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湖面の月  作者: 山田ビリー
月に狼
32/38

9.

「ディアナ様がお越しになったというのに、フィンセント殿下は愛人に現を抜かしている。」

碧玉宮で働く者達の間では、この話題で持ちきりだ。

「エドゥアルト殿下がディアナ様を口説いている。」

この話題も下働きの者達の口によく上る。

前者はともかく後者の話は、俺の神経をかなり刺激する。ルナがエドゥアルト殿下の毒牙にかからないか、気が気でないのである。


マルセルとは現在別行動だ。彼は第二騎士隊の面々と共に、エドゥアルト殿下の監視及びその取り巻き達の炙り出しをしている。

「奴等を泳がせろ。油断させて一気に叩きたい。」

とはフィンセント殿下の言である。

俺とヤン隊長は交代でルナの護衛だ。

「あの娘はなるべく自由にさせろ。兄が食い付いてくるはずだ。」

ルナを餌に釣りをするのは止めていただきたい。何度エドゥアルト殿下を妨害しようとしたか。その度にヤン隊長やマルセルに羽交い締めにされている。

事態が動いたのは、半月の晩だった。


下弦の月が昇った頃、即ち真夜中。うっすらとした月明かりを頼りに、黒い影が闇を縫って長い廊下を進む。やがてある部屋の扉の前で足を止めると、その扉をそっと開いた。

そこはルナの部屋だ。

俺は闇に紛れ、影の後を追う。

影は、寝ているルナの寝台に乗り、彼女の上に覆い被さった。

――これ以上彼女に触れれば殺す。

腰にはいた剣を抜く。剣を影の首元に突き付ける。剣が月光を反射してきらりと光った。

「そこまでです。」

思ったより低い声が出た。

影、いやエドゥアルト殿下が身動ぎした。


エドゥアルト殿下が部屋を去り、止まっていた部屋の時間が動き出したようだ。ほっとしたのだろう。ルナの両目から涙が溢れる。

気丈な彼女が泣くのを初めて見た。こんな時、気の利いた言葉を掛けられれば良いのだが、口下手の俺は上手い言葉を持たない。

ルナが声も無くほろほろと泣くのを、黙って隣で見ているしかなかった。


ルナが寝付いたのを見届けて、見張りをマルセルに押し付け、夜中だが、フィンセント殿下とディアナ様を叩き起こした。

後から考えると、二人がいちゃついていたら首が物理的に飛んだかもしれないが、幸いと言うべきか、フィンセント殿下はソファーで寝ていた。殿下を紳士と呼ぶべきだろうか。

寝起きの二人は不機嫌そうだったが、事情を説明すると、ディアナ様が烈火の如く怒った。

「孕ませれば勝ちだと思ったのかしら。あの変態エロ王子、ぶちのめしたい。」

流石ディアナ様。即刻抹殺しに行って参ります。

「待て待て待て、二人とも落ち着け。いいか、今晩の目論見が失敗して、焦った兄は暴走する。父やスウォルツに強姦未遂を報告される前に、何とかしようと考えるはずだからな。だからそれまで待て。その物騒な剣をしまえ。」

フィンセント殿下が必死に言い募るので、仕方なく剣を鞘に収めた。残念だ。

「あの娘ももう少しの辛抱だ。引き続き、警護を頼む。兄は泳がせろ。タイミングを間違えるな。早く叩きすぎると、父にうやむやにされるぞ。」

それは困る。

お二人に礼をして、部屋を出た。

夜明けは近い。月は中天に差し掛かっていた。

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