇の間にゆっくり旅行でもしてきたら?因みに、今月の君のラッキーカラーは白。開運の方角は西南西かな。」


翌日は一日かけて、旅行の準備をした。

そして更に次の日。俺は朝から白い愛馬を牽いて、宿舎を出発した。行き先は、殿下お勧めの西南西。

デュナン公爵の領主館だ。


デュナン現公爵は、老年期に差し掛かろうという細身の男であった。白髪混じりの黒い髪を、後ろに撫で付けている。

ルーディアナ様の肖像画を観たことがあるが、厳しい眼差しに面影がある気がする。

「よく来たな、ノヴァ=ヘルツォーク。」

既に俺の事はご存知らしい。しかし公爵自ら、平民出身の一介の騎士に応対するとは驚きだ。

「君と顔馴染みの配下達は、まだ姫の側に居るのでね。良ければ君の口から、あちらで起きた事を聞かせてくれないか。」

俺と公爵は、テラスで差し向かいに紅茶を飲む。

隠しだてしたとて余り意味の無い事だ。俺はなるべく客観的に、推察を交えず、ネーブルでの出来事について語った。

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