12.
独房での夜は、大変暇であった。
流石にこの状況では眠れず、然りとてこの場を離れる訳にもいかない。ディアナ様とは盛り上がる話も無い。残念ながら俺は、気の利いた会話の出来ない男なのだ。
ディアナ様は仮眠をとることにしたようだ。体力温存は良いことである。
それはそうと、若い男女が密室に二人きりな訳だが、全くときめかない。場所が場所なのもあるが、ディアナ様が高貴な御方だからではなく、この人の殺伐とした性格の問題なのだろう。
等と不敬な事を考えている間に、夜が明けていたようだ。
人が近付いて来る気配がしたので、ディアナ様を起こして自分は天井裏に身を潜める。
当然と言えば当然だが、やって来たのはエドゥアルト殿下であった。例の黒子の騎士が、背後に控えている。
エドゥアルト殿下はディアナ様を乱暴に立たせ、腕を引っ張る。
「来い、偽王女。お前が偽物だと皆に公表する。王女を騙るなど、不届きな女め。」
「いやっ!離して!」
ディアナ様はノリノリの様だ。こういう所が二人の兄君とよく似ている。エドゥアルト殿下に反抗してもがくディアナ様。あ、今向こう脛を蹴った。殿下が顔をしかめている。ディアナ様、グッジョブです。
「止めて下さい!スウォルツ王に言いますよ!」
「ふん。そんなはったりが効くと思うなよ。王が偽王女の言うことなど、聞くわけがないだろう。」
「本物は亡くなったんだから、今は私が本物なんです!」
エドゥアルト殿下の動きが止まった。ディアナ様をじっと見つめる。
ディアナ様はしまった、という顔をして見せた。
「ほお、それは良いことを聞いた。だが、お前が王女でないのは一目瞭然だ。……その顔だと、何故そう言い切れるか分かっていないようだな。スウォルツ王も罪なことを。」
そうしてエドゥアルト殿下は、嫌がる振りをしたディアナ様を無理矢理引き連れ、独房を出ていった。
地下を出たところで、マルセルが待っていたので護衛を交替した。
正直しんどい。これからディアナ様渾身のざまぁ大会が行われるはずだが、結果は後で教えてもらおう。
部屋に帰ると、泥のように眠った。
夢も見なかった。
爽やかな朝の日差しで目が覚めた。
確か寝台に入ったのは明け方だった筈。ほとんど眠っていないのだろうか。だが体の疲れは取れ、頭もすっきりしている。もしや俺は睡眠を必要としない体になってしまったのか。と下らないことを考えながら、共用の浴室に行ってシャワーを浴びる。
騎士服に着替えて身だしなみを整え、ディアナ様の御前に参上したところ、
「あなた、丸一日寝てたのよ。余程疲れが溜まってたのね。」
と言われて驚いた。
とすると俺は、ルナの行方不明から一日半、お手洗いに行っていない事になる。あれ、今朝はトイレに行ったっけ。大丈夫か、俺の膀胱。
と、割と真剣に考えている間に、昨日起きた事の説明は終わっていた。
「……聞いてた?」
と言われたので、重々しく頷いておく。
大丈夫、とりあえずルナがメイドさんになった事だけは把握した。そもそもディアナ様がディアナ様として此処に居るという事は、多分上手く解決したんだろう。それが分かれば充分である。
ディアナ様がまだ疑わし気に此方を見ているが、見て下さい、俺のこの誠実な眼差しを。
暫く無言で見つめ合った後、溜め息を吐きながら、ディアナ様は俺に命令した。
「長らくの護衛、ありがとう。私からの最後のお願いよ。一足先にスウォルツに帰って、この書簡をディディエお兄様に渡して頂戴。貴方への報酬も、この書簡に書いといたから、確実に渡してね。」
マルセルやヨハンナ殿に色々と引き継ぎをし、碧玉宮を出たのは昼過ぎであった。
宮殿を出る前にちらっとルナを見掛けたが、髪がばっさりと短くなっていて驚いた。声を掛けるのは何故かディアナ様に禁止されているので、そのまま宮殿を出た。帰り道は、例の魚のフライを食べたいものである。




